怜悧りこう)” の例文
怜悧りこうな小犬は二人の出て行く物音に樣子をさとつて、逐ひ籠められないうちに自分から椽の下にもぐり込まふとしてゐるのであつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
茂「お前は俄かに怜悧りこうに成ったの、年がかなくって頑是がんぜが無くっても、己が馬鹿気て見えるよ、ハアー衆人みんなに笑われるも無理は無い」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
随分怜悧りこう芸妓げいしゃでも、い加減に年を取った髯面ひげづら野郎でも、相手にせずに其処へ坐らせて置いて少し上品な談話でも仕て居ると
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
怜悧りこうだな。何、天晴あっぱれ御会釈。いかさま、御姓名を承りますに、こなたから先へ氏素姓を申上げぬという作法はありませなんだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「入りぬるいその草なれや」(みらく少なく恋ふらくの多き)と口ずさんで、そでを口もとにあてている様子にかわいい怜悧りこうさが見えるのである。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
怜悧りこうなお延は弱らせられた。会話がなめらかにすべって行けば行くほど、一種の物足りなさが彼女の胸の中に頭をもたげて来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又かういふ親子ばかりだと、世の中は平和に面白く行くわけなんだが、事実かゝる怜悧りこうな親達も子供達も少いものである。
「いいともんでも構わない、神様のお授けなさった子供だから大事にして育てよう。きっと大きくなったら、怜悧りこうないい子になるにちがいない」
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ねえ、随分怜悧りこうでしょ。これ唖川小伯爵から頂いたのですよ。ねえねえウーちゃん。アラアラ眼脂めやにが出ているわよ」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怜悧りこうそうな少年のひとみに見入りながら岸本がそう答えると、少年はまだ見たことのない東洋の果を想像するかのように
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あたかも私の友人の家で純粋セッター種のが生れたので、或る時セッター種の深い長い艶々つやつやした天鵞絨ビロードよりも美くしい毛並けなみと、性質が怜悧りこう敏捷すばしこく
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
貴女は続けてときどき花の香をかぎかぎ、ファニーを相手に、怜悧りこうらしくちょいちょい一座を見渡しながら
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
支那西域の庫魯克格クルツクタツクの淡水湖に限って住んでいる、丰々ぼうぼうという毒ある魚の小骨の粉末こなを香に焚いてそれで人間を麻痺させるなんて実際あなたはお怜悧りこうでした。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれどもまた、怜悧りこうな人は折助をうまく利用して、評判を立てさせたり隙見すきみをさせたりするのでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜の更けぬちっとも早く帰った方が怜悧りこうだと、お葉はびんの雪を払いつつ、ゆるんだ帯を締直しめなおしてった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
肥った、唇のつき出たその子は、あまり怜悧りこうそうではありませんでしたが、気質きだては大変よさそうに見えました。亜麻色の髪をかたく結び、リボンをつけていました。
「とにかく、この少年を、わしの研究室で使うことを許してもらおう。なかなか怜悧りこうそうな少年だ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
それにも拘らず怜悧りこうなるヒルミ夫人は、夫万吉郎を傍に迎えるというときは、まるで別人のようにキチンと身づくろいをし、玉のような温顔をもって迎えるのであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
案外怜悧りこうなやり方で、人生に対する態度の雛型を一室の中で師匠と弟子とが実地のつもりで研究するのでありまして、いわば礼儀作法の稽古を小笠原流の先生と生徒とが
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さもなければ怜悧りこうさけよどみにかくれてうごかぬ白晝ひるあひだのみぐつたりとつかれた身體からだわづかに一すいぬすむにぎないので、あさあかるくしろみづにさへ凝然ぢつはなたないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かういふ関係の正体を、和作自身よりも簡単明瞭めいれうに察したのは、怜悧りこうな若夫人の常子だつた。突然鶴子は二階に登つて来ないやうになつた。その代りに青桐は意味ありげに繁茂した。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
玄竹げんちく今夜こんやつて其方そち相談さうだんしたいことがある。怜悧りこう其方そち智慧ちゑりたいのぢや。…まあ一さんかたむけよ。さかづきらせよう。』とつて、但馬守たじまのかみつてゐたさかづきした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お母様にもこの娘の怜悧りこうなのが気に入る。そこで身元などを問い合わせて見られる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いいえ」御方は姿の美しさと、怜悧りこうな眼ざしに彼のうろたえざまを畳みかけて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつくしいまなじり良人をつとはらをもやはらげれば、可愛かあいらしい口元くちもとからお客樣きやくさまへの世辭せじる、としもねつからきなさらぬにお怜悧りこうなお内儀かみさまとるほどのひとものの、此人このひと此身このみ裏道うらみちはたら
