沢山たくさん)” の例文
旧字:澤山
勿論学んでつくしたりとは言はず。かつ又先生に学ぶ所はまだ沢山たくさんあるやうなれば、何ごとも僕にぬすめるだけは盗み置かん心がまへなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしこれは直接音楽と関係のある筋ではなく、その位の事なら、まだ他にも沢山たくさんあるだろうと思う、例えばヴァイオリンの胴の中に
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ほとりの樹木など沢山たくさん枯死こししているのはその熱泥ねつでいを吹き上げたところである。赤い泥の沸々ふつふつと煮え立っている光景は相変らず物すごい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ネネムのすぐ前に三本の竿さおが立ってその上に細長いひものようなぼろ切れが沢山たくさん結び付けられ、風にパタパタパタパタ鳴っていました。
わづかに六畳と二畳とに過ぎない部屋は三面の鏡、二脚の椅子、芝居の衣裳、かつら、小道具、それから青れた沢山たくさん花環はなわとでうづまつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それについては私ども沢山たくさん実験がある。その実験の一つを諸君に御話しすることが必要である。多分知っている御方もあるだろう。
「でも大江山さん、沢山たくさんの貴方の部下が警戒していなさるのですものネ。私が申したんじゃお気にさわることは分っていますからネ」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
沢山たくさんえる、何処どこにもあるからということが価値の標準となるとすれば、きっぽくてあさはかなのは人間それ自身なのではあるまいか。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、頭はどこの敷石の下にうずめ、胴はどこの水門に捨て、足はどこの溝に放り込んだという様な犯罪の実例が、沢山たくさん並べてあった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もしこの春木座というものがなかったら、小遣い銭の十分でないわたしが、とてもこんなに沢山たくさんの狂言を見覚えられるはずはなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし頭髪かみたいへんに沢山たくさんで、日頃ひごろはは自慢じまんたねでございましたが、そのころはモーとこりなので、かげもなくもつれてました。
「まあ」——と山吹は感嘆の声を思わず口から洩らしたが、「そういう江戸には美しいお方が沢山たくさんおいででございましょうねえ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
し以後、庭のなかへ這入るやうな事があつたならば、遠慮はして居られないから打ちのめす、うちには外にも沢山たくさんの鶏があるのだから。
もう是処こゝ沢山たくさんだ——わざ/\是処まで来て呉れたんだから、それでもう僕には沢山だ。何卒どうか、君、生徒を是処こゝで返して呉れ給へ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それで誰でも、年の若い学生時代から何でもでも沢山たくさんに遠慮なく惜気おしげなく「問題の仕入れ」をしておく方がよくはないかという気がする。
科学に志す人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
予科では中学へ毛の生えた様なことをするので、数学なども随分沢山たくさんあり、生理学だの動物植物鉱物など皆な英語の本でやったものである。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それ大変たいへんだ、しかきみはまだ一めいがあるのが幸福しあはせだ、大原伊丹君抔おほはらいたみくんなど可愛想かあいそうにモルヒネを沢山たくさんませられたもんぢやから、到頭たうとう死んでしまつた。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼の過去にある沢山たくさんの経験を思い出しながら、一ツの労働組合の経営が一ツの争議が、どんな風に行われるかを女房に語った。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
新渡戸博士が自分の近眼ちかめと性慾の自己満足を結びつけて、深く後悔してるのはい事だが、世の中には近眼者ちかめといつても沢山たくさんる事だし
するとそら穹窿きゅうりゅうのようなものが出来あがる。一つの大きな月と、それを取り巻いている沢山たくさんの小さな星たちと。ところがこの月は成功しない。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
多分、倒れた家から出て来る時に受けたのであろう。膝頭をりむいているほかに、沢山たくさんの擦過傷が、血のあとを残していた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
して梅五郎のもとへは沢山たくさん尋ねて来る人が有たのか女「はい有ッても極極ごく/\わずかです其うちで屡々しば/\来るのが甥の藻西太郎さんで、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
巣箱を始めて見たのは、大正六年に、青島チンタオへ遊びに行った時であった。あそこの公園は東海に面して、鳥の沢山たくさん来そうな静かな小山であった。
良寛さんのやうな、名もない一僧侶いちそうりよに、大きい家を建てて、沢山たくさんの病人をあつめて、施療を行ふといふ大きな仕事を、幕府が許すであらうか。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しかし、みなさん、僕は今迄にあんまり沢山たくさん君達にお伽話をして上げたので、少なくとも二度以上しない話なんて一つもないんじゃないかしら。
「なぜもう一つ歌うんだい? 一つで沢山たくさんだよ。歌いたい時に、歌わなくちゃならない時に、歌うものなんだ。面白半分おもしろはんぶんに歌っちゃいけない。」
