すず)” の例文
黒目勝くろめがちすずしやかに、美しくすなおな眉の、濃きにや過ぐると煙ったのは、五日月いつかづき青柳あおやぎの影やや深き趣あり。浦子というは二十七。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずしそうなアカシヤの下には石に腰掛けて本を開ける生徒もある。濃い桜の葉の蔭には土俵が出来て、そこで無邪気な相撲すもうの声が起る。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その上に書いてある一字一字をすずしい声で読み初めたが、その一字一字は不思議にも順序よく続き続いて、次のような歌の文句になっていた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
恐ろしい地辷じすべりあり、恐ろしい地震があり、深い心の底には燃ゆる火もあり、く水もあり、すずしい命の水もあり、せば力の黒金剛石の石炭もあり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
にらまれるとすごいような、にッこりされるとふるいつきたいような、すずしい可愛らしい重縁眼ふたかわめが少し催涙うるんで、一の字まゆしゃくだというあんばいにり上げている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
雪をあざむく白い顔は前を見詰みつめたまま、すずしい眼さえも黒く動かさない、ただ、おさばかりが紺飛白こんがすり木綿の上をように、シュッシュッと巧みに飛交とびこうている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
自分は老年の今日までもその美しい容貌かおかたち、その優美なすずしい目、その光沢つやのある緑のびんずら、なかんずくおとなしやかな、奥ゆかしい、そのたおやかな花の姿を
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
『マア!』と心から驚いた様な声を出して、智恵子はすずしい眼をみはつた。『其麽そんな事被仰るもんぢやないわ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
よいよいと仰せられたただの一言に雲霧もやもやはもうなくなって、すずしい風が大空を吹いて居るような心持になったわ、昨日きのうはまた上人様からわざわざのお招きで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
心のうち一二〇いかばかりすずしからんとはうらやみぬるぞ。かくいへど富貴のみちはわざにして、一二一たくみなるものはよくあつめ、不せうのものは瓦の解くるよりやすし。
伏し目に半ば閉じられた目は、此時、姫を認めたように、すずしく見ひらいた。軽くつぐんだくちびるは、この女性にょしょうに向うて、物を告げてでも居るように、ほぐれて見えた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
女は小作りで、すずしいながら目容めつきは少し変だが、色の白い、ふッくらとした愛嬌あいきょうのある顔である。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
室外の空気に頭をさらしていた所為せいか、重かった頭も大分にかろすずしくなって、胸もほどくつろいで来たから、そのまま枕に就いて一霎時ひとしきりうとうとと眠ったかと思う間もなく
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は君達を思ふ時、いつでも同じ泉の底から更に新らしく湧き出してくる水のすずしさを感ずる。限りなき親しさと驚きの眼を以て私は君達のよろこびとかなしみとを理会する。
私は君達を思ふ時、いつでも同じ泉の底から更に新らしく湧き出してくる水のすずしさを感ずる。限りなき親しさと驚きの眼を以て私は君達のよろこびとかなしみとを理会する。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼女の目より涙をぬぐへ、すずしき風よ、彼女の胸よりうれひを払へ——アヽ我が梅子、なんぢの為めに祈りつゝある我が愛は、汝が心の鼓膜こまくに響かざる、——父なる神、永遠とこしなへに彼を顧み給へ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
口もとは小さからねど締りたれば醜くからず、一つ一つに取たてては美人のかがみに遠けれど、物いふ声の細くすずしき、人を見る目の愛敬あふれて、身のこなしの活々いきいきしたるは快き物なり
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、それが、ぼくが好きだというより、ぼくの童貞どうていだという点に、迷信めいしんじみた興味をもち、かつ、その色白で、瞳のすずしい彼女かのじょが、先輩Kさんの愛人である、とも、きかされていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さうして日の光だ、雨の音だ、すずしい草花のかをり、木の葉のそよぎ、しめやかな霙、雪の羽ばたきだ。おお、さうして貧しい者には夕の赤い灯火であり、富みたる人には黎明しののめの冷たい微風となる。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
というすずしい声がして、二十三四の、水の垂れそうな島田にスッキリと櫛の歯が通って、すこし痩せ身な、眉の濃い、眼元のパッチリとした、気高いほどに美しい芸者が敷居際に軽く片膝をついて
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
澄みて、離れて、落居おちゐたる其音声おんじようすずしさに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
なが歌ますますすずしからめ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
頭髪かみの房々とあるのが、美しい水晶のような目を、こう、俯目ふしめながらすずしゅうみはって、列を一人一人見遁みのがすまいとするようだっけ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一生のすずしい朝はあの古い静かな東北の都会へ行って始めて明けたような気がした。しかし彼はもう以前の岸本では無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしその言葉付きと眼の光りは、如何にも日本婦人らしいすずしさをあらわしていて、混血児らしいところや、支那婦人らしい物ごしは毛頭感じなかった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
