現在いま)” の例文
そりゃあ、美津は、お嬢さんで育ったかも知んねえけど、今は現在いまなんだから、どこへだって嫁にやってしまいばよかったんですよ。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
現在いまではただの労働者でも、絵だの彫刻だのというようなことが多少ともあたまにありますが、その頃はそうした考えなどは、全くない。
もっとも私は、白鮫号が決してローリングしなかったとは思いません。現在いま残っている泡の線を壊さぬ程度の横揺ローリングはあったでしょう。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
勘次かんじ例令たとひ品物しなものつたところで、自分じぶん現在いまちからでは到底たうていそれはもとめられなかつたかもれぬと今更いまさらのやうに喫驚びつくりしてふところれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……現在いまは同じく一間の距離を持ち、紙帳の側面、中央なかばの位置に立ち、刀を中段に構え、狙いすましておろうがな。……動くか!
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勿論現在いまの所では空想に過ぎないのだが、実際もし強直がすぐ起っていなかったとすると、そう云ったものを当然欠いてはならないと思うよ
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
兄弟よ、諸〻の天使と、汝が居る處の純なる國とは、現在いまのごとき完き状態さまにて造られきといふをうれども 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
自分の現在いまこの世でやっている科学というものは、結局どうも無駄なものである。向うの世の中へ行ってやる科学こそ、最も最後的なものである。
現在いま、蔵元屋に入り込みおる野西とか言う侍でも、黒田五十五万石を物の数とも思わぬ海千山千の隠密育ちに違いない。
武蔵の厚意に少年は大いに喜び、「自分には養うべき老いた両親があるゆえ、修行の望みは充分あるけれども、現在いま活計たつきを棄てるわけにはゆかぬ」
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして現在いまのことだって、いつかは過去になってしまうんですもの。いつかは忘れなければならないわ。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この大目附は、殿中ではもっともむずかしい役の一つとなっていたもので、何しろ、千代田城は将軍家の邸宅とは言え、現在いまで言えば、役所をも兼ねているところだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
現在いまの左団次はアンポンタンとおなじくらいだから初舞台から知ってるわけだ。新富座の『和田合戦』の佐々木小次郎だったか、まんまるく大福餅だいふくもちのようなのを覚えている。
お千代が現在いまの二階へ越して来た時分、この老婆もまたこのあたりへ引越して来たのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姉妹きょうだいとはそむき合い、美沢までも情けなくも自分を見棄て去った現在いま……彼女は、鏡に向っておのれの顔を眺めていると、この頼りない自分の姿を、そのまま見せてもいい相手は
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
現在いま、朝湯の前でも乳のほてり、胸のときめきを幹でおさえて、手を遠見にかざすと、出端でばなのあしもとあやうさに、片手をその松の枝にすがった、浮腰を、朝風が美しく吹靡ふきなびかした。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若しあの時代にあゝいふ事がなかつたならば、現在いまの自分は現在いまのやうな自分ではなく、もつと勝れた自分であり得たかも知れないといふやうな記憶がよみがへつて來るだらう。
子供の世界 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
お高は、現在いま、達者で、秋田市の茶町に、居を構えていると聞いている。あの事件以来この町にも居づらくなって、間もなく、菅原一家は夜逃げ同様引き移っていってしまった。
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
しこたま金が出来てみると、女房かないの顔と現在いま住家すみかとが何だか物足りなくて仕方がない。だが、女房かないの顔はうにも手の着けやうが無いので、住家すみかだけをあらたに拵へる事にめた。
それで居て朝寝坊はきらひでしたから……恐らくまづ寝るは三四時が関の山でしたらう、……最も現在いまでも一晩や二晩の徹夜なら平気です。でも此のせつでは五六時間は眠ります。
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
婆や、さうぢやありませぬ、わたし現在いまの様に何も働かずに遊んで居るのを
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
現在いま旦那樣だんなさま柔和にうわさうとてはすこしもく、おそろしいすごい、にくらしいおかほつき、かたそばわたし憤怒ふんぬさうひかへてるのですから召使めしつかひはたまりません、大方おほかた一月ひとつき二人ふたりづゝは婢女はしたかはりまして
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
太初はじめありしごとく、現在いまあるごとく、常久とこしなえに。」
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
俺達は現在いま資本主義ブルジョア社会の悪を知ってる
農奴の要求 (新字新仮名) / 今野大力(著)
だが俺は現在いま
癩院記録 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
現在いま——
レポーター (新字新仮名) / 長沢佑(著)
さよう、左門はその位置に、片膝を敷き、片膝を立て、刀を逆ノ脇に構え、最初はじめから現在いままで、寂然せきぜんと潜んでいたのであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
