花籠はなかご)” の例文
神棚には福助ふくすけが乗ツかゝツてゐて、箪笥の上には大きな招猫まねきねこと、色がめてしぼんだやうになつて見える造花つくりはな花籠はなかごとが乗りかツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
撫子なでしこ円髷まるまげ前垂まえだれがけ、床の間の花籠はなかごに、黄の小菊と白菊の大輪なるをつぼみまじり投入れにしたるをながめ、手に三本みもとばかり常夏とこなつの花を持つ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソースのびんは見えないが、彼の目の前には、うつくしい大きな花籠はなかごがあった。何というか、色とりどりの花を、一ぱいもりあげてある。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしそれだけにここの仕事には危険が多く、技のすえに陥って、特に花籠はなかごの如きはいやらしいものさえ少くありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
左の手は、まだそんなに腫れていなかったけれども、とにかくいたましく、見ている事が出来なくて、私は眼をそらし、床の間の花籠はなかごをにらんでいた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
花籠はなかご、小さな犬、猫、鼠、猿、小鼠のたぐいが、殆んど数限りなく、行儀のいい円陣や、方陣を作って並んでいる。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
アルカージナ 大学生が、お祭さわぎをしてくれてね……花籠はなかごが三つ、花束が二つ、それからほら……(胸からブローチをはずして、机上に投げだす)
彼女はしずしずと、コーラス・ガールの列を離れ、舞台の中央に進みいで、手に持つ花籠はなかごを軽く揺り動かしながら、呼びものの「花売娘のうた」を歌いはじめた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大和名所図会などにも、「菜摘の里に花籠はなかごの水とて名水あり、また静御前がしばらく住みし屋敷あとあり」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
麁末そまつ棺臺くわんだいすこうづたかつたつちうへかれて、ふたつの白張提灯しらはりちやうちんふたつの花籠はなかごとがそのそばてられた。おしな生來せいらいつちまないはないといつていゝぐらゐであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
プールは今、ま昼のギラギラする光を浴びて、色さまざまの花籠はなかごのやうでしたが、黒いふんどしの子供たちは、だまつて人のかきをくぐり抜けると、おうちの方へ帰りはじめました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
或る日、彼女は、昔は其処そこに水車場があったと私の教えた場所のほとりで、しばしば、背中から花籠はなかごを下ろして、松葉杖まつばづえもたれたままあせいている、ちんばの花売りを見かけることを私に話した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「それでも私は月の出るのを待ちますつもり。その花籠はなかごにさえ一杯になったら、貴女あなたは日一杯に帰るでしょう。」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元来は凡て手描てがきでありましたが、近頃は印刷することを始めましたので、ずっと見劣りがします。多くは花模様で、時には立花りっかのように花籠はなかごに活けてある様を見事に描きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
花籠はなかごまたそこかみいてんだものゝ年齡としかずだけ小錢こぜにれて、それをかざしたひと時々ときどきざら/\とつてはかごから小錢こぜにおとした。むら小供こどもあらそつてそれをひろつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
花籠はなかごの中に、おそろしい爆薬をしかけて、おれの前へおいたじゃないか。あの停電のときだよ。ぷーんと、いい匂いのするやつがおれの前へ持って来やがったから、多分それは若い女にちがいない。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……こゝの此の書棚の上には、花はちょうしてなかつた、——手附てつきの大形の花籠はなかごと並べて、白木しらききりの、軸ものの箱がツばかり。其の真中のふたの上に……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
提灯ちやうちん花籠はなかごさきつた。あとからはむら念佛衆ねんぶつしうあかどう太皷たいこくびけてだらりだらりとだらけたたゝきやうをしながら一どうこゑあげいてつた。ひつぎ小徑こみちけて大道わうらいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
米屋の前を通りますと、いたや細工のとても大きな米漏斗こめじょうごを見られるでしょう。朝顔のように上に開いた形で、花籠はなかごにでも応用したらさぞ立派でありましょう。弘前近くの目屋めや村の産といいます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
怪しき花籠はなかご
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……こゝの書棚しよだなうへには、はなちやうしてなかつた、——手附てつき大形おほがた花籠はなかごならべて、白木しらききりの、ぢくもののはこツばかり。眞中まんなかふたうへに……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふ。其處そこ花籠はなかごから、一本ひともと白百合しらゆりがはらりと仰向あをむけにこぼれてちた……ちよろ/\ながれにかげ宿やどる……百合ゆりはまた鹿も、ひめも、ばら/\とつゞいてこぼれた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つたとき洋傘かさ花籠はなかご持添もちそへて、トあらためて、眞白まつしろうでげた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たまにてへる白銀しろがねみのの如く、かいなの雪、白脛しらはぎもあらはに長く、斧を片手に、てのひらにその月を捧げて立てる姿は、かたも川もつまさきにさばく、銀河に紫陽花あじさい花籠はなかごを、かざして立てる女神じょしんであつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
立停たちどまって、女のその雪のような耳許みみもとから、下膨しもぶくれのほおけて、やわらかに、濃い浅葱あさぎひもを結んだのが、つゆの朝顔の色を宿やどして、加賀笠かががさという、ふちの深いのでまゆを隠した、背には花籠はなかごあし脚絆きゃはん
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とフト思出おもひだしたやうに花籠はなかごを、ト伏目ふしめた、ほゝ菖蒲あやめかげさすばかり。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)