トップ
>
雫
>
しずく
ふりがな文庫
“
雫
(
しずく
)” の例文
そんな事を言いながら、ちょうど三本目の
雫
(
しずく
)
を切った時でした。ツイ鼻の先の雨戸をトン、トン、トンと軽く叩く者があったのです。
銭形平次捕物控:021 雪の精
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
雨が降りかかって頭から面に
雫
(
しずく
)
がたらたらと流れ、
和
(
やわら
)
かい着物がビッショリと濡れてしまっても、少しも気にかけないのであります。
大菩薩峠:12 伯耆の安綱の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それが今日は
生憎
(
あいにく
)
早暁
(
そうぎょう
)
からの曇りとなった。
四方
(
よも
)
の雨と霧と微々たる
雫
(
しずく
)
とはしきりに私の旅情をそそった。
宿酔
(
しゅくすい
)
の疲れも湿って来た。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
それにしても、中は、ほの暗く、しばらく立っていると、岩肌の
雫
(
しずく
)
が、滴々と、肩に落ちて来て、骨髄に沁み入るような思いがする。
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
全身、波のしぶきで
濡
(
ぬ
)
れ
鼠
(
ねずみ
)
になり、だらだらと
雫
(
しずく
)
をたらした宮崎運転士が帽子も吹きとばされたらしく、乱れた髪をなで上げながら
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
▼ もっと見る
大きくうむと言い乍ら対馬守は、突然何か胸のうちがすうと開けたように感じて、知らぬまにじわりと
雫
(
しずく
)
が目がしらに湧き上った。
老中の眼鏡
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
(井菊と大きくしるしたる番傘を開く)まあ、人形が泣くように、目にも
睫毛
(
まつげ
)
にも
雫
(
しずく
)
がかかってさ。……(傘を人形にかざして
庇
(
かば
)
う。)
山吹
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
なんだかうっとうしい晩だけれど、
軒端
(
のきば
)
を伝う雨の
雫
(
しずく
)
に静かに耳を傾けていると、思いなしかそれがやさしい
囁
(
ささや
)
きのように聞えて来る。
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
成程、薄く積った地面の雪の上には、軌条から二
呎
(
フィート
)
程離れしかも軌条に平行して、数滴の血の
雫
(
しずく
)
の跡が一列に並んで着いている。
気狂い機関車
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
彼
(
かれ
)
は、いま、
光
(
ひかり
)
を
受
(
う
)
けて、
銀
(
ぎん
)
か、
水晶
(
すいしょう
)
の
粒
(
つぶ
)
のように
断層
(
だんそう
)
から、ぶらさがって、
煉瓦
(
れんが
)
に
伝
(
つた
)
わろうとしている
水
(
みず
)
の
雫
(
しずく
)
を
見
(
み
)
ていました。
老工夫と電灯:――大人の童話――
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
すると彼は、ややしばしじっと女を見つめていたが、いきなり抱きしめて唇に
接吻
(
せっぷん
)
した。さっとばかり花の匂いと
雫
(
しずく
)
が彼にふりそそいだ。
犬を連れた奥さん
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
宮はそれでお呼びになったのであると、いっそう
侘
(
わび
)
しい気におなりになり、何も仰せられなかったが、お
枕
(
まくら
)
から
雫
(
しずく
)
が落ちていた。
源氏物語:39 夕霧一
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
午後から
陰
(
くも
)
った冬の空は遂に雨を
齎
(
もたら
)
して、闇を走る人々の上に
冷
(
つめた
)
い糸の
雫
(
しずく
)
を落した。が、そんなことに頓着している場合でない。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
自分は母に叱られながら、ぽたぽた
雫
(
しずく
)
を垂らして、三人と共に宿に帰った。どどんどどんという波の音が、帰り道
中
(
じゅう
)
自分の
鼓膜
(
こまく
)
に響いた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
埃
(
ほこり
)
を払って、右手にかかえた。麻裏草履の片方は、並木の横の水たまりに飛んでいたが、引きあげて、ぶら下げた。
雫
(
しずく
)
がたれる。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
忽ち
濛々
(
もうもう
)
とした霧の中に閉じ込められて、間もなく冷たい
雫
(
しずく
)
がパラパラと落ちて来る中に、
目細
(
めぼそ
)
の淋しく囀る声のみが耳に入るのであった。
大井川奥山の話
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
ポタポタ
雫
(
しずく
)
が落ちる、防水布の外套に包まれて、ココアを一杯興奮剤に飲んだまま、飯も喰わずにたわいもなく痲痺したようになって寝た。
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
