もと)” の例文
この意味および言語は実にフランス国民の存在を予想するもので、他の民族の語彙ごいのうちにもとめても全然同様のものは見出し得ない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
水鬼はめいもとめるという諺があって、水に死んだ者のたましいは、その身代りを求めない以上は、いつまでも成仏じょうぶつできないのである。
分割して私地となし、百姓に売与して年々にそのあたいもとむ。今より後、地を売ることを得じ。みだりに主となつて劣弱を兼併することなか
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そしてそこで、彼は、一所懸命に真理の智慧をさがし求めたのでした。しかし、求める真理の智慧は容易にもとめ得られませんでした。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
じつに不思議なのは、遠くから極めて疎らに飛んで来る花粉が、よくもマア卵子頂のこの小さい孔をもとめて飛びこんで来るもんだ。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
仙人せんにん張三丰ちょうさんぼうもとめんとすというをそのとすといえども、山谷さんこくに仙をもとめしむるが如き、永楽帝の聰明そうめい勇決にしてあに真にそのことあらんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一 されば文章に修飾をつとめず、趣向に新奇をもとめず、ひたすら少年の読みやすからんを願ふてわざと例の言文一致も廃しつ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
が、何故に不合理な、事実らしくない話を強いて合理的に解釈してそれを事実と見、あるいはそこに何らかの事実をもとめなければならぬか。
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
唇の色も歯なみも壮者と変りがない。いて普通人よりすぐれているかと思われるところをもとめればそんな点ぐらいしか、見出せなかった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氏の帰朝は、予定より何週間も遅れたのでした。初めモスコウに着いた時には、もとめる家族がどこにいるものか、少しも判りませんでした。
それを掘込んで行くときに結局不知不識しらずしらずに自分自身の体験の世界に分け入ってその世界の中でそれに相当するつながりをもとめることになります。
書簡(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
玄機の所へは、詩名が次第に高くなったために、書をもとめに来る人が多かった。そう云う人は玄機に金を遣ることもある。物を遣ることもある。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
猛禽はさいぜん、子をもとめ得て、かの古巣をさして舞い戻ったが、そのほかに地を走る狐兎偃鼠ことえんそやからもいないはずはない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしは筆を中途に捨てたわが長編小説中のモデルを、しばしば帝国劇場に演ぜられた西洋オペラまたはコンセールの聴衆の中にもとめようとつとめた。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
苦悶の陶酔の裡に真理の花を探しもとめんがために、エピクテート学校の体育場へせ参ずるストア学生の、お前は勇敢なロシナンテではなかったか!
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
こりゃ誰か私に告げるのじゃと思って、誰かといいつつ遠近おちこちを見廻わして、法林道場の後ろの方にも人が居らないかともとめて見ましたが誰も居らない……。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼はことさらみはれるまなここらして、貫一のひて赤く、笑ひてほころべるおもての上に、或者をもとむらんやうに打矚うちまもれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手に持ちたる蝋燭も、かなたこなたを搜しもとむる忙しさに、流るゝこといよ/\早く、今は手の際まで燃え來りぬ。畫工の周章は大方ならざりき。そも無理ならず。
かつ今年の冬のごとき、いまだ関西の卒をめず。県官急に租をもとむるも、租税いずれよりか出でん。まことに知る男を生めば悪しきを。かえってこれ女を生むは好し。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
〔評〕幕府勤王の士をとらふ。南洲及び伊地知正治いぢちまさはる海江田武治かいえだたけはる等尤も其の指目しもくする所となる。僧月照げつせう嘗て近衞公の密命みつめいふくみて水戸に至る、幕吏之をもとむること急なり。
彼れ人生に於ていさゝかの通ずる所なくして、徒に之を空※くうけうなる腹中にもとむ、斯の如きは固より其所なり。若し彼をして真に人情世故に通ぜしめば豈に是のみにして止まらんや。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
其の源泉は隠れて深山幽谷の中に有り、之をもとむれば更に深く地層の下にあり、の如き山、之を穿うがつ可からず、いづくんぞ国民の元気を攫取くわくしゆして之を転移することを得んや。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
月支げっし国王名は栴檀せんだん罽昵吒けいじった、この王、志気雄猛、勇健超世、討伐する所摧靡さいひせざるなし、すなわち四兵を厳にし、華氏城を攻めてこれを帰伏せしめ、すなわち九億金銭をもとむ。
先日、疲労しきつた私は、力をもとめて黄昏の神楽坂かぐらざかを菱山の家へと急いだ。私の声に菱山は書斎から飛び降りてきたが、私の顔色が悪いと言つて、いきなり顔を悲しく顰めた。
宿命の CANDIDE (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
加ふるに石南しやくなん蟠屈ばんくつ黄楊つけ繁茂はんもとを以てし、難いよ/\難を増す、俯視ふしして水をもとめんとすれば、両側断崖絶壁だんがいぜつぺき、水流ははるかに数百尺のふもとるのみ、いうしてはやく山頂にいたらんか
