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みなぎ
ふりがな文庫
“
漲
(
みなぎ
)” の例文
一種、眼の
眩
(
くら
)
みそうな
臭
(
におい
)
が室内に
漲
(
みなぎ
)
って、周蔵は起上って坐っていたが、私の入って来ると同時にまたごろりと
眠
(
ね
)
ころんでしまった。
黄色い晩
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
二十六年の来し方が夜明け前の朝靄に包まれていたとすれば、いま雲をひき裂いて日が昇り、朝の光が赫燿と
漲
(
みなぎ
)
りだすような感じだ。
菊屋敷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
夜気
(
やき
)
沈々たる書斎の
中
(
うち
)
に
薬烟
(
やくえん
)
漲
(
みなぎ
)
り渡りて
深
(
ふ
)
けし
夜
(
よ
)
のさらにも深け渡りしが如き心地、何となく我身ながらも涙ぐまるるやうにてよし。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
稲荷町へ行き着いてみると、富蔵の家は半焼けのままで
頽
(
くず
)
れ落ちて、
咽
(
む
)
せるような白い煙りは狭い露路の奥にうずまいて
漲
(
みなぎ
)
っていた。
半七捕物帳:17 三河万歳
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
私も、その日ほど
夥
(
おびただ
)
しいのは始めてだったけれど、赤蜻蛉の群の一日都会に
漲
(
みなぎ
)
るのは、秋、おなじ頃、ほとんど毎年と云ってもいい。
縷紅新草
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
噴水の銀線は日にかゞやけり。
柱弓
(
せりもち
)
の下には
榻
(
たふ
)
あまた置きたるに、家の人も賓客も居ならびたり。群衆は忽ち寺門より
漲
(
みなぎ
)
り出でたり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
その月よりも青い死色がみるまに面上へ
漲
(
みなぎ
)
って来たとき、ふしぎにも少しの
紊
(
みだ
)
れもない小声で、光秀は、
偈
(
げ
)
のあとを、こうつづけた。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
面
(
かお
)
を洗い全身の
冷水摩擦
(
れいすいまさつ
)
でもすると、体中の血液は
漲
(
みなぎ
)
り
溢
(
あふ
)
るる様な爽快を感ずることは、今日も青年時代と少しも異なるところがない。
青年の元気で奮闘する我輩の一日
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
いや、怪しいと云ったのでは物足りない。私にはその顔全体が、ある悪意を帯びた嘲笑を
漲
(
みなぎ
)
らしているような気さえしたのである。
黒衣聖母
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
東は富士河
漲
(
みなぎ
)
りて
流沙
(
りうさ
)
の浪に異ならず。かかる所なれば
訪
(
おとな
)
ふ人も
希
(
まれ
)
なるに、
加樣
(
かやう
)
に
度々
(
たび/\
)
音信
(
おんしん
)
せさせ給ふ事、不思議の中の不思議也。
尼たちへの消息:――よく生きよとの――
(旧字旧仮名)
/
長谷川時雨
(著)
燈
(
あか
)
りの
漲
(
みなぎ
)
っている賑やかな広間であるにも拘らず、彼は何だか遠く
懸離
(
かけはな
)
れた、暗いところへ島流しにでもされたような気持がした。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
肴屋
(
さかなや
)
、酒屋、雑貨店、その向うに寺の門やら
裏店
(
うらだな
)
の長屋やらが
連
(
つらな
)
って、
久堅町
(
ひさかたまち
)
の低い地には
数多
(
あまた
)
の工場の
煙筒
(
えんとつ
)
が黒い煙を
漲
(
みなぎ
)
らしていた。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
一九二八年製——をSIPしようてんだから、これは仲なかどうして地球的に荒っぽい意気さの
漲
(
みなぎ
)
るじんぎだと言わなければならない。
踊る地平線:06 ノウトルダムの妖怪
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
食後の一服を氏は予想していなかったが、そう問われてみると、押えがたい喫煙の欲が、冷えた指の先々まで
漲
(
みなぎ
)
ってくるのだった。
地図にない街
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
軟かい飯粒を、一粒一粒つまみあげて、静かに味わって喜ぶほど、彼女のうちにはこまやかな、
芳醇
(
ほうじゅん
)
な情緒が
漲
(
みなぎ
)
っていたのである。
日は輝けり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
それはさて置き、若い血汐の
漲
(
みなぎ
)
っている有難さ、新夫婦はズン/\回復した。看護婦もお暇が出て、初めて水入らずの新家庭になった。
女婿
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
いまだほどへざるに悲鳴
已
(
や
)
み、これに代えてさらに怖るべき物の
音
(
