ざま)” の例文
旧字:
何だあのざまは。馴染の芸者が這入つてくると、入れ代りに席をはづして、逃げるなんて、どこ迄も人を胡魔化す気だから気に食はない。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ドウしたってこの幕府と云うものはつぶさなくてはならぬ。も今の幕政のざまを見ろ。政府の御用と云えば、何品なにしなを買うにも御用だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このはずみに貝は突然、うああ、……という体躯からだの全部からしぼり出された声音こえを、続けざまに草の間にうつ伏せになって発した。
何故なぜざまろ、可気味いゝきみだ、と高笑たかわらひをして嘲弄てうろうしない。おれてたはてたが、ふね彫像てうざうげたのは、貴様きさま蹴込けこんだも同然どうぜんだい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
機関手は直に機関車をめたるに飛込み遅れたる同行の青年はくと見るや直に同校の土堤にかかざま短刀にて咽喉部を突きて打倒れたり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「これでよし。これでよし。うッはア、ざま見やがれ!」監督は、口を三角形にゆがめると、背のびでもするように哄笑こうしょうした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
(余生、おさびしくおしましょうが、世間に、肩身のお狭いようなざまはいたしませぬ。それのみを、せめてと、独りおなぐさめ下さいませ)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし元禄の頃に大野秀和しうわといふ俳人が居た。同じ俳人仲間の宝井其角きかくが、自分の事をざまに噂をしてゐるといふ事を聞いて、大層腹を立てた。
悪漢の手をぢあげてほうりだし「ざまあ見やがれ」と云ひ、懐手にてゆうゆうと上手に入るところすつきりとしてよし。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
子分のガラッ八が差出した提灯ちょうちん覚束おぼつかない明りにすかして見ると、若い芸妓げいしゃが一人、銀簪ぎんかんざしを深々と右の眼に突っ立てられて、ざまに死んでいたのです。
「あっ」というざま、政江は身震いを始めた。彼女の様子は正視するに忍びないものがあった。大袈裟にいうと、ウェーヴした髪の毛が更に大きく波打った。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
何というざまだろう! 私はとうとう彼の惑わしの糸に搦められてしまったのだ。もうどうにも出来ないんだ。
蠱惑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さいぜんも見ていれば、富樫にとがめられて、金剛杖で主人義経を打ち据える時の、あの打据えざまはどうだ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と云いながら、親分の顔にプッとつばを吐きかけた。親分は「おのれ」と云いざま、小僧の胸を目がけて庖丁をグサと突き立てた。けれどもその胸は板のように固かった。
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作萠円山人(著)
余の考の中に入るべき歌にて、人を感動せしめたる例を尋ぬるも、ちよつと思ひあたらざりける故、例少しと言ひ放したる者にて、余り粗漏そろうなる書きざまにぞありし。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ピンと来ないよ。矢っ張り『ガラマサどんの死』の方が宜い。我輩は未だ死なゝいんだから、必ずしも死んだように書く必要はない。何んなざまをするか、想像を
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ワッと泣き声揚げて此方こちらは逃出す、其後姿を勘ちゃんは白眼しろめで見送って、「ざまア見やがれ!」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「冥途の旅の用心に、矢一筋残したり、思いのこすこと今はなし、日本一の剛の者の、死にざまよくご覧じて、やがて貴所方の運命となる日の、お手本なりとなしたまえや!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けだものめ、口先ばかり達者で、腕力ちからも無けりゃ智慧もねエ、ざまア見やがれ、オイ、閻魔ッ、今頬桁ほおげた叩きやがった餓鬼共ア、グズグズ言わさず——見せしめの為だ——早速片付ちまいねエ」
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
わっちも此のだいの野郎が両手を突いてんなざまアしてお頼み申すのだから能々よく/\の事、いかね、それにたった一分じゃア法が付かねえ、私の様な大きな野郎が手を突いてのお頼みだね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「餓鬼に訊いてみるがええでねえか。木偶でくの坊奴! よくもあつかましく訊けたもんだね!」と、云いざま、発作を起して子供の足を捉えて吊り下げると、無慙むざんにも背中を打ち叩いた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
不人情者、恩知らず——父に対する哀惜の情や、跡方もなく消えた一家の犇々ひしひしと身に迫る切なさから、皆は口を極めてこれらの人達をざまに罵り、僅かに鬱憤を洩らすのであつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
