化物ばけもの)” の例文
百物語とは多勢の人が集まって、蝋燭ろうそくを百本立てて置いて、一人が一つずつ化物ばけものの話をして、一本ずつ蝋燭を消して行くのだそうだ。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この象を腑分ふわけしたら、どんな化物ばけものが飛び出すか知れたもんじゃねえ、御出役のこないうちに軽率かるはずみに象に手をつけるわけにはゆきません
まへ講釈かうしやくのと読較よみくらべると、按摩あんまのちさむらひ取立とりたてられたとはなしより、此天狗このてんぐ化物ばけものらしいはうが、かへつて事実じゝつえるのが面白おもしろい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我家うちの旦那が急に気がちがって、化物ばけものだ化物だと云って、奥様も、坊様ぼっちゃまも斬りました、どうか早く来てください」と周章あわてて云った。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ああ、驚いた。あのおばあさんは何だろう。きっと化物ばけものか何かだよ。後に目があるんだよ。しかも人のことを鼠だなんて……畜生!」
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
「よしてくれ。人間でもない、へんな恰好かっこうをした鉄の化物ばけもののくせに、人間さまのやったことにけちをつけるなんて、なまいきだぞ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「長官、もう駄目です。昭和遊撃隊は、まるで化物ばけものです。巡洋艦のくせに、三十六糎の砲弾が命中しても沈まないんですからね。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「ゲルベルトの月琴タムブル⁉」検事は法水の唐突な変説に狼狽ろうばいしてしまった。「いったい月琴タムブルなんてものが、鐘の化物ばけものにどんな関係があるね」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
土から生れて土に働く土の精、土の化物ばけものとも云うべき農家の人は、死んで土になる事を自然の約束として少しも怪むことをない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
化物ばけもの屋敷へ探険に行つたり悪霊あくりやうかれたのをなほしてやつたりする、それを一々書き並べたのが一篇の結構になつてゐるわけです。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この一篇で、幽閉された女中等が泣いたり読経どきょうしたりする中に小唄を歌うのや化物ばけもののまねをして人をおどすのがあったりするのも面白い。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから、この不思議な化物ばけもののようなしわくちゃの老人は、お客を屋敷の外まで見送ったが、その後ですぐに門をしめるように言いつけた。
以上いじやうべたところ總括そうくわつして、化物思想ばけものしさうはどういふところもつとおほ發達はつたつしたかとかんがへてるに、化物ばけもの本場ほんば是非ぜひ熱帶ねつたいでなければならぬことわかる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
しかし、新次は変な子供で、浜子を恋しがる風も見せずに、化物ばけもののように背の高い玉子にひたすらなついていたようでした。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
立ち腐れになった様な、化物ばけもの屋敷同然の、だだっ広い屋敷があって、柾木愛造は、いつか通りすがりに見つけておいて、それを借受けたのであった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下駄を買はうと思つて、下駄屋を覗き込んだら、白熱瓦斯ガスしたに、真白に塗り立てた娘が、石膏の化物ばけものの様に坐つてゐたので、急にいやになつて已めた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「姐さん、お前さんとこの店は馬鹿に陰気臭いね。まるで化物ばけものでも出そうだよ……」などと人のいい笑いを見せながら「これで少しはたいてみな」と
僕もかつて病いにかかり、体温の四十度を越したとき、夢におそろしき化物ばけものを見たことがある。眼がさめたのちも、化物は眼前にちらついて残っていた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
化物ばけもの沙汰に心を奪われ商売の方をおろそかにしては商人あきゅうど冥利に尽きるというものだ——それでは今夜参ると致そう」
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大きな胃袋へ水を一杯詰めて裏返して置くとちょうど頭のような処が先にあり手足のような処もあり何とも訳の分らない化物ばけもののような形になるそうです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「なに、すむもすまないもない、どうせ、なにかあることと思っておった。女は、化物ばけものだと申すことだからな」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鐵「喋るたっておれア喋る訳にはかねえ、何かありませんかな、お医者さまは奥州仙台だてえが、面白おもしろおっかねえ化物ばけものが出たてえような事はありませんかな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
後でそれが有名な化物ばけもの屋敷と解った時、夫人がほッと胸をでおろしたとは反対に、ヘルンは大変失望して
道学のかたまり仁義忠孝の化物ばけもののような馬琴すらも『仇討義理与犢鼻褌かたきうちぎりとふんどし』というような、外題げだいを見ても内容が察しられる意外の遊戯的な作を何篇も作っておる。
これは和銅年間に出来たもので、立派なものであります。法隆寺の仁王は、あれは化物ばけものだなどいって人がくさしたけれども、私は、そうは思わず感心しました。
