由縁ゆかり)” の例文
一度左近が兵衛らしい梵論子ぼろんじの姿に目をつけて、いろいろ探りを入れて見たが、結局何の由縁ゆかりもない他人だと云う事が明かになった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あまり、有難くもないだろうが、死者の由縁ゆかりの者が来たら、言伝ことづけてくれ。——逃げ隠れはせぬ、いつでも、御挨拶はうけるとな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さっき名のった言葉によれば、日本全国六十余州に、散在している陰陽師の司、中御門中納言の由縁ゆかりの者、山尾とか申す女の由……」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことに殿下は一切智者にして慧海の入国を寛大に看過かんかし、しかして私にその秘密の教えを授けられたのはそもそも由縁ゆかりある事でございましょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それがどうして長い眠りから醒めて、なんの由縁ゆかりもない後住者の子孫を蠱惑こわくしようと試みたのか、それは永久の謎である。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが、エリザベスの場合では、じつは神経状態にある特殊な由縁ゆかりがあって、そのために彼女の性的組織の病状は、重態を示すものだったのである。
もしや、過ぎし曲者の由縁ゆかりの者にて、あだを報ぜんとするのでは有るまいか。油断のならぬと気着いた時に、ぞっとした。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
多くの書生客の中にても、誠に我が注意を惹きしは、その頃大学予備門に通ひゐたまひし浅木由縁ゆかりといへる人なりき。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
元は己と由縁ゆかりのあるものと分ったから、命が助かった替りに金を向うへ遣り、其の時貰って来たのが此処に居る多助よ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昔の友といふ中にもこれは忘られぬ由縁ゆかりのある人、小川町の高坂とて小奇麗な烟草屋の一人息子、今は此樣に色も黒く見られぬ男になつては居れども
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「サン、カルロ」座なる數千の客は我に何の由縁ゆかりもなきに、口をひとしうして喝采したり、われは惠深き君の我喜を分ち給はんことをはかりしにと答へたり。
昨年であつたか岩崎某がその友人である大学生の某を誤つて撃殺うちころしたといふことを聞いた時に、縁も由縁ゆかりもない人であるけれど余は不愉快でたまらなかつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その時はこねくられたとも何とも、進退きわまり大騒ぎになって、れから玉造たまつくりの与力に少し由縁ゆかりを得て、ソレに泣付なきつい内済ないさいたのんで、ヤット無事に収まった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
前年自分が弁護した由縁ゆかりで引き取って此の屋敷へ埋めたと云う事を其の頃の新聞で読んだ事が有る、其の様な汚らわしい者の墓へ此の美人が参詣とは是も怪だ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
冠木門の内にも、生垣の内にも、師匠が背戸にも、春は紫のすだれをかけて、由縁ゆかりの色はこまやかながら、近きあたりの藤坂に対して、これを藤横町ともいわなかったに。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなことはわたくしとしては申し上げにくいことですけれど、いまわたくしの所に近江からいささか由縁ゆかりのありますものの御子息が上京せられて来ておられますが
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
………『今は野沢の一つ水、澄まぬ心の主にもしばし、すむは由縁ゆかりの月の影、忍びてうつす窓の内』………それからあとが『広い世界に住みながら』となるんだが
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしは此墓に由縁ゆかりは無いが、少しわけがあつて詣つたのだ。どうぞ綫香せんかうと華とを上げておくれ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「あたくしたち、夜直でおそくなって、月の光をたよりに帰ってきますと、ジャングルの奥から「由縁ゆかり」なんかきこえてきますと、なんともいえない気持がいたしましたわ」
黄泉から (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なんの由縁ゆかりもない土地を、お嬶っさまや息子を連れて来て、これが俺らほの山だ、これが俺ら方の土地だって、あたりめえの顔で見て廻って……法律上の事を云ふんぢゃない……。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
上月の夜に小菜こなの汁に米の飯、べんけいさんは理想が小さい。ねえ、それなのに、私はべんけいさんの理想も途方もないぜいたくに思ってます。他人さまとは縁も由縁ゆかりもないのよ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
見て非人共は耳語さゝやきあひ何と彼の座頭ざとうは幸手の富右衞門とやらの由縁ゆかりの人と見えるがどうだ少しでも酒代さかてもらつてくびやらうではないかと相談なしモシ/\御座頭おざとうさん高くは云れねへが首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
江戸の町住居まちずまいをしたとき、通りがかりの若衆が同じ定紋を付けているのを見て、すわや敵の縁者とばかり、後をつけて行って、彼が敵とは縁も由縁ゆかりもない、旗本の三男であることを
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
仲人親なこうどおやという位、若くしてこの世を早くした妹のためにも何かと由縁ゆかりがあるよう感じまして、右の義を師匠に話しますと、それは好い人を見つけた、早速頼むがよかろうというので
この坊さんもそんなような前身で、大崎の下邸には由縁ゆかりのお墓もあるといった。
めては世間並せけんなみ真人間まにんげんにしなければ沼南の高誼こうぎに対して済まぬから、年長者の義務としても門生でも何でもなくても日頃親しく出入する由縁ゆかりから十分訓誡して目を覚まさしてやろうと思い
