“緻密:ちみつ” の例文
“緻密:ちみつ”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治14
野村胡堂6
夏目漱石5
寺田寅彦3
高村光太郎3
“緻密:ちみつ”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 絵画 > 日本画3.0%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.1%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.4%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
漢青年は、またいつものように、あの不思議な日以来の出来事を復習し、隅から隅まで緻密ちみつな注意を走らせてみるのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
義弟の佐賀町の廻船問屋石川佐兵衛の店では、仙台藩時代の彼の緻密ちみつな数算ぶりを知っていたので手を開いてむかえた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
例えば極端な例をあげましたら、箱根細工のようなものは、ちょっと出来ないような木を組合わせた緻密ちみつな細工がしてあります。
同時に多くのイズムは、零砕れいさいの類例が、比較的緻密ちみつな頭脳に濾過ろかされて凝結ぎょうけつした時に取る一種の形である。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この点に於て、駒井の近況は、必ずしも冷静な科学者でも、緻密ちみつな建造家でもなく、一種のロビンソン的空想家となっていないではない。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
非常ひじやう堅牢けんらう緻密ちみつなる機械きかいまうけありて、だいちうせう
皆ごく小声で語り合っていて、抵抗力のある太い堅固な緻密ちみつなほとんど貫き難いかたまりとなっていた。
「不覚な訳じゃ!」重喜は、それを自分に向っていった。緻密ちみつにかがっておいた秘密の目を、何者かに乱されている不快がこみあげていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か、ひとりでうなずくと、彼は、笛掛けに架けてある無数の横笛へ手をのばして、上から順々に、緻密ちみつまなざしで調べはじめた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、如何に緻密ちみつの計画と、巧妙の変装を以てしても、白昼はくちゅうの非常線を女装じょそうで突破することはなりの冒険であった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多稜形たりょうけいをした外面が黒く緻密ちみつな岩はだを示して、それに深い亀裂きれつの入った麺麭殻ブレッドクラスト型の火山弾もある。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私が精巧緻密ちみつな製作をまず充分に試みたと思うたのは、その当時ではこの作が初めであったと覚えます。
それに反して一八郎の頭脳あたまは、怖ろしい緻密ちみつさと速度でこの奇遇きぐうの利害を考え始めた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
社会問題にいくら高尚な理論があっても、いくら緻密ちみつな研究があっても、おれは己の意志で遣る。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二葉亭ふたばていの『浮雲』や森先生の『がん』の如く深刻緻密ちみつに人物の感情性格を解剖する事は到底わたくしの力のくする所でない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
——背何尺何寸、筋骨脂肪しぼう質、足袋たび何文、顔うす黒い質、あばたあり、右の眉すこし薄し……などという緻密ちみつな人相書を授けられて、
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は多勢の者の聽くのも構はず、猿江町の甚三を相手に、こんな緻密ちみつな推理を聽かせるのでした。
北海道の寒風がりんごの皮を緻密ちみつにし、その皮膚を赤く染めたように人足らも、その着物を厚くし、そのほほを酒飲みの鼻の頭のようにしている。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
事実は、そればかりでなく、「ジャック」の行動のすべては、彼の犯罪が初めから緻密ちみつな計画になるものであることをあますところなく明示している。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
男の児が中学で幾何や代数を習うのは何のめか、必ずしも実用に供するのが主眼でなく、頭脳の働きを緻密ちみつにし、練磨するのが目的ではないか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その連絡系統を研究して行くと結局、人体各部を綜合する細胞の全体が、脳髄を中心にして周到、緻密ちみつ、且つ整然たる糸を引合った形になっているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
別段食いたくはないが、あの肌合はだあいなめらかに、緻密ちみつに、しかも半透明はんとうめいに光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうだ、これは富士男君の緻密ちみつ頭脳ずのうと、勇気に信頼しんらいしたほうがいい」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密ちみつな頭脳を要する。
科学者とあたま (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
労働者の精神は意志の努力なしには、緻密ちみつな理論のやや長い連鎖をたどるに困難であろう。
一、第二期に入る人もとより普通の俳句を解するに苦まずといへども、用意の周到なる、針線しんせん緻密ちみつなるものに至りてはこれを解する能はず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これなどは、まづ自然しぜんのものにたいして、緻密ちみつ觀察かんさつをしたものゝ、書物しよもつたはじめといつてよからうとおもひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
空氣壓搾喞筒くうきあつさくぽんぷ電氣力發機等でんきりよくはつきとう緻密ちみつなる機械きかいより、銀鑞ぎんらう白鑞はくらう、タールづな
