)” の例文
旗男は義兄の自信に感心しながら、西瓜のきれをとりあげた。そいつはすてきにうまくて、文字どおりっぺたが落ちるようだった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
低い鼻と、ふくれた赤いっぺたをもった若者は、五本の指で足りずにモ一つのてのひらをひろげて数えたてたが、またフイと云い出した。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「君は善き人なりと見ゆ。彼の如くむごくはあらじ。た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしきを流れ落つ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
幸坊はさう言つて、黒をだきあげて、そのつめたい鼻の先をじぶんのつぺたにぴつたりとつけ、ビロードのやうなその背をなでてやります。
幸坊の猫と鶏 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
ところが、好事こうじおおし、せっかくの白河夜船しらかわよふねを、何者とも知れず、ポカーンとっぺたをはりつけて、かれの夢をおどろかさせた者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほら、あの、いまっぺたを掻いて、むくむく濡れた毛からいきりをたてて日向ひなたぼっこをしている、憎らしいッたらない。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そないいいなさるか思たら、一所懸命歯ア喰いしばって、眼エに一杯たまってた涙が急にポトポトべたつとてるのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
く行き給へと口には言へど、つれなき涙はまぶたに餘りて、の上にち來りぬ。われ。そは餘りに情なし。われはおん身の今不幸なるを知りぬ。
「いやだわ、うちの人だなんて」おのぶは口まねをし、それからまたおすえを睨んで云った、「——っぺたが火事よ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一ぴきはチェロをき、一ぴきはバイオリンをひき、三びきめのは、ラッパを口にあてがって、いっしょうけんめいにっぺたをふくらませました。
中にを少しはらした若い弟子が一人仕事をして居たので、その弟子に来意を告げると、翁は今朝けさ巴里パリイかれたと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「そうなの。無責任ね。市外配達の特別料金までとったくせに、なんの挨拶あいさつもせずそのままっかぶりらしいわ」
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そこで私達はまた手をつなぎ合って再びまた公園の中に行った。そして木蔭のベンチに腰を掛けて、冷たく凍ったッぺたをくっつけたままじっとしていた。
今でも雀のっぺたに黒いもののついているのは、そのお歯黒のよごれだが、孝行の徳によって一生のあいだ、米を食べて暮らすことができるのにはんして
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奥さんも、例えばワイシャツのボタンがひとつだけとれていたり、カラーが純白でなかったりすると、そのたびに旦那からっぺたを必ず一つ二つなぐられる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「ぼくが八百屋の前を通ったらおまえのっぺたを売ってたよ、買ってこようと思ったら丸いなすだった」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
第一に鼻のあたまに寄寓きぐうしていたのを取払う。取払って捨てると思のほか、すぐ自分の口のなかへ入れてしまったのには驚ろいた。それからっぺたにかかる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほどなく、尋常三年生の純子ちやんが、やはりランドセルを脊負つて、ふちの広い帽子の下から汗を流しながら、リンゴのやうに赤いつぺたをして帰つて来ました。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
っぺたを指で突っついたりしているうちに、その指を志奈子の口の中に入れて、わーっと泣かせて
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「ね、喰べよう。お喰べよ。僕は紺三郎さんが僕らをだますなんて思はないよ。」そして二人は黍団子をみんな喰べました。そのおいしいことはっぺたも落ちさうです。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そして、ホテルの料理番は私のっぺたを一さじ喰べて見て、「おや、これは上出来だ」などと申すことでございましょう。いいえ、どうかおめにならないで下さいまし。
ところが、この男も退治たいじに出かけた次の朝、片足かたあし半分食い取られ、おまけに鼻や耳やっぺたまでかみ切られて、おいおいきながら地べたをうようにしてげ帰って来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
顔中の皮膚が硬張こはばつて、つぺたが妙に突つ張りでもするやうな不愉快な気持でゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
抱月氏と同棲どうせいしてからも激しい争闘がおりおりあったとかいうことである。向いあっているときはきっと何か言いあいになる。っぺたへ平打ひらうちがゆくと負けていないで手をあげる。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこには可愛かあいらしい肉附にくづきの、むつちりふとつたあかんぼ が母親はゝおやかれて、すやすやとねむつてゐました。そのつぺたにひつくと、あかんぼ はをさましてきだしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
大政おほまつりごとしげくして、西なる京へ君はしも、御夢みゆめならでは御幸みゆきなく、比叡ひえいの朝はかすむ共、かもの夕風涼しくも、禁苑きんゑんの月ゆとても、鞍馬の山に雪降るも、御所の猿辻さるつじ猿のに朝日は照れど
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たとへばお前のツぺたのあかいをがして、青くすることの出來ないやうな。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あまり、しつこいので、「女だと思って馬鹿にすると、っぺたをなぐるぞ」
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
玄関の呼鈴を押せば、直ぐさまドアがあいて、林檎りんごのようなっぺたをした詰襟服つめえりふくの愛くるしい少年が顔を出した。これも「吸血鬼」事件でおとなも及ばぬ働きをした少年助手小林である。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
で、いかにも間抜けた女らしく見せるべく、私はっぺたをふくらまして微笑ほほえんでみせた。ほおをふくらましていると、眼の内が痛い。私はじっと脣をつぼめて、与一が窓から覗くのを待った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
を少し赤めて彼方あちらへ行つた姉をお照は面白くなく思つて見送つた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
雲あかる山の真洞まほらに啼くこゑは子雉子こきぎす早や巣立つらし
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
桜花さくらばな軒場のきばに近しにあつるかみそりの冷えのうすらさびしき
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
留公がっぺたでも殴られたように唖然あぜんとした顔をした。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
よすれば香るいきはく石の獅子ふたつ栖むなる夏木立かな
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
なみだ少年せうねんむねをこみあげこみあげをながれた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
皆恥づかしくの染まるかな(晶子)
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
手枕たまくらもひたせて病める身の
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
その薔薇色ばらいろっぺたの奥に
いざゆるきみ
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
りし未通女子をとめご
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
につたひ流れてやまず
てるうづむるごとき
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あをじろきぞ、はなじろむ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
夏痩なつやせを流れたる冠紐かむりひも
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
とめと しのばるる 尼のみ寺の みほとけや 幾世へにけむ 玉の手の 光りふふみて かそけくも 微笑ゑませたまへる にふれつ 朝な夕なに おもはすは きその嘆きか うつし世の 常なきうれひか 頬にふるる 指のあはひに 春ならば くれなゐの薔薇ばら 秋日には
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「お湯が熱かったのかい、林檎りんごのようなッぺたをしているね。どれどれ、おじいちゃんが抱っこしてやろう。さあ、おいで、アッパッパ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
独楽をッぺたにしつけたまま、馬糧まぐさのなかにやがてグウグウ寝入ねいりこんでしまったかれこそは、まことに、たわいのないものではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松本は頭をかきながら、タツ達の方を向くと、トリが——あたしも……と云って、丸いふくれたっぺたをにした。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
余は始めて、病牀に侍するエリスを見て、その変りたる姿に驚きぬ。彼はこの数週の内にいたく痩せて、血走りし目は窪み、灰色のは落ちたり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)