“二(ふ)” の例文
若(も)し真弓が刃の下を掻(か)い潜って、千代之助を庇(かば)ってやらなかったら、二(ふ)た太刀三太刀目には膾(なます)のように刻まれてしまったことでしょう。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そして、その男とすれ違う時、ぎらぎらする二つの眼が丹治の方を睨(にら)むように光った。丹治は二(ふ)た眼(め)と見返すことができなかった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見ると二十五、六歳の遊び人態(てい)の男が、刑吏に引きすえられ、一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イ……と数を読む青竹の下に、ビシビシ撲(なぐ)りつけられている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一(ひ)ト月過ぎ二(ふ)タ月過(すぎ)ても此(この)恨(うらみ)綿々(めんめん)ろう/\として、筑紫琴(つくしごと)習う隣家(となり)の妓(こ)がうたう唱歌も我に引き較(くら)べて絶ゆる事なく悲しきを、コロリン
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
通りがかりのルンペンを呼ぶのに最初「サン」附けにして、あとから一段上の先生なんかと二(ふ)た通りに呼分けるなんて油断のならぬ奴だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
するとつづいて、その同じ鳥か、別なほととぎすか、二(ふ)た声も三声も、———しまいには珍しくもなくなったほど啼きしきった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、それを一(ひい)、二(ふ)う、三(み)い? と数えあげたり、ひよつとして栄螺の呟きでも聞えないかしら? と耳を傾けたりした。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その高い窓へ、地上に積んだ石炭を搬(はこ)びこむらしい吊(つ)り籠(かご)が、適当の間隔を保って一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イ……相当の数、ブラブラ揺(ゆ)れながら動いてゆく。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
写野さんはこういうと、障子に布を覆うこと、吸入は二(ふ)タところにやることなどを注意した。樋口さんは、七本目の注射を用意して立っていた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お茶が運ばれて来ると、彼は立ったままで、把手(とって)のついた大コップを二(ふ)た口で空(から)にし、ほとんど瞬(またた)くひまに白パンの大きな塊(かたまり)を平らげてしまった。
すると妙な口つきをしてくちびるを動かしていましたが、急に両手を開いて指を折って一(ひ)、二(ふ)、三(み)と読んで十(とう)、十一と飛ばし、顔をあげてまじめに
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ウツボグサの紫花の四本の雄蕊は尖端が二(ふ)た叉(また)になっていて、その一方の叉には葯(やく)があるのに他の一方はそれがなくて尖(とが)ったままで反り曲っている。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そら一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イ……ぐるりとまわって……あんよを上げて……」と小さい子供たちにいつも熱心に稽古していた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
大方は雨漏に朽ち腐れて、柱ばかり参差(しんし)と立ち、畳は破れ天井裂け、戸障子も無き部屋どもの、昔はさこそと偲(しの)ばるるが一(ひ)い二(ふ)ウ三(み)いと数うるに勝(た)えず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの、一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)イ……四つ目の瓦斯燈(ガスとう)の出てるところだよ。松葉屋(まつばや)と書いてあるだろう。ね。あの家(うち)よ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二匹と云う代りに二(ふ)たりといった。下女の考えでは猫と人間とは同種族ものと思っているらしい。そう云えばこの下女の顔は吾等猫属(ねこぞく)とはなはだ類似している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その指をかぞへるに「一イ二ウ三イ」とやらず「一(ひ)に二(ふ)に三(み)に四(よ)に」とゆくのも、へんに可笑しかつた。
初代桂春団治研究 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
この蟷螂(かまきり)少からず神経性だと見える。その利鎌を今度は二(ふ)た振り右と左で空(くう)に反(かえ)す、その柄(つか)を両膝に確(しか)と立てると、張り肱の、何かピリピリした凄い蟀谷(こめかみ)になる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
我が家に江戸に二(ふ)たとせ居(ゐ)たる僕(ぼく)あり。かれがかたりしに、江戸に寒念仏(かんねんぶつ)とて寒行(かんぎやう)をする道心者(だうしんじや)あり、寒三十日を限(かぎ)りて毎夜鈴が森千住(ぢゆ)にいたり刑死(けいし)の回向(ゑかう)をなす。
鷲尾は帰郷してこのかた、二(ふ)タ月も以前からプランをたてていた小説に何度もとりかかった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
肥えたる腮(あご)の二重(ふたへ)なるなど、かかる人さへある身にて、我れは二(ふ)タ心(ごゝろ)を持ちて済むべきや。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一(ひ)ィ二(ふ)ゥ三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十もほつていつたよ。まあ。おまいもまた何をぼや/\してゐたの。ほら、こゝんとこをかうはいつて、かう来たんだよ。
小犬 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一(ひ)い、二(ふ)う、三(み)い、四(よ)お、五(い)つ、六(む)う、七(なな)、八(や)あ、九(ここ)、十(とを)、十一、十二……十三……
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私の滞在はこの冬で二(ふ)た冬目であった。私は好んでこんな山間にやって来ているわけではなかった。私は早く都会へ帰りたい。帰りたいと思いながら二た冬もいてしまったのである。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