ね
)
を聞き出でたるがごとく、恐怖の流れ、
漲
(
みなぎ
)
り脈打つがごとき間。
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
翌日
(
あくるひ
)
文鳥は鳴かなかった。粟を
山盛
(
やまもり
)
入れてやった。水を
漲
(
みなぎ
)
るほど入れてやった。文鳥は一本足のまま長らく留り木の上を動かなかった。
文鳥
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
復習
(
さらい
)
直しをしていた老妓は、三味線をすぐ下に置くと、内心口惜しさが
漲
(
みなぎ
)
りかけるのを気にも見せず、けろりとした顔を養女に向けた。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
だが土用を過ぎると急に天地の色から一つ何物かが引去られ、
寂寞
(
せきばく
)
と空白が
漲
(
みなぎ
)
り初める。私はいつもその不思議な変化を
味
(
あじわ
)
って眺める。
大切な雰囲気:03 大切な雰囲気
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
怒る時は鼻柱から
眉宇
(
びう
)
にかけて
暗澹
(
あんたん
)
たる色を
漲
(
みなぎ
)
らし、落胆する時は鼻の表現があせ落ちて行くのが手に取るように見えるまで
悄気
(
しょげ
)
返る。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼は、奥歯をじっと噛んで、ますます殺気の
漲
(
みなぎ
)
る瞳で、門倉平馬の
睨
(
ね
)
め下ろす視線を、何のくそと、
弾
(
はじ
)
き返そうと
足掻
(
あが
)
くのだった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
暫くして女がふと心付くと、
好
(
よ
)
く寐た跡のように爽快な感じが
体中
(
からだじゅう
)
に
漲
(
みなぎ
)
っていた。女は立ち上がって、卸してあった窓掛を巻き上げた。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
しかし
外面
(
おもて
)
から
見
(
み
)
たのとは
違
(
ちが
)
って、
内部
(
なか
)
はちっとも
暗
(
くら
)
いことはなく、ほんのりといかにも
落付
(
おちつ
)
いた
光
(
ひか
)
りが、
室
(
へや
)
全体
(
ぜんたい
)
に
漲
(
みなぎ
)
って
居
(
お
)
りました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
心の奥底には一つの声が歌となるまでに
漲
(
みなぎ
)
り流れている。すべての疲れたる者はその人を見て再びその弱い足の上に立ち上がる。
二つの道
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
惟念には初めての薪作務が、なんとなく嬉しかった。彼は僧堂の生活に入って以来、両腕に
漲
(
みなぎ
)
ってくる力の過剰に苦しんでいた。
仇討三態
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
一方国際的には、支那事変が漸く本格的な
貌
(
かお
)
を
現
(
あらわ
)
して来て、今更研究どころではないという風潮がそろそろ国内に
漲
(
みなぎ
)
り出した時期である。
原子爆弾雑話
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
語調の可笑しさの正體がそれと知れてくると、その可笑しさが次から次へと移つて行つて、
密
(
ひそや
)
かなどよめきが教室の中に
漲
(
みなぎ
)
つた。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
彼は手記の中に書いている「このすばらしい自然の風光を眺めながら私の心は
漲
(
みなぎ
)
り溢れる。しかも私の
傍
(
そば
)
に彼女はいない!」と。
ベートーヴェンの生涯:02 ベートーヴェンの生涯
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ここが、助かるか助からないかの瀬戸際という意気が、目にも顔にも、燃えるように
漲
(
みなぎ
)
っている。案の定、セルカークは
恍
(
うっと
)
りとした声で
人外魔境:10 地軸二万哩
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
眩
(
まぶ
)
しいような電燈の
灯影
(
ほかげ
)
の
漲
(
みなぎ
)
ったところに、ちょうど入れ替え時なので、まだ二人三人の
妓
(
こ
)
たちが身支度をして出たり入ったりしている。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
従ってトスカニーニの演奏したものは、五分の隙もない精緻な美しいものであると同時に、驚くべき情熱と気魄とが
漲
(
みなぎ
)
っている。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
日によって庭にはどうかすると、砲兵工廠から来る煙が
漲
(
みなぎ
)
り込んで、石炭
滓
(
かす
)
が寒い風に吹き寄せられて縁の板敷きに舞っていた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そこで、ぷっつりと得意の鼻唄を断ち切って、悲愴きわまりなき表情を満面に
漲
(
みなぎ
)
