晩餐ばんさん)” の例文
晩餐ばんさんが出てもあまり食べずに早く寝てしまったふうは見せながらも、どうかして恋人に逢おうと思うことで夢中になっていた若君は
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかしもう彼女は、ランジェー家の一週一回の晩餐ばんさんにも来なくなった。ジャックリーヌは腹をたてて、苦々にがにがしく小言を言いに行った。
二人の青年をも加えて、ビールをぬき晩餐ばんさんの食卓についたのは、もう夜で、食事がすんでから間もなく隆たちは東京へ立っていった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
牧場、牧舎の見廻りが一通り済んで、小舎こやへ帰って、二人水入らずの晩餐ばんさんの後、番兵さんは一個の曲物まげものを、茂太郎の前に出して言う
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「最後の晩餐ばんさん」の研究なのだが、晩餐の十三人が、それぞれ食卓のどの位置についていたか、図解して、とても明瞭めいりょうに教えてくれた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
無理にアイ子さんを誘い出しました私は、一緒に西洋亭へ上りまして、二人で思い切り御馳走をあつらえて、お別れの晩餐ばんさんを取りました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
楼上には我を待つ畸人あり、楼下には晩餐ばんさんの用意にいそがしき老母あり、弦月は我幻境を照らして朦朧もうろうたる好風景、も言はれず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
昨日きのう、伯爵邸に数人の来客があって、西洋館三階の大広間で晩餐ばんさんが供せられた。それが終って客の帰ったのが丁度九時頃であった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「よくご存じですね。ついでにあそこへ行って、晩餐ばんさんをご一緒にいただきましょうか。別にお宅でご心配になることはないでしょう。」
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むかし来た時とはまるで見当が違う。晩餐ばんさんを済まして、湯にって、へやへ帰って茶を飲んでいると、小女こおんなが来てとこべよかとう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかにも下町の中流の商人たちが団体で演芸の後援見物に来て、いま、その途中に晩餐ばんさんの会合をするところと直ぐ受取られました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
英国のことであるから、先祖代々伝わったオークの立派な食卓で、毎晩家族一同が、きちんと着物を着かえて、晩餐ばんさんの卓につく。
サラダの謎 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
四畳の座敷に六人がいる格で一ぜんのお膳に七つ八つの椀茶碗わんぢゃわんが混雑をきわめてえられた。他目よそめとは雲泥うんでいの差ある愉快なる晩餐ばんさんが始まる。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
細君の心を尽した晩餐ばんさんぜんには、まぐろの新鮮な刺身に、青紫蘇あおじその薬味を添えた冷豆腐ひややっこ、それを味う余裕もないが、一盃いっぱいは一盃とさかずきを重ねた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
東洋の血のまじったオランダの貴婦人という放送。晩餐ばんさん。シャンペン。ダンス。シックで高価な服装。例の傾国傾城けいこくけいせいの「うら悲しい微笑」。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「さ、諸君、洋杯さかずきを挙げたまえ! 基督キリスト最後の晩餐ばんさんということはあるが、これが伯爵ステーンセン追放のお別れだハハハハハハ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この大いなる責任をになえる身の、あたかも晩餐ばんさんむしろに望みたるごとく、平然としてひややかなること、おそらく渠のごときはまれなるべし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐ばんさん後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とかくのうち晩餐ばんさんの時刻となりて中川家独得の長食卓ながてーぶるは客の前に持出もちいだされぬ。ナイフもフークもスプーンも例の杉箸すぎばしも法の如く並べられたり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
晩餐ばんさんをはると踊子をどりこさそ太鼓たいこおとやうやしづけた夜氣やきさわがしてきこはじめた。のきつた蚊柱かばしらくづれてやが座敷ざしきおそうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
都合のいゝことには、客間へは、皆が晩餐ばんさんの席に着いてゐる客間を通らなくても、他に入口があつた。部屋は空虚からであつた。
言葉どおり、実際もうどうにもならぬのだ、今夜は雛祭りの宵節句で、少しばかりの馳走を調えたが、それは兄妹の最期の晩餐ばんさんのつもりである。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
門燈には明りがき、すべて晩方になつた。例のやうに仕度がひとしきりあつた後、三人が電燈の下で晩餐ばんさんを取り囲んだ。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
家族たちも、ちょっと困った顔はしたものの、ほかならぬ主人の親友なので、晩餐ばんさんの支度にまぎれたまま打捨てておいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
モコウが、晩餐ばんさんのあとのコーヒーをくばってまわった。かおり高いコーヒーをうまそうにすすりながら、一同は昼の競技の話でむちゅうだった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
