三月みつき)” の例文
その頃、わたしはかなり忙がしい仕事を持っていたので、どうかすると三月みつきも四月も半七老人のところへ御無沙汰することがあった。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
左様そうですね……あれは、放火事件があってから三月みつきほどしてからのことでしたかね……もうそろそろ夏がやって来ようって頃でした。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
独逸ドイツ語が少しでもわかつて、そしてせめて三月みつきでも此処こことゞまることが出来たら北独逸ドイツの生活の面白さが少しは内部的にわかつたであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月みつきさびしさはのがれず、大門おおもんから水道尻すいどうじりまで、茶屋の二階に甲走かんばしッた声のさざめきも聞えぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
ところで、たけなかからは、そだかたがよかつたとえて、ずん/\おほきくなつて、三月みつきばかりたつうちに一人前いちにんまへひとになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それから三月みつきほどたつと、おじいさんのおかみさんがきゅうにおなかが大きくなりました。そしてもなく男のあかんぼがまれました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ヨウさんが小半をひかせる事に話をきめ妾宅しょうたく普請ふしんに取かかったのはそれから三月みつきほど後のことである。その折の手紙を見ると
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうすると二月ふたつきでも三月みつきでも持ちます。それを使う時は水へ鮎を入れて南天なんてんの葉をぜておきますと二、三時間で塩が抜けます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
考えてみると四十日余りの不沙汰ぶさただ。開封かいほう東京とうけいといっては早くても二ヵ月余、もし天候にめぐまれなければ三月みつきは旅の空になる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨年の春より今年の春まで一年ひととせ三月みつきの間、われは貴嬢きみわるるままにわが友宮本二郎が上をしるせし手紙十二通を送りたり
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのときから、三月みつき日数ひかずがたったのであります。しじゅうからは、むべとかえでのことをおもして、んできたのでした。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
ああ、三月みつきぶりで聞く先生の声です。小林君は上気じょうきした顔で名探偵をじっと見ながら、いっそう、そのそばへよりそいました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから三月みつきほどして、ある日オーレンカは昼のお弥撒ミサから、しょんぼりと、大喪の服に身をつつんで家路を辿っていた。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
吉原土手で辻斬にあったやつがお鉄漿溝はぐろどぶの中へころげこんで、そこに三年三月みつきつかっていたというようなおんぼろ駕籠。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その意正しき意より成る、されど彼はこの三月みつきの間、乘るを願ふものあれば、うけがひて皆これを載せたり 九七—九九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
『だんだんよくなるよ。三月みつきまえも医者がまたさじを投げた。だが母親がまたすくった。いや、あれはふしぎな母親だよ。ミリガン夫人ふじんという女は』
時には三月みつき、酒屋、米屋、家賃に窮するからで、彼はシルシ半纏ばんてんがいちばんおそろしいのは、東京の四方八方に転々彼を走らせるいくらでもない借金が
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
むねつかへのやまひしやくにあらねどそも/\とこつききたるとき田町たまち高利こうりかしより三月みつきしばりとて十ゑんかりし、一ゑん五拾せん天利てんりとてりしは八ゑんはん
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あなたは初めの三月みつきは些っとも嘘を仰有らなかったわ。けれども四月目からチョク/\私をおだましになりましたよ。
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
計一 一と月に一度が、二月に一度になり……最近はもう、三月みつき、いや、あれや四月の初めに顔を出したつきりぢやないか。お前が行つたのは何時だ?
歳月 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
化物だか幽霊だか知りませんが、升屋では三月みつきほど前から変なものが出て、奉公人が居着かなくて困るそうですよ。
「もうあとの三月みつきばかりなど、すぐ立ってしまいましょう」私はいつもの冷やかな、突っ放すような調子で言った。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
こんな問答を最初は月に一二返ぐらい繰り返していたが、のちには二月ふたつきに一返になり、三月みつきに一返になり、とうとう
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女に心の平和を与へて、ふつくりした情緒に生きることを訓練しようと思つて、この三月みつきが間いろいろ苦心をして来たが、それが何程の効果もないらしい。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
寄越したりしてゐたのに、二月ふたつき三月みつきも家を離れてゐるんだもの。祖母さんが夜も眠れないほどに案じてゐるのは無理はないわね。貴女さう思はなくつて?
