餘波なごり)” の例文
新字:余波
いま餘波なごりさへもないそのこひあぢつけうために! そなた溜息ためいきはまだ大空おほぞら湯氣ゆげ立昇たちのぼり、そなた先頃さきごろ呻吟聲うなりごゑはまだこのおいみゝってゐる。
こは彼翁の娘なりき。少女はチプリイの酒を汲みて我に與へぬ。我がこれを飮みて、少女がことほぎをなしゝとき、その頬にはサロモ王の餘波なごりの血こそ上りたれ。
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あとも先もなければ何の事とも思はれず、又物爭ひの餘波なごりでは無きか、いつも言ふ通り年寄りの一徹に遠慮なき小言などを、心に懸けては一日の辛棒もなるまじく
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いふことが此世の餘波なごりなみだしめ枕邊まくらべは雨にみだれし糸萩いとはぎながれにしづむばかりなり然ば男乍をとこながらも吉兵衞は狂氣きやうきの如くなげきつゝかくまで妻のかほやせて昔にかはあはれさよとおつる涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しな手桶てをけよこたへたたけ天秤てんびんけてどかりとひざつた。ぐつたりつたおしなはそれでなくても不見目みじめ姿すがたさら檢束しどけなくみだれた。西風にしかぜ餘波なごりがおしなうしろからいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もやなかを、の三にんとほりすがつたときながいのとみじかいのと、野墓のばかちた塔婆たふばが二ほん根本ねもとにすがれた尾花をばなしろすがらせたまゝ、つちながら、こがらし餘波なごり
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
えぬものかぎりあればにや今日けふづらしくとびなきてあめ餘波なごりのきばのつゆあたらしくたま
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下に置き小娘に向ひかくひろき家に唯一人立ちはたらき給ふは昔しの餘波なごりいたましく思ふなり殊に病人の有る樣子に見受みうけしが其方そなたの父なるか母はいまさずや其方名は何んと申す今宵限こよひかぎりの宿ながら聞まほしと云ひければ娘はたちまなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
にしき面影おもかげめた風情ふぜいは、山嶽さんがく色香いろかおもひくだいて、こひ棧橋かけはしちた蒼空あをぞらくも餘波なごりのやうである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
餘波なごりいかにと訪ふ人もなく、哀れに淋しき主從三人は、都會みやこながらの山住居にも似たるべし
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふねのあること……帆柱ほばしら卷着まきついたあかくもは、夕日ゆふひ餘波なごりで、わにくち晩御飯ばんごはん注込つぎこむんだわね。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
姉なる人が全盛の餘波なごり、延いては遣手新造やりてしんぞが姉への世辭にも、いちやん人形をお買ひなされ、これはほんの手鞠代と、呉れるに恩を着せねば貰ふ身の有がたくも覺えず、まくはまくは
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あねなるひと全盛ぜんせい餘波なごりいては遣手新造やりてしんぞあねへの世辭せじにも、いちやん人形にんげうをおひなされ、これはほんの手鞠代てまりだいと、れるにおんせねばもらありがたくもおぼえず、まくはまくは
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
浮世うきよよくかねあつめて、十五ねんがほどの足掻あがきかたとては、ひとには赤鬼あかをに仇名あだなおほせられて、五十にらぬ生涯しようがいのほどを死灰しくわいのやうにおはりたる、それが餘波なごり幾万金いくまんきんいま玉村恭助たまむらけうすけぬしは
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)