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逞
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たく
ふりがな文庫
“
逞
(
たく
)” の例文
死骸になつて居る左吉松は、『喧嘩』といふ
綽名
(
あだな
)
を取つて居るだけに、小造りではあるが、三十五六の、申分なく
逞
(
たく
)
ましい男でした。
銭形平次捕物控:219 鐘の音
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
今までにどこか罪な想像を
逞
(
たく
)
ましくしたという
疚
(
や
)
ましさもあり、また
面
(
めん
)
と向ってすぐとは云い
悪
(
にく
)
い皮肉な
覘
(
ねらい
)
を付けた自覚もあるので
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
客舍の前にはたけ
矮
(
ひく
)
く
逞
(
たく
)
ましげなる男ありて、車の去るを見送りたるが、手に持てる鞭を揮ひて鳴らし、あたりの人に向ひていふやう。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
一人の女の膝の上には、大きい年寄つたポインタ種の犬がその
逞
(
たく
)
ましい頭を休めてをり——も一人の前掛には黒猫が蔽はれてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
宮の背後から、ぬっと出て来たのは、筋骨
逞
(
たく
)
ましい村の若者であった。それは怪獣のような鋭い眼をして、繁りの青萱の中を睨みつめた。
壁の眼の怪
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
▼ もっと見る
それに引かえ僕の
弟
(
おとと
)
の
秀輔
(
ひですけ
)
は腕白小僧で、僕より二ツ
年齢
(
とし
)
が下でしたが骨格も父に
肖
(
に
)
て
逞
(
たく
)
ましく、気象もまるで僕とは
変
(
ちが
)
って居たのです。
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
夥
(
おびたゞ
)
しい庭石や
石燈籠
(
いしどうろう
)
の
類
(
るゐ
)
を積んだ大きな荷車を、
逞
(
たく
)
ましい雄牛に曳かして來るのにも逢つた。牛の口からは、だら/\と
涎
(
よだれ
)
が流れてゐた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
武士あがりの、
逞
(
たく
)
ましい顔の五郎蔵は、額からも頤からも汗をしたたらせ、火のような息をしながら、先頭に立って走っていた。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
室に入りて相対して見れば、形こそ旧に比ぶれば肥えて
逞
(
たく
)
ましくなりたれ、依然たる快活の気象、我失行をもさまで意に介せざりきと見ゆ。
舞姫
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
けたたましき
跫音
(
あしおと
)
して
鷲掴
(
わしづかみ
)
に襟を
掴
(
つか
)
むものあり。あなやと振返ればわが家の
後見
(
うしろみ
)
せる奈四郎といえる力
逞
(
たく
)
ましき叔父の、
凄
(
すさ
)
まじき
気色
(
けしき
)
して
竜潭譚
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
若者の心の中には、両方に刃のついた
剣
(
つるぎ
)
やら、水晶を
削
(
けず
)
った勾玉やら、
逞
(
たく
)
ましい
月毛
(
つきげ
)
の馬やらが、はっきりと浮び上って来た。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
年は三十四、五だろうか、色のくろい愚直そうな顔で、ちから仕事をした者に特有の、こごんだ
逞
(
たく
)
ましい肩と外へ曲った太い足とが眼立った。
泥棒と若殿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それも、
逞
(
たく
)
ましいファイトを持つて生きてゐるのだと思ふと、今度は、自分の方が、此の女に追ひ詰められさうな気がした。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
銀色の
楡
(
にれ
)
の大樹が
逞
(
たく
)
ましい幹から複雑な枝葉を大空に向けて爆裂させ、押し拡げして、澄み渡った中天の空気へ鮮やかな濃緑色を浮游させて居る。
決闘場
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
まさにこの地点で薄幸なアンドレは捕まったのであり、この栗や葡萄づるのかげに
逞
(
たく
)
ましい郷士たちが身をかくし、彼に不意打ちをくわしたのだ。
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
輕
(
かろ
)
き
服裝
(
ふくさう
)
せる
船丁等
(
ボーイら
)
は
宙
(
ちう
)
になつて
驅
(
か
)
けめぐり、
逞
(
たく
)
ましき
骨格
(
こつかく
)
せる
夥多
(
あまた
)
の
船員等
(
せんゐんら
)
は
自己
(
おの
)
が
持塲
(
もちば
)
/\に
列
(
れつ
)
を
作
(
つく
)
りて、
後部
(
こうぶ
)
の
舷梯
(
げんてい
)
は
既
(
すで
)
に
引揚
(
ひきあ
)
げられたり。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