人の足音も声も聞こえなかった。秋に熟した
橅
(
ぶな
)
の金銅色の葉の上に、雨の
雫
(
しずく
)
が音をたてていた。石の間には、小さな流れの水が鳴っていた。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
擦
(
す
)
りあかめたまぶちに、厳しく
拘攣
(
こうれん
)
する唇、またしても濃い睫毛の下よりこぼれでる涙の
雫
(
しずく
)
は流れよどみて日にきらめいた。
あいびき
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
楢の葉はパチパチ鳴り
雫
(
しずく
)
の音もポタッポタッと聞えて来たのです。私と慶次郎とはだまって立ってぬれました。それでもうれしかったのです。
谷
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
と、
四方
(
あたり
)
が急に
微暗
(
うすぐら
)
くなって頭の上の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
がざざざと鳴りはじめた。大粒の雨の
雫
(
しずく
)
が水の上へぽつりぽつりと落ちて来た。
岩魚の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
娘は少しおかめ型の顔をしてマネキン人形のような美しさに
整
(
ととの
)
い過ぎているようだが、頬や顎のふくらみにはやっぱり若さの
雫
(
しずく
)
が
滴
(
したた
)
っていた。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
この歌の意
明
(
あきらか
)
ならず、第二句想像の語とすれば、旅人などの笠の
雫
(
しずく
)
を見て山は霧深からんといへるにや、さるにても言葉少し足らぬやうに存候。
人々に答ふ
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
小さい方の児もテングサの
雫
(
しずく
)
を引きずり引きずりあとから
跟
(
つ
)
いて出て行った。笑いころげる夫婦の声をあとに残して……。
いなか、の、じけん
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
袷
(
あわせ
)
では少し
冷
(
ひや
)
つくので、
羅紗
(
らしゃ
)
の
道行
(
みちゆき
)
を引かけて、出て見る。門外の路には
水溜
(
みずたま
)
りが出来、
熟
(
う
)
れた麦は
俯
(
うつむ
)
き、
櫟
(
くぬぎ
)
や
楢
(
なら
)
はまだ緑の
雫
(
しずく
)
を
滴
(
た
)
らして居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
その
母
(
かあ
)
さんが
亡
(
な
)
くなる
時
(
とき
)
には、
人
(
ひと
)
のからだに
差
(
さ
)
したり
引
(
ひ
)
いたりする
潮
(
しお
)
が三
枚
(
まい
)
も四
枚
(
まい
)
もの
母
(
かあ
)
さんの
単衣
(
ひとえ
)
を
雫
(
しずく
)
のようにした。
伸び支度
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
二人は、
爪先
(
つまさき
)
あがりになった草やぶを、樹々の間を縫って歩いて行った。落ちかかる
雫
(
しずく
)
が、ざんぎり頭の毛を濡らした。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
程よく焼けて焦げた皮をそっくり
剥
(
は
)
ぎ、
狐色
(
きつねいろ
)
になった中身の
雫
(
しずく
)
を切って、
花鰹
(
はながつお
)
をたっぷりかけるのですが、その
鰹節
(
かつおぶし
)
や
醤油
(
しょうゆ
)
は
上品
(
じょうぼん
)
を選ぶのでした。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
そのまっしろい花からは、いましがたの雪が解けながら、その花の
雫
(
しずく
)
のようにぽたぽたと落ちているにちがいなかった。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
色々と考えたあげく、
蝋燭
(
ろうそく
)
で岩に線を引いて見た。伝って来た
雫
(
しずく
)
が、ここまで来て蝋にぶつかり、その線に添うて横にそれるだろうとの案であった。
可愛い山
(新字新仮名)
/
石川欣一
(著)
車輛と車輛との間が、
鋼鉄車体
(
こうてつしゃたい
)
のところといわず、連結器のところと云わず、真赤な
血飛沫
(
ちしぶき
)
がベットリ附着し、下の方へ
雫
(
しずく
)
がポタポタと
墜
(
お
)
ちていた。
キド効果
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「雨だれ伝ふやれ簾」は所詮蜂の巣の斬新なるに
如
(
し
)
かぬ。ただ去年のままの破簾に
雨垂
(
あまだれ
)
の
雫
(
しずく
)
が伝う趣は、やはり俳人の
擅場
(
せんじょう
)
ともいうべき天地である。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
たぶん、父親と母親は
瓶
(
びん
)
の中の燃えつくような
雫
(
しずく
)
を
夢
(
ゆめ
)
にみていたものでしょう。青白い小さな女の子は
眼
(
め
)
の中の燃えるような雫を夢にみていました。
絵のない絵本:01 絵のない絵本
(新字新仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
