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萎
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しな
ふりがな文庫
“
萎
(
しな
)” の例文
私は音のしないようにソーッと歩いて、扉の所に立っていた
蛞蝓
(
なめくじ
)
へ、一円渡した。渡す時に私は蛞蝓の
萎
(
しな
)
びた手を力一杯握りしめた。
淫売婦
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
多くの草花がへとへとに
萎
(
しな
)
びかかつてゐる
灼熱
(
しやくねつ
)
の真つ昼間を、瞬きもせず澄みきつた眼を開いて、太陽を見つめてゐるのはこの花です。
石竹
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
三吉は三升樽をブラ下げて、
艫
(
とも
)
に
踞
(
しやが
)
みました。五十六七、すつかり
月代
(
さかやき
)
が色付いて、鼻も眼も口も
萎
(
しな
)
びた、
剽輕
(
へうきん
)
な感じのする親爺です。
銭形平次捕物控:040 兵庫の眼玉
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
そして新らしき心と、新らしい技法とをその正確にして深き技法の修練の上に建てなければ油絵という技法は
萎
(
しな
)
びて行くであろう。
油絵新技法
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
「ウン。——」長造は、言おうか言うまいかと、
鳥渡
(
ちょっと
)
考えたのち「こう世間が不景気で
萎
(
しな
)
びちゃっちゃあ、何もかもお
終
(
しま
)
いだナ」
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
マーキュ はて、
兎
(
うさぎ
)
ではない、
兎
(
うさぎ
)
にしても
脂肪
(
あぶら
)
の
滿
(
の
)
った
奴
(
やつ
)
ではなうて、
節肉祭式
(
レントしき
)
の
肉饅頭
(
にくまんぢう
)
、
食
(
く
)
はぬうちから、
陳
(
ふる
)
びて、
萎
(
しな
)
びて……
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
鯨骨
(
げいこつ
)
入りのコルセットのなかで見るもあわれに
萎
(
しな
)
びながら、この七年、ベッドに縛りつけられ、天井をながめて暮らしている。
我が家の楽園
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
日陰の
唐茄子
(
とうなす
)
の
萎
(
しな
)
びているごとく、十分に大気に当り、十分に太陽の光線を浴びぬ奴は心身共に柔弱になる。東京の電車に乗ってもそうだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
下町育ちらしい束髪の細君が、胸を
披
(
はだ
)
けて
萎
(
しな
)
びた乳房を三つばかりの女の子に
啣
(
ふく
)
ませている傍に、切り髪の
姑
(
しゅうとめ
)
や大きい方の子供などもいた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
長吉は
黄
(
きい
)
ろに
萎
(
しな
)
びた手を出した。音蔵もそれと見ると思わず一方の手を出してそれを握った。音蔵の頬には涙が流れていた。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「ああ、さようではございません、
閣下
(
モンセーニュール
)
! しかし亭主は、あそこに、
萎
(
しな
)
びた草が少しばかりかたまって生えているところの下におります。」
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
この血の気のない
萎
(
しな
)
びた皮膚、青白い細い手足、肋骨の一本一本見えすく胴、五尺に足らぬ躯幹、それから、あはははは
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
土かづく黄の福寿さう、蕗の薹、
萎
(
しな
)
へ葉の霜の苺や、裏藪の小すみれもまだ、
楉枝
(
しもと
)
べのつくつくしまだ、日あたりの枯れし芝生の、
下萠
(
したも
)
えもまだ。
篁
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
俄跛の姉妹のことを
呉
(
く
)
れ/″\も夫にたのんで
逝
(
い
)
つたお辻の死顔の
蒼
(
あお
)
ざめた
萎
(
しな
)
びた
頬
(
ほお
)
——お辻は五十で死んだのである。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
ゴットフリートは実際、老いぼれ
萎
(
しな
)
び縮みいじけた様子をしていた。かすかな短い小さな息をしていた。クリストフはやたらにしゃべりつづけた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
見ると、それは大きな肩掛をし、片一方の眼のいやに小さな、
萎
(
しな
)
びた女であつた。小声で——「兄さん、電車に乗りはりますやろ」と云ふのである。
釜ヶ崎
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
丁度相手の女学生が、頸の
創
(
きず
)
から血を出して
萎
(
しな
)
びて死んだように絶食して、次第に体を萎びさせて死んだのである。
女の決闘
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
眉目は清秀で、唇は
丹
(
あか
)
く、皮膚は
白皙
(
はくせき
)
でありながら
萎
(
しな
)
びた日陰の美しさではない。どこやらに
清雅縹渺
(
