きも)” の例文
旧字:
しかしこのとき武夫もお美代も、行手にあたってきもを潰すような怪異が彼等を待っていようなどとは、夢にも知らなかったのである。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
美しいレオノーラ姫をさらっていった妖怪ようかい騎士の話をして、婦人たちのきもをつぶし、いく人かはヒステリーをおこさんばかりだった。
海賊の子と指さされて大坂に住むのも辛いが、他国者と侮られて江戸に住むのも苦しかろうと、それが彼の小さいきもをおびえさせた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、ガラッ八の大音声だいおんじょうきもつぶした上、近所のざわめき始めたのに気おくれがしたらしく、縁側の戸を開けて、パッと外の闇へ——。
親の又右衛門の驚きよりも、実は、藤吉郎自身が、きもをぬかれたくらい、茫然、歓びと疑いのなかに包まれて、帰って来たのだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、ことし十五になる小坊主の法信ほうしんが、天井から落ちてくるすすきもを冷やして、部屋の隅にちぢこまっているのも無理はなかった。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
『お早くから難有ありがたう御座いました。留守の子供達もいろいろお世話になりまして難有ありがたう御座いました。御親切はきもに銘じてります。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
恐しさにきもをうばはれた今太郎君は、無我夢中でじたばたするうち、ふと何やら固いものに手がさはりました。すると不思議です。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
肝油その他の臓器製薬の効能が医者によって認められるより何百年も前から日本人はかつおの肝を食い黒鯛くろだいきもを飲んでいたのである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さてこそ! 近寄って見るとしかもその屍骸が一箇ではなく、折重なって二つまであるらしいことが、まず三人のきもを冷しました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「かれくろがねうつわを避くればあかがねの弓これをとおす、ここにおいてこれをその身より抜けばひらめやじりそのきもよりで来りて畏怖おそれこれに臨む」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
毛剃けぞり九右衛門のような船頭ときもに毛の生えた上乗うわのりに差配をさせて、呂宋ルソン媽港マカオのあたりまで押し出させる一方、北条の運漕までも引受け
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから、その次にブロブディンナグ国へ来てみると、ガリバーはまずきもをつぶします。今度はガリバーの方が小人になっているのです。
左方に博多はかたの海が青く展開するのを夢のようにながめて、なおも飲まず食わず、背後に人の足音を聞くたびに追手かときもをひやし
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
喧嘩渡世の看板に隠れ、知らずのお絃の嬌笑きょうしょうきもたまを仲に、ちまた雑踏ざっとうから剣眼けんがんを光らせて、随時随所に十七人の生命をねらうことになった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きもつぶしたのは奥村八左衛門、「こんなべら棒ってあるもんか。白をもちながら先手を打ちおる」こうは思ったが相手が悪い。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ハッとしどおしで、眼を閉じてみたり、きもを冷やしたり、鳴り始めてから鳴り終るまで、らいさまのことばかり、考えている。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その葉は龍葵りゅうきのようで味がきものようににがいから、それで龍胆りんどうというのだと解釈してあるが、しかし葉がにがいというよりは根の方がもっとにが
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「的矢丸には、いい薬がある。『くま』もあるよ。よろこべ、『鼻じろ』のきもはようなしだ。あいつも命びろいをしたよ」
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
本を売り、着物を入質いれじちし、女の物を売り、貸間へ落ちとうとうどん底へ来てしまつた。生まれながらの貧乏は、かういふ時に、きもが坐つてゐる。
柳葉りゅうようを射たという養由基ようゆうき、また大炊殿おおいでんの夜合戦に兄のかぶとの星を射削ッて、敵軍のきもを冷やさせたという鎮西ちんぜい八郎の技倆ぎりょう、その技倆に達しようと
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
まだ熱が出て寝ておりました僕の枕元に伯父が駈けつけて来て知らせてくれました時はスッカリきもつぶしてしまいました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それに、大河を越えて、本所の吉岡町よしおかちょうへ飛火をして向う河岸で高見の見物をしていた人のきもまでも奪ったとは、随分念の入った火事でありました。
盗賊とうぞくどもはびっくりしてきあがりますと、の前に大きなおにがつっ立ってるではありませんか。みんなきもをつぶして、こしぬかしてしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
心に目しるしをして家にかへりおやにもかたりてよろこばせ、次のあしたかははぐべき用意をなしてかしこにいたりしにきもは常にばいして大なりしゆゑ
