したが)” の例文
旧字:
然れども其主人公が薄志弱行にして精気なく誠心なくしたがツて感情の健全ならざるは予が本篇の為めに惜む所なり。何をか感情と云ふ。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
知りたかったのだ。あとは発送簿はっそうぼの数量を逆にしらべてゆくと、あの箱を積んだ日、したがってあれを製造した日がわかるという順序なんだ
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明成の子加藤内蔵之助明友くらのすけあきともしたがって、岩見国いわみのくに吉永よしなが(一万石)へ行ったともいい、病死したともいい、どれが本当か皆目知れなかった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
各々おのおの従者をしたがえ、また友情に厚き人々のこととて多くの見舞品などを携え、沙漠の舟とばるる駱駝に乗りて急ぎ来ったのであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その方法は第一に「ぎょう」である。「行」とはあらゆる旧見、吾我ごがの判別、吾我の意欲を放擲して、仏祖ぶっそ言語行履ごんごあんりしたがうことである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
しかし段々だんだん落着おちつくにしたがって、さすがにミハイル、アウエリヤヌイチにたいしてはどくで、さだめし恥入はじいっていることだろうとおもえば。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
したがって会えば万更まんざら路人のように扱われもしなかったが、親しく口をいた正味の時間は前後合して二、三十分ぐらいなもんだったろう。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大目附小南以下目附等は西北から東に向いて並ぶ。フランス公使は銃を持った兵卒二十余人をしたがえて、正面の西から東に向いてすわる。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……僕はあれを悪夢にたとえていたが、時間がたつにしたがって、僕が実際みる夢の方は何だかひどく気の抜けたもののようになっていた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
温泉地にも種々いろいろあるが、山の温泉は別種の趣がある。上田町に近い別所温泉なぞは開けた方で、したがって種々の便利もそなわっている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次に太刀持長柄持傘さしかくる供侍二人草履取ざうりとり跡鎗あとやり一本、(これらの品々神庫じんこにあるものを用ふ)次に氏子の人々大勢麻上下にてしたがふ。
四郎は直ちに諾して、「我を大将と仰ぐからには、如何なる下知にもしたがうべし。陣立を整う故に早々各地の人数を知らしむべし」
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
世はわが思うほどに高尚なものではない、鑑識のあるものでもない。同情とは強きもの、富めるものにのみしたがう影にほかならぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝に在りて身暫く王事にしたがい、家にありては心永く仏那ぶつなに帰す、とあるのは、儒家としては感服出来ぬが、此人としては率直の言である。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
したがってその時だけの遊興あそびならばこうの論は無いが、し市郎が其後そのごも柳屋へ通っているようならば、少しく警戒を加えねばならぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、灌木の隙間から、街道を通る百姓達の足だけを眺めながら、気が落ちつくにしたがって、彼は又変てこな気持になって来るのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
したがって、這般しゃはんの疑問は、呉一郎の夢中遊行の存在を的確に立証し得るものに非ず。唯、一箇の補遺的参考としてここに掲ぐるを得るのみ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だから病気の時は、おとなしく病気にしたがって、養生するのが、いちばん自分の体の為によいことであり、神様にも素直なのだ。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
道法とはいはく聖法なり。言ふこころは、聖法をくすといへども、亦俗法の中に凡夫の事を現じて、機にしたがひて物を化するを乃ち真宴と名づく。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その話は面白いが、しかし吾輩は山登りの汗が引込むにしたがい、だんだんと寒くなって仕方がなくなった。それもそのはずである。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「大方四季の景物はみな季にしたが」って感じがちがってくる。春は世の景色もうらうらとしているが、決して「心すごく淋しき体」ではない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ただ不思議な事には、親しくなるにしたがい次第に愛想あいそが無くなり、鼻のさき待遇あしらって折に触れては気に障る事を言うか、さなくばいやにおひゃらかす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又タスマニアでは、したがつて又濠洲では、此の掠奪と云ふのが、屡々しばしばほんの真似事に過ぎなくなつて、男と女との間の、あらかじめの合意から行はれる。
嫁泥棒譚 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
それはなるほど月日の立つにしたがって、お互の胸の中に一種の「了解」と云うようなものが出来ていたことはありましょう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
したがつて盆栽に為すべき草木その物についても必ずしも普通の松かえでなどには限るまじく、何の木何の草にても面白くすれば面白くなるべくと存候。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