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おとよさんが隣に嫁入ったについては例の媒妁なこうどの虚偽に誤られた。おとよさんの里は中農以上の家であるに隣はほとんど小作人同様である。それに清六があまり怜悧りこうでなく丹精でもない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
可愛い、剽軽ひょうきんな、怜悧りこうな小猫だったに、行方不明とは残念な事をして了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
浪子は幼きよりいたって人なつこく、しかも怜悧りこうに、香炉峰こうろほうの雪にすだれを巻くほどならずとも、三つのころよりうばに抱かれて見送る玄関にわれから帽をとって阿爺ちちかしらに載すほどの気はききたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
大尉め、どこか近くの停留場に下りるんで、婦人をんな乗客のりてもあるのに態々わざ/\画家ゑかきの俺を見立てて譲つて呉れたんだな。若いのに似合にあは怜悧りこうな軍人だ、さういへばどこか見所がありさうな顔をしてるて。
「お前さん大変怜悧りこうだってね。」と彼女は庄吉の方を向いて云った。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
自分は嫁に遣らるるためにおつくりさせられるとは知らずにおつくりする者もありますが、どうかすると怜悧りこうな娘は悟って、今まで機嫌の好かった娘はそれと悟って悲しそうに泣き立てる者もあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
怜悧りこうな坊さんは最初からそれをのぞんでゐたのだ。
怜悧りこうで健康で力あふるる人よ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
十兵衞がのつそりで浮世の怜悧りこうな人たちの物笑ひになつて仕舞へばそれで済むのぢや、連添ふ女房にまでも内〻活用はたらきの利かぬ夫ぢやとかこたれながら
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何も言わずに、心に怨んで、薄情ものに見せしめに、命の咒詛のろいを、貴女あなた様へ願掛がんがけさしゃった、あねさんは、おお、お怜悧りこうだの。いいおだ。いいおだ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むしろ怜悧りこう過ぎた。健三にもその点はよく解っていた。彼が自分と細君の未来のために、彼女の弟を教育しようとしたのは、全く見当の違った方面にあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれが考えじゃア関取は怜悧りこうだから、対手あいて剣術者遣けんじゅつつかいで危ねえから怪我アしても詰らねえ、関取が手間取っているうち、法恩寺村場所へ人を遣ったろうと思う
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口を明いて獅子を見ているような奴は、いちがいに馬鹿だとののしられる世の中となった。眉がけわしく、眼が鋭い今の元園町人は、獅子舞を見るべく余りに怜悧りこうになった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「先生には娘さんがたった一人ひとりある。この人がまた怜悧りこうな人で、中津川でも才女と言われた評判な娘さんさ。そこへ養子に来たのが、今医者をしている宮川さんだ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほんとにそうなのかしら? ——もしそうだとしたら、全体どういう訳でお怜悧りこうなのだろう。——
なに、う知つてゐる? 中々油断のならない狼連だ。旦那や夫人おくさまが御心配なさるのも無理は無い。併し嬢様は滅法お怜悧りこうだから子、君達のやうな間抜に喰はれる筈はないワ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ほんとによい犬でございます、見たところはずいぶん強そうでございますが、温和おとなしい犬で、それで怜悧りこうなこと、一度しかられたことは決して二度とは致しません、まるで人間の言葉を
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それとも源次がみんなの思っているよりもズット怜悧りこうな人間であったせいであろうか。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「わしの一番恐れるのは、彼奴らが怜悧りこうになることじゃ。各自おのおの意見をいい出すことじゃ。……そうなってはたまらない。……で、彼奴らはいついつまでも、魯鈍でおって貰わねばならぬ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第二に怜悧りこうになれることです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
十兵衛がのっそりで浮世の怜悧りこうな人たちの物笑いになってしまえばそれで済むのじゃ、連れ添う女房かかにまでも内々活用はたらきの利かぬ夫じゃとかこたれながら
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの男も……惣吉様ちっせえだけんども怜悧りこうだから矢張やっぱり名残い惜がって、昨宵ゆうべおいらは行くのはいやだけんども母様かゝさまが行くから仕方がねえ行くだって得心したが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ老成ろうせいよ。本当に怜悧りこうかたね、あんな怜悧な方は滅多めったに見た事がない。大事にして御上げなさいよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はあの長い房々とした毛のかげにある怜悧りこうさうな眼からよく涙の流れたことを覚えて居る。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「お信というのはどんな女だ、容貌きりょうはいいのか。馬鹿か、怜悧りこうか」と、半七はいた。