鳥渡ちよつと)” の例文
られる都合つがふならばまたいままでのやうにお世話せわりにまする、るべくは鳥渡ちよつとたちかへりにぐも出京しゆつけうしたきものとかるくいへば
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
面白おもしろかつたり、つらかつたり………しかし女にやア不自由しねえよ。」きちさんは鳥渡ちよつと長吉の顔を見て、「ちやうさん、君は遊ぶのかい。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私よりも何か 候得ども、何分御聞の通英国さわぎにて、どうもひまなく 失敬 今日も鳥渡ちよつと 残念ニ存何レ近〻参上仕候。謹言
私は鳥渡ちよつと身じまひを直して、それから自分が飽く迄無邪気を装ひ得るといふ大なる自信の下に、襖の引手をするりと引いた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
んなもんですか……苦労しに東京に行くやうなものかも知れませんよ。年寄に子供、力になるのはつねばかりですから』主婦は鳥渡ちよつと考へて
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
三四郎は鳥渡ちよつと振り返つて、一口ひとくち女にどうですと相談したが、女は結構だと云ふんで、思ひ切つてずつと這入つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何気なささうな口調で、シャッタアの切りかたを鳥渡ちよつとたづねてみてから、わななきわななき、レンズをのぞいた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
おたあちやんは、もう飽き飽きして『帰りませう、帰りませう』と云ひましたが、おきいちやんは『もう鳥渡ちよつと、もう鳥渡』と云つて矢張り摘んでゐました。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
庄吉 (再び障子をあける)先生、これから沼津の段の口を鳥渡ちよつとお聽きに入れます。(障子をしめる)
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
亞尼アンニー鳥渡ちよつと使つかひにましたとき波止塲はとばのほとりではからずも、たえひさしきその出會であつたのです。
おもてにん養育やういく萬人にかしづかれ給ふと御頼母おたのもしくも愛度めでたく鳥渡ちよつとうらなまゐらせ候あなかしこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『もんだいに』と云ふと、話しは大きくなるが、鳥渡ちよつとした言葉のはしくれにも
日本趣味映画 (新字旧仮名) / 溝口健二(著)
そして、その友人とは、古くから知つてゐる同窓だが、手紙の上ばかりで、實際はもう十年足らずも會はなかつたのを、渠が樺太へ渡る前に鳥渡ちよつと立ち寄つて、その住まひは承知してゐた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「幾個ツて……」を風早學士は、鳥渡ちよつとまごツきながら、「一ツで可いんだ。」
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さういふ考へをもつことは俳句道のために鳥渡ちよつと困る問題であるから、それを突き破つてなにが俳句が老成者の文学でないか、むしろ俳句ほど若々しい文学は他にないことを、私は述べたいのである。
俳句は老人文学ではない (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
鳥渡ちよつと人好きはよくないかも知らんが極く無口な柔順おとなしい男で、長く居るだけ米国の事情に通じて居るから、事務上には必要の人才じんさいだ。』
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
京にハ三十日もおり候時ハ、すぐ長崎へ庄次郎もともにかへり候間、其時ハかならず/\下関鳥渡ちよつとなりともかへり申候。御まち被成度候。
成るべくは鳥渡ちよつとたち歸りに直ぐも出京したきものと輕くいへば、それでもあなたは一家の御主人さまに成りて采配をおとりなさらずは叶ふまじ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼はそれを読んだ時、鳥渡ちよつと一種の憤激に近いものを心に起した。が併しそれはすぐ消えて、あとには苦笑となり、次いで晴れやかな微笑へ推移した。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
竹藪の鳥渡ちよつと途絶とだえた世離よばなれた静かな好い場所を占領して、長い釣竿を二三本も水に落して、暢気のんきさうに岩魚いはなを釣つて居るつばの大きい麦稈むぎわら帽子の人もあつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたくしこのみなと貿易商會ぼうえきしやうくわい設立たて翌々年よく/\としなつ鳥渡ちよつと日本につぽんかへりました。其頃そのころきみ暹羅サイアム漫遊中まんゆうちゆううけたまはつたが、皈國中きこくちゆうあるひと媒介なかだちで、同郷どうきやう松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさいもとつまめとつてたのです。
つれさきへ東町の自身番へいつて淺草三間町の虎松をよんおけおれは坂本へ鳥渡ちよつとまはつてゆくからと申付て立出れば手先てさき幸藏かうざうは脇差を風呂敷ふろしきつゝみ治助を同道して東町の自身番じしんばんへ來り虎松とらまつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鳥渡ちよつとお耳に入れました通り、小石川の伯母御様が御媒介で、どこやらの御屋敷から奥様がお輿入こしいれになるかも知れぬといふお噂、あけても暮れてもそればつかりが胸につかへて……。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
單に是だけの藝にしてもほかの小使には鳥渡ちよつとおいそれと出來はしない。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
家にはいるとミツはあん子の眼を見て、鳥渡ちよつと驚いたふうに言つた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
