見計みはか)” の例文
市場にやられる日には私は、まず、家の者の気づかない時を見計みはからって、そっと押入れの小遣銭こづかいせんはこの中から銅貨を七、八ツ盗み出した。
……妾の主人の呉青秀はこの頃毎日へやに閉じ籠って、大作を描いておりますと云い触らして、食料も毎日二人前ずつ見計みはからって買い入れるし
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人ふたり何時いつものとほり十時過じすぎとこつたが、をつとがまだめてゐるころ見計みはからつて、御米およね宗助そうすけはういてはなしかけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これを筆にするも不祥ふしょうながら、億万おくまん一にもわが日本国民が外敵にうて、時勢を見計みはからい手際好てぎわよみずから解散するがごときあらば、これを何とか言わん。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
此間も上野へつく汽車の時間を見計みはからつて、愛子は俺を出迎に来た。俺は初めは愛子とは思はなかつた。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ばあさんはまたこしりながら、ぢいやがきねげたとき見計みはかつてはあなのあいたおもちをこねました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
群集ぐんしふさら時分じぶん見計みはからつてはぐら/\とはしらたふさうとした。丈夫ちやうぶはしらはまだ火勢くわせいがあたりをとほざけて確乎しつかつてた。村落むら人々ひと/″\漸次だんだんかへつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
七輪しちりんうへ見計みはからひ、風呂敷ふろしき受取うけとつて、屋臺やたいち、大皿おほざらからぶツ/\とけむりつ、きたてのを、横目よこめにらんで、たけかはしごきをれる、と飜然ひらりかはねるうへ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまりブラウンソースをこしらえるのですからコルンスタッチやバターはその分量で見計みはからいます
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つまり、その日、みんなが出かけてしまった頃を見計みはからった女は、スキーで大回りしてこっそり窓の下まで滑ってきた。そこで服を脱ぎ捨てると、つるりと浴室に忍びこむ。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
我らがこのたびの事目出度しとて物祝ひ賜はるむきすくなからざりしかば、八重は口やかましき我が身が世話の手すきを見計みはからひて諸処方々返礼に出歩きけり。秋もたちまち過ぎ去りぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なれない人たちには、荒れないような牛を見計みはからって引かせることにして、自分は先頭せんとうに大きい赤白斑あかしろぶち牝牛めうしを引出した。十人の人が引続いて後から来るというような事にはゆかない。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先生の本旨ほんしは、右二氏の進退しんたいに関し多年来たねんらい心に釈然しゃくぜんたらざるものを記して輿論よろんただすため、時節じせつ見計みはからい世におおやけにするの考なりしも、爾来じらい今日に至るまで深く筐底きょうていして人に示さざりしに
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
細君がもう寝入るという頃を見計みはからって、夢現ゆめうつつの間に、ほんの瞬間、例の髭の感触を与え、そして、寝入って了ったのを見すまして、やっぱり前通りのイニシャルを縫いつけたハンカチを残して
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次いで首領はせがれと渡辺とを見舞によこした。筆者は病中やう/\の事で訴状を書いた。それを支配を受けてゐる東町奉行に出さうには、取次とりつぎを頼むべき人が無い。そこで隔所かくしよ見計みはからつて托訴たくそをする。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その時を見計みはかろうて中村(諭吉、当時は中村の姓をおかす)は初めから中津に帰る気はなかった、江戸に行くと云て長崎を出たと、奥平にも話して呉れ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
念のためもう一度上陸してこの間の福昌号の裏口に行き、人通りの絶えたところを見計みはからって地下室の小窓に鼻を近付け、今一度中の様子を窺いてみた。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はKもお嬢さんもいなくなって、家のなかがひっそり静まった頃を見計みはからって寝床を出ました。私の顔を見た奥さんは、すぐどこが悪いかと尋ねました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さきに秋冷しうれい相催あひもよほし、次第しだい朝夕あさゆふさむさとり、やがてくれちかづくと、横寺町よこでらまち二階にかいあたつて、座敷ざしきあかるい、大火鉢おほひばちあたゝかい、鐵瓶てつびんたぎつたとき見計みはからつて、お弟子でしたちが順々じゆん/\
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、速力の鈍った頃を見計みはからって、また素足すあしのまま飛び下りて、肩と手をいっしょにして、うんうん押す。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎日のように客足の絶えた頃を見計みはからって犯人の処へ顔を剃りに来たもので、その都度、お前と下駄屋の後家さんとは兼ねてから懇意ではないかと念を押すので
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その御心配の潮時を見計みはからいまして、私がコチラへお伺い致しまして、万事のお話を拝聴致しまして
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
加減かげんころ見計みはかつて宗助そうすけは、先達せんだつはなしのあつた屏風びやうぶ一寸ちよつとせてもらへまいかと、主人しゆじんまをた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこで吾輩はトウトウ決心をして或る日の事、幕前の時間を見計みはからって木乃伊ミイラ親爺に談判してみた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それも善い加減に見計みはからって買ってくれると善いんですけれど、勝手に丸善へ行っちゃ何冊でも取って来て、月末になると知らん顔をしているんですもの、去年の暮なんか
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人の居ない頃を見計みはからって、絵や何かを見まわる振りをしながら方々を探しておりますと、案の定和尚様のお部屋の本箱の抽出ひきだしから縁起の書附けを見付け出しました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宗助そうすけ加減かげんころ見計みはからつて、丁寧ていねいれいべてもとせきふくした。主人しゆじん蒲團ふとんうへなほつた。さうして、今度こんど野路のぢそら云々うん/\といふ題句だいくやら書體しよたいやらにいてかたした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその白紙の蓋がホンノリと黄色く染まった頃を見計みはからって、紙の上の茶粕を取除とりのけると、天幕テントの中に進み入って、安楽椅子の上に身を横たえた富豪貴人たちの前に
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見計みはからって調理こしらえろと云えば好いじゃないか」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お互い同志が自分の馬鹿にウスウス気付いたところを見計みはからってワッと笑わせて、万事OKの博多二輪加にして行く手腕に至っては、制電せいでんの機、無縫むほうの術、トテモ人間わざとは思えなかった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この導火線くちびの寸法なるものが又、彼奴きゃつ等の永年の熟練から来ているので、所謂、教化別伝の秘術という奴だろう。魚群の巨大おおきさや深さによって咄嗟とっさの間に見計みはからいを付けるのだからナカナカ難かしい。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)