電光いなびかり)” の例文
新吉は電光いなびかりの時に顔を見られないようにすると、其の野郎もらいが嫌いだと見えてく見る事も致しません。電光の後でくらくなると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と激したさまで、行燈あんどんを離れて、横ざまに幕の出入口に寄った。流るるような舞台の姿は、斜めに電光いなびかりさっと送られた。……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところでこの辺では昨夜の二時ちょっと前ぐらいから電光いなびかりがして一時間ばかり烈しい驟雨しゅううがあったんだが、その足跡は雨に濡れた形跡がない。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
青白い光線が、電光いなびかりのように『荒鷲』をおそった。だが、くやしいではないか。光がみじかく弱くて、『荒鷲』をうち落すことが出来ないのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
後醍醐もまだそちノ宮といっていた頃のお顔やら、あの人、この君など、数十年の宮廷生活が、回顧の電光いなびかりとなって、あたまのうちに、明滅する。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、あるときは、あちらのそら電光いなびかりがして、かみなりり、しばらくすると、くろくも野原のはらうえがって、雨風あめかぜおそい、あのをもみにもんだのです。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
七日、朝いとはやく起き出でて、自ら戸を繰り外の方を見るに、そらいと美わしく横雲のたなびける間に、なお昨夜の名残の電光いなびかりす。涼しき中にこそと、朝餉あさげ済ますやがて立出ず。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
栄一は特別に電光いなびかりが好きであつた。電光を凝視する時ほど栄一にはうれしい時がなかつた。
天井の何所かから電光いなびかりが差し込んで、続いて一方ならぬ雷が聞こえる、此の向きでは外では定めし風も吹いて居よう、雨も降って居よう、併し鉄と石とで堅めた室だけに雨風の音は分らぬが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
電光いなびかりのたびにちらりと見える甚右衛門の影と、互いに前後に呼び合う声とを頼りに、八丁堀合点長屋を先刻出た藤吉勘次彦兵衛の三人は、風と雨と神鳴りとが三拍子揃って狂う丑満うしみつ夜陰やみを衝いて
月の光の射した窓の障子に電光いなびかりのような青い光がきらきらと映った。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母親ははおやみみふさぎ、かくして、たり、いたり、しないようにしていたが、それでも、みみなかでは、おそろしい暴風あらしおとひびき、なかでは、まるで電光いなびかりのように、えたり、ひかったりしていました。
文三の顔をると、昇が顔で電光いなびかりを光らせた、けだ挨拶あいさつつもりで。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しとみげると、格子戸かうしどうへつた……それるか、せうふえごとかたちしたまどのやうな隙間すきまがあつて、電光いなびかりてらされる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのうちに雨も止み風も絶えて、湧き返る波の上の遠くに、電光いなびかりがするばかりとなりました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
菊花石あばたの顔を少しけわしくして、電光いなびかりのように、しきりと右の眼をしかめている様子。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
確かに先刻電光いなびかりが差し込んで、深く深く余の目に映じた其の階段に違いない、勿論アノ時は唯チラリと見た許りで、能くは見て取り得なんだ、けれど頗る様子が似た様に思われる、シテ見ると
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
すると遠くでゴロ/\と云う雷鳴で、ピカリ/\と時々電光いなびかりが致します。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
祖母と、父と、その客とことばを交わしたが、その言葉も、晃々きらきらと、震えて動いて、目を遮る電光いなびかりは隙間を射た。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云い掛けると清左衞門が顔でしきりに電光いなびかりをして居ります。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
青い電光いなびかりが大地の顔を見せた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖母そぼと、ちゝと、きやくことばはしたが、言葉ことばも、晃々きら/\と、ふるへてうごいて、さへぎ電光いなびかり隙間すきまた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母がまだ存生ぞんじょうの時だった。……一夏あるなつ、日の暮方から凄じい雷雨があった……電光いなびかり絶間たえまなく、雨は車軸を流して、荒金あらがねつちの車は、とどろきながら奈落の底に沈むと思う。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はゝがまだ存生ぞんじやうときだつた。……一夏あるなつ暮方くれがたからすさまじい雷雨らいうがあつた……電光いなびかり絶間たえまなく、あめ車軸しやぢくながして、荒金あらがねつちくるまは、とゞろきながら奈落ならくそこしづむとおもふ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暗夜あんやごと山懐やまふところを、さくらはなるばかり、しろあめそゝぐ。あひだをくわつとかゞやく、電光いなびかり縫目ぬいめからそらやぶつて突出つきだした、坊主ばうずつら物凄ものすさましいものである……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
瞬く間に立蔽たちおおう、黒漆こくしつ屏風びょうぶ一万枚、電光いなびかりを開いて、風に流す竜巻たつまき馳掛はせかけた、その余波なごりが、松並木へも、大粒な雨ともろともに、ばらばらと、ふな沙魚はぜなどを降らせました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまつさ辿たどむか大良だいらたけ峰裏みねうらは——此方こちらひとりむしほどのくもなきにかゝはらず、巨濤おほなみごとくもみね眞黒まつくろつて、怨靈をんりやう鍬形くはがた差覗さしのぞいてはえるやうな電光いなびかりやまくうつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
斎木(医師の姓)の御新造がうちを抜出し、町内を彷徨さまよって、疲れ果てた身体からだを、やしろの鳥居の柱に、黒髪をさっと乱したきぬうろこの、はだえの雪の、電光いなびかり真蒼まっさおなのが、滝をなす雨に打たれつつ
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人 このあたりは雨だけかい。それは、ほんの吹降りの余波なごりであろう。鷹狩が遠出をした、姫路野の一里塚のあたりをお見な。暗夜やみよのような黒い雲、まばゆいばかりの電光いなびかり可恐おそろしひょうも降りました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)