前刻さつき)” の例文
わしはその前刻さつきからなんとなくこの婦人をんな畏敬ゐけいねんしやうじてぜんあくか、みち命令めいれいされるやうに心得こゝろえたから、いはるゝままに草履ざうり穿いた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さういふ事でござんしたか。さうとは知らず、ついうつかり前刻さつきのやうなこと言ふたは、みんな私が悪かつた。堪忍して下せんせ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
前刻さつきすがさんにつたときわたしをりしもあかインキで校正かうせいをしてたが、組版くみはん一面いちめん何行なんぎやうかに、ヴエスビヤス、噴火山ふんくわざん文宇もんじがあつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前刻さつきから聞いてゐれば、父御様にも仰しやるやうなお見舞は、なんとももつて合点が行かぬ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
があたつてあたたかさうな、あかる腰障子こししやうじうちに、前刻さつきからしづかにみづ掻𢌞かきまは氣勢けはひがしてたが、ばつたりといつて、下駄げたおと
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勤まりにくいお邸で、年を越すでもなからふと、内証極めた前刻さつきの使ひ。せはしい時に暇取つて、お前方へは気の毒ながら、無理のない訳聞かしやんせ。この四五日の奥様の、あの肝癪は正気の沙汰か。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
前刻さつきせ、とつてめたけれども、それでも女中ぢよちゆうべてつた、となり寐床ねどこの、掻巻かいまきそでうごいて、あふるやうにして揺起ゆりおこす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あきらめのつくやうに、あきらめさしてくださいツて、おねがまをした、あの、お返事へんじを、ないでツてますと、前刻さつきくだすつたのが、あれ……ね。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きしづたひに、いはんで後戻あともどりをて、はし取着とつゝき宿やどかへつた、——これ前刻さつきわたつて、むかごしで、山路やまみちはうへ、あのばあさんのみせはしだつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前刻さつきから、通口かよひぐちかほして、髯旦ひげだんのうめかたが、まツとほり、小兒こども一寸いつすんみづ一升いつしようわりのぞいて、一驚いつきやうきつした三助さんすけ
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れば、神樂坂かぐらざかきがけに、前刻さつき郵便局いうびんきよくまへあたりで、水入みづいらずの夫婦ふうふ散歩さんぽたのに、あまはなしがないから
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おもむきちがふけれども、そのは、名所めいしよにも、古跡こせきにも、あんな景色けしきはまたあるまいとおもところを、前刻さつきも一とほつてた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがまたれい丸太まるたわたるのぢやが、前刻さつきもいつたとほりくさのなかに横倒よこだふれになつてる、木地きぢ丁度ちやうどうろこのやうでたとへにもくいふがまつうわばみるで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いや、前刻さつきふねなかけるのをむかふからときな、きたひとだと吃驚びつくりしつけの。お前様めえさま一廉ひとかどきゝものだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はゝあ、怪談くわいだんりたさに、前刻さつきたぬき持出もちだしたな。——いや、あへうではない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前刻さつきくさあぜにてたかさが、パサリと、ひとりでたふれると、した女中ぢよちう
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前刻さつきから、げたり、げたり、むねなみたして女房にようばう
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しな片手かたてにはしつかりと前刻さつき手紙てがみにぎつてる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
前刻さつきいまで、桔梗ききやうほしむらさき由縁ゆかりであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もう、前刻さつき。」
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)