まこと)” の例文
旧字:
今では末の一人娘の美留藻みるもというのが大きくなるのを、何よりの楽しみにして仕事に精を出していましたが、美留藻はまことに美しい娘で
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
或る近所の自警団では大杉を目茶苦茶になぐってやれという密々の相談があるとか、うそまことか知らぬがそういう不穏の沙汰を度々耳にした。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
要するに生活上の利害から割り出した嘘だから、大晦日おおみそかに女郎のこぼす涙と同じくらいなまことは含んでおります。なぜと云って御覧なさい。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
猟師かりうどの家につかへ、をさをさ猟のわざにもけて、朝夕あけくれ山野を走り巡り、数多の禽獣とりけものを捕ふれども。つらつら思へば、これまことおおいなる不義なり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
まことを云えば御前の所行しょぎょういわくあってと察したは年の功、チョンまげつけて居てもすいじゃ、まことはおれもお前のお辰にほれたもく惚た
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まこと御新造ごしんぞは、人づきあいはもとよりの事、かど、背戸へ姿を見せず、座敷牢とまでもないが、奥まった処に籠切こもりきりの、長年の狂女であった。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
な、人もしこれを得んと欲せばまずこれを捨てざるべからず(馬太マタイ伝十六章二十五節)、誠にまことにこの世は試錬の場所なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
この事を人に語れどもまことと思う者もなかりしが、また或る日わが家のカドに出でて物を洗いてありしに、川上より赤き椀一つ流れてきたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大芳棟梁のとこへ貰われてまいった伊之吉、夫婦が大層可愛がって育て、おい/\と職を仕込みますが、まことに器用なたちで仕事も出来て来る。
まことに人を懼るるとば、彼の人を懼るる所以ゆゑんと、我より彼の人を懼るる所以とす者とは、あるひややおもむきことにせざらんや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
近江へ往くとはおっしゃいましたが、わたくしにはまこととは思われませんでした。なぜかしらそんな気が致したのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
光秀陣中の場は光秀が死を決して斎藤大八郎のいさめを用ゐぬ処なるが、ここも双方共あまり先を見通し過ぎてまことらしからず。
交易航海する強国は、和親を旨とし、日本に右様の緩優交易(自由貿易の意)取り結び候ほか、まこともって他事之無く候。
空罎 (新字新仮名) / 服部之総(著)
故に中世騎士勇を以て鳴る者竜を殺すをその規模とし、近世と余り隔たらぬ時代まで学者も竜まことに世にありと信ぜり。
十八の年まで、まことの親も及ばないほど愛して下さいました。歌吹かすい音楽のほか、人なみの学問から女の諸芸、学び得ないことはなに一つありませんでした。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亢旱かうかんにして夏に至るまで雨ふらず。百川水を減じて五穀ややしぼめり。まことに朕が不徳をて致す所なり。百姓何の罪ありてか、憔萎せうゐせる事の甚しき。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「誠にまこと爾曹なんじらに告げん一粒の麦もし地に落ちて死なずば唯一つにてらんもし死なば多くの実を結ぶべし。」
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
高さ二尺ばかりなる自然石じねんせきかくにしてうつくしき石塔一ツ流れきたる、まこと彫刻てうこくせるごとくにて天然てんねんの物なり。
まことにどうもつまらないと思ひましたから、わざと片意地に見合ひをする事は嫌ですと、母に申し張りました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
とどまりて三八いたはり給へと、まことある詞を便りにて日比ひごろるままに、三九物みな平生つねちかくぞなりにける。
元来西班牙スペインの広大な領土は宣教師ばてれんを手先に使つて侵略したものだとまことしやかに述べ立てる西班牙人があり
今その夢をまことにすることのできるあなたの幸福と、この荒れた島にただ一人残る自分の運命とを較べるのはえがたい。わしの恐ろしい運命を考えてください。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
先ず其の顔形を見較べて私の言葉の嘘かまことかを判断して戴きましょう、私は兼ねて小さい動物に試験して身体を細くする術を発明しました、是も薬剤の力です
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
まことに野蛮の遣り方である。こういう残酷な事はまだなかなか沢山ありますけれどもこの位にして置きます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
忍藻おしも和女おことの物思いも道理ことわりじゃが……この母とていとう心にはかかるが……さりとて、こやそのように、忍藻太息といきくようでは、太息のみ吐いておるようでは武士もののふ……まこと