彼はさすがにきもを消して、うっかりあぐらを組んだまま、半ば引きちぎられた簾の外へ、思わず狼狽ろうばいの視線を飛ばせた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は戸口に聞える足音にもきもを冷すようになった。よそから戻ってきても、まず留守中に誰も訪ねてこなかったと知るまでは安心ができなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
豊吉は善人である、情に厚い、しかしきもが小さい、と言うよりもむしろ、気が小さいので磯ぎんちゃくと同質である。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぴいんときもの髄までひびき渡るような練り鍛えられた叫びと共に、さッと繰り出したのは、奇怪! 穂先もドキドキと磨ぎ澄まされた真槍なのです。
斯くして三成の心配がだん/\事実となる形勢を生じ、左衛門尉は己れの使命の軽からぬことをきもに銘じたのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きずあらためて見ますると、弾丸たまれたものと見えて身体に疵はありませぬ、もっとも鉄砲の音にきもを消したものと見えて、三人とも気絶して居りまする。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三途まで奈落へして、……といって、自殺をするほどの覚悟も出来ない卑怯ひきょうものだから、冥途めいど捷径ちかみちの焼場人足、死人焼しびとやきになって、きもを鍛えよう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソコで御馳走は何かと云うと、豚の子の丸煮が出た。是れにもきもつぶした。如何どうだ、マア呆返あきれかえったな、丸で安達あだちはらに行たようなけだと、う思うた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
浮世の栄華に誇れる奴らのきもを破れやねむりをみだせや、愚物の胸に血のなみ打たせよ、偽物の面の紅き色れ、おの持てる者斧をふるえ、ほこもてるもの矛を揮え
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きもを冷やした俺は、つんのめった身体をおこそうとしたとき、すさまじいピストルの音にふたたび驚かせられた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
屏風のうしろより、吾が君いかに三二五むつかり給ふ。かうめでたき御契なるはとて出づるはまろやなり。見るに又きもを飛ばし、まなこを閉ぢて伏向うつぶきす。
それがしんに迫っているんだから、誰しもきもを冷すよ。また或時は、非常にエロチックな遊戯をやることもある。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
聞かぢりに子供とて由断のなりがたきこのあたりのなれば、そろひの裕衣ゆかたは言はでものこと、銘々に申合せて生意気のありたけ、聞かばきももつぶれぬべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
往時むかし閑人ひまじんはこんなてあひに驚かないやうに、武士道や禅学できもを練つたものだが、今の人達は、武士道や禅学の代りに、お蔭で「生活難」で鍛へられてゐる。
「オヤジには、こんまいときから、そがいなきもの切れるところがあったのはあった。わしらには出来んことぞな」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
われわれアジア人はわれわれに関して織り出された事実や想像の妙な話にしばしばきもを冷やすことがある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ところがこの豪儀な小十郎がまちへ熊の皮ときもを売りに行くときのみじめさといったら全く気の毒だった。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「私はきもがにえました」と大学は云った、彼は富塚の言葉をまったく無視して、安芸に向かってつづけた
この者どもきもを消し、「誠に希代の碁打ちかな。とてもわれらが相手にはならず、先生を招き打たすべし」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その瞬間に戸口が開いて、泥まみれの木履サボを穿いて頭巾つきのマントをかぶった子供が外から帰って来たが、父親の只ならぬ見幕とその怒鳴り声にきもをつぶした。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
何事もなくても、こんな風におくれがちなお玉のきもをとりひしいだ事が、越して来てから三日目にあった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
真暗な闇の間を、颶風ぐふうのような空気の抵抗を感じながら、彼女は落ち放題に落ちて行った。「地獄に落ちて行くのだ」きもを裂くような心咎こころとがめが突然クララを襲った。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きもの冷えるような夢幻的な思いがはしって、やがて力無く、ぼくのからだは一箇いっこの死体のようにとまる。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
巡査の護衛せるを見て、乗客はきもをつぶしたらんが如く、まなこつぶらにして、ことに女の身のしょうる。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
浪士らの勢いのさかんな時は二十里ずつの距離の外に屏息へいそくし、徐行逗留とうりゅうしてあえて近づこうともせず、いわゆる風声鶴唳ふうせいかくれいにもきもが身に添わなかったほどでありながら
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)