晩餐ばんさんの折り、伯爵はくしゃくは幸い不在だった。照正様てるまささま照常様てるつねさまはそれをいいことにして、フォークの上げ下ろしに正三君を笑った。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ましてナイフを落した時には途方とほうに暮れるよりほかはなかった。けれども晩餐ばんさんは幸いにもおもむろに最後に近づいて行った。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お互いが白っちゃけた眼で観察しだす一時的倦怠けんたいの時代に、夫が妻の丹精になる晩餐ばんさんの席で、デザアトのプディングをまずそうに口へ運びながら
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
晩餐ばんさんの食堂で、久しぶりににぎやかな食事が始まつた。アペリチーフに、富岡がサイゴンから手に入れた、白葡萄酒しろぶだうしゆを抜いた。ゆき子にもさされた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ト口に言って、「お勢の帰って来ない内に」ト内心で言足しをして、憤々ぷんぷんしながら晩餐ばんさんを喫して宿所を立出たちいで、疾足あしばや番町ばんちょうへ参って知己を尋ねた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その翌日また別の席でこれらの人たちと晩餐ばんさんを共にしてシュミット、ウィーゼ両氏の簡単な講演を聞く機会を得た。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
巴里における日本美術愛好家の一団は Sociétéソシエテ、 duデュ、 Jinglarジャングラル の会名のもと毎月まいげつ一回郊外のセエヴルに晩餐ばんさんの集会をなすに至りぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これで過越の晩餐ばんさんは終わる。イエスの当時における過越の食事の作法は、大体右のごとくであったということです。
食卓テーブル對端むかふには、武村兵曹たけむらへいそうほか三名さんめい水兵すいへい行儀ぎようぎよくならび、此方こなたには、日出雄少年ひでをせうねんなかはさんで、大佐たいさわたくしとがみぎひだりかたならべて、やが晩餐ばんさんはじまつた。
夜、この村で操人形あやつりにんぎょうがあると言うので、二人で見に行くことにした。晩餐ばんさんがすむと、S君の襟巻を借りて、それで頭からスッポリと包んで目ばかり出した。
土淵村にての日記 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
やがて晩餐ばんさんを知らせるシロホンが、ボンボンボンとなりだした。六等船客たちはその楽器の音を聞いただけで、口の中につばがわいてきてしかたがなかった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山木剛造は今しも晩餐ばんさんを終りしならん、大きなる熊の毛皮にドツかと胡座あぐらかきて、仰げる広き額には微醺びくんの色を帯びて、カンカンと輝ける洋燈ランプの光に照れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
わたしの父親がこの話をしているあいだに、かれらは晩餐ばんさん食卓しょくたくをこしらえた。にくの大きな一節ひとふしにばれいしょをそえたものが、食卓のまん中にかれた。
金をとらかす日影椎の梢に残り、芝生はすでに蔭に入り、ひぐらしの声何処からともなく流れて来ると、成人おとなも子供も嬉々ききとして青芝の上の晩餐ばんさんの席に就くのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
晩餐ばんさんが自分を待ちうけているのと同様たしかなことだとなれば、だれしもそんな足どりで旅をするものだ。
競馬季節シーズンになった紐育ニューヨーク社交界では、晩餐ばんさんの集まりでも、劇場ででも、持馬をもったものはいうに及ばず、およそ話題は、その日の勝馬のことで持ちきっていた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ジュピターは耳もとまで口をあけてにたにた笑いながら、晩餐ばんさんに水鶏を料理しようと忙しく立ち働いた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
で、文人画をいくつも見せてもらっているうちに日が暮れ、晩餐ばんさんを御馳走になって帰って来たのである。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
何処かの料理屋へ席を移して晩餐ばんさんを取ることになる筈であるが、何処にするかはまだ極まっていない、見合いと云っても形式張らない小人数の会合のことだから
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私たちにいろんななぞみたいなことをなさらず、普通のとおりにしていらっして、私どもといっしょに晩餐ばんさんもなされば、私どもといっしょに昼御飯もお食べになり
決心動かしがたしと見えたれば妾もいなみ兼ねてついに同氏の手荷物となし、それより港にあがりて、消毒の間ある料理店に登り、三人それぞれに晩餐ばんさんを命じけれども
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
旗艦松島の士官次室ガンルームにては、晩餐ばんさんとく済みて、副直その他要務を帯びたるは久しき前にで去りたれど、なお五六人の残れるありて、談まさに興に入れるなるべし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
もっとも乾うどんのうでたのだ。一体にこの辺ではめん類を賞美する。私はある農家で一週に一度ずつ上等の晩餐ばんさんに麺類を用うるという家を知っている。蕎麦そばはもとより名物だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
極堂君は晩餐ばんさんをすましてから昼間の尽きなかった興をたどりつつ、また居士の寓居に出掛けて行ったところが、居士は病床に寝たままで枕元の痰吐きに沢山咯血をしていた。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
もう夕暮だつたが有名な食堂の壁画を観ることを許された。僕のこの地へとゞまつたのは実はロンバルド派の第一にんたるレオナルド・ダ・※ンチのこの「最後の晩餐ばんさん」の為であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)