希望のぞみ)” の例文
甲必丹には容易に逢うことが出来ず、出来ても言葉が解らず話すことが出来なかったので、新八郎の希望のぞみはとげられそうもなかった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同時に長吉ちやうきち芝居道しばゐだう這入はいらうといふ希望のぞみもまたわるいとは思はれない。一寸いつすんの虫にも五分ごぶたましひで、人にはそれ/″\の気質きしつがある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何を伯母さん、おつしやる、し貴女に死なれでもして御覧なさい、私はほとんど此世の希望のぞみなくして仕舞ふ様なもんですよ、何卒ネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
父はまた添付つけたして、世に出て身を立てる穢多の子の秘訣——唯一つの希望のぞみ、唯一つの方法てだて、それは身の素性を隠すより外に無い
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
コノール (立上がって不思議な微笑を見せる)兄弟よ、わしも、やっぱり——わしもやっぱり、その一つの希望のぞみを持っている。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
そして私はいままた改めてこの月に誓う、私は千代子に対する恋を捨てて新しい希望のぞみに向って、男らしく進まなければならない。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「今おまえさんのおっしゃった希望のぞみというのは、私たちには聞いてもわかりはしますまいけれど、なんぞ、その、学問のことでしょうね?」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのます紙鳶を買ふには、この十倍ものおあしが必要であるといふことを。しかし、それにもかかはらず、栄蔵の心には希望のぞみの泉がき出した。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼は、自分の希望のぞみを成しとげるに、あらゆる意味で、大なる困難が横たわっていることを、改めて思わずにはいられなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「手早く話そう。あちらには、佐々木殿もお待たせしてある。——そこで各〻へ、改めて、申し渡す儀と、わしの希望のぞみを聞いてもらいたい」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さき、母から十日の内には死ぬと云い聞かされた時には、彼は心ひそかにお葉というものを頼みにしていた。が、それも希望のぞみの綱が切れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さればこゝにて我を待ち、よわれる精神たましひをはげまし、まこと希望のぞみめ、我汝をこの低き世に棄てざればなり 一〇六—一〇八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
其処そこで僕は最早もはや進んで僕の希望のぞみのべるどころではありません。たゞこれめいこれしたがうだけのことを手短かに答えて父の部屋を出てしまいました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれ自由じいううしなうたその手先てさきあたゝかはるつもつて漸次だん/\やはらげられるであらうといふかすかな希望のぞみをさへおこさぬほどこゝろひがんでさうしてくるしんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この時彼のちひさき胸は破れんとするばかりとどろけり。なかばかつて覚えざる可羞はづかしさの為に、半はにはかおほいなる希望のぞみの宿りたるが為に。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
主人あるじが浮かねば女房も、何の罪なきやんちゃざかりの猪之いのまで自然おのずと浮き立たず、さびしき貧家のいとど淋しく、希望のぞみもなければ快楽たのしみも一点あらで日を暮らし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今年ことしもとう/\かれなかつたと、おたがひおもひながらも、それがさしてものなげきでなく、二人ふたりこゝろにはまた來年らいねんこそはといふ希望のぞみ思浮おもひうかんでゐるのであつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
あるものは願望ねがいはあれど希望のぞみなき溜息ためいきをもって、揺動ゆれうごく無数の藻草もぐさのようにゆらゆらとたゆとうておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「百合花のやうに美しく、彼のいのちの誇であるばかりか、彼の眼の希望のぞみだ。」それから十分間だけ何か朝食をる時間をあげると云つて、彼は呼鈴ベルを鳴らした。
信仰の先導者なるイエスは其の前に置かれたる喜楽よろこびに因りてその恥をも厭わず十字架の苦難くるしみを忍び給うた(同十二章二節)、信者は希望のぞみなくして苦しむのではない
美しくも力強い希望のぞみ。だが果して、その希望を実現し得られる力が自分の中にあるのだろうか。その力としてありそうに思える火の背梁だけは確に逞しくなっている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老女 わたしの美しい土地を取り返す希望のぞみと、それから、他人をうちから追い出そうという希望のぞみと。
このような娘は折々運命なにかの間違いであまりかんばしくない家庭に生まれてくるものである。無論、持参金というようなものもなく、希望のぞみなどの毛でついた程もなかった。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
