ひい)” の例文
お舎弟様は文武の道にひいで、お智慧も有り、ず大殿様が御秘蔵の御方おんかた度々たび/\めのお言葉も有りました事は、父から聞いて居ります
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
瑠璃子の前には、小姓か何かのように、力のないらしい青年は、極度の当惑に口をつぐんだまま、そのひいでたまゆを、ふかくひそめていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
此の一事を以ても、敦忠の死が人々に惜しまれたこと、又敦忠が和歌ばかりでなく、管絃の道にもひいでゝいたことがしのばれるのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一種の迷信めいたものを持つてゐるS君はその鋭いひいでた眼を少しとろりとさせ、白い小作りな顔をぽつとさせて、首をかしげ/\云つた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
體術と据物斬すゑものぎりひいでたといふ、お菊殺しの下手人は誰? どうくびひねつたところで、ガラツ八には解りさうもなかつたのです。
看護員は犇々ひしひしとその身をようせる浅黄あさぎ半被はっぴ股引ももひきの、雨風に色褪いろあせたる、たとへば囚徒の幽霊の如き、数個すかの物体をみまはして、ひいでたるまゆひそめつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一 鴎外先生若き頃バイロンの詩を訳せらるるに何の苦もなく漢字を以ていんを押し平仄ひょうそくまで合せられたり。一芸にひいづるものは必ず百芸に通ず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
花瀬は次第にやつるるのみにて、今は肉落ち骨ひいで、鼻頭はなかしら全くかわきて、この世の犬とも思はれず、頼み少なき身となりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
藩を浪人して諸国を修行し、武術に限ることはなく、およそ一芸一道にひいでた者はれなく訪ねて練り上げたもので、流儀の根本は直心陰じきしんかげです。
これはほとんど病苦と云うものの経験のない、あから顔の大男で、文武の両道にひいでている点では、家中かちゅうの侍で、彼の右に出るものは、幾人もない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
繰りかえしを彼らは迷う事なく選ぶ。進展がないとそしる人があるかも知れぬが、その代りあのひいでた初期の作物に並び得るものを今も無造作に造る。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その容貌は人の眼を惹きつける。それは希臘人の顏に似て輪廓が非常に正しい。まつたく鼻梁はなすぢひいでた古典的な鼻と、アゼンス人その儘の唇と顎。
若いうちは常に先鋒隊に置かれ、相当、勇名を鳴らしたが、それも当時の織田軍全体に破竹の勢いがあったからで、何も彼がひいでていたわけじゃない
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯、その場合ひいでたる作者は地下の部分を連想すべく地上の部分を叙する。また、秀でたる鑑賞家は、地上の部分を見て直ちに地下の部分を想像する。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
またいとひいづる家系いへがらと二の冠とを辱めたるその叔父と兄弟との惡しきおこなひは何人にも明らかなるべし 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
赤地にしきの直垂ひたたれ緋縅ひおどしのよろい着て、頭に烏帽子えぼしをいただき、弓と矢は従者に持たせ、徒歩かちにて御輿みこしにひたと供奉ぐぶする三十六、七の男、鼻高くまゆひい
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
頼長は夢から醒めたように眼を見据えて、そのひいでたる眉をすこし皺めたが、忽ちに肩をそらせてあざ笑った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ウヽ、芳賀はが君の今日こんにちあることを、わしはつとに知つとつた。芳賀君はもつとも頭脳もひいでてをつたが、彼は山陽の言うた、才子で無うて真に刻苦する人ぢやつた」
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
知力ひいでた強固な政府があって、ユダヤ人らをその本来の地位にすえ得るならば、フランスを偉大ならしむるもっとも有用な道具の一つと彼らをなすだろう。
やがて立出でて南をむきて行くに、路にあたりていと大きなる山の頭を圧す如くにそばだてるが見ゆ。問わでも武甲山ぶこうさんとは知らるるまで姿雄々しくすぐれてひいでたり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
扨は瀧口殿が事思ひ給うての事か、武骨一の瀧口殿、文武兩道にひいで給へる重景殿にくらぶべくも非ず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
へば蒼白あをじろくなる顔は益々ます/\蒼白あをじろひいでたまゆを寄せて口を一文字に結んだのを見るとふさ可恐こはいと思つた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
とにかく一つの技能にひいでるということは、それが不正なものでない限り、いたってよいことだ。それでわしは今まで、お前が一生懸命になってるのを黙って見ていた。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
舞踊にもひいで、容貌は立並んで一際ひときわ美事みごとであったため、若いうちに大橋氏の夫人として入れられた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その縁側のところへ来て、お仙が父の達雄に彷彿そっくりな、額の広い、眉のひいでた、面長な顔を出した。彼女は何を見るともなく庭の方を見て、復た台所の方へ引込んで了った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かたわらに坐したるは。前のむすめにくらべては。二ツばかり年かさにやあらん。鼻たかくして眉ひいで。目は少しほそきかたなり。常におさんには健康を害すなどいいてとどめたまう。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