まるで化物ばけものとむきあってるような気もちだよ。人間にんげんなら人間らしく、きょうはひどくさむいねぐらいのことは、言ったらよさそうなもんだよ。ぶあいそうなやろうだ。
自分といふ人間は、何時も空洞なハートを持つてゐるやうな人間に思へて来る。生身な身振り音調のかげに隠れて、がらんだうなハートで歩いてゐる化物ばけもののやうだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
林中は真暗で何んだか化物ばけものでも潜んで居るよう、何うしても踏み込んで探検する気にはなれず、一歩進んでは二歩退き、二歩進んでは三歩退き、其間に独り思うには
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
されどもかかる夜中にひとりこの辺にべき道理なければ、必定ひつじょう化物ばけものならんと思い定め、やにわに魚切庖丁うおきりぼうちょうを持ちて後の方より差し通したれば、悲しき声を立てて死したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
然らずんば、人間の腹より出でたる犬豕けんしを生ずること必定ひつじょうなり。かか化物ばけものは街道に連れ出して見世物となすには至極面白かるべけれども、世の中のためには甚だ困りものなり。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あのベシーの夜噺しに出て來る、曠野の淋しい谷間から現れて、路に行き暮れた旅人の前に姿を見せる半分妖精えうせい半分鬼の、小さな化物ばけものの一匹に見えた。私は、元の場處へ歸つた。
ゆうべ芝居しばいが終ってから、この小さな化物ばけものはただひとり町を出て、さびしい墓地のほうへさまよって行きました。コロンビーナの墓の上の花輪は、もうすっかりしおれていました。
さアお前も化物ばけものになれ、おれと同じ盲になれ……ああ、痛むさ、そりゃ猛烈に痛むさ
暗中の接吻 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「井田さんも若いな。何かあの座敷に化物ばけものが出たというのだ。冗談じゃあない。」
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし其処そこにはやはり何か本当のものがあるらしく、なるべく特徴をあらわすようにと忠実に描きあげて見ると、やはり蟹の化物ばけものには見えなくて、奇妙な形の蟹に見えるところが面白かった。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
するとやがて、あかの層がぬのぎれのように拡がって、この四つの化物ばけものを包むのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
色のわるい、平べったい顔をした、どこか化物ばけものじみて見える赤ん坊であった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
火のやうな目がたくさん光つてゐる化物ばけものや、頭の先の平つたいのや、円いのがゐるかと思ふと、顔だけ人間でからだが大きな/\大とかげになつてゐるのや、そのほか、馬の頭をつけたりゆうだの
湖水の鐘 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
天竺牡丹なら昔から日本にありますから、いくら無学な私でも能く存じて居ります。っとも恐縮する筋はありません。羽織袴で天竺牡丹の化物ばけものを拝観したと思ったら馬鹿馬鹿しくなりました。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こは当楼の後ろの大薮に数年すねんすんでいる狸の所為しわざにて、毎度この高味うまいものをしてやらるると聞き、始めてばかされたと気がついて、はては大笑いをしたが、化物ばけものと直接応対したのは、自分ばかりであろうと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
化物ばけものではいらつしやらないよとはなさきつてわかつたひと御褒賞ごほうびたと懷中ふところから紙入かみいれをいだせば、おりきわらひながらたかちやん失禮しつれいをいつてはならないこのかた御大身ごだいしん御華族樣ごくわぞくさまおしのびあるきの御遊興ごゆうきよう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
後世に山男やまおとことか、山姥やまうばとかいう名で、化物ばけものででもあるかの如く思われたり、山番やまばんとか云って、非人視されている輩の如きは、奈良朝・平安朝の頃には山人やまびとと云って、一向珍しくないことでありました。
「この戸をあけると、こわ化物ばけものが出るんですよ、だから……」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いまではちっぽけな化物ばけものです。
「あいつも化物ばけものかも知れんぞ」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お前はまた、どこの化物ばけものさ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其後そのご支那しなから、道教だうけう妖怪思想えうくわいしさうり、佛教ぶつけうとも印度思想いんどしさうはいつてて、日本にほん化物ばけもの此爲このため餘程よほど豊富ほうふになつたのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
重い物体をひっかける化物ばけもののようにでっかいかぎが、太い鋼線ロープってあり、また橋梁の一隅いちぐうには、鉄板てっぱんで囲った小屋がっていて、その中には
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ西洋人を異人という昔の時代だったので、島田のさい御常おつねは、化物ばけものと同居でもしているように気味を悪がった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ではなんという化物ばけものだい。だいたい鐘楼の点鬼簿てんきぼには、人間の亡者の名が、一人も記されていないのだからね」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)