枕辺まくらべ)” の例文
旧字:枕邊
枕辺まくらべ近く取り乱しあるは国々の詩集なり。その一つ開きしままに置かれ、西詩せいし「わが心高原こうげんにあり」ちょう詩のところでてその中の
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
右、はるれやと申し候は、切支丹宗門の念仏にて、宗門仏に讃頌さんしようを捧ぐる儀に御座候由、篠、其節枕辺まくらべにて、泣く泣く申し聞かし候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「——では、私の方から、鷹之尾に行って、父に代って、兵を指揮し、父を半兵衛様のお枕辺まくらべへ呼びもどしてはいけないでしょうか」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見世は大戸おおどが下ろされて薄暗うすぐらく、通された離れの座敷には、お由利の床がまだそのままに、枕辺まくらべに一本線香と、水が供えてあるばかり。
忍びて様子をうかがいたまわば、すッと障子をあくると共に、銀杏返いちょうがえし背向うしろむきに、あとあし下りにり来りて、諸君の枕辺まくらべに近づくべし。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
納棺の時にはごく新しい晴れを著せ、ふだん好きなおもちゃを添え——泥人形一つ、小さな木碗二つ、ガラス瓶二本——枕辺まくらべに置いた。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
またそのほか提灯ちょうちんなどもわが枕辺まくらべに照されていて、ねむりに就いた時とおおいに異なっていたのが寝惚眼ねぼけまなこに映ったからの感じであった事が解った。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余が修善寺しゅぜんじで生死の間に迷うほどの心細い病み方をしていた時、池辺君はいつもの通りの長大な躯幹からだを東京から運んで来て、余の枕辺まくらべすわった。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死者の枕辺まくらべ足辺あとべを這いもとおって慟哭どうこくすべきほどに、またその慟哭の声が天上にまでも響き行くべきほどに、悲しいものであった。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
夜が明けそうと気づいて、驚いてまた枕辺まくらべにかえった。妻もうとうとしてるようであった。ほかの七、八人ひとりも起きてるものは無かった。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
眠りは私の枕辺まくらべにもやって来なかった、——そして時は刻々に過ぎてゆく。私は全身を支配している神経過敏を理性で払いのけようと努めた。
例えば年若き婦人が出産のとき、其枕辺まくらべの万事を差図し周旋し看護するに、実の母と姑といずれが産婦の為めに安心なるや。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いよいよわたくし病勢びょうせいおもって、もうとてもむずかしいとおもわれましたときに、わたくし枕辺まくらべすわってられるははかってたのみました。
津軽家ではこの年十月十四日に、信順のぶゆきが浜町中屋敷において、六十三歳で卒した。保さんの成善しげよし枕辺まくらべに侍していた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……かくのごとき男の死の枕辺まくらべは、司教たる者の行くべき場所であったろうか。信仰にはいることなどをそこに待ち望むことは明らかにできなかったのである。
夫の寛治氏も瀕死ひんしの彼女の枕辺まくらべにあって、不面目と心のいたみに落涙をかくし得ず、わずかに訪問の客に
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その翌日病み疲れた枕辺まくらべに立って——地団太を踏んでみたけれど、彼はどうしてもその人を憎む気になれなかった——沈勇にして大人たいじんの風あるムク犬は今も無事で
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その枕辺まくらべですぐにその相談をはじめると、相当の値段ならば引き取ってもいいと四郎兵衛は云った。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
われわれの愛する人々の枕辺まくらべでわれわれとともに夜を明かし、われわれの苦痛を分かちにない、われわれの希望を力づけ……われわれの家庭の人となったということを
阿爺おとっさんは、亡児なきこ枕辺まくらべすわって、次郎さんのおさだちの事から臨終前後の事何くれとこまかに物語った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
心のうちわたくしは一生懸命に観音を信心致しました、どうも昨夜ゆうべ貴方少しうと/\致しまして夢を見て、観音様が私の枕辺まくらべに立って、助けて遣るぞ助けて遣るぞと仰しゃいました
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
腸窒扶斯ちょうチフスかかりたるとき、先生、とくまげられ、枕辺まくらべにて厚く家人に看護かんご心得こころえさとされ、その上、予がみずからきたる精米せいまいあり、これは極古米ごくこまいにして味軽く滋養じようも多ければ
24 花嫁の枕辺まくらべで絶望している青年。青年自身も堪え難い寒気に襲われた。
氷れる花嫁 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
病める枕辺まくらべに巻紙状袋じょうぶくろなど入れたる箱あり、その上に寒暖計を置けり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かつ思えらく古昔いにしえの英雄或は勇み或は感謝しつつ世を去れり、余も何ぞひとしく為しあたわざらんやと、ことに宗教のたすけあり、復活ののぞみあり、もし余の愛するものの死する時には余はその枕辺まくらべに立ち
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
