のき)” の例文
老朽おいくちてジグザグになつた板廂いたびさしからは雨水がしどろに流れ落ちる、見るとのきの端に生えて居る瓦葦しのぶぐさが雨にたゝかれて、あやまつた
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
やがて黒羽町に入込いりこむと、なるほど、遊廓と背中合せに、木賃宿に毛の生えたような宿屋が一軒、のき先には△△屋と記してある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
のきの傾いた荒寺が草の中に立っていた。夜叉のあえ呼吸いきづかいがすぐ背後うしろで聞えた。大異はそのまま荒寺の中へ入って往った。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
例年のきく端午の菖蒲しょうぶまず、ましてや初幟はつのぼりの祝をする子のある家も、その子の生まれたことを忘れたようにして、静まり返っている。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
相向へる二列の家は、のきと簷と殆ど相觸れんとし、市店いちみせともしびを張ること多きが爲めに、火光は到らぬ隈もなく、士女の往來織るが如くなり。
昼の間はややもすれば二階ののきを飛び超えて家根に上り、それより幾時間となく海を眺め外船の阿那の点にあるを見守りたることもこれ有り候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「ございます、ちょうど、雨だれののきを落ちる時のような同じ形が揃って、つばの下から切尖まで、ずっと並んで、いかにもみごとでございます」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家を出でゝ程久しきに、母も弟も還ること遅し、鴉はもりに急げども、帰らぬ人の影は破れしのき夕陽ゆふひ照光ひかりにうつらず。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もといた堺町の家ののきにも一本夏みかんの木があって年々花をつけては塀外へこぼれるのを毎朝起きて掃くのがたのしみで二、三句出来た事がある。
朱欒の花のさく頃 (新字新仮名) / 杉田久女(著)
しつに、玉鳳ぎよくほうすゞふくみ、金龍きんりうかうけり。まどくるもの列錢れつせん青瑣せいさなり。しろきからなしあかきすもゝえだたわゝにしてのきり、妓妾ぎせふ白碧はくへきはなかざつて樓上ろうじやうす。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のきには夕陽が残っていた。竇は起きて目をつむってじっと考えた。王宮へいったことがありありと目に見えて来た。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
落葉の雨に混ってのきを打つ頃となり、いつとなく村は黄色く霜枯れて、冬が来て、また雪の降り出す頃となった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋根と表口の上とに、のきと庇とが出てゐるが、その広さが丁度家全体の広さ程ある。小さい、奥深い窓が細い格子で為切しきつてあつて、中には締め切つてあるのも見える。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
のきの上には、思いきり大きな看板が二階をすっかり目隠しするように据っていたが、その簷のところには四角形の大きな門灯もあり、それから、静三が立っている脇にも
昔の店 (新字新仮名) / 原民喜(著)
間口まくち九間の屋根やねのきに初春の頃の氷柱つらゝ幾条いくすぢもならびさがりたる、その長短ちやうたんはひとしからねども、長きは六七尺もさがりたるがふとさは二尺めぐりにひらみたるもあり
近づいてみれば、酒旗には「潯陽江正庫じんようこうほんてん」とみえ、また墻門かきのきには、蘇東坡そとうばの書の板額いたがく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは彼のあしを止めたところが郊外かうぐわいにあつたからで、そこは平野神社から銀閣寺へ途中とちうえる衣笠山のなだらかな姿がのきの下から望まれるやうな場所にある、まづしい家であつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
が、さくの非をい今のさとつてゐる上から云へば、予も亦同じ帰去来ききよらいの人である。春風は既に予が草堂ののきを吹いた。これから予も軽燕けいえんと共に、そろそろ征途へのぼらうと思つてゐる。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、さくの非を悔い今のを悟っている上から云えば、予も亦同じ帰去来ききょらいの人である。春風は既に予が草堂ののきを吹いた。これから予も軽燕と共に、そろそろ征途せいとへ上ろうと思っている。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
宿泊人とまりゅうどいびきがぐう/\、往来も大分だいぶ静かになりますと、ボンボーン、ばら/\/\とのきへ当るのはみぞれでも降って来たように寒くなり、襟元から風が入りますので、仰臥あおむけに寝て居りますと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
屋根ものきも焼け落ちて真黒に焼けた柱ばかりが立ってる洋物小売部の店(当時の丸善の仮営業所は鍵の手になっていて、表通りと横町とに二個処の出入口があった。横町の店が洋物小売部であった。)
老朽おいくちてジグザグになった板廂いたびさしからは雨水がしどろに流れ落ちる、見るとのきの端に生えている瓦葦しのぶぐさが雨にたたかれて、あやまった
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうかのきの下で宜しゅうございますから、今晩だけお泊めなさってくださいますまいか」と、女はきまり悪そうに云った。
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半腹に鳳山亭と匾したる四阿屋あずまやのき傾きたるあり、長野辺まで望見るべし。遠山の頂には雪をいただきたるもあり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで暫く休むつもりで旅館へ入ったが、雨はますます強くざあざあと降りだして夜になってもやまなかった。のきを見ると縄のような雨だれがかかっている。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
景をポジリツポに取りて、わざと其名をば擧げざりき。のき傾き廊朽ちて、今や漁父の栖家すみかとなりぬ。聖像を燒き附けたる窓の下に床ありて、一童子臥したり。
