びん)” の例文
びんのなかの温かい乳を、母親はいつも一度掌にあてたり、滓がないかと明るみに透したりして、嬉しがった。それの消毒をしながら
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ハイカラなレッテルなどられ、ちゃんとしたびんでしたが、内容が濁っているのです。ウイスキイのドブロクとでも言いましょうか。
美男子と煙草 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お三輪はまた、めずらしい酒のびん色彩いろどりとして置いてあるような飾棚かざりだなの前へも行って見た。そこにも広瀬さんの心はよく働いていた。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『どうだ。祝盃しゆくはいを一杯やらうか。』紳士はステームでだんだん暖まつて来たらしく外套を脱ぎながらウヱスキーのびんを出しました。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
送信所に到る通路が、いわば居住区の形で、寝台や卓子テーブルが並んでいた。その一つの卓にびんを置いて、準士官が一人酒を飲んでいた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それからまたどく』としるしてあるびんから澤山たくさんめば、それが屹度きつとおそかれはやかれからだがいになるものだとふことをけつしてわすれませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
屈んではいれる程度の、石窟せっくつのような家の口が、右側にあった。眠たげな赤い軒燈の下に、老酒ラオチュウびんが五ツ六ツ転がっているのを見る。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラムネのびんにはギヤマンの「魂」が、露西亜人にはだらけた「心」が要るやうに、清元に無くて叶はぬものは、この遊蕩的分子である。
シイタケ飯屋の会へ来ても、半白の山羊やぎヒゲを右手でしごきながら、正宗の三オンスびんを前において、仙人のような風格だった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
金原はびんの底にすこしばかり残ったラムネをコップにそそいだ。瓶の口のあのガラス玉をチリンチリンと鳴らしてそそぎながら
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
いったい、薬物室の酸化鉛のびんの中には、何があったのでしょう。あのせやすい薬物の色を、依然鮮かに保たせていたのは……
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこで塔の下のところに腰かけて、袋から千里眼のお水のはいつた小さなびんを出して、それを目にぬつて、お城の中を見通さうとしました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
赤いうすのような頭をした漁夫が、一升びんそのままで、酒を端のかけた茶碗ちゃわんいで、するめをムシャムシャやりながら飲んでいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
左手ゆんでひじ鍵形かぎなりに曲げて、と目よりも高く差上さしあげた、たなそこに、細長い、青い、小さなびんあり、捧げて、俯向うつむいて、ひたい押当おしあ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
サッキのように、おびえて、ウツロな眼付きをしいしいパンの固まりを抱え上げて、妾の寝台の下に並んでいる西洋酒のびんの間に押し込んだ。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お庄や、お前通りまで行って酢を少し買って来てくれ。」父親は戸棚からびんを出すと、明るい方へ透して見ながら言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
フランスにおいては、音楽はパストゥール式濾過器ろかきによって、ていねいに口をふさいだびんの中に、一滴ずつ集められている。
モナミだか千疋屋せんびきやだかで、テーブルの上のガラスのびんをこわしたことがある。ボーイがきて、六円いただきます、と言う。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
中に積んであった一つの行李こうりの底から、ごく小さい、小指の先程の、茶色のびんを探して来て、聴手ききての方へ差出すのでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みいはどうした? おう、そうか。そうら、伯母様がこんなものをくださッたぞ。うれしいか、あはははは」と菓子のびん
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
机の上には半分ほど飲んだ水薬のびんが夕日に明るく見えていた。清三は今朝友から送って来た「音楽の友」という雑誌をひろげてひで子に見せた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
番頭は立つて行つて、ガラスのびんの中に一杯つめられてある虫を私に示しながら、「これでございますが」と云つた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
『おいらは毎晩逆上のぼせる薬を四合びんへ一本ずつ升屋ますやから買って飲むが一向鉄道往生おうじょうをやらかす気にならねエハハハハ』
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ハルクは、虫のいきだった。体は、火のようにあつい。竹見は、おどろいて、びんの中に入れて持ってきた水で、彼のくちびるをうるおしてやった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たぶん、父親と母親はびんの中の燃えつくようなしずくゆめにみていたものでしょう。青白い小さな女の子はの中の燃えるような雫を夢にみていました。
