緻密ちみつ)” の例文
泰三は記録と帳簿の事実によって、老臣たちが藩主の財産をひそかに蓄積した苦心、その巧みにして緻密ちみつな努力を率直に褒めたたえ
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その歌の巧拙はしばらいても、その声のキメの細かさ、緻密ちみつさ、匂やかさ、そうして、丁度刀を鍛える時に、地金を折り返しては打ち
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
これ安永年代一般の画風にして、やがて春章しゅんしょう清長きよなが政演まさのぶら天明の諸家を経てのち、浮世絵はついに寛政時代の繊巧緻密ちみつの極点に到達せるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
知らずや吾人が父祖の日本はスパルタのごとくまたスパルタよりも一層緻密ちみつ周到に軍隊組織の行き届きたる一の武備社会なりしことを。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
例えば極端な例をあげましたら、箱根細工のようなものは、ちょっと出来ないような木を組合わせた緻密ちみつな細工がしてあります。
以上述べて来ただけのことから考えても映画の制作には、かなり緻密ちみつな解析的な頭脳と複雑な構成的才能とを要することは明白であろう。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何故ならば、氏の心理解剖しんりかいばう何處どこまでも心理解剖で、人間の心持を丁度ちやうどするどぎん解剖刀かいばうたうで切開いて行くやうに、緻密ちみつゑがいて行かれます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
この点に於て、駒井の近況は、必ずしも冷静な科学者でも、緻密ちみつな建造家でもなく、一種のロビンソン的空想家となっていないではない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
背何尺何寸、筋骨脂肪しぼう質、足袋たび何文、顔うす黒い質、あばたあり、右の眉すこし薄し……などという緻密ちみつな人相書を授けられて
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにしても思慮緻密ちみつ、一言半句もゆるがせにせざる、十二神貝十郎が最後にいった言葉が、心にかかってならないのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私が精巧緻密ちみつな製作をまず充分に試みたと思うたのは、その当時ではこの作が初めであったと覚えます。これもなかなか修業となりました。
平次も救い、仲間にもそむかず、六千両も首尾よく奪い取る細工が、どんなに女らしく、陰険に、緻密ちみつに運ばれたことでしょう。
漢青年は、またいつものように、あの不思議な日以来の出来事を復習し、隅から隅まで緻密ちみつな注意を走らせてみるのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
別段食いたくはないが、あの肌合はだあいなめらかに、緻密ちみつに、しかも半透明はんとうめいに光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北海道の寒風がりんごの皮を緻密ちみつにし、その皮膚を赤く染めたように人足らも、その着物を厚くし、そのほほを酒飲みの鼻の頭のようにしている。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
かれの緻密ちみつこのうえもなき明知は利刃のごとくにさえ渡って、犯行のあった土地が徳川宿老のご城下であるという点と
男の児が中学で幾何や代数を習うのは何のめか、必ずしも実用に供するのが主眼でなく、頭脳の働きを緻密ちみつにし、練磨するのが目的ではないか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
労働者の精神は意志の努力なしには、緻密ちみつな理論のやや長い連鎖をたどるに困難であろう。もしそれをなし得ても、所々に鎖のが見落とされる。
何代も都会の土に住み一性分の水をんで系図を保った人間だけが持つえて緻密ちみつすごみと執拗しつよう鞣性じゅうせいふくんでいる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これなどは、まづ自然しぜんのものにたいして、緻密ちみつ觀察かんさつをしたものゝ、書物しよもつたはじめといつてよからうとおもひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私などはすなわちその講義聴聞者の一人でありしが、これを聴聞する中にも様々先生の説を聞て、その緻密ちみつなることその放胆ほうたんなること実に蘭学界の一大家いちだいか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかしこころ苦痛くつうにてかれかおいんせられた緻密ちみつ徴候ちょうこうは、一けんして智慧ちえありそうな、教育きょういくありそうなふうおもわしめた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
事実は、そればかりでなく、「ジャック」の行動のすべては、彼の犯罪が初めから緻密ちみつな計画になるものであることをあますところなく明示している。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その連絡系統を研究して行くと結局、人体各部を綜合する細胞の全体が、脳髄を中心にして周到、緻密ちみつ、且つ整然たる糸を引合った形になっているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちょっとこれだけ活々と描き得る画工は他にそう見当らない。技術的に緻密ちみつなものを描く上手な腕は他にいくらもあるが、皆もう勢がなくなってしまった。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あたまの惡いものが緻密ちみつな文學などはなほ更ら出來る筈はない——巡査か郵便配達を志願しろ」と警告した。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
皆ごく小声で語り合っていて、抵抗力のある太い堅固な緻密ちみつなほとんど貫き難いかたまりとなっていた。そのうちにはもうほとんど黒服も丸帽子も見えなかった。
