盗人ぬすびと)” の例文
旧字:盜人
それが今聞けば盗人ぬすびとのために、海へ投げこまれたと云うのである。保吉はちょいと同情しながら、やはり笑わずにはいられなかった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やい盗人ぬすびと峯松、其方そちは何うもふてええ奴だなア、七年以前に此の伊香保へ湯治に来た時、渋川の達磨茶屋で、わっちア江戸ッ子でござえます
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはまったくの一大事いちだいじですから、殿様は国中に命令めいれいを下して、盗人ぬすびとを探させましたが、どうしても見つけることが出来ませんでした。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
獅子身中しししんちゅうの虫とは、机博士、おまえのことだ、おまえは盗人ぬすびとのようにわたしの部屋へしのびこんだ。しかし、それは許してやろう。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし子供達こどもたちは、縄切なわきれや、おもちゃの十手じってをふりまわしながら、あちらへはしっていきました。子供達こどもたち盗人ぬすびとごっこをしていたのでした。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
盗人ぬすびとをとらえて見れば何とかだね。何だか喜劇じみているじゃないか。こんな際だけれど、僕は妙に同情というような気持が起らないよ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「耳ざとく、よく町へ弥次馬に出かける奴じゃな。捕物とは、盗人ぬすびとでもつかまったか。清洲の御城下に、盗人があったとは珍しい」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盗人ぬすびとに殺された女は臨月であつたので、その山に住む法師があはれに思つて、母のはらいて男のをとりいだして養育した。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
盗人ぬすびと足痕あしあとを犬のように探れない鼻で実際香が嗅げようか、舌にしてもその例にもれない、触感も至って不完全なもので
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
盗人ぬすびとを捕えて見ればわがなりか、内の御新造様ごしんぞさまのいい人は、お目にかかるとお前様だもの。驚くじゃアありませんか。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな不都合ふつごうきわま汽車きしゃいとか、みな盗人ぬすびとのような奴等やつらばかりだとか、乗馬じょうばけば一にちに百ヴェルスタもばせて、そのうえ愉快ゆかいかんじられるとか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其中そのうちたれ云ふと無く桑盗人ぬすびとはお玉の母親に違ひ無いと云ふ事が評判になりまして可愛想かあいさうその娘のお玉までも憎まれてこの村を追ひ出されてしまひました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
しかし、果たして手拭いが盗まれたとすると、盗人ぬすびとは何の目的でそんなことをしたのでしょうか。警察の人を困らせるための単なるいたずらでしょうか。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私はすっかりを消した暗い暗い寝室の間の廊下をそっと差し覗いた。そうして、盗人ぬすびとのように足音をひそめた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼は、自分の家の中を、盗人ぬすびとのように、忍びやかに、夢遊病者のように覚束おぼつかなく、瑠璃子の部屋の方向へ歩いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東海道の天竜川のほとりの天竜寺で米友は、心ならずも多勢を相手にして、その盗人ぬすびとの誤解からのがれようとしました。その時は遊行上人ゆぎょうしょうにんに助けられました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
盗人ぬすびとに追い銭の感じがして、ぴったり来ない感じだったが、しかしその割り切れないところは何かのまどかしがあり、好いことがそこから生まれて来るように思えた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
盗人ぬすびとにも三分さんぶの道理といいますけれどもこの男のは八分位の道理はあるのです。どうも貧民はラサ府では実に困難です。餓鬼がきの国という批評はよくあたって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此頃はもう四年前から引き続いての飢饉ききんで、やれ盗人ぬすびと、やれ行倒ゆきだふれと、夜中やちゆうも用事がえない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
通常、必然と呼ばれる、運命と見えるものによってかれらは、古い書物にあるとおり、蠧魚しみ喰いびくさり盗人ぬすびとうがちてもち去る財宝をたくわえることに従事しているのである。
実に怪しい物すごい光景で、もし人にこれを見せたらば、確かに神に仕うる僧侶とは思われず、何かけがれたる悪漢わるものか、屍衣しい盗人ぬすびとと、思い違えられたであろうと察せられました。
彼のいう盗人ぬすびと一件などはむろん一笑にしてしまったのであるが、なにしろ船長の申しいでが非常に嬉しかったので、それでは船の大工を連れて行って、部屋を調べさせましょうと
我家の庭を盗人ぬすびとの如く足音忍んで、玄関の方へ廻って見ましたが、幸い召使もいない様子なので、脱いであった草鞋わらじばきや両掛の小さな荷物を取集め、堂門の死体の側へ運んで来て
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小文さんは帰つて来て初めて盗人ぬすびとが入つたらしいのに気がいたが、別に吃驚びつくりもしなかつた。何故といふのにうちには盗まれて惜しい物は何一つ置いてゐないのをよく知つてゐたから。
既にを消し、戸をとざしたる商店の物陰に人佇立たゝずめば、よし盗人ぬすびとの疑ひは起さずとも、何者の何事をなせるやとて窺ひ知らんとし、横町よこちやうの曲り角に制服いかめしき巡査の立つを見れば
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「旦那様、びっくりなされちゃいけません、大奥様は御病気でお亡くなりになりますし、若奥様は苗軍びょうぐん盗人ぬすびとのために、迫られて亡くなられました、なんとも申しあげようがございません」