そして、剣技と、士魂とを、一松斎や孤軒から
訓
(
お
)
しえこまれて、その敵が、多ければ多いほど、心を
逞
(
たく
)
ましくすべきだということを覚悟している。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
それとは直角に
七葉樹
(
しちようじゅ
)
の並木が三列に植えられ、既に盛り上がるように
沢山
(
たくさん
)
の花の芽を持っている。どれもこれも六七十年の
逞
(
たく
)
ましい
喬木
(
きょうぼく
)
であった。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
金眸が
髭
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
をはらひ、
阿諛
(
あゆ
)
を
逞
(
たく
)
ましうして、その威を仮り、
数多
(
あまた
)
の
獣類
(
けもの
)
を害せしこと、その罪
諏訪
(
すわ
)
の湖よりも深く、また
那須野
(
なすの
)
が
原
(
はら
)
よりも
大
(
おおい
)
なり。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
久「いゝえ桜川の庵室に居ったから、それを姓として櫻川又市というので、
面部
(
かお
)
に疵があり、えゝ年は四十一二で、立派な
逞
(
たく
)
ましい
骨太
(
ほねぶと
)
の剛い奴で」
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
逞
(
たく
)
ましい喉の動きを呆然とみつめながら、まるで、あっという間に自分が彼の喉を通り、彼の中に
嚥
(
の
)
みこまれてしまったようなはげしい惑乱をおぼえた。
菊
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
まして
筋骨
(
きんこつ
)
の
逞
(
たく
)
ましい、
武家育
(
ぶけそだ
)
ちの
私
(
わたくし
)
の
良人
(
おっと
)
などは、三
度
(
ど
)
の
食事
(
しょくじ
)
を一
度
(
ど
)
にしてもよい
位
(
くらい
)
の
熱心
(
ねっしん
)
さでございました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
彼はあくまで
逞
(
たく
)
ましき野心を有せり、彼の二十年来大いに為す所なきは、為さんと欲するの機会を待ちたるなり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
既に藤の花も散り、あのじめじめとした
悒鬱
(
ゆううつ
)
な梅雨が明けはなたれ、藤豆のぶら下った棚の下を、
逞
(
たく
)
ましげな熊ン蜂がねむたげな羽音に乗って飛び交う……。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
と、その
度
(
たび
)
ごとに担ぎ手の腕が一斉に高く上へ伸びきると、
逞
(
たく
)
ましい万豊の体躯は思い切り高く
抛
(
ほう
)
りあげられて、その都度空中に様々なるポーズを描出した。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
わたしのこうした空想はだんだんに
逞
(
たく
)
ましくなって、その晩の夢に、かのダイヤモンドのきらめく手と、腕環のかがやく腕とを、ありありと見るようになった。
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
かなしみに
耄
(
ぼ
)
けてしまった初老の女は、
逞
(
たく
)
ましい男にうしろをかかえられ、夜風の戸外に連れだされた。その跡にはかみしも姿の高倉祐吉がぴたりと坐っていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
一進一退、
裏
(
うら
)
むき
表
(
おもて
)
むき、立ったり
蹲
(
しゃが
)
んだり、黒紋付の袖からぬっと出た
逞
(
たく
)
ましい両の手を
合掌
(
がっしょう
)
したりほどいたり、真面目に踊って居る。
無骨
(
ぶこつ
)
で中々
愛嬌
(
あいきょう
)
がある。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
表現派や立体派の求めるところは、鉄と機械によってがっしりと造られている、骨骼の
逞
(
たく
)
ましいリズミカルのもの、即ちクラシックの形式詩体でなければならない。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
筋骨
逞
(
たく
)
ましい
大兵
(
だいひょう
)
肥満の
黒々
(
くろぐろ
)
した巨漢と
振袖然
(
ふりそでぜん
)
たる長い羽織を着た薄化粧したような美少年と連れ立って行くさまは弁慶と牛若といおう
乎
(
か
)
、
髯奴
(
ひげやっこ
)
と
色若衆
(
いろわかしゅう
)
といおう乎。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
あの
傍
(
そば
)
じゃ、おれが、誰やらん
逞
(
たく
)
ましき、敵の大将の手に
衝
(
つ
)
き入ッて騎馬を三人打ち取ッたのは。
武蔵野
(新字新仮名)
/
山田美妙
(著)
数日の後、長羅の顔は
蒼白
(
あおじろ
)
く
痩
(
や
)
せたままに輝き出した。そうして、
逞
(
たく
)
ましく前に
蹲
(
かが
)
んだ彼の長躯は、
駿馬
(
しゅんめ
)
のように兵士たちの間を馳け廻っていた。出陣の用意は整った。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
まどろむこと一瞬間、焚火も全く消えた、一個の
逞
(