だが、彼の緻密ちみつ推算すいさんでも、自分をうごかす運命の率は割り切れなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天明てんめい寛政かんせいの浮世絵師にして婦女の写生を得意となしたる清長栄之えいし歌麿三家のうち歌麿はそのもっとも繊巧緻密ちみつなるものたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何度か、呼ぼうとしては、相手の隙とか、距離とか、さまざまな条件を老婆としよりらしく緻密ちみつに考え、数町の間、られるように歩いてしまった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれはまず第一に、大河の頭が論理的にもすばらしく緻密ちみつであるのにおどろいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それは緻密ちみつ思索しさくはないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
或社会主義者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
命令は緻密ちみつである。声は切れるように鋭い。いまや高度に働いている光秀の頭脳と、けん一歩の前まで緊張している満身の血管がそれによっても分るほどであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根附は手先の技巧のすぐれた日本人の得意とする小芸術品で、外国人には真似まねの出来ない緻密ちみつなものを作るのでしたから、外人にも珍重せられるのだと思います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
平次の観察は、次第に緻密ちみつに正確に、その時の様子を再現して行くのです。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
丘の表面にはかや、えにしだ、野薔薇ばらなどが豊かに生い茂り、緻密ちみつな色彩を交ぜ奇矯な枝振りをわせて丘の隅々までも丹念な絵と素朴な詩とを織り込んで居る。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不思議な惱ましさに、お六の言葉は暫らく絶えます。平次も救ひ、仲間にも反かず、六千兩も首尾よく奪ひ取る細工が、どんなに女らしく、陰險に、緻密ちみつに運ばれたことでせう。
「どこからこのような緻密ちみつな絵図を、早速にとり寄せて参ったのか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも、まだ緻密ちみつな女の心は、気がすまないとみえ、幾夜幾たび、浅ましい男の快楽に濡れた唇へは、濃すぎるほどな口紅をつけて、いまわしい思い出のかげを玉虫色に塗り隠した。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の緻密ちみつな性分は、考えすぎて迷いに落ちる傾きもあった。一個の文覚を訪ねる事が将来にも今にもいいか悪いかとなると、深窓の息女へ文を通わすより、彼は、細心になるのだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは仲間人の単なる噂で、江戸川氏本人から聴いたことでないから、真偽のほどは定かでないが、江戸川氏のような緻密ちみつな頭脳を持った人には、さもありそうな事でもあるのである。
私などはすなわちその講義聴聞者の一人でありしが、これを聴聞する中にも様々先生の説を聞て、その緻密ちみつなることその放胆ほうたんなること実に蘭学界の一大家いちだいか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これ安永年代一般の画風にして、やがて春章しゅんしょう清長きよなが政演まさのぶら天明の諸家を経てのち、浮世絵はついに寛政時代の繊巧緻密ちみつの極点に到達せるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして葉の緻密ちみつ紫葳のうぜんかずらのアーチを抜けた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
だが、露八が、最も感心したのは、彼の金に対する緻密ちみつさだった。馬子まご駄賃だちんの値ぎり方、旅籠代はたごだいのかけあい、鼻紙や茶代の端にでも、針ほどな、無駄もしない。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雄渾ゆうこんな構想に加えるに緻密ちみつな工匠的の美意識に富み、聡明そうめいな空間組成と鋭敏豊潤な色彩配置とを為し遂げたその純芸術力は世界にもこれに匹敵するもの甚だまれである。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
平次はその日から緻密ちみつで念入りな調べを始めました。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
以上述べて来ただけのことから考えても映画の制作には、かなり緻密ちみつな解析的な頭脳と複雑な構成的才能とを要することは明白であろう。道楽のあげくに手を着けるような仕事では決してないのである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その組織そしき菌糸きんしより緻密ちみつ
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
粗放のようで一面に緻密ちみつな、無頓着むとんじゃくのようで同時に鋭敏な、口先は冷淡でも腹の中には親切気のあるこの叔父は、最初会見の当時から、すでに直観的に津田をきらっていたらしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現在は京都に住居して八十三の高齢で現存の人でありますが、なかなか文学もあり、緻密ちみつあたまの人で、工人に似ず高尚な人で、面倒な事務を引き受けて整理してくれましたから、誰すとなく
金銀・赤銅・象牙ぞうげ等の奇創きそう緻密ちみつの細工行なわれたるは、わが人民が鍋釜さえも有せず、歯牙をもって庖刀に代え、手指をもって箸に代え、月光をもって燈火に代うるものありたればなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それは、戦争中に前篇を出された小島吉雄こじまよしお博士の『新古今和歌集の研究』続篇(昭和二十二年・星野書店)の要旨であって、緻密ちみつな考証によって動かしがたい確実性にまで到達し得ている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
一片の書簡を見るにも実に緻密ちみつ冷静だった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄の地肌もなめらかで緻密ちみつであつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
緻密ちみつな計画とあくない野望の意志によって
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