娘は足を止めて、感心に御精が出ますこと、と賞めそうな風でにっこりしてすずしい目を自分に注いでいた,自分は目礼をして、弓を投げ棄てて姉の傍へ往ッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
雨さへ降らなければ、毎日、毎日、丁々たる伐木の音と邪氣あどけないお雪のすずしい笑聲とが、森の中に響いた。日に二本か三本、太い老木が凄じい反響こだまを傳へて地に仆れた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
話がかつての彼女の恋愛に及んで来ると、すずしい目ににわかに情熱があふれて来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と心ありげに云わるる言葉を源太早くも合点して、ええ可愛がってやりますとも、といとすずしげに答うれば、上人満面しわにしてよろこびたまいつ、よいわよいわ、ああ気味のよい男児じゃな
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾日々にまうでてつかへまゐらすべしと、まめやかにちぎりつつも、心をもちゐて助けけるに、病やや減じてここちすずしくおぼえければ、あるじにも念比ねんごろに詞をつくし、左門が二一陰徳をたふとみて
さうして日の光だ、雨の音だ、すずしい草花のかをり、木の葉のそよぎ、しめやかな霙、雪の羽ばたきだ。おお、さうして貧しい者には夕の赤い灯火であり、富みたる人には黎明しののめの冷たい微風となる。
つひに分け入る森蔭のすずしき宿やどり求めえなば
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
唇が触れた時、少年はすずしい目をみはってきっと見たが、また閉じて身動きもせず、手は忘れたもののようにお雪がするままに任せていた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日に焼けたまずい顔の女では有りましたが、調子の女らしい、節の凄婉あわれな、凄婉なというよりは悲傷いたましい、それをすずしいかなしい声で歌いましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
物珍らしい心から出るのを少し躊躇ちゅうちょしていると,娘が貌をふり上げてすずしい目で自分を見た、その目の中には、「早く出て往ッて……」というような風があッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
退いた跡には、砂の目から吹く潮の気が、シーツとすずしいを立てて、えならぬ強い薫を撒く。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ことにそのやや釣り気味になった眼元のすずしさ……正に日本少女のすいのきりりとした精神美を遺憾なく発揮した美しさであった。私は一瞬間恍惚とならざるを得なかった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是は雀部が妻の五六産所さとなりければ、五七ねんごろにたのみけるに、此の人見捨てずしていたはりつも、医をむかへて薬の事もはらなりし。やや五八ここちすずしくなりぬれば、あつめぐみ五九かたじけなうす。
夏ごろも匂ふ少女は朝ひらくからたちの花とすずしかるべし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
といってすずしい目をぱっちりと開いた。蝶吉は、男の、りんとした品のい、取って二十五のわかい顔を、しげしげと嬉しそうにみつめている。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬上のお隅は首を垂下げておりましたが、すずしい朝の空気を吸うと急に身体を延して、そこここの景色を眺め廻して
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうとう皆持てあまして愛想を尽かしてしまいました処へ、最前さっきから椅子に腰をかけてこの様子を見ながら、何かしきりに溜息ためいきをついて考え込んでいた娘は、この時しずかに立ち上ってすずしい声で
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
すずしかもその新月わかづきの眉あげて敢然と立つ少女ら見れば
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
フム此家ここだな。と門前にたたずみたるは、倉瀬泰助という当時屈指の探偵なり。色白くまなこすずしく、左の頬に三日月なり古創ふるきずあり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずしい声を鈴に合せて、息を吸入れて、「はるばるここに」と長く引いた時は女の口唇も震えましたようです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ああ、耳にすずすずしき、鳴りひびく沈黙しじま声音いろね
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蝶吉はすずしい目をぱっちりとみはって、恍惚うっとりとなったが、枕を上げると突然いきなり忘れたように食い付いた。腕守をんで、かしらを振って、髪をゆすぶり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日も、三吉の書きかけた草稿を机の上にひろげて、すずしい、力のある父の達雄にく似た声で読聞かせた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はた、とどろつ毒の砲弾たますずしき喇叭らつぱ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
女房 貴女の薄紅うすべになは桃の露、あちらは菊花のしずくです。お国では御存じありませんか。海には最上の飲料のみしろです。お気がすずしくなります、召あがれ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)