馬子まご)” の例文
「実際初めては目が慣れませんから馬子まごつきますが、少時しばらくすると平気になります。見学のお方はそれ迄の御辛抱が出来ませんのでね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馬子まごにも衣裳いしょうというが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
半七は表からのぞいてみると、今しきりに呶鳴っているのは、三十五六のあから顔の大男で、その風俗はここらの馬子まごと一と目で知られた。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
職業を訊くと、以前は少しばかり農もやっていたが、親がわずらってから、農はやめて自分が馬子まごをして稼いでいるという。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをむりにかせようとする馬子まごも、かみはみだれ、かおから、むねへかけて、やはりあせがながれ、にやけたひふは、赤銅色しゃくどういろをしていました。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その次の日の宵の口、室町屋の店先には、竜神街道や蟻腰越ありこしごえをする馬子まご駕丁かごかきと、それに村の人などが、二三人集まって声高く話をしています。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白馬一匹つなぎあり、たちまち馬子まご来たり、いて石級いしだんくだり渡し船に乗らんとす。馬おそれて乗らず。二三の人、船と岸とにあって黙してこれを見る。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
帽子から雨垂あまだれがぽたりぽたりと落つる頃、五六間先きから、鈴の音がして、黒い中から、馬子まごがふうとあらわれた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歌麿の「道行」は彼が生涯の諸作を通じて決して上乗じょうじょうの者にあらざれども、詩歌的男女の恋愛に配するに醜き馬子まごあるひは老爺ろうやの如き人物を以てし
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
停車場をのぞいては村のとつつきで四五臺の馬橇ばそりの列が、馬子まごがてんでに積み上げた荷のうへに乘つかつて、村を離れて行くのが小さく見えたきりで
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ふゆさむい日でした。馬子まご馬吉うまきちが、まちから大根だいこんをたくさんうまにつけて、三さき自分じぶんむらまでかえって行きました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この頃の日盛りに近所の問屋とひや荷役にやくに来る馬子まごが、荷馬にうまをその夫人の住居すまゐの格子戸に繋いでおく事がよくある。
あっしだって馬子まごおどかして、同じ鹿毛かげ馬を仕立てさせ砂利を詰めた千両箱を背負しょわせて、天神下の角でアッという間に入れ替えるぐらいの芸当はやりますよ
それからのちのことはさわも知っている、彼は三条へいって建場たてば馬子まごになり、そこで知りあった人に拾われて、六日町の吉野屋吉兵衛という宿屋へ住み込んだ。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山国谷第一の切所きりしょで、南北往来の人馬が、ことごとく難儀するところじゃが、この男はこの川上柿坂郷に住んでいる馬子まごじゃが、今朝鎖渡しの中途で、馬が狂うたため
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
建石たていしがあり、右何々道左何々道と記されていたり、牛が向うから歩いて来たり、馬子まごがいたり、乗合のりあい馬車の点景があったり、巡礼姿が花の下にいたり、そして、酒めし
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
行きすりに不図目にとまった馬子まご風流ふうりゅうたわらに白い梅の枝がしてある。白い蝶が一つ、黒に青紋あおもんのある蝶が一つ、花にもつれて何処までもひら/\飛んでいて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
其の晩に脱出ぬけだして、の早四郎という宿屋の忰が、馬子まご久藏きゅうぞうという者の処へ訪ねて参り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
店はただの腰掛け飯屋になっているらしく耕地測量の一行らしい器械をたずさえた三四名と、表に馬を繋いだ馬子まごとが、消し残しの朝の電燈の下で高笑いを混えながら食事をしている。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
馬は馬子まごと一緒に五、六里離れた街を指して行った。帰りには米や煮乾にぼしや着替やが炭に変ってちょんぼり馬の背にあった。それが初児の誕生祝いであった。でも春子は丈夫に育った。
ガタリ、ガタリと重いくるまの音が石高路いしだかみちに鳴つて、今しも停車場通ひの空荷馬車が一臺、北の方から此村に入つた。荷馬車の上には、スッポリと赤毛布を被つた馬子まご胡坐あぐらをかいてゐる。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
馬子まごにも衣装いしょう髪かたちッてね——それゃアあたしだってピラシャラすれば、これでちったあ見なおすでしょうよ。けど、お金ですよ。それにゃア……お、か、ね! わかりましたか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は、心に、若い馬子まごの深切を謝したものの、さすがにその荷車に乗りかねた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
関東ではうどんは馬子まごの食うものだと思っているが、あれはうどんの食い方を
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
やまには木樵唄きこりうたみづには船唄ふなうた驛路うまやぢには馬子まごうた渠等かれらはこれをもつこゝろなぐさめ、らうやすめ、おのわすれて屈託くつたくなくそのげふふくするので、あたか時計とけいうごごとにセコンドがるやうなものであらう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浮出模様うきだしもようで所狭きまでに飾るのでありますが、それが今時には珍らしいほど活々した仕事であります。昔の技が今もなお衰えておりません。馬子まごでなくとも手に入れたいほどの品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
