胡瓜きゅうり)” の例文
風情ふぜいもない崖裾がけすその裏庭が、そこから見通され、石楠しゃくなげや松の盆栽を並べた植木だなが見え、茄子なす胡瓜きゅうりねぎのような野菜が作ってあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかも、それらの中には、五倍の大入道の顔、胡瓜きゅうりのような長っ細い顔、南瓜かぼちゃのように平べったい顔なども、幾十となくまじっている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は、胡瓜きゅうりから日光を引き出す計画を、やっているのだそうです。なんでも、もう八年間このことばかり考えているのだそうです。
左の方はひろい芝生しばふつづきの庭が見え、右の方は茄子なすとか、胡瓜きゅうりを植えた菜園に沿うて、小さい道がお勝手口へつづいている。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
バケツに塩漬胡瓜きゅうりを入れて足元においている婆さんから信吉はそれを三本買った。ナイフで薄くきってパンにのせて食うんだ。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もしや暑い日であったかい料理を好まなければ今の鳥をロース焼にしておいて肉を細かくして林檎りんごの小さく切ったのか胡瓜きゅうりかパセリーかと混ぜて
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
胡瓜きゅうりが二本ほど浮いて動いています。流には目高めだかでしょう。小さな魚がついついと泳いでいます。水すましも浮いています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
この頃、顔やからだを真っ黒に塗って、なまの胡瓜きゅうりをかじりながら、「わたしゃ葛西の源兵衛堀、かっぱの伜でござります」
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし茘枝れいしに似た細君や胡瓜きゅうりに似た子どもを左右にしながら、安楽椅子いすにすわっているところはほとんど幸福そのものです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてそのうちに、だんだんと園芸の方へ頭が傾いて来たらしく、農場内の自宅の庭へいちご胡瓜きゅうりの小さな温床フレームを造ったり
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
焼酎と胡瓜きゅうりことごとき出したが、同時に食った牛肉は不思議にも出て参らず、胃のもなかなか都合好く出来たものかな。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「どうだい。これは胡瓜きゅうりの缶詰だ。ほら、ここに胡瓜のえが描いてあるだろう。欲しけりゃ、お前たちに呉れてやらねえこともないぜ、あははは」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕が僕の指で君の唇に胡瓜きゅうりの一片を差あたえたとき、君の唇のわななきは、あんな悲しいわななきがこの世にあるのか。……ある。たしかにある。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
半時間毎はんじかんごとくらいかれ書物しょもつからはなさずに、ウォッカを一ぱいいでは呑乾のみほし、そうして矢張やはりずに胡瓜きゅうり手探てさぐりぐ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
胡瓜きゅうりならば日野川の河童かっぱかじろう、もっての外な、汚穢むそうて汚穢うて、お腰元たちが掃除をするに手がかかって迷惑だ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六月にはいると、麦は黄熟こうじゅくして刈り取られ、胡瓜きゅうりくきみじかきに花をもち、水草のあるところにはほたるやみを縫って飛んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
苹果りんごなしやまるめろや胡瓜きゅうりはだめだ、すぐ枯れる、稲や薄荷はっかやだいこんなどはなかなか強い、牧草なども強いねえ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
勝重の妻はまた、まだ娘のような手つきで、茄子なす芥子からしあえなぞをそのあとから運んで来る。胡瓜きゅうりの新漬けも出る。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これが、あの、昔のお京じゃろか? まるきり、しなびた胡瓜きゅうりのごとなって、せんこんこつ、ふた眼とは見られん。じゃが、お京にはちがいなかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かたばみは我々にとっては迷惑至極な草だが、彼等はあの葉のめずらしい形と、実が胡瓜きゅうりのようなのに興味をもつ。
本陣が胡瓜きゅうりの塩おしと菜のゆでたのをもってきてくれたので鴨の話をしたら それは一つはよく舞う奴で 一つは水をくぐるのが得手なのだ といった。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
私はその午後を、それらを読みながらぼんやりとしてすごし、大チャンの朝つくって行った肉と南瓜かぼちゃの煮つけと、胡瓜きゅうりもみとに、生玉子を添えて食べた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
れたてのコオフィ一杯で時々朝飯ぬきにする時があるが、たいていは、紅茶にパンに野菜などの方が好き。このごろだったら、胡瓜きゅうりをふんだんに食べる。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
自分は黙然もくねんとしてわがへやに帰った。そうして胡瓜きゅうりの音でひとらして死んだ男と、革砥かわどの音をうらやましがらせてくなった人との相違を心の中で思い比べた。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶と塩鮭の塩味とで煮た昆布を吸い物とし、それから、胡瓜きゅうりを切って水に浮して、塩を添えて夕食を出された。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
一様に規則正しいうねや囲いによって、たとえば玉菜の次に豌豆があり、そのうしろに胡瓜きゅうりの蔓竹が一とかこい、という順序に総てが整然とした父の潔癖な性格と
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
