頭巾ずきん)” の例文
ついているので、おばけとおもったのだよ。きっと、そうだよ。いくらさむくても、こっちでは、めったに、頭巾ずきんなんかかぶらないから。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
そっと帰って来て、行燈あんどんの下で頭巾ずきんを取ろうとした時にお銀様は眼がめました。醒めてこのていを見ると怪しまずにはおられません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
摘み集めながらうたう歌がおもしろいので、燕たちもうたいつれながら葡萄摘みのそでの下だの頭巾ずきんの上だのを飛びかけって遊びました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その頂きに灰色の霧の頭巾ずきんをつけることもあり、それが夕陽の最後の光をあびて、栄光の冠とまごうばかりにきらきらと光り輝くのだ。
と、心のひとつな婦人ばかりが結束して、頭巾ずきん簑笠みのかさに身をつつみ、命令の時間までに、鎮台へ行こうと誘い合せているのだった。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぞのものぞ、ここに木賃の国、行燈の町に、壁を抜出た楽がきのごとく、陽炎にあらわれて、我をふうするがごとき浅黄の頭巾ずきんは?……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巻煙草だのパイプだのをくわえたのや、頭巾ずきんをかぶったのや、無作法な嘲笑ちょうしょうを浮かべた頭が、そこからにょきにょき突き出された。
一人の男が防水布の外套を着て、頭巾ずきんをかぶって、角燈を腰にくくりつけたまま、大股で危く重心を取りながら、甲板を往来している。
重二郎も振返り/\出てきました。其の跡へ入って来たのは怪しい姿なりで、猫のひゃくひろのような三尺さんじゃくを締め、紋羽もんぱ頭巾ずきんかぶったまゝ
第三の頭巾ずきんは白とあい弁慶べんけい格子こうしである。眉廂まびさしの下にあらわれた横顔は丸くふくらんでいる。その片頬の真中が林檎りんごの熟したほどに濃い。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シャパロンてふ頭巾ずきんは十四世紀に始めて英国で用いられ、貴族男子や武士がかぶったが、十六世紀よりは中年の貴婦人が専ら用いた。
坊主ぼうずは、たてつけのわる雨戸あまどけて、ぺこりと一つあたまをさげた。そこには頭巾ずきんかおつつんだおせんが、かさかたにしてっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
磯五は、商売物の洒落た衣類をつけて、いつもの頭巾ずきんの下から、瀬戸物で作ったような、すべすべする美しい顔をのぞかせていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぼく証拠しょうこというのはね、ゆうべお月さまの出るころ、署長さんが黒い衣だけ着て、頭巾ずきんをかぶってね、変な人と話してたんだよ。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
暫らくすると女主人が入って来た。かなり老年の婦人で、急いで被ったらしい頭巾ずきんをつけて、頸にフランネルのきれを捲いていた。
頭巾ずきんをとっているので、豊な髪も、美しい顔もまる出しである。さっきの、異様な士官人形の正体は、この美少女であったのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その人形に黒い着物を着せ黒い頭巾ずきんまでかぶせ自分の児でも連れ歩くように風呂敷包の中に潜ませて岸本の許へ持って来て見せる程の節子
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして年か衰弱のせいのように傴僂せむしになっていて、頭巾ずきん附の大きな古びたぼろぼろの水夫マントを着ているので、実に不恰好ぶかっこうな姿に見えた。
裸身らしんの上へ、西陣織にしじんおりのようなもので作った、衣服をつけた。そして頭部を頭巾ずきんのようなもので包み、目ばかりを見せていた。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
というのは、早くもヴォローヂャが玄関さきにおり立って、赤くかじかんだ指さきで頭巾ずきんをほどきにかかっていたからだ。
少年たち (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二人ともに長い刀を一本打ち込んで、一人はこれ見よがしの唐犬とうけんびたいをうららかな日の光にさらしていた。一人はほうろく頭巾ずきんをかぶっていた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つまみよせたような眼の、キンカン頭の藤木さんは、俳諧はいかいでもやりそうな渋仕立しぶじたての道行き姿になって、宗匠頭巾ずきんのような帽子を頭にのせている。
「だが、いまさのやの離れ座敷には狐がいる」と彼は頭巾ずきんで顔を包みながらつぶやいた、「化かされないように気をつけろよ」
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
頭巾ずきん付きの外套がいとうを取り上げ、家の外に、道の上に、雲と静寂と夜との中に、冷たい星の下に、クリストフを連れ出した。
かすりの筒っぽに紫めりんすの兵児帯へこおび、おこそ頭巾ずきんをかぶった祖母に手をひかれてあるいていたそのころのわたしの姿をさびしく思い起すのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