そも/\燧山は岩代国にぞく巍峩ぎがとして天にひいで、其麓凹陥おうかんして尾瀬沼をなし、沼の三方は低き山脈を以て囲繞ゐげうせり、翻々たる鳧鴨ふわう捕猟ほりやうの至るなき為め悠々いう/\として水上に飛しやう
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
T夫人の客間においては、皆ひいでた階級の人々であったから、花やかな礼容の下に、趣味は洗煉せんれんされまた尊大になっていた。習慣は無意識的なあらゆる精緻せいちさを含んでいた。
山がひいで清水のさらに豊かなる大きな島を目ざすのは自然だが、すでに第二第三の灌漑方式の可能なることを知っておりながら、わざわざ(一)の道しかない小島へ渡って
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
尾張源敬公げんけいこうに仕え、門弟多く取り立てしうち、長屋六兵衛、杉山三右衛門、もっとも業にひいでましたよし——大坂両度の合戦にも、尾張公に従って出陣し、一旦致仕ちししさらに出で
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湿気を含んだ空気は、沈鬱ちんうつ四辺あたりを落着かせた。高くひいでた木の枝が、風にたわんで、伏しては、また起き上り、また打ち伏していた。他の低い木の枝は、右に泳ぎ、左に返っていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
最初蝦夷松椴松のみどりひいであるいは白く立枯たちかるゝ峰を過ぎて、障るものなきあたりへ来ると、軸物の大俯瞰図のする/\と解けて落ちる様に、眼は今汽車の下りつゝある霜枯しもがれ萱山かややまから
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
李徴はようや焦躁しょうそうに駆られて来た。このころからその容貌ようぼう峭刻しょうこくとなり、肉落ち骨ひいで、眼光のみいたずらに炯々けいけいとして、かつて進士に登第とうだいした頃の豊頬ほうきょうの美少年のおもかげは、何処どこに求めようもない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それは物のいい振りや起居と同じように柔和な表情の顔であったが、白い額に、いかつくないほどに濃い一の字を描いている眉毛まゆげは、さながら白沙青松はくさせいしょうともいいたいくらい、ひいでて見えた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
私の容貌ようぼうのことを、眉ひいで、目もと涼しく、鼻筋とおり、口もと尋常、と云った工合で、典型的な美少年のように書いてあり、これで家の者も誰一人怪しむ者もいなかったのかと思ったら
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
こめかみのところが非常にく、そして白くなっていて、うしろへなでつけてある髪の毛が、深いしわのたくさんある、いわばきずあとでもついているような、ひいでたひたいをふちどっている。
「完全な個人」とは平凡に平均した人間という意味でもなければ、万能にひいでたという伝説的な天才の意味でもありません。人間は何事にせよ、自己に適した一能一芸に深く達してさえいれば宜しい。
文化学院の設立について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
老いたる太陽の夫婦は、自分たちよりも、また大仏よりも気高くひいでた女神の光と勢いの張りの鋭さを見出して満足する。二人の仕事は完成したのだ。三代の女帝の必死の祈りはつつがなく果された。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
松五六本、ひょろひょろとがけよりひいでて、斜めに海をのぞけり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
風貌ふうぼうひいでた藩公の銅像の立っている公園をも散歩した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その技芸において頗るひいでたものであると信じている。
活動写真 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
あはれかのまゆひいでし少年よ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
古来こらい山河さんがひいでたる
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
おそらくここほど容易にひいでた品物を将来産み出し得る可能性のある所はないであろう。この村を守る者に課せられた大きなよろこばしい責任である。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ひいでた眉、高い鼻、少し大きいが紅い唇、うたひの地があるらしいさびを含んだ聲、口上も江戸前でハキハキして居ります。
あれ程立派なひいでた青年が、宣教師として立つ計畫をしたことを、彼は、同情を持つて話した——それは、まつたく、貴重な人生を投げ捨てるのだ。
地勢上、博多町人は、進取の気宇きうと、呑海どんかいの豪気にひいで、堺町人は経営の才と、文化性に富み、またこれを政治に結ぶことを忘れない特性をもっていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その恐ろしく長く切れた眼、立派な建築物のようにひいでた鼻、鼻から口へつながっている突兀とっこつとした二本の線、その線の下に、たっぷり深く刻まれたあかい唇。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
花ありてこそ吾人は天地の美を知る、英雄ありてこそ人間のなるを見る、人類の中にもっともひいでたるものは英雄である、英雄は目標である、羅針盤らしんばんである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
後者はひいでた歌手だった。三人の老人連中は、いっしょにクリストフのうわさをしたことがしばしばあった。そして彼の音楽を見当たる限りことごとくやってみた。