私は水車小屋で貰って来た水筒の酒をゼーロンの口に注ぎ込んだり、蹄鉄を
験
(
しら
)
べたり、脚部を酒の
雫
(
しずく
)
で湿布したりして行手の径のための大事をとった。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
「あら、あなた。大変に濡れちまったわ。」と傘をつぼめ、自分のものよりも先に
掌
(
てのひら
)
でわたくしの上着の
雫
(
しずく
)
を払う。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
形体
(
なり
)
は私が寝ていて想像したよりも大きかったが、果して全身雨に濡れしょぼたれて、泥だらけになり、だらりと垂れた割合に大きい耳から
雫
(
しずく
)
を
滴
(
たら
)
し
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
侘助のもつ小形の杯では、
波々
(
なみなみ
)
と
掬
(
く
)
んだところで、それに盛られる日の
雫
(
しずく
)
はほんの僅かなものに過ぎなからうが、それでも侘助は
心
(
しん
)
から酔ひ
足
(
た
)
つてゐる。
侘助椿
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
みんなして
板塀
(
へい
)
がドッと音のするほど水を
撒
(
ま
)
いて、樹木から金の
雫
(
しずく
)
がこぼれ、
青苔
(
あおごけ
)
が生々した庭石の上に、細かく土のはねた、健康そうな素足を揃えて
旧聞日本橋:15 流れた唾き
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
汽車のなかで子供は
雫
(
しずく
)
のたらたら流れる
窓硝子
(
まどガラス
)
に手をかけて、お銀の膝に足を踏ん張りながら声を出して騒いだ。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
少女は
暫
(
しば
)
らく黙しつ。けさより曇りたる空は、雨になりて、をりをり窓を打つ
雫
(
しずく
)
、はらはらと音す。巨勢いふ。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
川崎は身体を空でゆすりながら、
雫
(
しずく
)
をバジャバジャ甲板に落した。「
一
(
ひと
)
働きをしてきた」そんな大様な態度で、釣り上がって行く川崎を見ながら、監督が
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
その様をルカ伝記者は記して、「イエス悲しみ迫り、いよいよせつに祈り給えば、汗は地上に落つる血の
雫
(
しずく
)
のごとし」と言っています(ルカ二二の四四)。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
附近には所々に黒い血の
雫
(
しずく
)
がこぼれて居たので、人々は女に触れることを恐れて、直ちに坂下にある交番に訴え出ると、交番の巡査はこれを警視庁に急報し
呪われの家
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
一の鳥居へ石段をおりるときふと
柴栗
(
しばぐり
)
の落ちてるのをみて 栗がなったな と思って上を見た。高い枝に
雫
(
しずく
)
のたれそうな三つ栗がめっきりとえみわれている。
島守
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
折ふし
霜月
(
しもつき
)
の雨のビショビショ降る夜を
侵
(
おか
)
していらしったものだから、見事な
頭髪
(
おぐし
)
からは冷たい
雫
(
しずく
)
が
滴
(
したた
)
っていて、
気遣
(
きづか
)
わしげなお眼は、涙にうるんでいました。
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
そこに十二三歳の
少年
(
こども
)
が頭から
雫
(
しずく
)
のする
麦藁
(
むぎわら
)
帽子を
被
(
かぶ
)
ってションボリとまだ実の入らぬ生栗を喰べている。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
テーブルの上には、
雫
(
しずく
)
が点々と落ち、その中央にひろげられた古新聞紙には水蜜桃の皮と種とが、ぐじゃぐじゃにつまれ、部屋じゅうがしめっぽく感じられた。
次郎物語:04 第四部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
海霧
(
ガス
)
が、キラキラ光る
雫
(
しずく
)
となって、焼けた皮膚や、
髯
(
ひげ
)
の上に並んでいくが その男はただ止まろうとせず、それが失神したようになって、おののいているのだ。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
万里の海風が
颯々
(
さっさつ
)
として、ここに立っていても
怒濤
(
どとう
)
の
飛沫
(
しぶき
)
でからだから、
雫
(
しずく
)
が滴り落ちそうな気がします。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
(二)にはいわゆる
清水掛
(
しみずがか
)
り、すなわち
筑波嶺
(
つくばね
)
の
雫
(
しずく
)
の
田居
(
たい
)
などと称して、山から
絞
(
しぼ
)
り出す僅かな流れを利用するもので、源頭の小山田というものから始まって
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
雫
漢検準1級
部首:⾬
11画
“雫”を含む語句
一雫
雫石
汗雫
血雫
二雫
泥雫
滴雫
玉雫
雨雫
雪解雫