殿の枕辺まくらべを騒がせし、無礼の罪は許したまへ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
枕辺まくらべ障子しやうじあけさせて
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
別館からけて来た東洋城とうようじょう枕辺まくらべに立って、今日東京から医者と社員が来るはずになったと知らしてくれた時は全く救われたような気がした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明日あすえん、ここに来たれ、物語して聞かすべし」しいてうちえみ、紀州を枕辺まくらべに坐らせて、といきつくづくいろいろの物語して聞かしぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして不図ふとがついてると、らぬ一人ひとり老人ろうじん枕辺まくらべって、凝乎じっわたくしかおつめてるのでございます。
かねて煙草はたしまぬから、これは母親の枕辺まくらべにあったのだろう、お夏はこの得物を取りに駆込んだのであった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人はいつでも病人やまたは臨終の人の枕辺まくらべにミリエル氏を呼び迎えることができた。彼はそこに自分の最も大なる務めと仕事とがあることを知らなくはなかった。
江戸のくぼから柳生までの間の長い旅路に——また、祖父の石舟斎が臨終いまわのきわまで枕辺まくらべについて世話してくれた間にも——兵庫はお通の性質を見とどけていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の頃新五郎は年は十九歳でございますが、よく母の枕辺まくらべに附添って親切に看病を致しますなれども、小児こどもはあり手が足りません。殿様はやっぱり相変らず寝酒を飲んで、奥方がうなると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし濡れた女はその後もお道の枕辺まくらべを去らなかった。お道がなんと云っても、夫は受け付けてくれなかった。しまいには「武士の妻にもあるまじき」というような意味で、機嫌を悪くした。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜の二時頃、枕辺まくらべ近くどすと云った物音ものおとに、余は岸破がばね起きた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かへりおそきわれを待ちかねいねし子の枕辺まくらべにおく小さき包
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ひる寝せし児の枕辺まくらべ
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのとき不意ふいわたくし枕辺まくらべちかくお姿すがたあらわして、いろいろと難有ありがたなぐさめのお言葉ことばをかけ、またなにくれとくわしい説明せつめいをしてくだされたのは、れいわたくし指導役しどうやく神様かみさまでした。
へやを包む影法師がとこを離れて遠退とおのくに従って、余はまた常のごとく枕辺まくらべに寄る人々の顔を見る事ができた。その顔は常の顔であった。そうして余の心もまた常の心であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夕に床にかんとする時、三人の天使わが床にやすみいたり。一人はすそに二人は枕辺まくらべにありて、中央に聖母マリアありぬ。マリアわれにのたまいけるは、ねよ、ためろうなかれと。
夜もようよう更け沈み、酒席の物も勝手に下げて、あしたのかしぎを指図したり、酔いしれて眠った客の縁者たちの枕辺まくらべをも細かに気配りして、ほっと、たすきをはずしてわが身にかえると
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病人の枕辺まくらべ存外ぞんがい静かであった。頼りなさそうに疲れた顔をしてそこに坐っている母を手招てまねぎして、「どうですか様子は」と聞いた。母は「今少し持ち合ってるようだよ」と答えた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしその剣を死せる父の枕辺まくらべから手に取って、街路におけるフランス人同志の夜戦のために、あえて持ち出していたならば、確かにそれは自分の手を焼きつくし、天使の剣のごとく
枕辺まくらべすわって彼女の顔を見詰めている健三の眼には何時でも不安がひらめいた。時としては不憫ふびんの念がすべてに打ち勝った。彼はく気の毒な細君の乱れかかった髪にくしを入れてった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうち朝餉あさげも済んで、出勤の時刻がようやく近づいた。けれども御米は眠りからめる気色けしきもなかった。宗助は枕辺まくらべこごんで、深い寝息を聞きながら、役所へ行こうか休もうかと考えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
程経ほどへさい心覚こころおぼえにつけた日記を読んで見て、その中に、ノウヒンケツ(狼狽ろうばいした妻は脳貧血をかくのごとく書いている)を起し人事不省におちいるとあるのに気がついた時、余は妻は枕辺まくらべに呼んで
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枕辺まくらべを取り巻いている人は無言のまましばらく病人の様子を見詰めていた。やがてそのうちの一人が立って次のへ出た。するとまた一人立った。私も三人目にとうとう席をはずして、自分のへやへ来た。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やむを得ず元のごとく枕辺まくらべにじっと坐っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枕辺まくらべにわれあらば」と少女おとめは思う。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)