はらわた)” の例文
貪欲界どんよくかいの雲はりて歩々ほほに厚くまもり、離恨天りこんてんの雨は随所ただちそそぐ、一飛いつぴ一躍出でては人の肉をくらひ、半生半死りては我とはらわたつんざく。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
廁というのは岩の上に木を組みたてて出来ているものであって、下から吹き上げて来る風ははらわたから脳天にまで滲みこむように冷たかった。
富士登山 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
また私のむねやはらぎの芽をゑそめたものは、一頻ひとしきり私のはらわたきざんでゐたところの苦惱くなうんだ、ある犧牲的ぎせいてきな心でした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「二毛暁に落ちて頭をくしけづることものうし、両眼春くらくして薬を点ずることしきりなり」「すべからく酒を傾けてはらわたに入るべし、酔うて倒るゝもまた何ぞ妨げん」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そういって彼は物慣れた手つきでドライバーを手にとり、人造人間の胴中をしめつけている鉄扉てっぴのネジをはずしていった。間もなく人造人間のはらわたが露出した。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
暑い日が麥藁の上に横はつて居る瓜のはらわたまでも熱しては、夜の凉しさが冷たく潤しました。瓜畑の周圍に蒔かれた玉蜀黍はすつくりと立つて美しい瓜を守つて居ます。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その仇浪あだなみ立騷たちさわほとり海鳥かいてう二三ゆめいて、うたゝ旅客たびゞとはらわたつばかり、日出雄少年ひでをせうねん無邪氣むじやきである
女たちのワンピースが、むき出しにされた醜い色とりどりのはらわたのようにうごめいて光っている。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
づ口だけはていい事を言うて、其の実はお互に餌食えじきを待つのだ。又、此の花は、紅玉のしべから虹に咲いたものだが、散る時は、肉に成り、血に成り、五色ごしきはらわたと成る。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これにもはらわたはたゝるべきこゑあり、勝沼かつぬまよりの端書はがき一度とゞきて四日目にぞ七さと消印けしいんある封状ふうじやう二つ、一つはおぬひけてこれはながかりし、桂次けいじはかくて大藤村おほふじむらひとりぬ。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こまつたあめじやありませんか。これじやはらわたなかまで、すつかり、びしよぐされですよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
我はでに冬の寒さに慣れたり、慣れしと云ふにはあらねど、我はこれに怖るゝ心を失ひたり、夏の熱さにも我は我がはらわたを沸かす如きことは無くなれり、唯だ我九膓を裂きてた裂くものは
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
俗人ぞくじんをしふる功徳くどく甚深じんしん広大くわうだいにしてしかも其勢力せいりよく強盛きやうせい宏偉くわうゐなるは熊肝くまのゐ宝丹はうたん販路はんろひろきをもてらる。洞簫どうせうこゑ嚠喨りうりやうとして蘇子そしはらわたちぎりたれどつひにトテンチンツトンの上調子うはでうしあだつぽきにかず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それをいて、烟脂やにめたかえるはらわたをさらけだして洗うように洗い立てをして見たくもない。今私がこの鉢に水を掛けるように、物に手を出せば弥次馬と云う。手を引き込めておれば、独善と云う。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はやっぱり禅宗の言葉に「ハマグリが口を開いてはらわたを見せる」
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
わがはらわたいたみてきれもやせむ。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
裂けてはみだしたはらわた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あるひは飲過ぎし年賀の帰来かへりなるべく、まばらに寄する獅子太鼓ししだいこ遠響とほひびきは、はや今日に尽きぬる三箇日さんがにちを惜むが如く、その哀切あはれさちひさはらわたたたれぬべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
津村も私も、歯ぐきからはらわたの底へとおめたさを喜びつつ甘いねばっこい柹の実をむさぼるように二つまで食べた。私は自分の口腔こうこうに吉野の秋を一杯いっぱい頬張ほおばった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いやしくも神州男児だ、はらわたつかみ出して、敵のしゃッつらへたたきつけてやるべき処だ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親はヽおやわかれにかなしきことつくしてはらわたもみるほどきにきしが今日けふおもひはれともかはりて、親切しんせつ勿体もつたいなし、殘念ざんねんなどヽいふ感念かんねん右往左往うわうざわうむねなかまわしてなになにやらゆめ心地こヽち
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それぢや断然いよいよお前は嫁く気だね! これまでに僕が言つても聴いてくれんのだね。ちええ、はらわたの腐つた女! 姦婦かんぷ‼」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうするとその中に九きつねが現れて玉藻の前をい殺す場面があって、狐が女の腹を喰い破って血だらけなはらわたくわえ出す、その膓には紅い真綿を使うのだと云う。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかりつけられて我知われしらずあとじさりする意氣地いくぢなさまだしもこほる夜嵐よあらし辻待つじまち提燈ちやうちんえかへるまであんじらるゝは二親ふたおやのことなりれぬ貧苦ひんくめらるゝと懷舊くわいきうじやうのやるかたなさとが老體らうたいどくになりてやなみだがちにおなじやうなわづらかたそれも御尤ごもつともなりわれさへ無念むねんはらわたをさまらぬものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
屍骸のはらわたにうごめいているうじの一匹々々をも分明に識別させたのであったが、今宵こよいの月はそこらにあるものを、たとえば糸のような清水の流れ、風もないのに散りかゝる桜の一片ひとひら二片
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
結ぼれて深き/\はらわたにあり
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)