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「それ程にして戴かなくたっていんですよ。あの人達は、親だか子だか、私なぞ何とも思っていませんよ。生家さと生家さとで、縁も由縁ゆかりもない家ですからね」お島はそう言いながら、いて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つま冥途めいどにさきだてひとあとにのこり、かそけきけふりさへ立かねたれば、これよりちかき五十嵐村いがらしむら由縁ゆかりものあるゆゑたすけをこはんとてこの橋をわたりかゝり、あやまちて水に入り溺死おぼれしゝたるもの也
敵こそ違え、はかるに光秀の胸には、こここそは足利氏が室町十数代の基をなした発足の地という由縁ゆかりをかならず想起していたであろう。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうではない。縁も由縁ゆかりもない我らを、このように歓待してくれながら、主人が顔を出さぬのは不都合……いや、解せぬというのじゃ」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むかしともといふうちにもこれはわすられぬ由縁ゆかりのあるひと小川町をがはまち高坂かうさかとて小奇麗こぎれい烟草屋たばこや一人息子ひとりむすこいま此樣このやういろくろられぬをとこになつてはれども
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こう云えば、まず大抵は想像が付くでしょうが、長崎の祭りを恋しがった全真という納所は、お鎌の夫婦に由縁ゆかりのある者で、実はお鎌の甥にあたるんです。
すると寺の本堂に、意外にも左近と平太郎との俗名を記した位牌いはいがあった。喜三郎は仏事が終ってから、何気なにげない風をよそおって、所化しょけにその位牌の由縁ゆかりを尋ねた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は縁も由縁ゆかりも無き蝙蝠こうもり傘屋に入らんとす「君それは門違いで無いか」と殆ど余の唇頭くちびるまでいでたれどこゝが目科のいましめたる主意ならんと思い返して無言のまゝに従い入るに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
後にいのくだりになって、「げにはずかしや我ながら、昔忘れぬ心とて、………今三吉野みよしのの河の名の、菜摘の女と思うなよ」などとあるから、菜摘の地が静に由縁ゆかりのあることは
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
分ておもらひ申さにやならぬと血眼ちまなこになりて申にぞ安五郎は當惑たうわくなし我等とても段々の不仕合ふしあはせ折角せつかく連退つれのいたる白妙には死別しにわかれ今は浮世うきよのぞみもなければ信州しんしう由縁ゆかりの者を頼み出家しゆつけ遁世とんせい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
青年に、由縁ゆかりのある人を物色すれば、時計を返すべき持主も、案外容易に、見当が付くにちがひない。否、少くとも瑠璃子と云ふ女だけは、容易に見出し得るにちがひない、信一郎はさう考へた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ソコで私がこの藩主にむかって大に談じられる由縁ゆかりのあるとうのは、その藩主と云う者は伊達だて家の分家宇和島うわじま藩から養子に来た人で、前年養子になると云うその時に、私があずかっおおいに力がある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
むかしおとこありけるという好男子に由縁ゆかりありはらの業平文治なりひらぶんじがお話はいざ言問わんまでもなくひなにも知られ都鳥の其の名に高く隅田川すみだがわ月雪花つきゆきはなつに遊ぶ圓朝えんちょうぬしが人情かしら有為転変ういてんぺんの世のさま
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
殉死する本人や親兄弟妻子は言うまでもなく、なんの由縁ゆかりもないものでも、京都から来るお針医と江戸から下る御上使との接待の用意なんぞはうわの空でしていて、ただ殉死のことばかり思っている。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
由縁ゆかりなき人のをかしと聞き給ふべき筋の事にはあらぬをといふ。
前刻さつきいまで、桔梗ききやうほしむらさき由縁ゆかりであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
武蔵という国は承知でもあろうが、源氏にとっては由縁ゆかりの深い土地だ。源氏の発祥地ともいうべき土地だ。ここから源氏の諸豪族が起こった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いま京都に家を持っているが、海北友松は、江州ごうしゅう堅田かただの人。つまり光秀の領する坂本城の近くに生まれた由縁ゆかりをもっている。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔の友といふ中にもこれは忘られぬ由縁ゆかりのある人、小川町の高坂とて小奇麗な烟草屋たばこやの一人息子、今はこの様に色も黒く見られぬ男になつてはゐれども
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
青年に、由縁ゆかりのある人を物色すれば、時計を返すべき持主も、案外容易に、見当が付くにちがいない。いな、少くとも瑠璃子と云う女だけは、容易に見出みいだし得るにちがいない、信一郎はそう考えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
又それを仕損じて、どのような怖ろしい罪科に陥ちようとも、しょせんはお師匠さまの自業自得じごうじとくじゃ。わたしはお前のお師匠さまに恨みこそあれ、恩もない、義理もない、由縁ゆかりもない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論それはあの神下しの婆なぞとは何の由縁ゆかりもない人物だったのには相違ありませんが、その視線を浴びると同時に、新蔵はたちまちお島婆さんの青んぶくれの顔を思い出しましたから
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ア、コヽニアノ爺サンノ墓ガアッタッケナ」ト、通リスガリニ立チ寄ッテ線香ノ一本モ手向ケテクレル。江戸ッ子ニ一向由縁ゆかりノナイ北多摩郡ノ多磨墓地ナンゾニ葬ムラレルヨリ遥カニ優シダ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
百姓・町人は由縁ゆかりもなき士族へ平身低頭し、外にありては路を避け、内にありて席を譲り、はなはだしきは自分の家に飼いたる馬にも乗られぬほどの不便利を受けたるはけしからぬことならずや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)