せいがひょうびょう
)
として、心根のすずやかなものが
香
(
にお
)
うのである。
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
野菜にしても、
萎
(
しな
)
びて精気を欠いていては、味も香気もなく、ただもうつまらない食物にしかならないのである。
味覚馬鹿
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
籠の中には、
萎
(
しな
)
びた玉葱と、半分腐った茄子とが一杯詰っていた。もうこの時期から、このように野菜に苦しんでいるようでは、冬のことが思いやられる。
ツンドラへの旅
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
頭はおおかた禿げているが
諸所
(
ところどころ
)
に
白髪
(
しらが
)
がある。河原に残った枯れ
芒
(
すすき
)
と形容したいような白髪である。黄色い色の
萎
(
しな
)
びた顔。蛇のように
蜒
(
うね
)
っている無数の皺。
大鵬のゆくえ
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それはお前
俺
(
おれ
)
も知っているが、うきすの竹はそれだから
萎
(
しな
)
びたようになって面白くない顔つきをしているじゃないか。これはそうじゃない。どういうことを
幻談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
まだ
焮衝
(
きんしょう
)
が残っているらしく、こころもち
潮紅
(
ちょうこう
)
したまま
萎
(
しな
)
び
潰
(
つぶ
)
れていて、乳首と
肋
(
あばら
)
とを間近く引き寄せた縫い目の処には、黒い血の
塊
(
かたまり
)
がコビリ着いたまま
一足お先に
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
陽
(
ひ
)
が照りすぎて
萎
(
しな
)
びてしまったんだよ。慈悲深い神様なら、なんだって人を困らせておよろこびになるんだね?
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
町々を飾る青い竹の葉が風に
萎
(
しな
)
びてガサガサ音のするような日の午後に、捨吉は勝手口の横手にある井戸の
側
(
わき
)
を廻って物置から
草箒
(
くさぼうき
)
と
塵取
(
ちりとり
)
とを持って来た。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
青く
萎
(
しな
)
びた
頤
(
おとがい
)
や、
微
(
かす
)
かな呼吸ごとにヒクついている
痩
(
や
)
せた小鼻のあたりを、じッとみているうちに、急に寒さを感じて、鷲尾はあわててドテラをひっかけた。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
肉は
干
(
ひから
)
び、皮
萎
(
しな
)
びて見るかげもないが、手、胸などの
巌乗
(
がんじょう
)
さ、
渋色
(
しぶいろ
)
に
亀裂
(
ひび
)
が入つて
下塗
(
したぬり
)
の
漆
(
うるし
)
で固めたやう、
未
(
ま
)
だ/\目立つのは鼻筋の
判然
(
きっぱり
)
と通つて居る
顔備
(
かおぞなえ
)
と。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
場末
街
(
まち
)
らしい小さい床屋に黄色くなつた
莢隠元
(
アリコ・ヹエル
)
や
萎
(
しな
)
びた
胡瓜
(
コンコンブル
)
の淋しく残つた八百屋、
廉
(
やす
)
い櫛や
髪針
(
ピン
)
の紙につけたのから箒、茶碗、石鹸などまでを並べた荒物屋
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
ただ
萎
(
しな
)
びて居るだけである……。彼は太鼓のひびきに耳を傾けて、その音の源の周囲をとりかこんで居るであらう元気のいい若者たちを、
羨
(
うらやま
)
しく眼前に描き出した。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
今はもう目がはつきりと
醒
(
さ
)
め、
見露
(
みあら
)
はさうとする鋭い注意力で、私は直ぐにその手に注目した。それは老人の
萎
(
しな
)
びた手ではなく、私の愛する人のに
他
(
ほか
)
ならなかつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
松岡は黄色い
萎
(
しな
)
びた声でそういうと、突然頭の毛の中へ指を入れて、髪の毛をくしゃくしゃにした。
三階の家
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
熱帯的な美を
有
(
も
)
つはずのものも此処では温帯文明的な去勢を受けて
萎
(
しな
)
びているし、温帯的な美を
有
(
も
)
つべきはずのものも熱帯的風土自然(殊にその陽光の強さ)の下に
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄――
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
二十五歳の公爵総裁は、若夫人同様おっとりとして、
鷹揚
(
おうよう
)
で典雅で上品で、その代り悪くいえば
爺
(
じじい
)
青年のように
萎
(
しな
)
びている。若さなぞというものは薬にしたくもない。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
涸
(
か
)
れ
萎
(
しな
)
びた
栄光の手
(
ハンド・オヴ・グローリー
)
の一本一本の指の上に、死体
蝋燭
(
ろうそく
)
を差して、それが、
懶気
(
ものうげ
)
な音を立てて
点
(
とも
)
りはじめた時の——あの物凄い幻像が、未だに弱い微かな光線となって