したがって、未来はどう発展するのが合理的であるかということについての見透しは、これまでちっとも与えられなかった。
私たちの建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
虚子が小説を書き出した頃は、自分はもう一般に小説というものを読まなくなっていたので、したがってその作品も遺憾ながらほとんど読んでいない。
高浜さんと私 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
知覚ノ能ハ実歴親験ノ重ナルニしたがヒテ長ジ、記憶ノ能ハ同一ノ観像ヲしばしば反復スルニヨリテ長ジ、弁別ノ能ハ原因結果ノ比較ヲ屡スルニヨリテ長ズ。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その時この店の持主池田何某なにがしという男に事務員の竹下というのが附きしたがい、コック場へ通う帳場のわきの戸口から出て来る姿が、酒場の鏡に映った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
高田の披講で一座の作句が読みあげられていくにしたがい、梶と高田の二作がしばらく高点を競りあいつつ、しだいにまた高田が乗り越えて会は終った。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
幕府は財政に窮乏し、したがって窮乏すれば、随って金銀吹換ふきかえに托して、悪性の貨幣を鋳造し、これを鋳造するに随い、物価騰貴し、小民をやましめたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もう一人前に近くなっていても、これにしたがう面々は村の少女の全部で、それが組織ある行動にづることは、左義長さぎちょうの子ども組も同じであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と言って、お祖母ばあさんの前に平伏するそうだ。まるでお芝居のようですと女中が言っている。したがって文一君もナカナカ骨が折れる。学校から帰ると
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
したがって時間は随分かかる、そのかわり休息は二時間か三時間目に一息つけば充分で、結局早く頂上に着くことになる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
声色せいしよく飲食いんしよくは、その美なるをこのまず、第宅ていたく器物きぶつはその奇なるを要せず、あれば則ちあるにしたがひてこれを楽しみ、無くば則ち無きにまかせて晏如あんじよたり。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したがって雪に関する色々な問題、例えば雪崩なだれとか、スキーと雪との関係とかいう風な話はこの本の中には出て来ない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
悟空が三蔵にしたがってはるばる天竺までついて行こうというのも、ただこの嬉しさありがたさからである。実に純粋で、かつ、最も強烈な感謝であった。
スペインの君は幼き人二人ふたりれたる身にて、なほやまひがちに弱げなるをいとほしく何時いつも見てありさふらふ。もつとも支那人のまめまめしき乳母はしたがへるにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ああ我が当時の恨、彼が今日こんにちの悔! 今彼女かのをんなは日夜に栄のてらひ、利のいざなふ間に立ち、守るに難き節を全うして、世のれざる愛にしたがつて奔らんと為るか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
したがつて残りの百話の中にかへつて面白いものが有ると云ふやうなわけで、お上品に出来過ぎてしまつて、応接間向きの趣向しゆかういとしても、あきたらないことおびただしい。
きょうまでつきしたがって来たのに、私には一つの優しい言葉も下さらず、かえってあんな賤しい百姓女の身の上を、御頬を染めて迄かばっておやりなさった。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぼくは、もう日本に帰るまで、あなたとは口をくまいと、かたく心にちかったのです。日本をはなれるにしたがって、日本が好きになるとは、誰しもが言うところです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
たゞ里が工面がよいので、したがつて婿さんが会社で貰ふ俸給をそつくり自分の小使につかふ事が出来る位のものだ。
吾人は国民性の一膜を被らざるの作家、したがうて又さる意味の文学あることを信ずるあたはず。要するに此の意味にての国民性を言ふはほとんど無意義なり、重語なり。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
「いきませんね。狂介だから狂介と言われるに不思議はないからな。したがって、ぼんやりと立っていたのさ」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
(『山堂清話さんどうせいわ』に曰く、「五蘊ごうんはじめて起こる。これを名づけて生となす。ないし、四大分散、これを名づけて死となす。識神しきしんごうしたがいて後有に旋帰す」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そこに電灯が豆粒ほど小さく映り、私の手にしたがってふるえた。此の世のものならぬ美しい世界が此の盃の底にある。私は盃に唇をつけた。酒は冷えてにがかった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
度々たびたび方々で人をいたり怪我をさせたので大分評判が悪く、したがって乗るのもあぶながってだんだん乗客が減ったので、とうとうほんの僅かの間でやめてしまいました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
「人々の聴きうる力にしたがいて御言みことばを語る」ために譬話の方法を採られ、譬話以外には一般大衆への説教をなされざることとなったのであります(四の三三、三四)。
そこでネネムは、部下の検事をしたがえて、今日もまちへ出ました。そして検事の案内で、まっすぐに奇術大一座のある処に参りました。奇術は今や丁度まっ最中です。