おっ)” の例文
尚その命令書には『おっ後日ごじつ何等カノ命令アルマデハ本件ニ関シ総指揮官部へ報告ニ及バズ』と但書ただしがきを書くから、予め諒承りょうしょうありたい
金眸は痛さに身をもがきつつ、鷲郎が横腹を引𤔩ひきつかめば、「呀嗟あなや」と叫んで身を翻へし、少し退しさつて洞口のかたへ、行くを続いておっかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「でももしか、あなたに怒られるとそれっきりですからね。後でいくらあやまってもおっつかないなんて馬鹿はしたくありませんもの」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
稲妻をつかまえそうな慌て方で、ざぶざぶ真中まんなかおっかける、人のあおりで、水が動いて、手毬は一つくるりと廻った。岸の方へ寄るでねえかね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五「おっかねえ処だ、江戸てえ所にゃア二度と再び来る所じゃねえ、火におっかけられて居るんだねえ、旦那さん何処へ逃げべえか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、写真班の連中は、先方が避ければ避けるほど完全にカメラの中に収めようと、執拗しつこく後をおっかけて居ました。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おって 「伊勢の神風、宇佐の神勅しんちょく」云々の語あれども文学には合理非合理を論ずべきものにては無之これなく、従って非合理は文学に非ずと申したること無之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
超脳髄式の青年名探偵アンポンタン・ポカン博士が、博士自身の脳髄をおっかけまわして、物の美事に引っ捕えて、地ビタにタタキ付けて、引導を渡すまでの経過報告だ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
長嘯子ちょうしょうしのえらびたまへる諸虫歌合せの跡をおって、恋のこゝろのざれ歌をのばへはべるに、兎角とかくして夜もふけはべりし、江山風月こうざんふうげつ常のあるじなければ、しろをせむる大屋おおやもあらねど
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ついでに全部認めちまうさ。——そう云えばこの頃初子女史は、『戦争と平和』に匹敵ひってきするような長篇小説を書いているそうじゃないか。どうだ、もうおっつけ完成しそうかね。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せがれはまだ図書館の方ですがおっつけ帰って参りましょう。忰の家内も今お目に掛ります」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
後から仔馬こうまがひょこ/\いて行く。時々道草を食っておくれては、あわてゝけ出しおっついて母馬はは横腹よこはらあたまをすりつける様にして行く。関翁と余と其あとから此さまを眺めつゝ行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「今更心配してもおっつかないから、まア少し休みましょう。こんなに景色のよいことは滅多めったにありません。そんなに人に申訣のない様な悪いことはしないもの、民さん、心配することはないよ」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だ数量ばかりでなく優品をも収得したので、天筠居はおっては蒐集した椿岳の画集を出版する計画があったが、この計画が実現されない中に、おしかな、この比類のない蒐集は大震災で烏有うゆうに帰した。
交番の巡査は泡を喰って坊さんの後をおっかけた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
『——云いますめえ、おっつかねえことだ』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おっかけろ、追かけろ」
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幸いお延がお秀の後をおっかけて出た事は、下女にも解っていた。偶発の言訳が偶中ぐうちゅうこうを奏した時、津田は再度の胸をおろした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやれは江戸屋半治と申す者と約束のあるとか申す芸者で、何か半治が不実を致したと申し、刄物を持っておっかけて参ったを、半治が立腹して刄物をもぎ取り
奥方もさて狼狽うろたえまい。騒ぐまい。膳はおって返す。狂人きちがいじみたと思わりょうが、決してそうでない。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筆者自身が酔うた翁に抜刀でおっかけられた話。その刀をアトで翁から拝領した話など数限かずかぎりもないが、右の通、翁の性格を最適切にあらわしているものだけを挙げてアトは略する。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「妹さんも、頼りにならないのでしょうな。と、貴女独りで、働いていらっしっても、おっつかないじゃありませんか、何か、ご商売でもお始めになった方がいいじゃありませんか。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なおこの上他界のものと思はず、朝夕の手向たむけたのみ入候。枕山家内のことは、積信院のこゝろもち我よく/\知りつれば、おって物がたりに及ぶべく候。かしく。積信の姉へ。白居申ふす。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きさは鉄嶺丸てつれいまるとほぼ同じぐらいに思われるが、船足ふなあしがだいぶのろいと見えて、しばらくのにもうこれほどおっつかれたのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊「う十五分経てば横浜ゆきは出ますが、斯うしているうちにね、ひょっと、鳶頭でもおっかけて来ては仕様がないから、わしはこの汽車で品川までこうかと思うんだが」