これは神に依ていつくしめるものは目的も希望のぞみ恐懼おそれも同一になってしまう。ただ気が合うといっても何だか茫漠としたもので男ならその調子で一杯やろうというかも知れぬ。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
夫に死に別れた女房、子供に先立たれた老母、身上や健康や、希望のぞみうしなった若者など、金があって希望のない人は、蜜に集まるありのように、元町の祈祷所に集まって来たのです。
彼女かのじょは、んだねえさんのことをおもわないとてなかったのであります。なんでも希望のぞみけば、それをかみさまがきとどけてくださるというものですから、むすめは、そのあかかみ
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何でもいいから、わたしたちは、誰もさまたげることのない世界へ住みたいのです、ほかに希望のぞみもなにもありゃしません。白骨谷だって、人が来てあぶなくってなりませんもの。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最後の希望のぞみは切れた。それをいくらか楽しみにもし、そこでなるべく気持ちを直して帰る積りでもあつたのだけれど、今言ひ切つた言葉は丁度戦ひを挑んだやうなものであつた。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
……まもなくわれわれの待望は充たされるという希望のぞみをわれわれにお与え下さい。
東京から是非もう一人弁護士を差し向けてほしいという、当人の希望のぞみだったもんだから、お国と二人で、そっちこっち奔走していたんで……友達の義理でどうもしかたがなかったんだ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「キキイ、おまへの希望のぞみなんだね、毎日うして何を待つて居るんだね。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
これは幼い時の遠い美しい記臆が胸に浮んだからです。ソレを語りつゝ君は今の慘憺みじめな境遇にくらべ、又行衞は黒い雲が横はつて何の希望のぞみもなく死の一字が赤くたゞ閃いてをることを嘆かれました。
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わびさみしきよいを、ただ一点のあかきにつぐのう。燈灯ともしび希望のぞみの影を招く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう僕には希望のぞみもなく 平和な生活らいふの慰めもないのだよ。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
唯かの一つ「希望のぞみ」の名だにあらば、——
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
希望のぞみ、あくがれ、吟咏ながめたかわらひ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
此の黄金色した幻想に實のる希望のぞみ
しづかに失はれてゆく希望のぞみがある。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
現われし星のごとき希望のぞみよ!
やがて消ゆべき希望のぞみかや。
哀詩数篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
若き日のわれの希望のぞみ
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
人の心に希望のぞみあり。
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
同時に長吉が芝居道しばいどう這入はいろうという希望のぞみもまたわるいとは思われない。一寸の虫にも五分の魂で、人にはそれぞれの気質がある。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
俺には何一つ希望のぞみはない! 俺はいったいどうしたらいいのだ⁉ ああ俺は恋をのろう! 俺はあらゆる幸福を呪う! 俺は人間を
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、彼は妻の苦衷くちゅうをさまざまに考えてみた。——然し、そう思い惑うよりも、妻の希望のぞみに向って、まっしぐらに進むべき自分の重荷をすぐ感じた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またこの希望のぞみが、幽霊や怨念おんねんの、念願と同じ事でござりましての、このつら一つを出したばかりで大概の方はげますで。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
良寛さんの人がらも、その周囲まはりの人々の心をうるほし、うはついてゐた心をしつとり落着かせ、知らぬ間に希望のぞみと喜びの芽をふかせるといふ風である。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼は歩きづめに歩いてまで宿屋に辿たどり着くことの出来ない旅人のように自分の身を考えた。この仏蘭西フランス田舎いなかへは彼は心から多くの希望のぞみをかけて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されば彼の待ちあこがるゝを見、我はあたかも願ひに物を求めつゝ希望のぞみに心をたらはす人の如くになれり 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかるに叔父さんもその希望のぞみが全くなくなったがために、ほとんど自棄やけを起こして酒も飲めば遊猟にもふける、どことなく自分までが狂気きちがいじみたふうになられた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)