たく
)
ましい木像と、一個の冷たい大理石像と、小舎の中に横わる、一は依然として動かないのに、一は
蠢
(
うご
)
めいて待つものあり。
奥常念岳の絶巓に立つ記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
娘たちは
醜
(
みに
)
くかったが、父親に似て色の白いのや、母親似で太く
逞
(
たく
)
ましいので、とにかく四隣を圧し、押えに番頭さんの女房である
痩
(
や
)
せた、ヒョロヒョロの青黄ろい、
皺
(
しわ
)
の多い
旧聞日本橋:23 鉄くそぶとり(続旧聞日本橋・その二)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
非常に
逞
(
たく
)
ましい意志をもち、しかもその意志の蔭に人一倍に繊細な神経をひそめていた
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
可成
(
かなり
)
逞
(
たく
)
ましい赤黒い腕が、たくし上げた縞のシャツの袖口からくゝられたやうに出て見えた。人々は何をするのかと思つてその赤い腕とその上に載せられた白い大根とを見比べた。
手品師
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
然れども、犯人は相当の学識あり、麻酔剤の使用に慣れ、思慮深く、且つ腕力
逞
(
たく
)
ましからざる者なる事、及び犯行が呉一郎に及ぶ事を好まざりし者なる事を推測し
得
(
う
)
べし。(中略)。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
我我の棲息する陸地をば
総
(
すべ
)
て皆光明の網を以て手許へ引き寄せようとする海上の日と見える。太陽と云ふ大力のその男は
逞
(
たく
)
ましい裸体で、健康さうな赤い皮膚を持つてゐると作者は見た。
註釈与謝野寛全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
それが全く私の
邪推
(
じゃすい
)
で、娘時代の理想に
良人
(
おっと
)
が高利貸に責められるというような事も想像しませんからただ驚きのあまり色々な邪推を起したのです。極端まで邪推を
逞
(
たく
)
ましくしたのです。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
下男はいわゆる
中間
(
ちゅうげん
)
で、年のころは二十四、五の見るから
逞
(
たく
)
ましそうな男ぶりであった。彼は型のごとくに一本の木刀をさして、何かの小さい風呂敷づつみを持って、素足に草鞋をはいていた。
鷲
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
老母の髪はもう白く、子は
逞
(
たく
)
ましいが、まだ十六、七歳にしか見えない。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
毛布を腰のあたりまで
剥
(
は
)
いで、ガーゼの寝間着一枚でいるのであるが、はだけた
襟元
(
えりもと
)
やまくれ上った
袖口
(
そでぐち
)
から見える胸や二の腕の
逞
(
たく
)
ましさなども変りはなく、ただ、
繃帯
(
ほうたい
)
が耳のところで十文字に
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
遁
(
のが
)
れんと胸中に
巧
(
たく
)
み
佞辯
(
ねいべん
)
を
震
(
ふる
)
ひけるを大岡殿は
猶
(
なほ
)
も心長く聞居られければ平左衞門は十分に
奸智
(
かんち
)
を
逞
(
たく
)
ましうし主税之助の
惡事
(
あくじ
)
を其の身に
引請
(
ひきうけ
)
主人を救ふ
體
(
てい
)
に見せ掛兎角私しの不調法故
此上
(
このうへ
)
は私しを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
逞
(
たく
)
ましい野良猫と思いの外、まだほんの小猫であった、少々案外の思いをして、よし/\此奴なら痛しめるほどのことはないと、有り合わせた肴の
屑
(
くず
)
をとって投げ与えると、恐る恐る近寄って来て
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
さほど瘠せてはおらず、骨組みの
逞
(
たく
)
ましい大きな男である。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
逞
(
たく
)
ましくゆかりあり気な一人の人物と見える
老将軍と大学教授
(新字新仮名)
/
今野大力
(著)
しかし何という
逞
(
たく
)
ましい女性なんだろう。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
雄誥
(
をたけ
)
ぶ夢ぞ
逞
(
たく
)
ましき、あはれ、
丈夫
(
ますらを
)
。
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
と二人は
逞
(
たく
)
ましい表情をした。
嫁取婿取
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
亭主の天童太郎は四十前後の立派な男で、背は低い方ですが、顏立ちも精悍で、筋骨の
逞
(
たく
)
ましさは、さすがに多年の
鍛
(
きた
)
へを思はせます。
銭形平次捕物控:265 美しき鎌いたち
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
逞
漢検1級
部首:⾡
11画
“逞”を含む語句
不逞
不逞々々
不逞不逞
百逞
不逞団
不逞漢
不逞群衆
不逞鮮人
勢逞
口髭逞
林逞策
逞野心
骨逞