両方の耳の辺まで、二(ふ)た振りの大だんびらのように、物々しくはね上がっていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
行手の右の方の蜿蜒(えんえん)たる一筋路は伏見街道——やはり、すすき野原を分けて、見えつ隠れつ、一(ひ)い、二(ふ)う、三(み)い、三梃の乗物が、三人の従者に附添われながら大和路へ向って行くのを見る。
素肌に馬の腹掛を巻付けた姿(なり)で庭口の所へ斯(こ)う片足踏出して、小座敷の方を睨(にら)みました其の顔色(がんしょく)は実に二(ふ)タ眼とは見られぬ恐しい怖い姿(すがた)でござりますから、新吉お賤は驚いたの驚かないの
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へん。天の川の落ち口よりお前らの落ち口を見ろ。それ一(ひ)ぃ二(ふ)の三(み)。」
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
海蔵(かいぞう)さんは、もう二(ふ)タ月(つき)ほどまえから、たびたびこの家(いえ)へ来(き)たのでした。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鉄なあこ——いや、もうそう呼んではいけないだろう、一日に六千個のてんぷらとフライを揚げて捌く、という店の主人なのだから、——一日に油を二(ふ)た罐(かん)も使ってしまう、と鉄さんは語った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一(ひ)イ、二(ふ)ウ、三(み)イ、四(よ)ウ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
二(ふ)や
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
形勢不利と見た乞食(こじき)は、自分の懐へ手が入ると、金貨、銀貨、大小紙幣を一と掴み、二(ふ)た掴み、木の葉のようにサッとバラ撒いて
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
店と聞いていたが、暖簾(のれん)も看板も懸けてはない。渋(しぶ)で塗った三間の出格子に、二(ふ)た戸前(とまえ)の土蔵がつづき、その他は高塀で取り繞(めぐ)らしてある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に非道(ひど)いのになると、毎日剃らないせいか、黒い毛がプツプツと芽を吹いて、白粉(おしろい)とゴチャゴチャになって、二(ふ)タ眼と見られぬ醜態である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作、杉山萠円(著)
「覚悟はよいか。一から十まで数えおわれば、この引金をひくのだぞ。さあ数えるぞ、一(ひ)イ、二(ふ)ウ、三(み)イ、……」
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
行燈(あんどん)の灯影(ほかげ)にうずくまりつつ老眼の脂(やに)を払い払い娘のもとへこまごまと書き綴(つづ)っていたであろう老媼(ろうおう)の姿が、その二(ふ)たひろにも余る長い巻紙の上に浮かんだ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あの、一(ひ)ィ二(ふ)ゥ三(み)ィ………四つ目の瓦斯燈(ガスとう)の出てるところだよ。松葉屋(まつばや)と書いてあるだらう。ね。あの家(うち)よ。」とお糸(いと)は屡(しば/\)橋場(はしば)の御新造(ごしんぞ)につれて来られたり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
先生の顔と小夜子の顔と、部屋の模様と、暮しの有様とを眼(ま)のあたりに見て、眼のあたりに見たものを未来に延長(ひきのば)して想像の鏡に思い浮べて眺(なが)めると二(ふ)た通(とおり)になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
脂肪それ自らによって肉付きが冷たくなっているのと二(ふ)た通りあるが、かの女はその後者であって、いつも、くっきりした蒼白さは可成(かなり)な冷たさをもっていたのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ある時は八幡宮(はちまんぐう)の石段を数えて登り、一(ひ)、二(ふ)、三(み)と進んで七つと止まり、七つだよと言い聞かして、さて今の石段はいくつだとききますと、大きな声で十(とお)と答える始末です。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
タツは、『赤煉瓦の会』へ、初めていってから二(ふ)タ月もたたぬうちに、自分が世間に対する、特に『工場』に対する『見方』がすっかり変ってきたのに、自分でもおどろいた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「これはね、こうするものだよ、見ておいで。」と袂(たもと)を啣(くわ)えて一(ひ)い二(ふ)ウ三(み)い四(よ)ウ、都の手振なよやかに、柳の腰つきしなやかなるを、女の児は傍目(わきめ)も触(ふ)らず、首傾けて恍惚(みと)れいる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのつらゝあまた垂(た)れ下(さが)りたるなかには、長きは十丈ばかり太さは二(ふ)た抱(かゝへ)もあるべし。
この無躾な願いを容(い)れて、私にお逢(あ)い下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為(ため)に、二(ふ)た目と見られぬ、ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鉄なあこ——いや、もうそう呼んではいけないだろう、一日に六千個のてんぷらとフライを揚げて捌(さば)く、という店の主人なのだから、——一日に油を二(ふ)た缶(かん)も使ってしまう、と鉄さんは語った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つきて見む一(ひ)二(ふ)三(み)四(よ)五(い)六(む)七(な)八(や)九(ここ)の十(とを)手もて数へてこれの手鞠を
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ソ、ソレ一(ひ)の二(ふ)の三(み)」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
寿美子さん、もう観念したと見えるね。それが上分別だ。二(ふ)た月でも三月でも、この小杉卓二と同じ屋根の下に住んでいて、世間ではあなたを
「とにかく、二(ふ)た品は一応預かって、鑑定役(めききやく)へ廻しておくが、武松、そちも篤(とく)と、ここのところは穏便に考え直すがよいぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)