ゆた)” の例文
旧字:
けれども、人びとは、この平野がゆたかで、親切しんせつなのに、満足まんぞくしたものでしょう。できるだけこれをかざりたててやろうとしました。
さてあるばんわたしたちは川に沿ったゆたかな平野の中にある大きな町に着いた。赤れんがのみっともない家が多かった。
忠相はただ、まわりのすべてを受け入れ、うなずいて、あらゆる人と物に微笑みかけたいゆたかなこころでいっぱいだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
俸給がゆたかでなくって、やむをえず素人屋しろうとやに下宿するくらいの人だからという考えが、それで前かたから奥さんの頭のどこかにはいっていたのでしょう。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「たいへん、あなたたちは、ゆったりとしていられますが、気候きこうがいいからでしょうか。それともかねがあって、ゆたかなためでしょうか?」と、いました。
船でついた町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
トム公の母親は、このイロハ長屋にあっては、どうかしてできた一つぶの天然真珠のように、若くて、美しくて、この細民窟のすべての人にない常識がゆたかであった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤太とうだがね三井寺みいでらおさめて、あとの二品ふたしないえにつたえていつまでもゆたかにらしました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その二千兩は、お旗本の神津右京かうづうきやう樣が預つた大公儀の御用金だ。神津右京樣は二千五百の大身だが、日頃ゆたかな方でないから、二千兩はおろか差迫つては二百兩の工面もむづかしい。
祖父おほぢ播磨はりま一四赤松に仕へしが、んぬる一五嘉吉かきつ元年のみだれに、一六かのたちを去りてここに来り、庄太夫にいたるまで三代みよて、一七たがやし、秋をさめて、家ゆたかにくらしけり。
田舎では、ゆたかな生計くらしうちでも、むすめを東京に奉公に出す。女の奉公と、男の兵役とは、村の両遊学りょうゆうがくである。勿論弊害もあるが、軍隊に出た男はがいして話せる男になって帰って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それ其筈そのはづ実家さと生計向くらしむきゆたかに、家柄いへがら相当さうたうたかく、今年ことし五十幾許いくつかのちゝ去年きよねんまで農商務省のうしやうむしやう官吏くわんりつとめ、嫡子ちやくし海軍かいぐん大尉たいゐで、いま朝日艦あさひかん乗組のりくんでり、光子みつこたつ一人ひとり其妹そのいまうととして
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
おもほえず長崎に来てゆたけき君がこころにしたしみにけり(永山図書館長に)
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
山門やまとはもうまし耶馬台やまと、いにしへの卑弥乎ひみこが国、水清く、野の広らを、稲ゆたに酒をかもして、菜はさはに油しぼりて、さちはふや潟の貢と、うづの貝・ま珠・照るはた。見さくるやわらべが眉に、霞引く女山ぞやま・清水。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つばきを吐きかけたが、おおかめさんは、それほどゆたやかにふとっている。顔はつややかだが赤黒く、体の肉はひだごとつまみあげて、そこここを切りとれば、美事な肉片が出来ると思われるほどだった。
母がひとり子ども三人、夫婦ふうふをあわせて六人の家族かぞく妻君さいくんというのは、同業者のむすめで花前の恋女房こいにょうぼうであった。地所じしょなどもすこしは所有しょゆうしておって、六人の家族はゆたかにたのしく生活しておった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ゆたにし 屋庭やにはは見ゆ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そのころの人たちは、この湖が、えたゆたかな平野を大きく占領せんりょうしているので、その水をしてしまって、そこにはたけをつくろうとしました。
この一は、あまりゆたかではありませんでした。父親ちちおやがなくなってから、母親ははおや子供こどもたちをやしなってきました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
門野かどのたゞへえゝと云つたぎり、代助の光沢つや顔色かほいろにくゆたかな肩のあたりを羽織の上から眺めてゐる。代助はこんな場合になると何時いつでも此青年を気の毒に思ふ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おとうさんとおかあさんは、宰相さいしょうはちかつぎのためにりっぱな御殿ごてんをこしらえ、たくさんの田地でんちけてやって、ゆたかにらすことのできるようにしておやりになりました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
なにしろこの地方は土地がゆたかで、住民じゅうみんしたがって富貴ふうきであったから、わたしたちの興行こうぎょうの度数もしぜん多くなり、れいのカピのおぼんの中へもなかなかたくさんのお金が投げこまれた。
一剣をいているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、まゆひいで、くちあかく、とりわけ聡明そうめいそうなひとみや、ゆたかな頬をしていて、つねにどこかに微笑をふくみ、総じていやしげな容子ようすがなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物寂びてなにかゆたけきここの林泉しまよく聴きてあれば朝はしづけさ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ゆたにし 屋庭やにはは見ゆ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なぜなら、人間は、この湖がえたゆたかな平野へいやの大きな部分ぶぶんに、ひろがっていることを忘れてはいないからです。
懇意になって色々打ち明け話を聞いたあとでも、そこに間違まちがいはなかったように思われます。しかし一般の経済状態は大してゆたかだというほどではありませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんという器量きりょうのいいむすめさんだろう……。しかし、ようすをると、あまりゆたかな生活せいかつをしているとはおもわれない。さっきから、ああして、人形にんぎょうとれているが、ものは相談そうだんだ。
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おもほゆれ相者さうじやならずも我が父のみ命は長くゆたびつつ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、素直すなお特色とくしょくゆたかなは、おおくの工員こういんたちのあいだ人気にんきびました。なぜなら、つかれたものの精神せいしんにあこがれとほがらかさをあたえることによって、かれらをなぐさめたからであります。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋なり、ゆたかなる、掻きわけ難きかなしみは
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
護謨ゴムの葉はゆたかに動く。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)