淡紅色ときいろ)” の例文
紙包の中には、洋紙の帳面が一册に半分程になつた古鉛筆、淡紅色ときいろメリンスの布片きれに捲いたのは、鉛で拵へた玩具の懷中時計であつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
たけなす薔薇ばら、色鮮やかな衝羽根朝顔つくばねあさがお、小さな淡紅色ときいろの花をつけた見上げるようなたばこ叢立むらだち、薄荷はっか孔雀草くじゃくそう凌霄葉蓮のうぜんはれん、それから罌粟けし
黒い髪と、淡紅色ときいろのリボンと、それから黄色い縮緬ちりめんの帯が、一時に風に吹かれてくうに流れる様を、鮮かに頭の中に刻み込んでいる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兼好は淡紅色ときいろのきゃしゃな彼の足を折らないようにそっと持って、すこしおびえているらしい眸とその柔かい腹毛に頬ズリを与えた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白蝋のかおの上に、香りの高い白粉おしろいがのべられ、その上に淡紅色ときいろの粉白粉を、彼女の両頬につぶらなまぶたの上に、しずかにりこんだ。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
淡紅色ときいろの腰卷の下から、ずんどの足がぶよぶよと波を打ちさうに見えた。しかし、その皮膚は、小田原蒲鉾をだはらかまぼこに似て、氣味の惡い位白かつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
靈と肉との表裏ある淡紅色ときいろの窓のがらすにあるかなきかの疵を發見みつけた。(重い頭腦あたまの上の水甕をいたはらねばならない)
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
その娘の腕まくり、すそからげで、子供らしい淡紅色ときいろの腰巻まで出して、一緒に石の間に隠れているかじかを追い廻した細い谷川の方へ帰って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのパラソルは一口に云えば空色であるが、よく見ると群青ぐんじょうと、淡紅色ときいろの、ステキに派手なダンダラ模様であった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亜麻色の毛を房々と下げて、淡紅色ときいろの絹服を着たママー人形の可愛らしさは、誰でもほほ笑まずにはいられません。
眠り人形 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、はげしい湯の音がして飛沫しぶきがかかると、淡紅色ときいろの、やっとした塊りが、眼前のもやのなかにあらわれました。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
淡紅色ときいろ薔薇ばらの花、亂心地みだれごゝち少女をとめにみたてる淡紅色ときいろ薔薇ばらの花、綿紗モスリンうはぎとも、あめの使ともみえるこしらへもののそのはねを廣げてごらん、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
淡紅色ときいろの、やさしはなだが、へんにはきつとあるね。あるにちがひない。だけでもわたしにもわかるだらう。」
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その女は紫の着物を着て淡紅色ときいろの袖口で顔をおほうて居たが、彼女の前に来て、ふっと驚いたやうに目を見開いた。そして優しくなつかしさうな瞳をしてお葉を見た。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
そして捲毛まきげをよくかして房々と垂らし、淡紅色ときいろ上衣うはぎを着け、長い飾帶をめ、レイスの長手袋ミットンをちやんとする頃には、裁判官か何ぞのやうに眞面目まじめくさつてゐた。
用水堀の両側の土堤からその中央の流れの上に、桜の花は淡紅色ときいろかすみのように咲きつづけていた。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
淡紅色ときいろ紋絽もんろ長襦袢ながじゆばんすそ上履うはぐつあゆみゆる匂零にほひこぼして、絹足袋きぬたびの雪に嫋々たわわなる山茶花さざんかの開く心地す。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二尺のそでかと思うほどの長い袖に、淡紅色ときいろの袖を重ねた右のたもとを膝の上にのせて、左の手で振りをしごきながら、目を先生の方を正しくむいてすこし笑ったりなさいました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
二十分の後此楽屋がくやから現われ出た花嫁君はなよめぎみを見ると、秋草の裾模様すそもようをつけた淡紅色ときいろの晴着で、今咲いた芙蓉ふようの花の様だ。花婿も黒絽紋付、仙台平の袴、りゅうとして座って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とき髪にむろむつまじの百合のかをり消えをあやぶむ淡紅色ときいろ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
紙包の中には、洋紙の帳面が一冊に半分程になつた古鉛筆、淡紅色ときいろメリンスの布片に捲いたのは、鉛で拵へた玩具の懐中時計であつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くろかみと、淡紅色ときいろのリボンと、それから黄色い縮緬ちりめんの帯が、一時いちじに風に吹かれてくうに流れるさまを、あざやかにあたまなかに刻み込んでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