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なあに、いいですよ。ああら物々し盗人ぬすびとよ。手並はさきにも知りつらん。それにもりず打ち入るかって、ひどい目に合せてやりまさあ」と寒月君は自若として宝生流ほうしょうりゅう気燄きえんいて見せる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここにこの里の荘官しょうやの家に、月丸つきまる花瀬はなせとて雌雄ふうふの犬ありけり。年頃なさけかけて飼ひけるほどに、よくその恩に感じてや、いとも忠実まめやかつかふれば、年久しく盗人ぬすびとといふ者這入はいらず、家は増々ますます栄えけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
あかりを消して裸に成つて寝たりしたのは一寸ちよつと凄い気持を与へたが、盗人ぬすびとが忍んで来て犬に吠えられ短銃ピストルを乱発して防ぎながらつひかみ殺されて仕舞しまふのは、其れが見せ場であるだけ俗悪ぞくあくな結果であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
盗人ぬすびとがここを通るたび
春と修羅 第三集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あそびごとにしても、盗人ぬすびとごっことはよくないあそびだ。いまどきの子供こどもはろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきがおもいやられる。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そこでとうとう盗人ぬすびとのように、そっと家の中へ忍びこむと、早速この二階の戸口へ来て、さっきから透き見をしていたのです。
アグニの神 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日、村人が光遠の所へけ付けて来て(たいへんです、妹さんが、盗人ぬすびとに人質にとられました)と云った。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この頃では盗人ぬすびと仲間へへいった身の上だ、斯う成ったのも実はと云うと、汝兄弟のお蔭なんだ、さア金を出せえ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
疑いも事にこそよれ、盗人ぬすびと同様の疑いを受けては、どうしてもこのままには済まされない。もうこの上はいっそ死んで自分の潔白を見せようと彼女は決心した。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで米友は、ついに盗人ぬすびとと、それから町を騒がしたという二つの罪でお仕置しおきを受けることになりました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「オイ貴様、盗人ぬすびとみたいなやつだナ。そんな暇があるなら職務執行妨害罪というのを研究しておけよ」
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、それでは、今日こんにちさまに済むまいぞ。勝手な云い訳をつけて見た所で、結局は盗人ぬすびとの上前をはねることだ。今日さまは見通しだ。どうしてそのまま済むものか。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
毒婦と盗人ぬすびとと人殺しと道行みちゆきとを仕組んだ黙阿弥劇は、丁度羅馬ロオマ末代まつだいの貴族が猛獣と人間の格闘を見て喜んだやうに、尋常平凡の事件には興味を感ずる事の出来なくなつた鎖国の文明人が
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
谷をじ、峰にのぼり、森の中をくぐりなどして、つえをもつかで、見めぐるにぞ、盗人ぬすびとの来て林に潜むことなく、わが庵も安らかに、摩耶も頼母たのもしく思うにこそ、われも懐ししと思いたり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるにこんな不潔ふけつ有様ありさまでは駄目だめだ。また滋養物じようぶつ肝心かんじんである。しかるにこんなくさ玉菜たまな牛肉汁にくじるなどでは駄目だめだ、また補助者ほじょしゃ必要ひつようである、しかるにこんな盗人ぬすびとばかりでは駄目だめだ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
石念は白い盗人ぬすびとのような眼をギョッと振向けたが、何事でもなかったのを知ると、こんどは、全身の勇をふるい起すように——しかし針ほどな物音にも心をくばって、一尺か二尺ほどずつ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その事が知れてふんづかまってぶんぐられても平気です。もっとも擲ぐられるだけの事でそれがために寺から追出おいだされるということも何もない。寺ではそういう時分の盗人ぬすびとに対してはごく寛大です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
国には盗人ぬすびと家に鼠と、人間ひとに憎まれいやしめらるる、鼠なれどもかくまでに、恩には感じ義にはいさめり。これを彼の猫の三年こうても、三日にして主を忘るてふ、烏円如きに比べては、雪と炭との差別けじめあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ある時はおのが家内やうち盗人ぬすびとのごとく足音あのとをぬすみてあるも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
盗人ぬすびとはおらぬ国と見える。いぬはもとよりえぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなことは、盗人ぬすびとのじぶんには、はじめてのことであります。ひと信用しんようされるというのは、なんといううれしいことでありましょう。……
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その後に来る可き「盗人ぬすびとになるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
に縛られて居た旅人の着物や金を取返してやると云って、盗人ぬすびとの跡を追掛おっかけて行かしった、もう今頃は浅貝あたりへお帰りになりましたろう、旦那の云うにゃア
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そののち、母の死際しにぎわに着てゐた小袖が証拠になつて、不思議にも隣のいえ主人あるじがその盗人ぬすびとであることが判つたので、かれは自分の主人しゅじん助太刀すけだちをかりて、母のかたきを討つた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)