現在いまでもそんなことで油斷ゆだんらぬ、村落むら貧乏びんばふしたから荷車にぐるまばかりえてうまつてしまつたが荷車にぐるま檢査けんさつておどろいたなどといふことや
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが、これは三四年前に拵えた地図で、毎年一度ずつ訂正を加えているのですが、現在いまでは又この地図とは大部違って来ているのであります。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「……まさか……。そんな事が出来るもんですか。現在いま附き添っているのは年老としとった女中頭が一人と、赤十字から来た看護婦が二人と、都合四人キリよ」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さるにターリアメントとアディーチェに圍まるゝ現在いま群集ぐんじゆうこれを思はず、たるれどもなほいじ 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いずれ、僕に確信がついたら話すことにするが、とにかく現在いまのところでは、それで解釈する材料が何一つないのだからね。単にこれだけのことしか云えないと思うよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
兵児帯へこおび一ツの現在いまの書生姿すがたふにはれずなさけなく思はれると同時に、長吉ちやうきちの将来どころか現在においても、すでに単純なおいとの友達たる資格さへないものゝやうな心持こゝろもちがした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もう一つはかなりまとまった路銀を、山から逃げてくる途中で落してしまった災難——この二つは、みんな小六のせいの如く考えられて、お延の現在いまを無性に焦立いらだたせているのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋する男の身にまつわる悲惨事に、千浪は、現在いまのできごとのように眉をひめて
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なにか、自分は世の中の一切すべてのものに、現在いまく、悄然しょんぼり夜露よつゆおもッくるしい、白地しろじ浴衣ゆかたの、しおたれた、細い姿で、こうべを垂れて、唯一人、由井ヶ浜へ通ずる砂道を辿たどることを、られてはならぬ
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……犯人は、間違いもなく、深谷家に現在いまいる人々の中にある
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
以前これまでの拙者なりゃ、その方より紙帳へ近附いたからには憂き目を見たは自業自得と、突っ放すなれど、現在いまの拙者の心境こころではそれは出来ぬ。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「成る程……現在いまの独逸には在りそうな話ですね。悪謀わるだくみに邪魔になる人間は、戦場に送るのが一番ですからね」
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
苟且かりそめの事をその未だ在らざるさきに知るにいたる、これ時の現在いまならぬはなき一の點を視るがゆゑなり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
兵児帯へこおび一ツの現在いまの書生姿がいうにいわれず情なく思われると同時に、長吉はその将来どころか現在においても、すでに単純なお糸の友達たる資格さえないもののような心持がした。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うむ、はたきふかくなくつちや收穫んねえものよそら、らあさかりころにや此間こねえだのやうにあさうなあもんだたあねえのがんだから、現在いまぢやはあ、悉皆みんな利口りこうんなつてつかららがにやわかんねえが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
またたく間に白露窮民の無料宿泊所と化したのであるが、一時は堂に溢れた亡命者エミグラント達も、やがて日本を一人去り二人去りして、現在いまでは堂守のラザレフ親娘おやこ聖像アイコンを残すのみになってしまった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なにか、自分じぶんなか一切すべてのものに、現在いまく、悄然しよんぼり夜露よつゆおもツくるしい、白地しろぢ浴衣ゆかたの、しほたれた、ほそ姿すがたで、かうべれて、唯一人たゞひとり由井ゆゐはまつうずる砂道すなみち辿たどることを、られてはならぬ
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこで宮方などというのであるが、若いわれらはそうはいかぬ、現在いまの勢力に眼をつける。そこで俺は武家方よ! ……そこで宮家を、な、宮家を!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……俺は……俺は現在いま、何かしらスバラシイ陥穽おとしあなの中に誘い込まれているのじゃないか……。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道はすこし迂曲うねつた後、現在いま電車の通つてゐる安藤坂のいたゞきに出る。
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
われも初めは現在いま小親の疑うごとく疑いたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大名衆などをおさえおいじめなされる。また狂言に現われて来る大名衆と来た日には、現在いまの大名衆と同じように、ばからしい手合ばかりではございますがな。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
現在いまでも京成バスの往復している大正道路の両側に処定めず店を移した。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)