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
幾羽もいる籠へ、
萎
(
しな
)
びた手をあらあらしく差し込んで、二羽
攫
(
つか
)
み出して、
空籠
(
からかご
)
に移し入れるのである。それで
雌
(
めす
)
雄
(
おす
)
が分かるかと云えば、しぶしぶ「へえ」と返事をした。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
各自の望みを追うに
暇
(
いとま
)
のない世人は、たまに彼の
萎
(
しな
)
びた
掌
(
てのひら
)
に一片の銅貨を落す人はあっても、おそらくはそれはただ自分の心の中の慈善箱に投げ入れるに過ぎぬであろう。
凩
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
母に死別れたあとのあの
萎
(
しな
)
えるような気持、それがそのまま現実となって身にせまって来るような感じがして、きょうは朝から誰とも口をきく気になれなかったのである。
次郎物語:04 第四部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
萎
(
しな
)
びた梨のように水々しさがなくなったり、脚がはれたりするのを恐れてはいられなかった。
浮動する地価
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
年頃はまだ七十にはなるまい。もしかすると六十を幾つも越していないのかも知れない。髪はそれほど白くはない。それでも腰が少し曲がっているし、顔も
萎
(
しな
)
びかけている。
落穂拾い
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
最後に坊さんは細長い箱の前に来て、如何にも注意深く蓋をあけると、中にはありふれた日本の蛇の
萎
(
しな
)
びた死骸があり、また小さな黒い物が二つ、箱の中にころがっていた。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
仙台から牡鹿半島の突端まで二十五、六里、その間の山坂ばかりの長い道中を、スプリングの弾力が
萎
(
しな
)
びてしまったバスに揺られて漸く鮎川の町へ着いてみると、馬鹿に臭い。
海豚と河豚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
「あゝ
辛度
(
しんど
)
や。」と疲れた
状
(
さま
)
をして、薄くなつた髮を引ツ詰めに結つた、小さな新蝶々の崩れを兩手で直したお梶は、忙しさうに孫を抱き上げて、
萎
(
しな
)
びた乳房を弄らしてゐた。
鱧の皮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
自分で自分を
侮蔑
(
ぶべつ
)
する、その歓喜のようなもので眼を光らせ、全身に壮烈な力を
漲
(
みなぎ
)
らせている感じだったが、打ち壊してしまうと、急にガタッと身体が小さく
萎
(
しな
)
びたみたいで
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
と、のぞき出した半白半黒、それをおばこに
結
(
ゆ
)
ったのが、ばらばらに乱れて、細長く
萎
(
しな
)
びた、
疎
(
まば
)
ら歯の婆さん——その顔が
提灯
(
かんばん
)
の灯に、おぼろに照されて、ばけ物じみている。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
「とてもゴムの乳っ首くらいじゃ駄目なんですもの。しまいには舌を吸わせましたわ」「今はわたしの乳を飲んでいるんですよ」妻の母は笑いながら、
萎
(
しな
)
びた
乳首
(
ちくび
)
を出して見せた。
子供の病気:一游亭に
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
もう枯れ枯れに
萎
(
しな
)
び返って、葉の
尖
(
さき
)
はインキを
注
(
さ
)
したように、黒くなって、縮れている——で、夏ならば緑一色のちょんぼりした林が、今朝は二、三倍も広くなったような気がする。
雪中富士登山記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
ダチュラはもう
萎
(
しな
)
び始めていた。一体丹尾は何で五郎をつけ廻すのか。つけ廻す理由があるのか。五郎はもう考えたくなかった。いちいち心配していては、気分の方で参ってしまう。
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そのことはだんだん重苦しく彼の心にのしかかって来た。そのうちに彼は晴ればれとした往来へ出ても、自分に
萎
(
しな
)
びた古手拭のような匂いが
沁
(
し
)
みているような気がしてならなくなった。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
「この
竹葉
(
たかば
)
の青むがごと、この竹葉の
萎
(
しな
)
ゆるがごと、青み萎えよ。またこの鹽の
盈
(
み
)
ち
乾
(
ふ
)
るがごと、盈ち
乾
(
ひ
)
よ。またこの石の沈むがごと、沈み臥せ」とかく
詛
(
とこ
)
ひて、
竈
(
へつひ
)
の上に置かしめき。
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
一度繭の中に隠れた虫は、丁度死にかゝつたものゝやうに
萎
(
しな
)
び縮む。第一に、背中の皮が割れる。それから彼方此方を引つぱつて痙攣を繰り返す。虫は非常な難儀でその皮を引きはがす。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
萎
常用漢字
中学
部首:⾋
11画
“萎”を含む語句
萎縮
萎靡
萎々
打萎
足萎
萎氣
濡萎
萎微
萎気
気萎
萎枯
萎縮腎
凋萎
萎黄病
萎靡凋落
萎靡因循
萎靡振
身萎
萎靡沈滞
萎靡沈衰
...