因って迎え申したから時至れば一矢射たまえと乞う、うべないて楼に上って待つと敵の大蛇あまたの眷属けんぞくを率いて出で来るを向うざま鏑矢かぶらやにて口中に射入れ舌根を射切って喉下に射出す
と云いざま、その頭に一撃を喰わすと、代議士は悲鳴を挙げて気絶してしまった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
素人のあっしなんか、どうにも勘考かんがえのつけようのねえ不思議な死にざまだあね。
始終うちを外の放蕩三昧ほうとうざんまい、あわれなかないを一人残して家事の事などはさら頓着とんじゃくしない、たまに帰宅すれば、言語もののいいざま箸のろしさてはしゃくの仕方がるいとか、琴を弾くのが気にくわぬとか
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そしてまた、小さい時分、父が刺し殺した犬の哀れなざまを。
「無礼なっ、百城。何事じゃっ、何事じゃっ、そのざまは」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「見ろ、あのざまを、もう、すぐ演戯しばいが始まるぞ」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
六杯、続けざまに、のんだ。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
のけざまに帽かづきつつ。
パステルの竜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何だあのざまは。馴染の芸者がはいってくると、入れ代りに席をはずして、逃げるなんて、どこまでも人を胡魔化ごまかす気だから気に食わない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仁右衛門ぶるぶるとなり、据眼すえまなこじっと見た、白い咽喉のんどをのけざまに、苦痛に反らして、黒髪を乱したが、唇をる歯の白さ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おい其角、お前は何ださうだね。近頃方々で乃公おれの事をざまに言ひ触らして歩くさうだが、それは真実ほんとだらうね。」
だが、見ろ、こんなざまをオメ/\と一体誰に報告が出来るものか。職工の一人も問題にしないばかりか、巡査上りの守衛から、工場長さえ取り合いもしない。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そうして棒のように強直ごうちょくした全身に、生汗をビッショリと流したまま仰向あおむざまにスト——ンと、倒れそうになったので、吾知らず観念の眼を閉じた……と思ったが……又
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一刀を引き抜きざま、サッと横に払うと、武士はヒラリと庭に飛び降りて
あなた方武士たちは、斬って出て、ざまもお心のまま選ぶことができましょうが、傷者、病人、また三千余の領民を共に餓死うえじにさせるは、無情の至りです。私義しぎにこだわって大義なきものです。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ざま如何どうだい。着物ばかり奇麗で何をして居るんだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
六杯、続けざまに、のんだ。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また出てしょうと思いやあがって、へん、そう旨くはゆかないてや、ちっとのの辛抱だ。後刻のちに来て一所に寝てやる。ふむ、痛いかざまを見ろ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「朝ならば夜の前に死ぬと思え。夜ならば翌日あすありと頼むな。覚悟をこそとうとべ。見苦しき死にざまぞ恥の極みなる……」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「え、浸礼バプチスト派になつたつて。」と隅つこで居睡りをしてゐた美以美メソヂスト派の田舎政治家が、眼を覚ましざま怒鳴つた。「嘘いふない、そんな筈があつて溜るもんかい。」
大きな男の喧嘩大将も一生懸命我慢していましたが、とうとう我慢し切れなくなって、百も二百も続けざまにクシャミをしているうちに地びたの上にヘタバッてしまいました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
続けざまに二つ三つやったところへ
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ざまア見ろッ!
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
小獅子はみちへ橋にった、のけざまあぎとふっくりと、ふたかわこうちょうして、口許くちもと可愛かわいらしい、色の白いであった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
マクベス夫婦が共謀して主君のダンカンを寝室の中で殺す。殺してしまうやいなや門の戸を続けざまたたくものがある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かうして高浜氏はつゞざまに五六枚ばかしやけに引裂いた。
類は友だっていいますがね、此奴こいつの方が華表とりいかずが多いだけに、火の玉の奴ア脊負しょいなげを食って、消壺へジュウー……へへへ、いいざまじゃありませんか、お互です。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)