茄子なす胡瓜きゅうりや唐きびの苗床が麦藁をかぶせてある、その上をかまわずどんどん走りまわった。おばあさんは豚が小屋を破ってとび出したときのようにあわてた。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
西は明るいが、東京の空は紺色こんいろに曇って、まだごろ/\遠雷えんらいが鳴って居る。武太ぶたさんと伊太いたさんが、胡瓜きゅうりの苗を入れた大きな塵取ごみとりをかゝえて、跣足はだしでやって来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あのとき、この武蔵が争う気ならば、貴様のようなヘボ胡瓜きゅうり、踏み殺すのに造作はなかったのだぞ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の大根、初夏の莢豌豆さやえんどう、盛夏の胡瓜きゅうり、寒中の冬菜。そのどれにもこれにも、幼いときからの味の記念がよみがえるのである。故郷の山川草木ほど、なつかしきものはない。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
これに胡瓜きゅうりみたいな物を薄く切って入れ、次には搾木を外したばかりの新しい白チーズによく似た物質の、大きなかたまりを加えるが、これは三角形に切ってあった。
その時分から爺やはまめにその家のまわりの空地に豆だの胡瓜きゅうりだのねぎだのの畑を作っていましたが、みんな御主人に召し上っていただくために丹誠たんせいしたのだからといって
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さかなは長浜の女が盤台はんだいを頭の上に載せて売りに来るのであるが、まだ小鯛こだいを一度しか買わない。野菜がうまいというので、胡瓜きゅうりや茄子ばかり食っている。酒はまるでまない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
胡瓜きゅうりの汁の味でも濁川の湯のものなどには比べものにはならない。空腹をいやして臥床ふしどへはいると、疲労がすぎたのか眠られない。遠くない処で馬の鼻を鳴らす音も聞える。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
小さい胡瓜きゅうりのような形の実に手を触れて、そのはじけるのを喜んだ幼い日のことを思い出す。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ぬれたビール瓶やサイダー瓶の周囲に、トマトや、胡瓜きゅうりやオムレツの色があざやかだった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
女中が持運ぶ蜆汁しじみじる夜蒔よまき胡瓜きゅうりの物秋茄子あきなすのしぎ焼などをさかなにして、種彦はこの年月としつき東都一流の戯作者げさくしゃとしておよそ人のうらやむ場所には飽果あきはてるほど出入でいりした身でありながら
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
空っとぼけているのかどうか、たべる方に余念もないと云う様子で、即席のサンドウィッチをこしらえるのにかまけている彼女は、縦に二つに切ってある酢漬すづけ胡瓜きゅうりを細かにきざんでは
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨今は胡瓜きゅうり茄子なすの苗をも植えつけたので、根切り虫に注意してやらねばならぬ。この虫は泥棒や自分たちと同様、夜業ばかりする奴だから、昼間探しても少しだッて姿を見せぬ。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
胡瓜きゅうり莢豌豆さやえんどうの類も早作りをして寒の中に出します。此奴も銀の利くもので……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
菜の有る時は菜を抜いて持ってッたり、また茄子なす胡瓜きゅうりを切ってうりに持ってく時にゃア折々店へも行くだ、するとまア私が帰ろうと云うとあとから忰が出て来て、是は菓子の屑だから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伯父の作った胡瓜きゅうりの漬けたのを、美味うまい美味いといって随分沢山食って行ったことと、それからこれも伯父の趣味であろうが、ここの浴室は、全然離れた庭の端の金鱗湖のすぐほとりの所に
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
楊弓場ようきゅうばなどのあった時代ですが、一歩裏通りに入ると、藁葺わらぶきのしもた家が軒を並べ、安御家人ごけにんや、隠居屋敷、浪人暮しなどの人が、ささやかな畑をこしらえて、胡瓜きゅうり南瓜かぼちゃを育てているといった
予は実に子どもたちの歓呼の叫びに蘇生そせいして、わずかに心の落ちつきを得たとき、姉は茶をこしらえて出てきた。茶受けは予の先に持参した菓子と、胡瓜きゅうりの味噌漬け雷干かみなりぼしの砂糖漬けであった。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
女は徹頭徹尾、胡瓜きゅうりのように冷静だったが、青年の言葉に勢いを得て
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
わざわざ不時の客にそなえて幾週間もしまってあった渦巻型の肉饅頭を添えた玉菜汁シチイだとか、豌豆えんどうをあしらった脳味噌だとか、キャベツを添えた腸詰だとか、去勢鶏ブリャルカ焙肉あぶりにくだとか、胡瓜きゅうり塩漬しおづけだとか
西瓜だって胡瓜きゅうりだって末実りは普通より安価あんかであり、ことに時代と身辺しんぺんの変化のせいで、風波ふうはの中にさすらえて来たのであるため父親の立場からいうと、これに対して責任観せきにんかんが深くなるわけである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
高田の作ったこの句も、客人の古風にたかまる感情を締め抑えた清秀な気分があった。梶はい日の午後だと喜んだ。出て来た梶の妻も食べ物の無くなった日のびを云ってから、胡瓜きゅうりもみを出した。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
なんと緑の疣々いぼいぼだ。胡瓜きゅうりの花も顔まけだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
人間吏となるも風流胡瓜きゅうりの曲るもまた
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)