しかしこころ苦痛くつうにてかれかおいんせられた緻密ちみつ徴候ちょうこうは、一けんして智慧ちえありそうな、教育きょういくありそうなふうおもわしめた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかこゝろ苦痛くつうにてかれかほいんせられた緻密ちみつ徴候ちようこうは、一けんして智慧ちゑありさうな、教育けういくありさうなふうおもはしめた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いかにして緻密ちみつなる法律は生じたるか。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
平次の布陣は水ももらさぬ緻密ちみつさです。
何故ならば、氏の心理解剖しんりかいばう何處どこまでも心理解剖で、人間の心持を丁度ちやうどするどぎん解剖刀かいばうたうで切開いて行くやうに、緻密ちみつゑがいて行かれます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
生活のくまぐまに緻密ちみつなる光彩あれ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
お兼さんのお父さんというのは大変緻密ちみつな人で、お兼さんの所へ手紙を寄こすにも、たいていは葉書で用を弁じている代りにはえの頭のような字を十五行も並べて来るという話しを、お兼さんは面白そうにした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此小説は主人公が東京へ出てからの心の変化に、前半程緻密ちみつつ穏当な、芸術的描写が欠けているため、多少のむらがあると思いますが、世間でいう小説の意味から批判すると、或は圧巻の作かも知れません。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、白い手飾カフスの、あの綺麗な手で扱われると、数千の操糸を掛けたより、もっと微妙な、繊細な、人間のこの、あらゆる神経が、右の、厳粛な、緻密ちみつな、雄大な、神聖な器械の種々から、清い、すずし
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「死骸は、侍どもに取捨てさせればよい。ただその前に、この男の所持品、わけても書付などないか、其方そち自身も手伝うて、緻密ちみつに調べておく要があるぞ。——何かあったら、後でわしの部屋まで持って来い」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余程組織が緻密ちみつに違いない……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、みんな膝を抱えながら、眼だけは義務のように舞台へ向いておりますが、密々ひそひそとささやき合っている話の方に、多分な心をつかっていることは、少し緻密ちみつな眼でこの一組を注意していれば分りましょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、この二十余歳の青年赤毛布あかげっとは、他の同僚が、西洋の異様な風物に眩惑されている間に、金銀の量目比較のことに注意し、日本へ帰ってから、小判の位を三倍に昇せたほどの緻密ちみつな頭を持っておりました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、一人の青年の如きは、あたまが惡いので、文學でもやつたらと決心したのだと云つたので、義雄は非常に怒つて、「あたまの惡いものが緻密ちみつな文學などはなほ更ら出來る筈はない——巡査か郵便配達を志願しろ」と警告した。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しかもその布陣の緻密ちみつなる、戦意の烈々たる、全軍の堂々重厚な用意を、このふたりから聞けば聞くほど、織田、徳川の諸将も色を失って、議席は何やら戦わないうちに一種の戦慄せんりつに襲われたかの如くしんとしてしまった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その歌の巧拙はしばらいても、その声のキメの細かさ、緻密ちみつさ、匂やかさ、そうして、丁度刀を鍛える時に、地金を折り返しては打ち、折り返しては練ったあとのような何とも言えぬ頼もしいねばり強さと、奥深さとに驚嘆した。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
少くとも明治十年以前、母が大阪へ売られてから間もなく寄越よこされた文だとすれば、もう三四十年は立っているはずのその紙は、こんがりと遠火とおびにあてたような色に変っていたが、紙質は今のものよりもきめが緻密ちみつで、しっかりしていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
腕の裏側からわきの下へかけては、さかなの背と腹との関係のように、急に白くやわらかくなって、何代も都会の土に住み一性分の水をんで系図を保った人間だけが持つえて緻密ちみつすごみと執拗しつよう鞣性じゅうせいふくんでいる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一方に戦い、一方に政治し、げきの文章や使いのことにまで、こうして緻密ちみつな頭脳をはたらかせていたので、光秀の面色は今暁、京都に入るまえの凄愴せいそうな眉から、さらにいちばいの必死と「われにもあらぬ」ものを加えて、側へ寄るのも怖いような形相ぎょうそうとなっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「天を恨むよりは、自分の不明を恨むしかありません。この上は、帰路に際して、ふたたびこの兵を損じないようにするしかない」と、やっと水の退いた谷々に、入念に殿軍しんがりを配し、主力の退軍もふた手に分けて、一隊が退いてから、次を退くというふうに、あくまで緻密ちみつにひきあげた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中世以前の武家は、防禦工作物と住宅とは別であって、寄手よせてを野外で追い返すことのできぬ場合には、きまってわが屋敷に火をかけて、後の山に駈け上って防戦をしたのに、だんだんと財貨が城下に集り経済組織が緻密ちみつになるにつれて、平日の生活を重んじた結果、城下の民を合せて防衛する必要が起った。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見ているうちに、かれの緻密ちみつこのうえもなき明知は利刃のごとくにさえ渡って、犯行のあった土地が徳川宿老のご城下であるという点と、さながらその犯行が伊豆守の帰藩を待つようにして突発したというその二つの点に、ふと大きな疑問がわいてまいりましたものでしたから、右門は猪突ちょとつにことばをかけました。
しかし末造はこの席で幻のように浮かんだ幸福の影を、無意識に直覚しつつも、なぜ自分の家庭生活にこう云う味が出ないかと反省したり、こう云う余所行よそゆきの感情を不断に維持するには、どれだけの要約がいるか、その要約が自分や妻に充たされるものか、充たされないものかと商量したりする程の、緻密ちみつな思慮は持っていなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)