灯影あかりへこんだ傷口の底まで届き、淡紅色ときいろの頸動脈はありありと眼に見えるほど、露出していた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輝くはだ露呈あらわして、再び、あの淡紅色ときいろ紗綾形さやがたの、品よく和やかに、情ありげな背負揚が解け、襟が開け緋が乱れて、石鹸シャボンの香を聞いてさえ、身にみた雪をあざむく肩を、胸を
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとその投影かげの中から、群青ぐんじょう淡紅色ときいろのパラソルが、人魂ひとだまか何ぞのようにフウーウと美しく浮き出して、二三間高さの空中を左手の方へ、フワリフワリと舞い上って行ったが
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこへ私はお牧から借りたざるを持つて行つてかじかをすくつたことも有ります。お文さんも腕まくり、裾からげで、子供らしい淡紅色ときいろの腰卷まで出して、石の間に隱れて居る鰍を追ひました。
學校の花園もまた、花でかゞやかしく飾られた。蜀葵たちあふひは木のやうに高く伸び、百合ゆりは開き、鬱金香チユーリップや薔薇が微笑ほゝゑんだ。小さな花壇の周りは淡紅色ときいろのまつばなでしこと深紅しんくの八重の雛菊で賑はつた。
洞内が、なんともいえない美しさににじんでゆくのだ。裂け目や条痕の影が一時に浮きあがり、そこに氷河裂罅クレヴァスのような微妙な青い色がよどんでいる。淡紅色ときいろの胎内……、そこをいずる無数の青蚯蚓みみず
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うす紫と、淡紅色ときいろ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
七宝しっぽう夫婦釦めおとボタンなめらか淡紅色ときいろを緑の上に浮かして、華奢きゃしゃな金縁のなかに暖かく包まれている。背広せびろの地はひんの好い英吉利織イギリスおりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
モウ五六間も門口の瓦斯燈がすとうから離れて居るので、よくは見えなかつたが、それは何か美しい模様のある淡紅色ときいろ手巾はんけちであつた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
黙って、糸七が挨拶すると、悄然しょんぼりと立った、がきっと胸をめた。その姿に似ず、ゆるく、色めかしく、柔かな、背負しょいあげの紗綾形絞さやがたしぼりの淡紅色ときいろが、ものの打解けたようで可懐なつかしい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わたしや武蔵様が、まだ幼い時分によく遊んだことのある、七宝寺というお寺の庭にも、この樹がありましたっけ。六月ごろになると、糸のような淡紅色ときいろの花が咲いてね、夕月が出るころになると、あの葉がみんな重なり合って眠ってしまう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まぶた周囲まわりに細い淡紅色ときいろの絹糸を縫いつけたようなすじが入っている。眼をぱちつかせるたびに絹糸が急に寄って一本になる。と思うとまた丸くなる。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今度は楕圓形なかげが横合から出て來て、煙の樣に、動いて、もと來た横へれて了ふ。ト、淡紅色ときいろの襖がスイと開いて、眞黒な鬚面の菊池君が……
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
すそはうがくすぐつたいとか、なんとかで、むすめさわいで、まづ二枚折にまいをり屏風びやうぶかこつたが、なほすきがあいて、れさうだから、淡紅色ときいろながじゆばんを衣桁いかうからはづして、鹿扱帶しごき一所いつしよ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
モウ五六間も門口の瓦斯燈から離れてよくは見えなかつたが、それは何か美しい模樣のある淡紅色ときいろ手巾ハンカチであつた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
磯馴松そなれまつ一樹ひとき一本ひともと、薄い枝に、濃い梢に、一ツずつ、みどり淡紅色ときいろ、絵のような、旅館、別荘の窓灯を掛連ね、松露しょうろが恋に身を焦す、紅提灯ちらほらと、家と家との間を透く、白砂に影を落して
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは昨晩の淡紅色ときいろ手巾ハンカチであつた。市子が種蒔を踊つた時の腰付が、チラリと私の心に浮ぶ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
淡紅色ときいろメリンスのたすきを端長く背に結んだ其娘共のうちに、一人、背の低い太つたのがあつて、高音ソプラノ中音アルトの冴えた唄に際立つ次中音テノルの調子を交へた、それがわざと道化た手振をして踊る。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
戯談じようだんば止しなされ。これ、そんだら何ですか。』と手を延べて、机の上から何か取る様子。それは昨晩ゆうべ淡紅色ときいろ手巾はんけちであつた。市子が種蒔を踊つた時の腰付が、チラリと私の心に浮ぶ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
噫、病院の窓! 梅野とモ一人の看護婦が、寝衣ねまきに着換へて淡紅色ときいろ扱帯しごきをしてた所で、足下あしもとには燃える様な赤い裏を引覆ひつくらかへした、まだ身のぬくもりのありさうな衣服きもの! そして、白い脛が! 白い脛が!
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)