一言いちげん)” の例文
鹿島さんの再び西洋に遊ばんとするに当り、活字を以て一言いちげんはなむけす。あんまりランプ・シエエドなどに感心して来てはいけません。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日出雄少年ひでをせうねん二名にめい水兵すいへいもくして一言いちげんなく、稻妻いなづま終夜よもすがらとうしにえたので餘程よほどつかれたとえ、わたくしかたわらよこたはつてる。
そうしてその力が私にお前は何をする資格もない男だとおさえ付けるようにいって聞かせます。すると私はその一言いちげんすぐぐたりとしおれてしまいます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
およそ学問の道は、六経りくけいを治め聖人せいじんの道を身に行ふを主とする事は勿論もちろんなり。さてその六経を読みあきらめむとするには必ず其一言いちげん一句をもつまびらかに研究せざるべからず。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天明時代の役者絵を論ずるに先立ちてここに一言いちげんすべきは劇場内外の光景を描ける風俗的景色画けいしょくがのこととす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一言いちげんにしてくせば、自分の昵近じっこんな人の間に何か不吉なことがあると、それが必らず前兆になって現われる。いかなる前兆となって現われるかというに叩く音!
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
このさい一言いちげんして必要ひつようのあることは地震ぢしん副原因ふくげんいんといふことである。すなは地震ぢしんおこるだけの準備じゆんび出來できてゐるとき、それを活動かつどうてんぜしめる機會きかいあたへるところの誘因ゆういんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
これ一言いちげんすれば——西洋日進の書を読むことは日本国中の人に出来ない事だ、自分達の仲間にかぎっ斯様こんな事が出来る、貧乏をしても難渋をしても、粗衣粗食、一見かげもない貧書生でありながら
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
書房ふみやすかさずこの船人の脇艪わきろを押す事を許されたりとて、自己おのれをして水先見よと乞うて止まねば、久しく採らぬ水茎みずぐき禿ちびたるさおやおら採り、ソラ当りますとの一言いちげん新版発兌しんぞおろしの船唄に換えて序とす。
彼の為人ひととなりを説明するのがこの話しの目的ではないから、別に深入りはしないが、例えば上田秋成の「雨月うげつ物語」の内で、どんなものを彼が好んだかということを一言いちげんすれば、彼の人物がよくわかる。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一言いちげんあたかも百雷耳にとどろく心地。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一言いちげんでそれは述べられる。
ここにちょっと敵の策略について一言いちげんする必要がある、敵は主人が昨日きのう権幕けんまくを見てこの様子では今日も必ず自身で出馬するに相違ないと察した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕のこのげん所以ゆゑんは、渋沢しぶさは子爵の一言いちげんより、滔滔たうたうなんでもしやべり得る僕の才力を示さんが為なり。されどかならずしもその為のみにはあらず。同胞よ。
ここに一言いちげんすべきはゴンクウルが遺品競売の全金額はその遺書に基き親族の反対ありしにもかかはらずやがてゴンクウルアカデミイ(私立文芸院)設立の基本財産となりぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かくも、けつして他國たこくにはわたすまじきこの朝日島あさひじま占領せんりようをば、いまより完全くわんぜん繼續けいぞくして、櫻木大佐等さくらぎたいさら立去たちさつたあといへども、うごかしがた確證くわくしようとゞめ、※一まんいち他國たこく容嘴ようしする塲合ばあひには、一言いちげんした
一言いちげんで云えば、Autonomieオオトノミイ である。それを公式にして見せることは、イブセンにも出来なんだであろう。とにかくイブセンは求める人であります。現代人であります。新しい人であります
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから断頭吏だんとうりの歌をうたっておのぐところについて一言いちげんしておくが、この趣向は全くエーンズウォースの「倫敦塔ロンドンとう」と云う小説から来たもので
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されど多士済々せいせいたる日本文壇、いまだこの人が等身の著述に一言いちげんの紹介すら加へたるもの無し。文芸あに独り北欧の天地にのみ、オウロラ・ボレアリスの盛観をなすものならんや。(一月二十五日)
けれど、わたくし大佐たいさいま境遇きやうぐういては、一言いちげんとひはつしなかつた。差當さしあたつてたづねる必要ひつようく、また容易ようゐならざる大佐たいさ秘密ひみつをば、輕率けいそつひかけるのは、かへつれいしつするとおもつたからで。
私がKに向って新しい住居すまいの心持はどうだと聞いた時に、彼はただ一言いちげん悪くないといっただけでした。私からいわせれば悪くないどころではないのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一口ひとくちでいうと、彼らは本当の母子ではないのである。なお誤解のないように一言いちげんつけ加えると、本当の母子よりもはるかに仲の好い継母ままはは継子ままこなのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二王子幽閉の場と、ジェーン所刑の場については有名なるドラロッシの絵画がすくなからず余の想像を助けている事を一言いちげんしていささか感謝の意を表する。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何だか、構えている向うの体面を、わざと此方こっちから毀損きそんする様な気がしたからである。その上金の事に付いては平岡からはまだ一言いちげんの相談も受けた事もない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴方あなたひとたいしてまないことをしたおぼえがある。そのつみたゝつてゐるから、子供こどもけつしてそだたない」とつた。御米およねこの一言いちげん心臟しんざう射拔いぬかれるおもひがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたは人に対してすまない事をしたおぼえがある。その罪がたたっているから、子供はけっして育たない」と云い切った。御米はこの一言いちげんに心臓を射抜かれる思があった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども斯う単簡に聞かれたときに、うして此複雑な経過を、一言いちげんで答へ得るだらうと思ふと、返事は容易にくちへはなかつた。あには封筒のなかから、手紙をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもこう単簡たんかんに聞かれたときに、どうしてこの複雑な経過を、一言いちげんで答え得るだろうと思うと、返事は容易に口へは出なかった。兄は封筒の中から、手紙を取り出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎には此一言いちげんが非常に嬉しく聞えた。女はひかきぬてゐる。先刻さつきから大分だいぶたしたところを以て見ると、応接ためにわざわざ奇麗なのに着換へたのかも知れない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こちらでは喋舌しゃべらないつもりに、腹の中できめてかかったのであるが、婆さんのこの一言いちげんに、ぼんやりした自分の頭が、相手の声に映ってちらりと姿を現わしたような気がしたので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それだから吾輩はこの運動を称して松滑りと云うのである。最後に垣巡かきめぐりについて一言いちげんする。主人の庭は竹垣をもって四角にしきられている。椽側えんがわと平行している一片いっぺんは八九間もあろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎にはこの一言いちげんが非常にうれしく聞こえた。女は光る絹を着ている。さっきからだいぶ待たしたところをもってみると、応接間へ出るためにわざわざきれいなのに着換えたのかもしれない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何だか、かまへてゐる向ふの体面を、わざと此方こつちから毀損する様な気がしたからである。其上そのうへかねの事にいては平岡からはまだ一言いちげんの相談も受けた事もない。だから表向おもてむき挨拶をする必要もないのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)