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
今や鐵幹、其長短歌を集めて一卷と爲し、東西南北といふ。余に序をもとむ。余、鐵幹を見る、日猶淺し。之に序する、余が任にあらず。然れども、其歌を知るは、今日に始まるに非ず。
東西南北序 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
「はてな、はてな。」とこうべを傾けつつ、物をもとむる気色けしきなりき。かたわらるは、さばかり打悩うちなやめる婦女おんなのみなりければ、かれ壁訴訟かべそしょうはついに取挙とりあげられざりき。盲人めしい本意ほい無げにつぶやけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいは蚊帳の中のあおずんだ光が、森の月光に獲物をもとめて歩いた遠い祖先の本能を呼び覚すのではあるまいか。もし色の違った色々の蚊帳があったら試験して見たいような気もした。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
私たちは日本の各地に生い育った民藝みんげい品をもとめて長い旅を続けた。北は津軽から南は薩州にまで及んだ。もとより古い作物の探索ではない。現に何が作られているかを知るためであった。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかのみならず、存在の理由というものを徹底的にもとむるならば、それは創生した力に帰すべきものである。一の現象が vorkommen したことがその現象の存在の理由である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
家どころももとむるによしなく、途に逢ふ人々の怪しむさまはしるきに、はじめておのが姿をみとめつつ、白髪の地に曳くばかりなるを撫し、かばかり老いさびたりしをおどろくに堪へざりしも、ことわりなり
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
彼が日々喪狗の如く市中を彷徨うろついて居る、時として人の家の軒下に一日を立ち暮らし、時として何かもとむるものの如く同じ路を幾度も/\往來して居る男である事は、自分のよく知つて居る處で、又
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
われに帰ったようにハッとして、誰も居ない筈の部屋の中をグルリと見廻しました若林博士は、黒装束の右のポケットに手を突込んで、何やら探しもとめているようで御座いましたが、そのうちにフト又
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
マニロフカを探しもとめて馬車は駈けだした。
それから、雪のなかへともとめに出る
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
何をもとめてや、何を訪ねてや。
織工 (新字新仮名) / 根岸正吉(著)
悪酔の、狂ひ心地に美をもと
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
すなわち、「いき」を単にしゅ概念として取扱って、それを包括する類概念の抽象的普遍を向観する「本質直観」をもとめてはならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
れ永楽帝のおそうれうるところたらずんばあらず。鄭和ていかふねうかめて遠航し、胡濙こえいせんもとめて遍歴せる、密旨をふくむところあるが如し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僧は水をもとめて噴きかけると、神授はたちまち小さいあかい蛇に変った。僧はかめをとって神授の名を呼ぶと、蛇は躍ってその瓶のうちにはいった。
白河以北破駅荒涼トシテ村落ノ如シ。ハ多ク牝馬ヲ用ユ。往往ノ尾ニキ乳ヲもとムルヲ見ル。須賀川すかがわノ駅ニ宿ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「雞」の行方に関してはその後私は知らなかったが、地主の一党は私に依ってそれの緒口をつかもうとして私の在所ありかくまなく諸方にもとめているそうだ。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
茶山は留守居の北条が鵬斎を識つてゐるので、自ら鵬斎に贈る詩を賦し、鵬斎の詩をももとめて、北条に併せ送つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
史書に、実例をもとめれば、枚挙にいとまがないほど、幾らでも、事件が出てくる。二、三例を拾ってみれば——
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田道間守たじまもりは食うべき蜜柑であるトキジクノカクノコノミを捜がしもとめに常世の国へ行ったのではなかったか。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
羅馬より下、地中海の荒波寄するあたりまで、この流には橋もなし、またもとむとも舟もあらざるべし。
ところへ近所の者来り若い女に百巻捲かれても苦しゅうないが竜に七巾ではお困りでしょう、よい事がある、竜は天性慳吝けんりんで、咽上に宝珠あるからそれをもとめなさいと教え
何か目的あって、それを探しもとめるために出動したものと見なければならないのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やつがれしか思ひしかども、今ははや夜もけたれば、今宵は思ひとどまり給ふて、明日の夜更に他をまねき、酒宴を張らせ給へかし。さすれば僕明日里へ行きて、下物さかな数多あまたもとめて参らん」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ほとほと自らそのいとぐちもとむるあたはざるまでに宮は心を乱しぬ。彼は別れし後の貫一をばさばかり慕ひて止まざりしかど、あやまちを改め、みさをを守り、覚悟してその恋を全うせんとは計らざりけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)