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
また一束押しこんだがそのとおりで、それから、もう一束もう一束と思ううちに、三月みつきがほどかかって刈り溜めた柴をことごとくその穴に入れてしまった。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
かんざしを取って授けつつ)楊弓ようきゅうを射るように——くぎを打って呪詛のろうのは、一念の届くのに、三月みつき五月いつつき、三ねん、五年、日と月とこよみを待たねばなりません。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医者が三月みつきと宣告したんだから、りきんでも踏反ふんぞり返っても三月経てばゴロゴロッとたん咽喉のどひっからんでのお陀仏様だぶつさま——とこう覚悟して置かにゃ虚偽うそだよ
むろん頭山満も貧乏の天井を打っている時分だ。俺にも相談だけはしてくれたが、三月みつきしばり三割天引という東京切ってのスゴイ高利貸連を片端かたっぱしから泣かせて
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おれをひがませようっていうのか。大体ふだんから、そういうところが見える。おれは三月みつきも両親のそばを離れていると、もう会いたくってしょうがないんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
……しかもこの三月みつきのあひだ、遠くもないF高原を一ぺんも訪ねずにゐたのには、ほかに訳があつたのだ。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
およ其処そこ二月ふたつき三月みつき通うたけれども、どうにも暇がない。とてもこんな事では何も覚えることも出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
女の子一人きりでは余りさびしく感じていたので、そうであってくれればよいがと願うところから、三月みつきになったら念のためにて貰う積りではいたのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同じような仕事の続いて出ていた三月みつきばかりは、それでもまだどうかこうかやって行けたが、月が四月へ入って、ミシンの音が途絶えがちになってしまってからは
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
和田もお銭を入れてくれと云ひ出しました。これも必然の結果のやうに私は思つてゐました。その三月みつき程のうちに私は心理的にいろ/\の経験をしました。ある日
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二月ふたつき三月みつきとたつうちに、まるまる肥ってくるうちに、子供に対する私の愛は俄に深くなっていった。
理想の女 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
三月みつきも経た後であった。マリユスはもうそこへ行ってはいなかった。マリユスはそこにいなかった。
一家を挙げて秋の三月みつきを九州から南満洲、朝鮮、山陰、京畿けいきとぶらついた旅行は、近づく運命をかわそうとてののたうち廻りでした。然しさかずき否応いやおうなしに飲まされます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
維康柳吉これやすりゅうきちといい、女房もあり、ことし四つの子供もある三十一歳の男だったが、い初めて三月みつきでもうそんな仲になり、評判立って、一本になった時の旦那だんなをしくじった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わらはが隣の祖母様ばばさまは、きつい朝起きぢやが、この三月みつきヶ程は、毎朝毎朝、一番鶏も啼かぬあひだけしい鳥の啼声を空に聞くといふし、また人の噂では、先頃さきごろ摂津住吉の地震なゐ強く
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
この町へ来てもう三月みつき近くになる。終戦にはなつたが、このさき日本がどうなるのか分らないやうに、私達の身の振り方も、どうすればよいのか、皆目かいもく見当が付かなかつた。
野の墓 (新字旧仮名) / 岩本素白(著)
医員もえ、看護婦も多数い、女中が来、乳母が来、書生や下男げなんが殖えて、私が静岡の親を顧みるのも、二月ふたつきに一度、三月みつきに一度……この頃はまことにまれになってきました。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三月みつき越の母の看病で、月も五月の末やら六月の始めに入ったのやらまるで夢中に過しました。けれども兎に角夏の始めの闇の夜空です。墨の中に艶やかな紺が溶かし込れています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうでなければ大昔神に仕えた清い女が、泉のほとりに忌機殿いみはたどのを建てて、三月みつき二月ふたつきその中に忌籠いみごもりして、神の衣を織っていたという伝説は、これを理解することができぬのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うちへ帰ってからその主人は、三月みつきほどわずらいました。わずらったなり死んでしまいました。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
十日、三月みつき、一年、二年、ただ、そのようにして笠井さんは進んだ。まっくら闇に生きていた。進まなければならぬ。死ぬのが、いやなら進まなければならぬ。ナンセンスに似ていた。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「蓄めで置きてえのは山々だどもよ。ふんだが、馬を買うのにあ、三月みつき四月よつきも、飲まず食わずに稼がなくちゃなんめえぞ。馬も欲しいが、生命いのちも欲しいから、なんとも仕方ねえよ。」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ついぞ家人に訊ねた事もなく、如何どうも解らなかったが、毎日早朝から丁度ちょうど巡査の様な服装をして、出て行って、夜にはいって帰って来るので、自分が其処そこに居たのも三月みつきばかりの間だったが
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「そんなにいそいで約束をあそばないで、もう三月みつきほど、待たせなさいまし。」
底の流は人知れず湧き立つまでの胸の思を、忘るゝとには無きふた月、三月みつき