風采ふうさい)” の例文
演説者は、青っぽいくすんだ色のセルに、黄色の角帯をキチンと締めた、風采ふうさいのよい、見た所相当教養もありそうな四十男であった。
白昼夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
風采ふうさいもごりっぱで、以前よりもいっそうお美しくお見えになる帝に院は御満足をお感じになり、頼もしさもお覚えになるのであった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浴衣ゆかたかみの白い老人ろうじんであった。その着こなしも風采ふうさい恩給おんきゅうでもとっている古い役人やくにんという風だった。ふきいずみひたしていたのだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この人もきっと会社の人で、上役が旅行をするのを見送りに来たのにちがいない。これはこの二人の風采ふうさいや態度を見くらべてもよくわかる。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
その当時宰相は権勢が非常に盛んであったが、その風采ふうさいは小翠の扮装にそっくりであったから、王給諌も小翠を真の宰相と思った。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「はあ。」男は苦笑して、「こんな恰好かっこうで、ごめん下さい。」見ると、木戸にいる時と同様、こん股引ももひきにジャケツという風采ふうさいであった。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
葉子の母が、どこか重々しくって男々おおしい風采ふうさいをしていたのに引きかえ、叔母は髪の毛の薄い、どこまでも貧相に見える女だった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
法師丸は弾正政高の年齢や風采ふうさいについて何の豫備智識も持っていないのだが、見たところその男の年は五十前後のように思われる。
この人たちは、特有な服装、特有な慣習、言葉、風采ふうさいをもっており、それが同業者のあいだにひろくゆきわたっているのである。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
漢の董仲舒とうちゅうじょが、ある日窓の幕を下ろし、なにか思索に耽っていると、突然来客があった。見ると立派な風采ふうさいで、半影まことに非凡である。
しゃもじ(杓子) (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
おのれえりがみをつかんでいるのは、二十七、八の小男であった。若い侍のくせに、髪を総髪そうはつにして後ろへ垂れ、イヤにもったいぶった風采ふうさい
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて明瞭はっきり彼は、相手らの風采ふうさいを見て取った。そしてにたりと笑った。表面は極めてあいそよくうなずいて来訪者を追っぱらった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
はじめてこの時少年の面貌風采ふうさいの全幅を目にして見ると、先刻さっきからこの少年に対して自分の抱いていた感想は全く誤っていて
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
音楽長は背の曲がった大きな老人で、白髯はくぜん尻尾しっぽのようにあごにたれ、り返った長い鼻をし、眼鏡をかけて、言語学者のような風采ふうさいだった。
名物男のガイドでシイ・※イ・ホテルの客引を兼ねた馬来マレイ人メラメデインが鈴木鼓村こそんに酷似した風采ふうさいをして見物を勧めに来る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
行懸ゆきがかり、ことばの端、察するに頼母たのもしき紳士と思い、且つ小山をばばが目からその風采ふうさいを推して、名のある医士であるとしたらしい。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いい得べくんば一の山師! それにさ風采ふうさいがまことによろしい。だまって坐っておられると、十万石のお大名でござんす」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同僚どうりょう上役うわやくの評判は格別いと言うほどではない。しかしまた悪いと言うほどでもない。まず平々凡々たることは半三郎の風采ふうさいの通りである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぼく子供心こどもごころにも此樣子このやうす不審ふしんおもつたといふは、其男そのをとこ衣服みなりから風采ふうさいから擧動きよどうまでが、一見いつけん百姓ひやくしやうです、純然じゆんぜんたる水呑百姓みづのみひやくしやうといふ體裁ていさいです
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
今日は七兵衛が笠もかぶらず、合羽も着ず、着流しに下駄穿きで、近在の世話人が、公事くじで江戸へ出向いて来たような風采ふうさい
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
松本の風采ふうさいなり態度なりが、いかにもそう云う階級の代表者らしい感じを、少し不意を打たれた気味の敬太郎に投げ込んだのは事実であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し店硝子みせがらすにうつる乃公だいこう風采ふうさいを見てあれば、例令たとえ其れが背広せびろや紋付羽織袴であろうとも、着こなしの不意気さ、薄ぎたない髯顔ひげがおの間抜け加減
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてヨブの所に来り見れば往日さきの繁栄、往日の家庭、往日の貴き風采ふうさい悉く失せて今は見る蔭もなく、身は足のうらよりいただきまで悪しき腫物はれものに悩み
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しきょうあのフォマのように、飾磨屋が客をつかまえて、隅田川へ投げ込んだって、僕は今見たその風采ふうさいほど意外には思わなかったかも知れない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
古風なひさし髪に一糸乱れず結び上げ、りゅうとしたお召、縫いのある黒地の帯、小柄だががっちりとみが入った風采ふうさい