睡れずに過した朝は、暗いうちから湿った薪を炉にくすべて、往来を通る馬子まごの田舎唄に聴惚れた。そして周囲のもの珍しさから、午後は耕太郎を伴れて散歩した。ふきとうがそこらじゅうに出ていた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
馬子まごにも衣裳つて云ふから——」と云つたほどである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
木曾の朝を馬子まご御主おしゆう少女笠をとめがさくらに風ふくあけぼの染に
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
何が出世だ。衣錦之栄も、へったくれも無い。私の場合は、まさしく、馬子まごの衣裳というものである。物笑いのたねである。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
不意を食らって、手綱を離した馬子まごを尻目にかけながら、女は、元の東海道の方へ、まっしぐらに引っ返して行く。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって、うまちかづきました。馬子まごは、同情者どうじょうしゃがあらわれると、交通こうつう妨害ぼうがいとなって、しかられるのをおそれたけれど、いくぶんか大胆だいたんになりました。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わざとこの店にひまをつぶしていると、そこへ頬冠ほおかぶりをしたたくましい馬子まごが一人、馬をいてやって来ました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
続いて駄馬馬子まごが鼻歌おもしろく、茶店の娘に声かけられても返事せぬがおかしく、かなたに赤児ややの泣き声きこゆればこなたにはわらべが吹くラッパの音かしましく
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
むかしある人が山陽に、先生近頃名文はござらぬかといったら、山陽が馬子まごの書いた借金の催促状を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どちらも酔っているらしい、言葉つきから察すると、馬子まご駕籠舁かごかきのように思えた。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ガタリ、ガタリと重いくるまの音が石高路いしだかみちに鳴つて、今しも停車場通ひの空荷馬車が一台、北の方から此村に入つた。荷馬車の上には、スツポリと赤毛布を被つた馬子まご胡坐あぐらをかいてゐる。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
井上玄蕃様は木偶でくも同様、あとは馬子まごと青侍が二人だけ、銭形の親分の目さえ光らなきゃ、六千両はこっちのものと、計略は前々から、練りに練られました。最初に親分の懐を抜く役目を
山には木樵唄きこりうた、水には船唄ふなうた駅路うまやじには馬子まごの唄、渠等かれらはこれをもって心をなぐさめ、ろうを休め、おのが身を忘れて屈託くったくなくそのぎょうに服するので、あたかも時計が動くごとにセコンドが鳴るようなものであろう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、ひろい田んぼみちに出ると、よくすんだ、うつくしい声で、馬子まごうたをうたい出すので、馬もいい気持ちそうに、シャン、シャン、すずらしながら、げんきよくかけ出して行きました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その広野こうやあお着物きものをきて、あたま淡紅色うすべにいろぬのをかけて、かおかくし、しろうまって馬子まごかれながら、とぼとぼとやまほうしてゆくおんながありました。
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「やれやれ、追剥おいはぎにでも会ったのか、かわいそうに」夜はいつか明けて、範宴のまわりにも、性善坊や朝麿のそばにも、旅人だの馬子まごだのが、取り巻いていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎のはずれ、馬子まごなどの休みそうな一ぜん飯屋の隅でからくも、朝餉あさげと昼飯とを一度に済ませて、それから中泉と聞いて歩いて行きましたが、少したって中泉はと尋ねてみたら
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「饂飩は馬子まごが食うもんだ。蕎麦の味を解しない人ほど気の毒な事はない」と云いながら杉箸すぎばしをむざと突き込んで出来るだけ多くの分量を二寸ばかりの高さにしゃくい上げた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「誰が、ではない、誰でもだ馬子まご駕舁かごかきのたぐいでも知っていることだ」
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
江島屋の馬鹿息子へ、あの娘をやる位なら、あつしだつて馬子まごおどかして、同じ鹿毛かげ馬を仕立てさせ砂利を詰めた千兩箱を脊負はせて、天神下の角でアツといふ間に入れ換へる位の藝當はやりますよ
山姥やまうば馬子まご
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「こんなことをするのは、このごろなんです。」と、馬子まごこたえて、つぎのように、のうえをかたりました。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、露八が、最も感心したのは、彼の金に対する緻密ちみつさだった。馬子まご駄賃だちんの値ぎり方、旅籠代はたごだいのかけあい、鼻紙や茶代の端にでも、針ほどな、無駄もしない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして朝露あさつゆをポクポクと馬の草鞋わらじ蹴払けはらって、笠をかぶった一人の若い馬子まごが平気でこの丸山台を通り抜けようとしております。大方、江戸を夜前やぜんに出て近在へ帰る百姓でありましょう。