「これはとてもいかん。むしろ廃殿の中で眠った方が得策だ」と早速天幕を疊み、一同はまたもやゾロゾロと、のきは傾き、壁板は倒れ、床は朽ちて陥込おちこんでいる廃殿にのぼ
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
家峯やねの谷になりたる所を俚言りげんにだぎといふ、だぎは春解するやねの雪のしたゝりみなこゝにつたふゆゑ、つらゝはのきよりも大也、下にさはりなき所は二丈もさがる事あり。
ちょうどこの時、村の或る一軒の家で、娘が大病にかかっていた。命がとても助らないと知って親類の人々がこの家に集っていた。一室のうちのきに垂れかかった青葉の蔭で薄暗かった。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
積薪せきしん夕餉ゆふげ調とゝのをはりてりぬ。一間ひとまなるところさしめ、しうとよめは、二人ふたりぢてべつこもりてねぬ。れぬ山家やまがたび宿やどりに積薪せきしん夜更よふけてがたく、つてのきづ。ときあたか良夜りやうや
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは至正庚子しせいこうしの歳に当る上元の夜のことであった。家々ののきに掲げた燈籠に明るい月が射して、その燈は微赤く滲んだようにぼんやりとなって見えた。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
丘の半腹なる酒店の前に車を停めて見るに、穹窿の火の美しさ、前に見つるとはまた趣を殊にして、正面ののきこそは隱れたれ、星をつらねたる火輪の光の海にたゞよへるかとおもはる。
と、間もなくしてのき先から不意に鳥の堕ちて来るようにおりて来た者があった。それは一人の立派な服装をした少年であったが、万を見るなり身をそらして逃げていった。万は追っていった。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
大きな家ではあるが、門の柱もち、のきかわらも砕けて、人の住んでいるような所ではなかった。豊雄は驚いた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
のきの下に二組のつくえと腰掛を設けて、その一方の几には一人の秀才が腰をかけていた。そこで宋公もその一方の几にいって秀才と肩を並べて腰をかけた。几の上にはそれぞれ筆と紙とが置いてあった。
考城隍 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それは至正庚子しせいこうしとしに当る上元の夜のことであった。家家ののきに掲げた燈籠に明るい月がして、その微紅うすあかくにじんだようにぼんやりとなって見えた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
扉はなくなりのきは傾き、しきがわらの間からは草が生え茂って庭内はひどく荒れていて、二三日前に見た家屋の色彩はすこしもなかった。許宣は驚くばかりであった。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
街の両側にはバラック建の高低の一定しないのきが続いて、それにぼつぼつ小さな微暗うすぐらい軒燈がいていた。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
真澄はさかずきを持ったなりにまたおもい出したように、ななめに見えている母屋おもやの二階ののきに眼をやった。そこには叔母の好みで夏からけている岐阜提燈ぎふちょうちんがあった。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「送ってあげましょう、私も猟にきて帰れないので、しかたなしにここに寝ておりますものの、ゆっくり睡れないのですから、貴女の家ののきの下でも拝借しましょう」
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
電車線路のこっちに一幅の耕地を持って高まった丘は、電車が開通するとともに文化住宅地になって、昼間電車の中から見ると丘の樹木の間から碧瓦あおがわら赭瓦あかがわらのきが見えた。
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
焦生は其処の風陰かざかげを野宿の場処にしようと思った。彼は脚下あしもとに注意しながら岩のはなを廻って往った。眼の前に火の光が見えてきた。その火の焔のはしに家ののきが見えた。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
曲欄きょくらんを幾まがりか折れて往くとまた別の庭があって、枝を垂れた数十株の楊柳が高だかと朱ののきを撫でていた。そして名も知れぬ山鳥が一鳴きすると花片はなびらが一斉に散った。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
路次の中へ路次が通じて迷図めいずのように紛糾した処には、一二年前まで私娼のいた竹格子たけごうしの附いた小家こいえが雑然とのきを並べていたが、今は皆禁止せられて、わずかに残った家は
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
古廟は柱が傾き、のきが破れ、落葉の積んだ廻廊には、獣の足跡らしい物が乱雑にいていた。
申陽洞記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
火はもうめらめらと堂ののきに燃えついた。その火の傍で六郎の狂気のように笑う声が聞えた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
水仙廟の後ろと思われる山の麓に楼閣がのきを並べていた。女を尋ねて毎日水仙廟のあたりから孤山の頂にかけて歩いていた彭は、そんな楼閣を見たことがなかったので驚いた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その向うには墓地の続きになった所に建った大きな建物ののきが僅かに見えていた。
変災序記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は黄昏ゆうぐれの涼しい風に酒にほてった頬を吹かれて家いえののきの下を歩いていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
捕卒は家の前に立って手筈てはずを定め、門を開いて入って往った。扉は無くなりのきは傾き、しきがわらの間からは草が生え茂って庭内は荒涼としていて、二三日前に見た家屋の色彩はすこしもなかった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)