金屏風きんびょうぶ)” の例文
金屏風きんびょうぶ立てて在る奥の二階の部屋に案内された。割烹店は、お寺のように、シンとしていた。滝の音ばかり、いやに大きく響いていた。
デカダン抗議 (新字新仮名) / 太宰治(著)
門扉もんぴを開き、大玄関にはりんどうの紋のついた幕をめぐらし、正面に金屏風きんびょうぶをすえ、早朝には、城下の神社三ヵ所へ門人たちが代参して
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相応院の一間に、お雪ちゃんは炬燵こたつをこしらえ、金屏風きんびょうぶを立て廻して、そこに所在を求めながら、考えるともなしに考えさせられています。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
床の間の掛軸が、バラ/\と吹きまくられて、ね落ちると、ガタ/\とはげしい音がして、鴨居かもいの額が落ちる、六曲の金屏風きんびょうぶが吹き倒される。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが風にらぐと、反射でなめらかながけの赤土の表面が金屏風きんびょうぶのようにひらめく。五六じょうも高い崖の傾斜けいしゃのところどころに霧島きりしまつつじがいている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……替りには、刻限までだと、何時なんどきに口を掛けても、本人が気にさえ向けば、待つ間が花と云う内に、催促に及ばずして、金屏風きんびょうぶの前に衣紋をあらわす。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金屏風きんびょうぶを立て廻した演壇へは、まずフロックを着た中年の紳士が現れて、ひたいに垂れかかる髪をかき上げながら、撫でるようにやさしくシュウマンをうたった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
九時二十分頃、呂昇が出て来て金屏風きんびょうぶの前の見台けんだい低頭ていとうした。びきは弟子の昇華しょうか。二人共時候にふさわしい白地に太い黒横縞くろよこしま段だらの肩衣かたぎぬを着て居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その上に土蔵の中から取出された見事な花茣蓙ござが敷詰められて、やはり土蔵の奥から持出された古い質草らしい、暑苦しい土佐絵とさえ金屏風きんびょうぶが建てまわされた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
悪紙悪墨の中にきらめく奔放無礙の稀有けうの健腕が金屏風きんびょうぶや錦襴表装のピカピカ光った画を睥睨へいげい威圧するは
と、白襟しろえりすそ模様のある縫い紋を着たおさく師匠が、舞台の金屏風きんびょうぶの蔭から出て来てフリッツに云った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
住いが近くなったので、団子坂へのが繁くなります。観潮楼の広い二階は書斎と客室とになって、金屏風きんびょうぶが一双引いてありました。これも母の趣味なのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
わきには七宝入りの紫檀したん卓に、銀蒼鷹ぎんくまたかの置物をえて、これも談話はなしの数に入れとや、極彩色の金屏風きんびょうぶは、手を尽したる光琳こうりんが花鳥の盛上げ、あっぱれ座敷や高麗縁こうらいべりの青畳に
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
青竹を廻した木戸を入ると、中はすっかり土間で、正面の小さい舞台に畳を三枚ほど敷き、一双いっそう金屏風きんびょうぶをめぐらして、真ん中ほどのところに、三尺ばかりの台を据えまして
ちょうど金屏風きんびょうぶに銀でいた松の葉のようにそっと落ちているアルミニウムの留針ピン
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのせいでもなかろうが、容易に寝つかれない。橋本はもういびきをかいている。しかも豪宕ごうとうな鼾である。緞子どんす夜具やぐの中から出るべき声じゃない。ましてすその方には金屏風きんびょうぶが立て回してある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四条派ふうの金屏風きんびょうぶめぐらした中に、鏡台、化粧品置台おきだい丸火鉢まるひばちなどを、後や左右にして、くるりとこっちへ向直むきなおった貞奴は、あの一流のつんと前髪を突上げた束髪で、キチンと着物を着て
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鳰鳥のへやに立て廻わした金屏風きんびょうぶの蔭からその白萩と如来衛門とが現われた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
古い金屏風きんびょうぶをまわし、毛氈もうせんを敷いて、燭台しょくだいを二基。登は熨斗目麻裃のしめあさがみしも、まさをは白無垢むくに同じ打掛、髪は文金の高島田で、濃化粧をした顔は、人が違ったかと思われるほどおとなびてみえた。
この意味に於いて、総発売元は各支店へ戸棚二個、けやき吊看板二枚、紙張横額二枚、金屏風きんびょうぶ半双を送付する。よって、その実費として、二百円送金すべし。その代り、百円分の薬を無代進呈する。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ある日香以は松本交山を深川富が岡八幡宮はちまんぐうの境内に訪うて、交山が松竹を一双の金屏風きんびょうぶに画いたのを見た。これはそれがしが江戸町一丁目和泉屋平左衛門の抱泉州に贈らむがために画かせたものであった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そればかりか私の家なぞは祭りと言っても別段何をするのでもないのに引き替えて商家では稼業かぎょうを休んでまでも店先に金屏風きんびょうぶを立て廻し、緋毛氈ひもうせんを敷き、曲りくねった遠州流の生花を飾って客を待つ。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
