無造作むぞうさ)” の例文
食後の葉巻をくわえたゲエルはいかにも無造作むぞうさにこう言いました。しかし「食ってしまう」というのはなんのことだかわかりません。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老刀自は裏山からかねて見つけておいた、すがれた秋草を取揃えて持って来て、李朝白磁の手頃なふっくりした花瓶に無造作むぞうさに挿す。
ふわりと宙に浮ぶような煙の状態は、「二階からたばこの煙」という無造作むぞうさな表現によって、かえってよく現し得るのかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
孫伍長はポケットの中で撃った拳銃ピストル無造作むぞうさにとり出して倒れかかる中尉へ更に数弾を浴せかけた。犬でも射殺するような態度だった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
裸体を回想として近接の過去にもち、あっさりした浴衣ゆかた無造作むぞうさに着ているところに、媚態とその形相因とが表現をまっとうしている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
月並宗匠がこういう場合に作る句は、かくの如く目前の景色を無造作むぞうさにいってのける事はせぬ。何とか此処へ一理窟を持って来る。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
... 極く無造作むぞうさですから皆さん一つお試しなすって御覧なさい」客「ところで今あの料理人がこしらえているのは何というお料理です」中川
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
予は姉には無造作むぞうさに答えたものの、奥の底にはなつかしい心持ちがないではない。お光さんは予には従姉いとこに当たる人の娘である。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
遊行上人はこういって、座右ざうの箱に入れてあった名号の小札を一掴ひとつか無造作むぞうさに取っておしいただくと、肩衣袴かたぎぬばかまを附けた世話人が
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると、絹の焼け布片きれがでてきた。彼はそれを無造作むぞうさにひらいた。こんどは黄金メダルがでてきた。ぴかぴか光るので彼はびっくりした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしには——認識した御本人でなくては」と団扇のふさをほそい指に巻きつける。「夢にすれば、すぐにきる」と例の髯が無造作むぞうさに答える。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
引摺り上げる時風呂敷の間から、その結目むすびめを解くにも及ばず、書物が五、六冊畳の上へくずれ出したので、わたしは無造作むぞうさ
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と直次は姉を前に置いて、熊吉にその日の出来事を話して無造作むぞうさに笑った。そこへおさだは台所の方から手料理の皿に盛ったのを運んで来た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三人は、それから、そろって各室を一巡いちじゅんした。朝倉先生は、室ごとに、入り口をはいると、立ったままで無造作むぞうさに言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
長持は座敷の真中に持ち出され、一警官の手によって、無造作むぞうさに蓋が開かれた。五十燭光しょっこうの電燈が、醜く歪んだ、格太郎の苦悶の姿を照し出した。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢来の竹を一本抜いて来て、十介は、その先を刃物でとがらせ、無造作むぞうさに丑蔵の首を突き刺して黙々と河原へ下りてゆく。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにがし大名から領地へ送る、莫大ばくだいもない黄金を、無造作むぞうさに積みこんでいるからで、こういう船を襲わなかったら、それこそ海賊としては新米であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
義家よしいえはそこらにあるゆみをつがえて、無造作むぞうさはなしますと、よろいを三まいとおして、うしろに五すんやじりが出ていました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それを聞くと「そうでございますか」と無造作むぞうさにいいながら、ヴァイオリンを窓の外にほうりなげて、そのまま学校を退学してしまったのも彼女である。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
次々と無造作むぞうさに屈曲して来たということが、いわゆる固有宗教の弱味といえば弱味だが、同時にまた懐古の学問の、測り知れざる魅力ともなっているのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
暴食のくせなどもほとんせたせいか、健康もずっと増し、二十貫目かんめ近い体に米琉よねりゅう昼丹前ひるたんぜん無造作むぞうさに着て
平次は無造作むぞうさに笑い飛ばして、縁側に後ろ手を突いたまま、空のあおさに見入るのでした。七夕たなばたも近く天気が定まって、毎日毎日クラクラするようなお天気続きです。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おとこは、無造作むぞうさに、毎日まいにち、ぼろくずや、古鉄ふるてつなどをいじっているあらくれたで、かれした、金銀細工きんぎんざいくかざりとさかずきとを、かわるがわるってながめていました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そいつを無造作むぞうさつかんで、そこらをふいている可愛い男の顔を、お絃は、食べてしまいたそうに、うっとり見惚みとれていようという、まことに春風駘蕩しゅんぷうたいとうたるシインだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
