ひさし)” の例文
而して予が否と答ふるや、彼女は左手を垂れて左のあしゆびを握り、右手を挙げて均衡を保ちつつ、隻脚にて立つ事、是をひさしうしたりき。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
安井息軒やすいそっけんの『北潜日抄』明治戊辰六月二十九日の記に「保岡元吉衝心ヲ以テ没去ス。年来ノ旧識凋零ちょうれい殆ド尽ク。悵然ちょうぜんタルモノコレヲひさしウス。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さあ、立直して舞うて下さい。大儀じゃろうが一さし頼む。わしひさしぶりで可懐なつかしい、御身おんみの姿で、若師匠の御意を得よう。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老叟らうそうしづかに石をでゝ、『我家うちの石がひさし行方ゆきがたしれずに居たが先づ/\此處こゝにあつたので安堵あんどしました、それではいたゞいてかへることにいたしましよう。』
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
つまたゞ一人ひとりあにであれば、あたことならみづか見舞みまひもし、ひさしぶりに故山こざんつきをもながめたいとの願望ねがひ丁度ちやうど小兒せうにのこともあるので、しからばこの機會をりにといふので
かくして得送らぬ文は写せしも灰となり、反古ほごとなりて、彼の帯揚にめられては、いつまで草の可哀あはれや用らるる果も知らず、宮が手習はひさしうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
九日、市中を散歩して此地には居るまじきはずの男に行きいたり。何とて父母を捨て流浪るろうせりやと問えば、情婦のためなりと答う。帰後独坐感慨どくざかんがいこれをひさしうす。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
透明怪人を、たったひとりで、尾行した子どもというのは、少年探偵団の副団長で、小林団長のかた腕と言われる、大友おおとも少年でした。大友ひさしという、中学二年生なのです。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この話の主人公河野こうのと云うのは宮地翁門下の一人であった。河野の名はひさし、通称は虎五郎、後に俊八しゅんぱちとも云った。道術を修めるようになってから至道しどうと云う号を用いていた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
然るに肩は軽くなるも両手にひさしたうる事能わず。依て亦両手の労を休まんとして両手を前にする時は、ただちに叺を両方より結びたる藁縄に喉頭のどくびおししめて呼吸たえなんとして痛みあり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
やゝひさしくして老女はおもて押しぬぐひつ、涙に赤らめるひとみを上げて篠田を視上げ視下ろせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
もし猛獣、毒蛇をして一舟の中に戦わしめば、人いずくんぞそのわざわいこうむらざるべけんや。しかして諾威の舟アララに漂着する、数月のひさしきを経たりといえり。これあに理をもって論ずべけんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
さて本朝本間ひさしと申す人別紙原稿をよこし『ホトトギス』か『中央公論』へ周旋してくれぬかとの依頼故、まず以て原稿を供貴覧候。御気に入り候わば御掲載の栄を賜わりたく候。本人の申条に曰く。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
伯爵は沈黙ひさしゅうして後、額の汗を拭いながら云うのだった。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
たれらぬので、ひさしあひだ雨曝あまざらしぢや。船頭せんどうふね退屈たいくつをしたところまたこれが張合はりあひで、わし手遊おもちやこさへられます。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ま、ま、おちなさい、おちなさい、いまから旅亭やどやかへつたとてなにになります。ひさしぶりの面會めんくわいなるを今日けふほどかたつて今夜こんや御出發ごしゆつぱつ是非ぜひわたくしいへより。
数分時の混雑の後車のづるとともに、一人散り、二人散りて、彼の如くひさしう立尽せるはあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小學校生活せうがくかうせいくわつくはしいことべつまうしますまい。去年きよねんなつでした、ぼくひさしぶりで故郷くにかへつてましたが、伸一先生しんいちせんせいとしつたばかり、其精神そのせいしん其生活そのせいくわつすこしもかはりません。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「あら布団ふとんもしかないで。さア。」と母は長火鉢のむこうに坐りすぐ茶を入れようとします。わたしは「おひさしぶり」とも言えず、何といって挨拶あいさつしていいのかちょっと言う言葉に困って
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
というと、いえ、私にも分りません、不思議なことには、ひさしいあいだ、ついぞまだ一所におよった事もなし。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひさし人気ひとけの絶えたりし一間のさむさは、今にはかに人の温き肉を得たるを喜びて、ただちにまんとするが如くはだへせまれり。宮は慌忙あわただしく火鉢に取付きつつ、目を挙げて書棚しよだなに飾れる時計を見たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いやもうひさしぶりで癇癪かんしゃくをお起しなすって、こんな心持の可いことはござりません。わたくしゃ変な癖で、大旦那と貴方の癇癪声さえ聞きゃ、ぐっとその溜飲りゅういんの下りますんで。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四辺あたりに人がないから、滝さんといって呼留めて、お兼はひさしぶりでめぐりあったが、いずれも世をはばかって心置のない湯の谷で、今夜の会合をあらかじめ約したのであった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……までは、はあ、わかつたが、わしじやうぬまみづうつをんなはじめたはひさし以前いぜんぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さては、たかきは秦嶺也しんれいなり昌黎しやうれい嗟嘆さたんすることひさしうしていはく、われいまにして仙葩せんぱたり。なんぢのためにまつたうせんと。韓文公かんぶんこう詩集ししふのうちに、一封朝奏九重天いつぷうあしたにそうすきうちようのてん云々うんぬんとあるものすなはちこれ
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……ただ遊びじゃあ旅銭旅籠銭の余裕ゆとりはなし、ひさしぶりで姉さんの顔は見たし、いいさいわいに来たんだから、どうせ見世ものなら一人でも多く珍らしがらせに、真新しい処で、鏡のから顔を出して
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まさか独楽こまにしやしない、食べるんだね。やあひさしいもんだなあ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)