「子供がはじめて乗合馬車に乗せてもらって、川へ連れて行ってもらう。それから川で海老えびるのだが、びんのなかから海老が跳ねて子供は泣きだす」
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
日がれると、いつの間にかホッケエ部の船室に入りこみ、ウイスキイのびんを片手に、時々喇叭呑らっぱのみをやりながら
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その間にも刀自達は、氣つけ藥のびんだの、手頃のあふぎだのを與へて、彼等の警告を用ゐないからこんなことになると、繰り返し繰り返し云ふのであつた。
「水車場の土手にはガラスびん破片かけらが星のようにきらめき、犬だか狼だかの真黒まっくろな影が転がるようにけ抜けた」
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
こういう調子でこのごろ矢野の下宿生活はさびしいものではない。大木から軸物じくものなど借りてきて、秋草の花をびんにさし、静かにひとりを楽しむ事もあった。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
黒いびんの肩の怒ったのに這入っている焼酎しょうちゅうである。直段ねだんが安いそうであったから、定めて下等な酒であったろう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
通ひの女も軈て挨拶して戻つて行くと、亭主は女に店を閉めさせて、二階へウィスキーのびんを持つて上つて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「無のうちか、有の中か、玻璃ハリびんの中か」とウィリアムがよみがえれる人の様に答える。彼の眼はまだ盾を離れぬ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上には色々の雑具を載せあり。その内に小さき鏡、コニャック一びん、小さきコップ数個、紙巻莨かみまきたばこを入れたる箱、菓子を入れたる朱色の日本漆器などあり。
扉の後には牛乳のびんがしこたましまってあって、抜きさしのできる三段の棚の上に乗せられたその瓶が、傾斜になった箱を一気にすべり落ちようとするので
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少女は四角なびんを持って憲一の傍へ来た。憲一はきまりがわるいので俯向うつむいていた。女がそれに眼をつけた。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
風岡かざおか君逃げろ、逃げろ」と云って、一目散に走り出した。僕も夢中で駆け出したが、先に駆けて行く森君の手を見ると、何だかびんみたいなものをつかんでいた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一人は肺結核のえがたきを嘆じての死であった。一人はまだ二十歳前後の青年であった。獣のように地べたに倒れた頭のそばにモルヒネのびんが転がっていた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
片手に花をもった妻と、小さな蜂蜜のびんをさげた夫は、一ばんあとからのろのろと下りた。乗っていた時間は十五分ぐらいなのに、妻はひどく疲れを感じていた。
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
汚水溝渠おすいこうきょで都市を再び作り出し、泥土でいどで再び風俗を作り出す。陶器の破片を見ては、つぼびんを結論する。
「あひるさんや、さあ、お飲みなさい。心配をしないで。とてもあたたかくて、うまい牛乳ですよ」と、お母さんは、あひるさんの口に牛乳のびんをおしつけました。
精縷セルの背広なるもあり、はかま着けたるが一人、大島紬おほしまつむぎの長羽織と差向へる人のみぞフロックコオトを着て、待合所にて受けし餞別せんべつびんはこなどを網棚あみだなの上に片附けて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うしろの土手の自然生しぜんばへを弟の亥之が折て来て、びんにさしたるすすきの穂の招く手振りも哀れなるなり。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
敏子がそれをびんに揷して病室に運び、「パパ、マダムが庭のライラックを切って来て下すったのよ」と云って、病人によく見えるような位置に台を持って来てえる。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
座興とするに俊雄も少々の応答うけこたえが出来夜深くならぬ間と心むずつけども同伴の男が容易に立つ気色けしきなければ大吉が三十年来これを商標とみがいたる額のびんのごとくひかるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「それ、ウオツカと乾葡萄ほしぶだうだぜ、露助め素的すてきな物をくれよつた。あの爺さんに分けるんだが、どうせびんごと此所こゝに置くから勝手に飲むが好いや。そら一寸やつて見ねえ。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
これは、蜘蛛くもと蜘蛛とが、一つのびんの中で互いに食い殺し合うのによく似てはいないだろうか。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
御覽なさい。かう云ふ所へもああやつて家からびんに入れて酒を持つて來るんです。そして火を
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
時々前膊の皮膚にびんくちを当てて血を吸わせたりする。蚤のおすが一瞬に飛ついてめすと交尾したりするありさまを見る。蛹がようやく色が濃くなって成虫になるありさまを見る。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
水野さんが、子供会の小さい提袋さげぶくろを開いて、絆創膏ばんさうかうやオゾや仁丹の入つてゐる中から、小さいびんをとり出し、その中の水のやうなものを松男君の小さい人さし指に塗りました。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)