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「はい、お定と申しやす。まことに不調法者でごわして。何卒どうかまあ何分よろしく御願申しやす」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、それを伝聞した彼女は、「まことならばこそあらめ、おのづから聞きなほし給ひてん」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
全躰なら『叔母さんの了簡にかなくッて、こう御免になってまことに面目が有りません』とか何とか詫言わびことの一言でも言う筈のとこだけれど、それも言わないでもよし聞たくもないが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
日本の画家ゑかきがかうした目端の利く、忠実な女房をざらに持つてゐるのはまことに結構な事だが、支那では女の出来が日本ほど思はしくないので那地あちら画家ゑかき女房かないの他に今一つ豆猿を飼つてゐる。
それがまことであったゞけで小歌の廃業について怪む所はないが、実であるべく祈って居た打消しの方からすれば、それが全く嘘であったので、約束したでもないことが心変りかのように思われ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
至誠心しじょうしんと申候。この心のまことにて。念仏すれば臨終に来迎らいごうすという事を。一心もうたがわぬ方を。深心じんしんとは申し候。このうえわが身もかのつちへむまれんとおもい。行業ぎょうごうをも往生のためとむくるを。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さえぎって大音声に呼ばわったは、歌舞伎の道具に見せるため、刃に銀紙、柄に金紙を、わざと張りつけ巻きつけたものの、まことは真の大薙刀を、抱い込んでいた熊坂長範——すなわち戸ヶ崎熊太郎で
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち剣を抜いて保食神を撃殺したまひき(中略)。是の後に天照大神た天熊大人をつかわして往いて看せたまふ。是の時に保食神まことすでみまかれり、唯し其の神の頂に牛馬化為れり云々(岩波文庫本)。
まことしき無き名なりけり実しき名なりし故に今日も偲ばゆ
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
うそまことか見て来たらいいだろう。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「ははあ、——して、まことの用件は?」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まことは七柱の神おはせり。
「いやとよ大王。大王もしまこと空腹ものほしくて、食物かてを求め給ふならば、やつがれ好き獲物をまいらせん」「なに好き獲物とや。……そは何処いずこに持来りしぞ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
まことに砕けていて、ちっともみずからがらないひとだけれど、どこか恐しく品があって、私なんざ時々我ながらつむりの下がることがありますもの。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この事を人に語れどもまことと思ふ者もなかりしが、またある日わが家のカドに出でて物を洗ひてありしに、川上より赤き椀一つ流れて来たり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
既に世の塵に立交らで法のかどに足踏しぬる上は、然ばかり心を悩ますべき事もまことは無き筈ならずや、といと物優しく尋ね問ふ。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
近江へ往くとはおっしやいましたが、わたくしにはまこととは思はれませんでした。なぜかしらそんな気が致したのでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
是に於いて、皇太子た使者を返し、其の衣を取らしめ、常のごとたまふ。時の人大にあやしみて曰く、聖の聖を知ること、其れまことなる哉。いよいよかしこまる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
高さ二尺ばかりなる自然石じねんせきかくにしてうつくしき石塔一ツ流れきたる、まこと彫刻てうこくせるごとくにて天然てんねんの物なり。
「稲葉山の斎藤義龍よしたつどの、にわかに病んで死んだという密報がはいったのだ。そこで嘘かまことか、小当りに一当ひとあせてみよというので、にわかな出陣なのだ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既にまことの罪人の捕まりし事なれば倉子の所天おっと藻西太郎は此翌朝放免せられたり、判事は放免言渡しのとき
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
温泉宿へ手伝に来た婆さんから自分は棄児すてごであって、背中の穴は其の時受けた疵である事と、長左衛門夫婦はまことの親でなく、実の親は名前は分らないが、斯々云々かく/\しか/″\の者で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
好加減な邪推をまことしやかに、しかも遠廻しに、おれの頭の中へ浸み込ましたのではあるまいかと迷つてる矢先へ、野芹川の土手で、マドンナを連れて散歩なんかして居る姿を見たから
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
浩然の気は誠にまことに不死の薬なり、貧しきものよ悦べ天国は汝のものなればなり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
和女にはまことの親、おれには実の夫のあの民部の刀禰がこたび二の君の軍に加わッて、あッぱれ世を元弘の昔にかえす忠義の中に入ろうとて、世良田の刀禰もろとも門出した時、おれは、こや忍藻
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)