無造作むぞうさに突っ立った、相手の体構えに、不思議な、圧力がみなぎっていたのだ。何十何百の、捕り方に囲まれても、一度も周章うろたえたことのないような、不敵者の彼だった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わがはいは決して道徳問題は、みなみな無造作むぞうさに解するものと言うのではない。一生の間には一回二回もしくは数回はらわたち、胸をこがすようなあらそいが心の中に起こることもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その時、うしろに立っていた岸本監督は、一男が無造作むぞうさに歩き出したのを見て、はっとした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
春重はるしげから、無造作むぞうさされたくろな一たばは、まつろうひざしたで、へびのようにひとうねりうねると、ぐさりとそのままたたみうえへ、とぐろをいておさまってしまった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
むかし、洋服も自転車も人にさきがけた彼女も、今では白髪しらがまじりのかみの毛を無造作むぞうさにひっつめ、夫の着物のこんがすりで作ったモンペをつけ、小さな息子に舟でおくられている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その淡墨と濃墨との接する処は極めて無造作むぞうさであつて、近よつてこれを見ると何とも合点がてんのゆかぬほどであるが、少し遠ざかつて見ると背中の淡白うすじろい処が朦朧もうろうとして面白く見える。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
袖口の切れたやうな長襦袢ながじゆばんに古いお召の部屋着をきてゐたその上にうちかけ無造作むぞうさに引つかけて、その部屋へ顔を出して行つたのであつたが、鳩のやうな其の目はよくその男のうへに働いた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
(おいおい、松本まつもとへ出る路はこっちだよ、)といって無造作むぞうさにまた五六歩。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無造作むぞうさな手つきで死人の体をまさぐっていられましたが、やがてふと、卒塔婆の前のもう既に燃えつきようとする線香の束の横から、白い手紙のようなものを取りあげると、そいつをひろげて
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ミチは疲れ切った男の為に、部屋に戻り、押入れから、縞目しまめもわからぬ木綿布団を無造作むぞうさに引き出して敷いた。勇は仰向あおむけに布団へ転がると大きな息を吐いた。博奕ばくちはなはだしく悪かった時の癖だ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
おくさまはれい似合にあはしづみにしづんで、わたし貴君あなたてられはぬかとぞんじまして、れで此樣このやうさびしうおもひまするといづれば、またかと且那だんなさま無造作むぞうさわらつて、れがなにふたか、一人ひとりかんがへたか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
最も貧しい窯の一例でありますが、出来るものを見ますと誠に立派で活々した仕事であります。雑器のこと故、極めて無造作むぞうさに作りはしますが、中から選べば、名器と呼ばれてよいものに出会います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼女にそう無造作むぞうさに言われたので、彼はいやな心地がした。
ただ白い紙へ無造作むぞうさに書いてあるのが非常に美しい。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
花のようなものをみつめて無造作むぞうさにすわっている
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
と私は無造作むぞうさに尋ね返した。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は俊助に声をかけられて、やっと相手の居場所に気がつくと、これは隣席の夫婦づれにも頓着なく、無造作むぞうさに椅子をひき寄せて
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女房はそれと見るとすぐ納戸なんどから、どてらと枕を持ってきて、無造作むぞうさなとりなしにいかにも妻らしいところが見えた。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
竜之助は、やはり片手でさぐって、のたり廻る幸内の襟髪えりがみ無造作むぞうさに掴んで、部屋の隅へ突き飛ばしてしまいました。
煮るといってもシチューにするのとボイルドにするのと料理法が違いまして、ボイルドは無造作むぞうさですけれども雁や鴨のようなものは用いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「よくああ無造作むぞうさに鑿を使って、思うようなまみえや鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言ひとりごとのように言った。するとさっきの若い男が
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういうと、金博士は、無造作むぞうさに、人造人間の金博士をばらばらに解体し、それを例の三つのトランクに収めた。
唖は、眼をさました猛獣のように、むしろの上に眼を落すと、もっそりと、身を起して、無造作むぞうさに、筵をめくッた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無造作むぞうさな人物で、自分で自分の自動車を操縦して、よく玉村商店へ遊びに来たが、話し好きで、どことなく愛嬌あいきょうがあったので、主人の玉村氏ともじき懇意を結び
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やや気軽に色々の動機を承認したのでもあろうが、互いに事態の想像しやすい陸続きの土地ですらも、もとは各自の疆域きょういきを守って、そう無造作むぞうさには出て行かなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、彼がやっと引張り出した書面を無造作むぞうさに受取って読み始めたが急に緊張した様子で云った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)