こうかんがえて、弁慶べんけい黒糸くろいとおどしのよろいの上にすみぞめのころもて、しろ頭巾ずきんをかぶり、なぎなたをつえについて、毎晩まいばん五条ごじょうはしのたもとにっていました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この部屋の中で雪を人工的に作ろうというのであるが、その中で実験するには、勿論もちろん服も頭巾ずきんも手袋も靴もすっかり防寒用のものを用いるのである。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そうしてそこに落ちていた吉三郎の黒い頭巾ずきんをすぽりとかぶると、裕佐は再び風の吹きしきる表へ飛び出して行った。
指導者の頭巾ずきんの上には直径二インチ半で、糸を通す穴を二つあけた、やわらかい陶器の円盤があり、対手の円盤をたたき破るのが試合の目的である。
中には、赤い頭巾ずきんをかぶった女役者や半ズボンをはいた子供も、まじっていた。——すると、その連中が、突然声をそろえて、何か歌をうたいだした。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それがためにあわてて起きて帰ろうとしていた彭は、判官の捕卒のために縛られてその前へ引き出された。判官は黒い頭巾ずきんをつけて緑のほうを着ていた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから気分の悪いのを押して、彼女は頭巾ずきんをかぶって、自分と一面識のない船長ワトソンの家へ行って、ヴィール夫人がいるかどうかをまた尋ねた。
「やア、随分あるな。それだけありゃ、馬だって殺してやるぜ、——銭をくれた人かい、顔は判らなかったよ。この暑いのに、頭巾ずきんかぶった侍だったよ」
この構図があの場合におけるあの頭巾ずきんとあのシャツを着たあの三人のシチュエーションなりムードなりまたテンペラメントなりに実によく適合している。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
馬車は半町はんちょうもいかないうちにぴたととまってしまった。松次郎はあわてて跳びおりた。ほっぽこ頭巾ずきんからだけ出した馭者の爺さんがむちを持って下りて来た。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
司教職と枢機官職との間は一歩にすぎず、更に枢機官職と法王の位との間にはただいたずらなる投票があるのみである。頭巾ずきんの牧師は皆法王の冠を夢想し得る。
僕は寒さに震えながら、向いに腰かけているF君の防寒用にかぶっている防空頭巾ずきんの内にのぞいているその素直な眼差しに、ときどき思い出したように見入った。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
と、しゃの宗匠頭巾ずきんを被った、宝井其角きかくと云ういでたちで奥から現れた老人は、玄関まで送って出たお久と要とにそう云い残すと、白足袋の足に利久を穿いた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
赤毛布あかゲットにて作りたる半纏はんてんを着て、赤き頭巾ずきんかぶり、酔えば、町の中をおどりて帰るに巡査もとがめず。いよいよ老衰して後、旧里きゅうりに帰りあわれなるくらしをなせり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さればかの黒色こくしょく白色はくしょくとの強き対照によりて有名なる雪中相合傘せっちゅうあいあいがさの図の如きは両個りょうこの人物共に頭巾ずきんかぶれるがため男女の区別全く判明しがたきものとはなれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ましてその題が火燵こたつ頭巾ずきん火鉢ひばち蒲団ふとんたぐいなるにおいては読まずしてその句の陳腐なること知れ申候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
頭巾ずきんの色は古代紫。着物は黒地に乱菊模様の小紋ちりめん。羽織も同じ黒の無地、紋は三蓋松さんがいまつでした。
それから、のりをつけて洗ったまっ白な頭巾ずきんや、おもたいぎん装身具そうしんぐや、くさりなどもはいっていました。いまでは、こんなものを身につけようとする人はありません。
九蔵の久吉、浅黄あさぎのこくもちに白のおひずる、濃浅黄のやつし頭巾ずきんかぶり、浅黄の手甲てっこう脚半きゃはんにてせり上げの間後向うしろむきにしやがみ、楼門の柱に「石川や」の歌をかき居る。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
それで、大火となると、町家の騒ぎはいうまでもないが、諸侯だいみょうの手からも八方から御使番おつかいばんというものが、馬上で、例の火事頭巾ずきんを冠り、凜々りりしい打扮いでたちで押し出しました。
裏付股引うらつきももひきに足を包みて頭巾ずきん深々とかつぎ、しかも下には帽子かぶり、二重とんびの扣釼ぼたん惣掛そうがけになし其上そのうえ首筋胴の周囲まわり手拭てぬぐいにてゆるがぬよう縛り、鹿しかの皮のはかま脚半きゃはん油断なく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
月が十月へ入ってから、撒いておいた広告の著しい効験ききめで、冬の制服や頭巾ずきんつきの外套がいとうの註文などが、どしどし入って来た。その頃から工場には職人の数も殖えて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女はにんじんの顔さえ見れば立ち止まって、近視の、小さなずるそうな眼で彼をじろじろ見るのである。そして、黒い頭巾ずきんを動かしながら、何事かを捜し当てようとする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そんな軽口かるくちをきかれて、御自身ごじしんはいつもとどう一の白衣びゃくいしろ頭巾ずきんをかぶり、そしてながながい一ぽんつえち、素足すあし白鼻緒しろはなお藁草履わらぞうり穿いてわたくしきにたれたのでした。
装束は役柄どおり、弁慶格子半纒べんけいごうしはんてん浅黄絞小紋あさぎしぼりこもん木綿股引もめんももひき頭巾ずきん背割せわり羽織をもちいること。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)