座布団ざぶとん)” の例文
旧字:座布團
無事是貴人ぶじこれきにんとかとなえて、懐手ふところでをして座布団ざぶとんから腐れかかった尻を離さざるをもって旦那の名誉と脂下やにさがって暮したのは覚えているはずだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は一とこと一と言に頬ずりをしてから、ようようリリーを下に置いて、忘れていた窓の戸締まりをし、座布団ざぶとんで寝床をこしらえてやり
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
磯崎いそざき神社前の海辺うみべに組立てられた高さ五十尺のやぐらの上には、薄汚れた一枚の座布団ざぶとんを敷いて、祖父そふと孫とが、抱き合っていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
只今女たちをご挨拶あいさつうかがわせますから。さあどうぞ!——もし、お雪さん! お座布団ざぶとんだよ! 上等のお座布団はどこだえ!
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
私は二階に上がって、隅の方にあった、主のない座布団ざぶとんを占領した。戸はことごとく明け放ってある。国技館の電燈がまばゆいように半空なかぞらかがやいている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのすすけた天照大神あまてらすおおみかみと書いた掛物かけものとこの前には小さなランプがついて二まい木綿もめん座布団ざぶとんがさびしくいてあった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女中が座布団ざぶとんを床の間の方におき、あらためて挨拶あいさつしてから部屋を出て行ったが、入れ替わりに加世子が入って来て、これもあらためて挨拶をした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女中は片隅に積み載せた座布団ざぶとんを出し、「ただいま綺麗きれいにいたします。やっと今方片づいた処なんで御在ございますよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある日空巣あきすねらいがはいった。おばあさんはキョトンとした眼で見ていたが、立っていって座布団ざぶとんを出した。
彼女は座布団ざぶとんを置き、傍にビールびんを置くと次の茶の間に引下りそこで中断された母子の夕飯を食べ続けた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
座布団ざぶとんを三枚重ねて座ったお竹は、お杉の遺した白無垢に輪袈裟を掛け、解き下げた髪、水晶の念珠を掛けて、両手を高々と合わせた姿は、全く生身の大日如来とも
「お坐りなさい。あぐら、あぐら。」と一ばんの年長者らしい人が僕に座布団ざぶとんをすすめる。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたくしはこのときほどびっくりしたことはめったにございませぬ。わたくしいそいで座布団ざぶとんはずして、両手りょうてをついて叩頭おじぎをしたまま、しばらくはなん御挨拶ごあいさつ言葉ことばくちからないのでした。
いつものように、藪原長者は、その夜も縁先へ座布団ざぶとんを敷かせ、むんずとその上に胡坐あぐらを組み、弓の折れのむちを握りながら、れた鐘のような声をあげて、家内の使童こものを呼ばわった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天一坊が坐りかけて、何かいおうとするのを眼で制していると、二人の女中がり足に入ってきて、眼も上げずに、越前守の坐っていた座布団ざぶとんをもって行った。天一坊の背後うしろにいた常楽院じょうらくいん
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ときどき膝をくずしたり胡坐あぐらいたりしながらも、大人しく座布団ざぶとんの上にすわって、一番最初の悦子の舞から見物していた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
主人は座布団ざぶとんを押しやりながら、「さあお敷き」と云ったが毬栗先生はかたくなったまま「へえ」と云って動かない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前以て電話が掛けてあったものと見えて、煙草盆たばこぼん座布団ざぶとんも人の数だけ敷いてあって、煉香ねりこうにおいがしている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがてお鯉も、自分と同じ運命になるだろうと思ったと言ったというが、お鯉もまた二、三年すると、そこの、長火鉢の前の座布団ざぶとんぬしとして辛抱することが出来なかった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
先刻さっき申上もうしあげたとおり、わたくし小娘こむすめみちびかれて、あの華麗きれい日本間にほんまとおされ、そして薄絹製うすぎぬせいしろ座布団ざぶとんあたえられて、それへすわったのでございますが、不図ふと自分じぶん前面まえのところをると
私達の部屋より表門に近い氏の部屋へ氏は主人をまず招じて座布団ざぶとんをすすめ、洗面器へ冷水を汲み、新らしいタオルを添えるなど、この気の利かない私よりもずっと行き届いた款待振かんたいぶりである。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
唯一つ、背の低い私にはちょっと手の届きかねる高い棚の上に、直径が七八センチもあろうと思われる大きい銀玉ぎんだまが載っていた、その銀玉は、黒縮緬くろちりめんらしい厚い座布団ざぶとんを敷いてにぶい光を放っていた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
沓脱石くつぬぎいしの上に立ってモジモジしているのを、座敷へ上らせないように、急いで座布団ざぶとんを持って来てそこの縁端えんはなに席を設けた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「今日はね。座布団ざぶとんを買おうと思って、電車へ乗ったところが、つい乗り替を忘れて、ひどい目にった」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座布団ざぶとんも色のさめたメリンスの汚点しみだらけになったのが一枚、鏡台の前に置いてあるほかには、木綿麻の随分古ぼけた夏物が二枚壁際に投出されているばかりである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこにはべつに一まい花模様はなもようあつ座布団ざぶとんいてあるのにづきました。