子供さんがジフテリヤで、大変侘し気な風采ふうさいだったのをおぼえている。靴をそろえる時、まるで河馬かばの口みたいに靴の底が離れていたものだった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
小倉は、コーターマスターの中で、彼の一番愛していた従順な青年であり、頭脳もよく仕事もできる、その上風采ふうさいのいい、サッパリした男だった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
江戸演劇は戯曲よりもまず俳優を主とし、俳優の美貌びぼう風采ふうさいによりて常に観客の好劇心と密接の関係をたもたしむるものなれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その風采ふうさい餘程よほどちがつてるが相變あひかはらず洒々落々しや/\らく/\おとこ『ヤァ、柳川君やながはくんか、これはめづらしい、めづらしい。』としたにもかぬ待遇もてなしわたくししんからうれしかつたよ。
いかにも立派な武士らしい風采ふうさいをそなえて人品もいやしからぬと見うけましたので、お泊め申しあげたところ、その晩、たちのわるい高熱を出して
風采ふうさいは非常に特色があった——やせて背が高く、髪が真黒で、いつも無精ひげをのばしていた。彼はときどき乱暴をやり、しかも力持で通っていた。
台湾地方の熱い日に焼けて来た流浪者を前に置いて、岸本はまだこの人が大蔵省の官吏であった頃の立派な威厳のあった風采ふうさいを思出すことが出来る。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父の風采ふうさい身なりも祖父と大差なかつたから、私は父の来る日は、入学式の前晩泊つた街道筋の宿屋の軒先に朝から立ちつくして、そこで父をつかまへた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ベートーヴェンは風采ふうさいが上らないうえに、浮浪人と間違えられ、拘留されたことがあるほど粗野な様子をしていた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
しかし相手は、うさんくささうに、わしをじろじろと見てゐて、首を横に振りました。わしの風采ふうさいがみすぼらしいから、乞食こじきとでも思つたのぢやらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
その容子ようすといったら見るからが嫌な風采ふうさいで、私が法王の秘密用を帯びて居るといい出すとたちまちひしげて見悪みにくいほどお辞儀じぎばかりして居りましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その他の風采ふうさいをうち見たところ、ひと目に実直なりちぎ者ということがわかったものでしたから、当人には何もいわずに、すぐと駕籠の者に命じました。
……まあ、どうなすったの、ペーチャ? どうしてそんなに風采ふうさいが落ちたの? なんだってそうけなすったの?
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もとより今はうとは少しも予期しなかつたので、その風采ふうさいなども一目見るとかねて想像して居つたよりは遥かに品の善い、それで何となく気の利いて居る
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
若くて、風采ふうさいの立派な、情愛の深い父こそは、セエラにとってたった一人の肉親でした。父子ふたりはいつも一緒に遊び、お互にまたなきものと思っていました。
宗太郎の実父は私の母の従兄ですから、私もその風采ふうさいしって居ますが、ソレハソレハ立派なさむらいと申してよろしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
どうみても、寸分の隙のない風采ふうさいで、なんとなく貴族出の人のように思われるのだった。しかし、その上品な風采に似ずその青年はまるで落付きがなかった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
校長の紹介で講壇に立った文学士は堂々たる風采ふうさいをしていた。頭はいがぐりであったが、そのかわりに立派な漆黒なあごひげは教頭のそれよりも立派であった。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
席上は入乱れて、ここを先途せんどはげしき勝負の最中なれば、彼等のきたれるに心着きしはまれなりけれど、片隅に物語れる二人は逸早いちはやく目をそばめて紳士の風采ふうさいたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、そのうちにふと気がつくと、弁士が入替って、いま体躯たいく堂々たる巡査が喋りだそうとするところであった。正三はその風采ふうさいにちょっと興味を感じはじめた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
尤もこういう風采ふうさいの男だとは多少うわさを聞いていたが、会わない以前は通人つうじん気取りの扇をパチつかせながらヘタヤタラとシャレをいう気障きざな男だろうと思っていた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
三四間先きで、学生帽に絆纏着はんてんぎといふ風采ふうさいの小柄な中学生が、Aさんを見上げてキヨトンと立つてゐる。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
しなくなした前垂まえだれがけの鶴さんや、蝋細工ろうざいくのように唯美しいだけの浜屋の若主人に物足りなかったお島の心が、小野田のそうした風采ふうさいに段々惹着ひきつけられて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは更に上品な風采ふうさいをそなえた人で、色の浅黒い、眼つきの優しい、いわゆる貴公子然たる人柄で、はきはきした物言いのうちに一種の柔か味を含んでいて……。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
往事の書生が、なるべく外貌がいぼうを粗暴にし、衣はなるべく短くし、かみはなるべくくしけずらず、足はなるべく足袋たび穿かなかったような、粗暴の風采ふうさいはなさぬ人が多かろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)