猫のつらで、犬の胴、狐の尻尾しりっぽで、おおきさはいたちの如く、啼声なくこえぬえに似たりとしてある。おっ可考かんがうべし
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
種彦は知己ちかづきの多い廓の事とて適当の人を頼んで身請みうけや何かの事はおっての相談に
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
万平は大急ぎでアトをおっかけた。近くなると見え隠れにいて行った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「もったいない事をいうな。君の落ちつけないのは贅沢ぜいたくだからさ。僕のは死ぬまで麺麭パンおっかけて歩かなければならないんだから苦しいんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きまして麻布さんの方へお嬢さんが家出をなすった事を知らせにやりまして、金太きんたがようやく先方むこうへ着いたくらいの時に、又ういう変事が出来ましたから、おっかけて人を出し
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
刀に掛けても、おっつけ表向おもてむきの奥方にいたす、はッはッはッ、——これげまい。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お千代は此処ここでもまたおって通知をするというのだろうと思って
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「タクシーで逃げるのを自転車でおっかけたのです」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かと思うと、すぐあとからあざやかなやつが、一面に吹かれながら、おっかけながら、ちらちらしながら、さかんにあらわれる。そうして不意に消えて行く。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少し怪しい奴があとからおっかけて参りまして、少々貯えもありますから、大橋のなかばまでげてまいりますと、貴方あなたのお姿が見えますから、追付おいつこうと思って駈けてまいりますと
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
渠等かれらなかまの、ほとんど首領とも言うべき、熊沢という、おって大実業家となると聞いた、絵に描いた化地蔵ばけじぞうのような大漢おおおとこが、そんじょその辺のを落籍ひかしたとは表向おもてむき、得心させて、連出して
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを込み入ったあやでも隠しているように、一生懸命に自分の燃やした陽炎かげろうを散らつかせながら、あとおっかけて歩いたのが、さもさも馬鹿馬鹿しくなって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大小を三腰とか印籠を幾つとかを盗み取り逐電ちくでんした人殺しの盗賊どろぼうだ、するとあとから忠義の家来藤助とうすけとか孝助とか云う男が、主人のかたきを討ちたいとおっかけて出たそうだ、私の思うのは
どれ、連中におっつこうと、宿はずれへ急ぐと、長閑のどかな霞のきれ間とも思われる、軽く人足ひとあしの途絶えた真昼の並木の松蔭に、容子ようすい年増が一人、かたちいやしからぬのが、待構えたように立っていて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にも戦争いくさが起りそうに見える。焼け出された裸馬はだかうまが、夜昼となく、屋敷の周囲まわりまわると、それを夜昼となく足軽共あしがるどもひしめきながらおっかけているような心持がする。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんたに其んなことを云われゝば友達へ顔向が出来ねえから、意気張いきはりずくになりゃアかたき同志だ、可愛さ余って憎さが百倍、お前のけえりを待伏まちぶせして、跡をおっかけて鉄砲で打殺ぶッころす気になった時には
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親子づれ巡礼じゅんれいが間違えて入ったというで、はれ大変な、乞食こじきを見たような者じゃというて、人命に代りはねえ、おっかけて助けべえと、巡査様おまわりさまが三人、村の者が十二人、一組になってこれから押登って
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するといつでも近所の三毛猫からおっかけられる。そうして、こわいものだから、縁側を飛び上がって、立て切ってある障子しょうじを突き破って、囲炉裏いろりの傍まで逃げ込んで来る。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かお前さんに物云いたそうに此方こっちをジロ/\見てモジツカして居ますが、お前さんに余程惚れてますぜ、なに本当の事さ、わっちおっかけて来て鋏を一挺呉れて、何うか若旦那に宜くお詫をッてんで
今かく中古ちゅうぶる草臥くたびれても同一おなじにおいの香水で、おっかけ追かけにおわせてある持物を取出して、気になるほど爪の伸びた、湯がきらいらしい手に短いのべの銀煙管ぎせる、何か目出度い薄っぺらなほりのあるのを控えながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな茶碗は洗ったくらいじゃおっつかない。壊してしまわなけりゃ直らない厄介物やっかいぶつだ。全体茶人の持ってる道具ほど気に食わないものはない。みんな、ひねくれている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、しまいには焼火箸やけひばしのようにじゅっといってまた波の底に沈んで行く。そのたんびにあおい波が遠くの向うで、蘇枋すおうの色にき返る。すると船はすさまじい音を立ててそのあとおっかけて行く。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)