また朝夕に部屋の掃除そうじ励行れいこうせしむること厳密を極め、するごとに一々指頭をもって座布団ざぶとんたたみ等の表面をで試み毫釐ごうり塵埃じんあいをもいといたりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「画家ならば絵にもしましょ。女ならば絹をわくに張って、縫いにとりましょ」と云いながら、白地の浴衣ゆかたに片足をそとくずせば、小豆皮あずきがわ座布団ざぶとんを白き甲がすべり落ちて
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日当りのいい縁側には縮緬ちりめんの夜具羽二重はぶたえ座布団ざぶとん母子おやこ二人の着物が干される。軒先には翼と尾との紫に首と腹との真赤まっか鸚哥いんこが青いかごの内から頓狂とんきょうな声を出してく。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
美佐子は八畳の茶の間へ這入ると、夫のすわる座布団ざぶとんの上へ客を請じて、自分は紫檀したんのチャブ台の前にすわりながら
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
敷き棄てた八反はったん座布団ざぶとんに、ぬしを待つ温気ぬくもりは、軽く払う春風に、ひっそりかんと吹かれている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
畳も汚れた貸二階に据えてある箪笥たんす火鉢から、机座布団ざぶとんに至るまで、家具一切いっさいはかつて資産のある種子たねこの家にあったものばかりなので、お千代の人品に比較して品物が好過よすぎるところから
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
要は縁側に座布団ざぶとんを敷いて、港の出口をふさいでいる砂糖菓子のように可愛いコンクリートの防波堤をながめた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一本の浅葱桜あさぎざくらが夕暮を庭に曇る。拭き込んだえんは、立て切った障子の外に静かである。うちは小形の長火鉢ながひばち手取形てとりがた鉄瓶てつびんたぎらして前にはしぼ羽二重はぶたえ座布団ざぶとんを敷く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
踊子はいつも大抵十四、五人、破畳やぶれだたみに敷き載せた破れた座布団ざぶとんの上に、裸体同様のレヴューの衣裳いしょうやら、楽屋着やら、湯上りの浴衣ゆかたやら、思い思いのものに、わずか腰のあたりだけをかくしたばかり。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして幸子がすみの方に、床板に直かに座布団ざぶとんを敷き、光琳菊こうりんぎく蒔絵まきえのある本間ほんけんの琴を横たえてすわっていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何気なにげなく座布団ざぶとんの上へ坐ると、唐木からきの机の上に例の写生帖が、鉛筆をはさんだまま、大事そうにあけてある。夢中に書き流した句を、朝見たらどんな具合だろうと手に取る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座布団ざぶとん綿わたばかりなる師走しはす
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やれ箪笥たんすだとか、長火鉢だとか、座布団ざぶとんだとか云う物が、あるべき所に必ずなければいけなかったり、主人と細君と下女との仕事がいやにキチンと分れていたり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こぶしを籠から引き出して、握った手を開けると、文鳥は静にてのひらの上にある。自分は手を開けたまま、しばらく死んだ鳥を見つめていた。それから、そっと座布団ざぶとんの上に卸した。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一遍に春らしくなった空の色にかれて、病室の縁側まで座布団ざぶとんを持ち出して日光浴をしていると、ふと、階下のテラスから芝生の方へ降りて行く雪子の姿を見つけた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
来客の用意にこしらえた八反はったん座布団ざぶとんは、おおかた彼れのために汚されてしまった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
産気さんけづいた彼女はしきりにニヤア/\云ひながら彼の後を追つて歩くので、サイダのばこへ古い座布団ざぶとんを敷いたのを押入の奥の方に据ゑて、そこへ抱いて行つてやると
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
机の前には薄っぺらなメリンスの座布団ざぶとんがあって、煙草たばこの火で焼けた穴が三つほどかたまってる。中から見える綿は薄黒い。この座布団の上にうしろ向きにかしこまっているのが主人である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
産気さんけづいた彼女はしきりにニャアニャア云いながら彼の後を追って歩くので、サイダのばこへ古い座布団ざぶとんを敷いたのを押入の奥の方にえて、そこへ抱いて行ってやると
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
湯から上ったら始めてったかになった。晴々せいせいして、うちへ帰って書斎に這入ると、洋灯ランプいて窓掛まどかけが下りている。火鉢には新しい切炭きりずみけてある。自分は座布団ざぶとんの上にどっかりと坐った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浜作の座敷では座布団ざぶとんまくらにして足を投げ出したりしていたが、二人の姉がタキシーへ乗る時に、自分は行くことを差控えたい、本家は自分を勘当したことになっているから
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
座布団ざぶとんを上げんか」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の方へはチラリとそっけない流眄ながしめを与えたきりで、ず出入口と押入の閾際しきいぎわへ行って匂を嗅いで見、次ぎには窓の所へ行ってガラス障子を一枚ずつ嗅いで見、針箱、座布団ざぶとん、物差
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
手さぐりで膝の下敷きになった猿手さるで金唐革きんからかわの煙草入れを捜しあてたが、煙管きせるのありかが分らないでしきりにその辺をさぐっているのを、気がついたお久が座布団ざぶとんの下から見つけ出して
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)