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「もう沢山たくさんだ。殺人鬼などに怖れていて永生きが出来るか、儂なんぞはいま此処ここへやって来たってびくともしやせんぞ」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私を神様か何ぞのように大切にかけて、生卵や果物なぞを特別に沢山たくさん下すって御機嫌を取りながら、否応なしに競技に引っぱり出されるのでした。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
麻苧あさおの糸を娘がんでいるのにむかって男がいいかける趣の歌で、「ら」は添えたものである。「ふすさに」は沢山たくさんの意。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「どうも……好い住職がないもんですから……それに、もとの住職が寺の借金を沢山たくさん残して行つたもんですから……」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
お前の母ばかりでなしに、沢山たくさんの母たちが毎日のように警察に出掛けて行ったが、母はそこでよく子供をんぶした労働者風のおかみさんと会った。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
江州——琵琶湖東びわことうの地、山美しく水清く、松茸が沢山たくさんに出て、京奈良に近い——大に心動いて、早速郷里に照会しょうかいしてもらったが、一向に返事が来ぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
客様きやくさま被在ゐらつしやるではないかね、ひとあしになんかからまつて贅沢ぜいたくぢやあないか、お前達まへだちむしつてれば沢山たくさんだよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし此の居候のお蔭で将門は段〻罪を大きくした。興世王の言を聞くと、もとより焔硝えんせう沢山たくさんこもつて居た大筒おほづゝだから、口火がついては容赦ようしやは無い。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「お前が来ると知つて居りや、湯も沢山たくさんかして置いたのに」と伯母が炉上の茶釜ちやがまをせゝるを、「なに、伯母さん、雪路だから、足も奇麗きれいですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それは、米国のユニヴァサルのフィルムで、非常に肥満した女優を、主人公ヒロインとした、追掛け沢山たくさんの、喜劇であった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼女は熱い鉄板の上に転がった蝋燭ろうそくのようにせていた。未だ年にすれば沢山たくさんあるはずの黒髪は汚物や血で固められて、捨てられた棕櫚箒しゅろぼうきのようだった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
第一考えてもわかる。上着は一といろで沢山たくさんな筈だのに、夏服に、冬服に、間服なんて馬鹿なものまで必要な国が、気候のいい訳がありよう筈がない。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
少しお頼み申したい事があるからと言って、それからその坊さんに乾桃を多分にりました。実は自分でも重くってたまらんですから沢山たくさん遣ったんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
栗園先生は頼んでも私を害する人ではないが、血気の門弟子もんていし沢山たくさん居るから、立寄ればとても助からぬとおもって、不本意ながらその門前を素通りしました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
千八百四十四年、パリの商家しょうかに生まれ、少年の頃から書物しょもつの中で育ったといわれるくらい沢山たくさんの本を読みました。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
彼は立寄つたついでに、もつとつてたいところが、まだ沢山たくさんあつた。食べに行きたいところもおほかつた。しかし今度の旅は遊びが目的ではなかつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
イイエこれで沢山たくさんです。貴君あなたのお志を戴くのですから半襟はこれで結構です。私がかけませんでも外にもちいる処が沢山あります。折角のお思召ぼしめしですからこれを
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だぼはぜ嬢は、相不変あいかわらずの心臓もので、ぼく達よりも一船前にホノルルを去った野球部のDさんやHさんに、生のパインアップルをやけに沢山たくさんことづけました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
サイゴンの街を出外れると、道は自然にキャデインの町へ這入はいつてゆく。こゝには日本の兵隊が沢山たくさんゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
氷山の上でかなしみながらえているのを月がながめた時、この世の中の、沢山たくさんかなしみに慣れてしまって、さまで感じなかった月も、心からかわいそうだと思いました。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もういいですよ、もう沢山たくさん」と、身近にずり寄って両手に接吻しながら、ヴォローヂャが言った
複雑な形の容器で、導線がそれから沢山たくさん外へ引き出されている場合なので、空気の漏洩によほど注意をしないと、とても10-6ミリなどという真空にはならなかった。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
遠慮なく沢山たくさん飲んで行きな。(他の者に)今の草双紙の読み続きを聞こうぜ。八、読んでくんな。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
もうこんなにこの村には沢山たくさんの外国人がはいり込んでいるのかなあと思いながら、私はすこし呆気あっけにとられたように、いましがた私の背後を通り過ぎて行ったばかりの
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)