根附は手先の技巧のすぐれた日本人の得意とする小芸術品で、外国人には真似まねの出来ない緻密ちみつなものを作るのでしたから、外人にも珍重せられるのだと思います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
しかし彼はその中の一篇、——「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信をいだいてゐた。それは緻密ちみつ思索しさくはないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
或社会主義者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私が見ても、彫刻の面白い、さうざらに見つからない品であつた。鉄の地肌もなめらかで緻密ちみつであつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
社会問題にいくら高尚な理論があっても、いくら緻密ちみつな研究があっても、おれは己の意志で遣る。職工にどれだけのものを与えるかは、己の意志でその度合が極まるのである。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いまはすっかり青ぞらにかわったその天頂てんちょうから四方の青白い天末てんまつまでいちめんはられたインドラのスペクトルせいの網、その繊維せんい蜘蛛くものより細く、その組織そしき菌糸きんしより緻密ちみつ
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ここで、おれは電気計算機のように、冷静に、緻密ちみつにならなければいけない。股野が死んだことは、もっけの幸いではないか。あけみは牢獄ろうごくからのがれて自由の身となるのだ。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
義弟の佐賀町の廻船問屋石川佐兵衛の店では、仙台藩時代の彼の緻密ちみつな数算ぶりを知っていたので手を開いてむかえた。働きものの小娘は気むずかしい伯母おば小間使こまづかいになった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
寄手よせてを野外で追い返すことのできぬ場合には、きまってわが屋敷に火をかけて、後の山に駈け上って防戦をしたのに、だんだんと財貨が城下に集り経済組織が緻密ちみつになるにつれて
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かれはまず第一に、大河の頭が論理的にもすばらしく緻密ちみつであるのにおどろいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
てい後端こうたん裝置さうちされたるある緻密ちみつなる機械きかい作用さようにて、大中小だいちうせう幾百條いくひやくでうともれず、兩舷りようげんより海中かいちゆう突出つきだされたる、亞鉛管あゑんくわんおよび銅管どうくわんつうじて、海水中かいすいちゆうより水素すいそ酸素さんそ分析ぶんせきして大氣たいき筒中たうちゆうみちび
それは、戦争中に前篇を出された小島吉雄こじまよしお博士の『新古今和歌集の研究』続篇(昭和二十二年・星野書店)の要旨であって、緻密ちみつな考証によって動かしがたい確実性にまで到達し得ている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
一、第二期に入る人もとより普通の俳句を解するに苦まずといへども、用意の周到なる、針線しんせん緻密ちみつなるものに至りてはこれを解する能はず。大家苦心の句をとって平凡と目するに至ることあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三十六ねんつて大成功だいせいかうをした。一ぐわつ十六にちには、土器どきしゆもつ緻密ちみつなる模樣もやうゑがいてあるのを、二箇ふたつまで掘出ほりだした。それから四十二ねん今日こんにちまでにくのごと珍品ちんぴんまたでずにる。
「そうだ、これは富士男君の緻密ちみつ頭脳ずのうと、勇気に信頼しんらいしたほうがいい」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あれほどの頭にはどうしたらなるだろう。余程組織が緻密ちみつに違いない……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
白い手飾カフスの、あの綺麗な手で扱われると、数千の操糸を掛けたより、もっと微妙な、繊細な、人間のこの、あらゆる神経が、右の、厳粛な、緻密ちみつな、雄大な、神聖な器械の種々から、清い、すずし
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緻密ちみつな計画とあくない野望の意志によって
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
緻密ちみつに計画し、執拗に狡猾に、十年のあいだ営々と、用心に用心して作りあげたものだ。そしてあのおけい、……風呂場で見たあの裸。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
密々ひそひそとささやき合っている話の方に、多分な心をつかっていることは、少し緻密ちみつな眼でこの一組を注意していれば分りましょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二葉亭ふたばていの『浮雲』や森先生の『がん』の如く深刻緻密ちみつに人物の感情性格を解剖する事は到底わたくしの力のくする所でない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
平次も救ひ、仲間にも反かず、六千兩も首尾よく奪ひ取る細工が、どんなに女らしく、陰險に、緻密ちみつに運ばれたことでせう。
が、如何に緻密ちみつの計画と、巧妙の変装を以てしても、白昼はくちゅうの非常線を女装じょそうで突破することはなりの冒険であった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかこゝろ苦痛くつうにてかれかほいんせられた緻密ちみつ徴候ちようこうは、一けんして智慧ちゑありさうな、教育けういくありさうなふうおもはしめた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)