らしてみたが、やがて櫓拍子は荒らかに一転換を試みて
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
一種微妙な人間性を、直截簡潔の筆で描き、醒気を紙面へ
漲
(
みなぎ
)
らせたのは、小酒井さんとしては常套手段、それでいて
矢張
(
やは
)
り結構であります。
二つの作品
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「先生が……では先生がそんなことを……」彼女の表情にはまぎれもない
憤怒
(
ふんぬ
)
の色が
漲
(
みなぎ
)
った。僕はここぞとたきつけることを忘れなかった。
或る探訪記者の話
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
これ位ならまだいいとして、汗臭
氛々
(
ふんぷん
)
用捨なく室内に
漲
(
みなぎ
)
るには、日光行きのハイカラ先生少なからず顔をしかめておったわい。
本州横断 痛快徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
、
井沢衣水
(著)
劈頭
(
へきとう
)
の「汝らのみまことに人なり、智慧は汝らと共に死なん」とある語を
初
(
はじめ
)
とし、以下すべてにこの冷笑的気分が
漲
(
みなぎ
)
っている。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
ニタニタ笑いを顔一杯に
漲
(
みなぎ
)
らせながら、彼の口を私の耳の
側
(
そば
)
まで持って来て、前よりは一層低い、あるかなきかの声で、こういったのである。
二銭銅貨
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
草木の葉が、素晴らしい
勢
(
いきおい
)
で、一度に新芽を吹くと同時に、己の体にも何だか生き生きとした気力が
漲
(
みなぎ
)
り溢れて来るようだ。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
文吉
(
ぶんきち
)
は
操
(
みさお
)
を渋谷に
訪
(
と
)
うた。無限の喜と楽と望とは彼の胸に
漲
(
みなぎ
)
るのであった。途中一二人の友人を訪問したのはただこれが口実を作るためである。
愛か
(新字新仮名)
/
李光洙
(著)
もう、早くから、はじまっていたらしく、座には、殺気のようなものが、
漲
(
みなぎ
)
っているのが感じられた。むんむんする人いきれがただよっている。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
突然、順一は
長火鉢
(
ながひばち
)
の側にあったネーブルの皮を
掴
(
つか
)
むと、向うの壁へピシャリと
擲
(
な
)
げつけた。狂暴な空気がさっと
漲
(
みなぎ
)
った。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
いや、この庄司と云う人は例外的な人で、恐らくいくつになっても
漲
(
みなぎ
)
るような意気と、良心とを捨てる人ではないと思う。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
自分の
掌
(
たなごころ
)
のなかに彼女の手を
把
(
にぎ
)
り
緊
(
し
)
めていると、わたくしのこの胸には、それまで想像だもしなかったほどの愉しい気持ちが
漲
(
みなぎ
)
って来るのでした。
墓
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
家内
(
うち
)
に
居
(
ゐ
)
れば
私
(
わたし
)
の
傍
(
そば
)
ばつかり
覗
(
ねら
)
ふて、ほんに/\
手
(
て
)
が
懸
(
かゝ
)
つて
成
(
なり
)
ませぬ、
何故
(
なぜ
)
彼樣
(
あんな
)
で
御座
(
ござ
)
りませうと
言
(
い
)
ひかけて
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
しの
涙
(
なみだ
)
むねの
中
(
なか
)
に
漲
(
みなぎ
)
るやうに
十三夜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
みなぎつた朝の日光が、高い玻璃戸から側の窓硝子から輝かに清く靜寂の浴場のなかに
漲
(
みなぎ
)
つて、湯つぼは碧色に深く濃く湖のやうに平かであつた。
三十三の死
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
どうしたことか今までとは打って変って、その顔色はひどく
蒼褪
(
あおざ
)
め、烈しい疑惑と苦悶の色が、顔一パイに
漲
(
みなぎ
)
っていた。
三狂人
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
庖丁をとぐ音、煮物揚物の用意をする音はお三輪の
周囲
(
まわり
)
に起って、震災後らしい復興の気分がその料理場に
漲
(
みなぎ
)
り
溢
(
あふ
)
れた。
食堂
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
五月頃は水田に水がまんまんと
漲
(
みなぎ
)
つてゐて、ところどころに
白鷺
(
しらさぎ
)
が下りてゐる。白鷺は必ず小さな群を成して、水田に好個の日本的画趣を与へる。
智恵子抄
(新字旧仮名)
/
高村光太郎
(著)
漲
漢検1級
部首:⽔
14画
“漲”を含む語句
漲落
漲溢
暴漲
溢漲
怒漲
漲充
漲水御嶽
漲流
脂漲