彼女は金屏風きんびょうぶのところにあった座蒲団ざぶとんをすすめたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
眼の前の松の金屏風きんびょうぶをじっと眺めていましたが、鶏が鳴く声に驚かされて、さてと立ち上って、寝具をのべて——それは以前、机竜之助が隠れていて
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……黒髪のさっさばけたのが烏帽子の金に裏透いて、さながら金屏風きんびょうぶに名誉の絵師の、松風を墨で流したようで、雲も竜もそこから湧くか、とながめられた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、一歩大宮に入ると、のきごとに万燈まんどうをともし、幕をもって壁をかこい、花をけ、金屏風きんびょうぶをすえ、人はみな晴衣はれぎを着て、町中、大祭のような賑いであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて殿様のお鷹野たかのの時に、御休息所になったという十畳の離座敷はなれざしきは、障子が新しく張換はりかえられ、床の間に古流の松竹がけられて、びの深い重代の金屏風きんびょうぶが二枚建てまわしてある。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その前には鶴となみを一面に描いためでたい一双の金屏風きんびょうぶが立て廻してあった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その左右へは、新しい三色緞子さんしょくどんす几帳きちょうが下っている。うしろは、金屏風きんびょうぶをたてまわしたものらしい。うす暗い中に、その歩衝ついたてと屏風との金が一重ひとえいぶしをかけたように、重々しく夕闇を破っている。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを大阪から蘆屋まで運んで来るのは厄介やっかいであるから、蒔岡まきおか方では階下の二た間つづきの洋間の家具を取り払い、食堂のうしろに金屏風きんびょうぶを立てて其方を舞台にし、応接間の方を見物席として
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大伝馬町四丁目(この一町だけとおりはたご町)大丸呉服店にては一月一日表戸を半分おろして、店を大広間として金屏風きんびょうぶを立てまわし、元旦がんたん一日はおよそ(そのころで三百人以上)三、四百人の番頭
竪川筋の大名釣だいみょうづりは、置材木の上に金襴きんらん座蒲団ざぶとんを敷き、後ろに金屏風きんびょうぶを立てめぐらし、金銀象眼ぞうがんの畳竿に、当時の名妓の生毛いきげを釣糸とし、茶器のぜいを尽し、酒食の豪華を競い、印籠いんろうから練餌ねりえを出して
金屏風きんびょうぶとむきあった、客の脱すてを掛けた衣桁いこうもとに、何をしていたか、つぐんでいて、道陸神どうろくじんのような影を、ふらふらと動かして、ぬいと出たものがあった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その美しくて若い御方おんかたと、幼い姫たちは、かたわらにめぐらした金屏風きんびょうぶのうちに、可憐なかきつばたの花が、池のみぎわに群れ咲いているように、かたまり合っていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも見所けんじょは正面のほか左右両側面りょうそくめんにもあった。自分は玄関から左へ突き当って右へ折れて金屏風きんびょうぶの立ててある前を通って正面席に案内されたのである。自分の前には紋付もんつきの女が二三人いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
板倉はあの日、妙子が舞っている間始終レンズを向けて矢鱈やたらに撮っていたが、晩方、彼女が衣裳いしょうを脱ぐ前に又もう一度金屏風きんびょうぶを背にして立ってもらい、いろいろと姿態の注文を附けて、何枚も撮った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
桜の仲之町の道中も、仁和加にわかも見た。金屏風きんびょうぶを後にして、アカデミックな椅子いすに、洋装の花魁おいらんや、芝居で見るような太夫たゆうは厚いふきを重ねて、椅子の上に座り前に立派な広帯を垂らしているのを見た。
一つどぎもをぬいてやれと、それまで、お茶坊主役をつとめていた幇間たいこもちの連中が、金屏風きんびょうぶをとらせて、もう秋ではあったが、揃い浴衣ゆかた赤襷あかだすきで、かっぽれを踊って出た。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さっきも一度その(北国一)を大声でとなえて、裾短すそみじかすねを太く、しりを振って、ひょいと踊るように次のの入口を隔てた古い金屏風きんびょうぶの陰へ飛出して行ったのがこの女中らしい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金屏風きんびょうぶや作り花の軒が両側に見え、家先には、家じゅうこぞって晴着をきてむしろに平伏していた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金屏風きんびょうぶ引繞ひきめぐらした、四海しかいなみしずかに青畳の八畳で、お珊自分に、雌蝶雄蝶めちょうおちょう長柄ながえを取って、たちばなけた床の間の正面に、美少年の多一と、さて、名はお美津と云う、逢阪の辻、餅屋の娘を
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其から伯爵のかんざしを抜いて、意気込んで一振ひとふり振ると、……黒髪のさっさばけたのが烏帽子のきん裏透うらすいて、宛然さながら金屏風きんびょうぶに名誉の絵師の、松風をすみで流したやうで、雲も竜も其処そこからくか
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
馬も乗せ、金屏風きんびょうぶも乗せた。十八日のことである。目的は安土への移動だった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)