平岡が、失敬だが鳥渡ちよつとつて呉れと云つたあひだに、代助は行李こり長繻絆ながじゆばんと、時々とき/″\行李こりなかちるほそい手とを見てゐた。ふすまけた儘る様子もなかつた。が三千代の顔はかげになつて見えなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まだ色〻申上度事計なれども、いくらかいてもとてもつき不申、まあ鳥渡ちよつとした事さへ、此よふ長くなりますわ。かしこ/\。
ふくやいそいでお医者様いしやさまへおとつさんそこにつてらつしやらないでうかしてやつてださいりやうさん鳥渡ちよつと手拭てぬぐひ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あいにくなんにも無くつて………道了だうれうさまのお名物めいぶつだつて、鳥渡ちよつとおつなものだよ。」とはしでわざ/\つまんでやつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
音楽の技巧的鑑賞には盲目めくらだが、何となしに酔はされた感激から、急にまだ日の暮れぬ街路へ放たれた心持は、鳥渡ちよつと持つて行きどころがない感じだつた。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
鳥渡ちよつと見たところでも、文体の変化、これが第一に驚かれる。『色懺悔』などが迎へられた同じ文壇に、今日の整つた文体が出て来やうとは何うしても思はれない。
明治文学の概観 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
つぶし先生の大力實に天下てんか無双ぶさうならんと見て居たるに後藤はコレ彌助先刻さつきの代りに鳥渡ちよつと一本こゝろみようかと振上ふりあげければ彌助は大いに仰天ぎやうてんなし御免なされと云より早くおく目懸めがけ迯行にげゆきけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(起ちながら平九郎をみかへる。)平九郎、あとで鳥渡ちよつと來てくれ。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
龍ハ当時ハ病気にてけしてきづか気遣ハしき事なけれども、文などしたゝめ候ハ、誠にいやなれども鳥渡ちよつと御咄申上候。
私は鳥渡ちよつと急所に觸れられて、少し癪にも障つたが、それよりも大きな幸福の手前、何とも云はなかつた。今日は自分の方が勝利者だと思つてゐたからだ。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
千代ちいちやんひどく不快わるくでもなつたのかいふくくすりましてれないかうした大変たいへん顔色かほいろがわろくなつてたおばさん鳥渡ちよつと良之助りやうのすけこゑおどかされてつぎ祈念きねん
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
う今日では鳥渡ちよつと見られぬかと思ふ位な、妙な幇間ほうかん肌の属官や裁判所の書記どもが詰め掛けて来て、父の話相手、酒の相手をして、十二時過ぎで無ければ帰らない。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もう持つて来た酒を大抵飲み尽した爺さんは、『船頭さん、其処そこに行つたら鳥渡ちよつと寄せて下さいよ』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
角助 お孃樣、これで鳥渡ちよつとお休みなされては如何いかゞでございます。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
私は鳥渡ちよつとつらかつたが、気を取り直して快活に、「えゝ。今夜は三土会さんどくわいだから。鳥渡顔を出して来ます。」
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
千代ちいちやん鳥渡ちよつと見玉みたまみぎから二番目ばんめのを。ハア彼の紅ばいがいゝことねへと余念よねんなくながりしうしろより。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あゝさうですか。いま調しらべてませう。鳥渡ちよつとつてください。そこへ御掛おかけなさい。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
然ニ昨日鳥渡ちよつと申上候彼騎銃色〻手を尽し候所、何分手ニ入かね候。先生の御力ニより候ハずバ外ニ術なく御願の為参上仕候。何卒御願申上候。彼筒の代金ハ三十一両より三十三両斗かと存候。
『十四五の時分、行つたことがあるがね、一度……。この山の向ふは、小さい山ばかりで、丘が丘へと連つてゐて、それは鳥渡ちよつと面白い処だよ。温泉と言つても、沸かす湯は沸かす湯だけれど……』
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「へえ、今日も御用でこゝへ鳥渡ちよつとまゐりました。」
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
兎は、今迄あんなにぐつたりとしてゐた兎は、鳥渡ちよつと姿勢を整へて二三度弱い乍らも明白な跳躍を試みた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
部屋のひろさは鳥渡ちよつと見たところでは、正しく数字には出しにくいが、踊子の人数の多いときには、二十人を越すことがあつても、目白押しにそれだけの人数は入れられると云ふことで
勲章 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いろいろのひと鳥渡ちよつとかほせて直樣すぐさまつまらないことつて仕舞しまふのだ、傘屋かさやせんのお老婆ばあさんもひとであつたし、紺屋こうやのおきぬさんといふちゞれつひと可愛かあいがつてれたのだけれど
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何かさしあげ度候得ども、鳥渡ちよつとこれなく白がね金巾ママひとき一匹さしあげ候。
谷崎君の作は、深味、凄味などと言ふものが足りないが、内面的の作として鳥渡ちよつと異色がある。平凡でなかつた。孤月君の作は、理智に捉はれることを気にしてゐながら、矢張理智に捉へられてゐる。
初冬の記事 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)