した)” の例文
翠色すいしょくしたたる草木の葉のみを望んでも、だれもその美と爽快そうかいとに打たれないものはあるまい。これが一年中われらの周囲の景致けいちである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
青鬼のようになった三好の両眼が、酸漿ほおずきのように真赤になった……と思ううちに鼻の穴と、唇の両端から血がポタポタとしたたり出した。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
後ろを振り向くと、下からみどりのしたたる束髪そくはつ脳巓のうてんが見える。コスメチックで奇麗きれいな一直線を七分三分の割合にり出した頭蓋骨ずがいこつが見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そればかりでなく青竜二郎のためにたった今鞭で打たれたと見え、頬の辺り手の甲などから生血がタラタラとしたたっている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したたる芭蕉ばしょうの葉かげに、若い男女が二人、相擁あいようしあって、愛をささやいているのです。それだけをみて、ぼくはくるりと引っ返し、競争を廃棄はいきしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大杉の生涯は革命家の生血なまちしたたる戦闘であったが、同時に二人の女にもつれ合う恋のどもえの一代記でもあった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
湿つた石壁につてしたたる水が流れて二つの水盤に入る。寂しい妄想まうざうに耽りながら此中の道を歩く人に伴侶を与へるためか、穹窿きうりうには銅で鋳た種々いろ/\鳥獣とりけものが据ゑ附けてある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
話かわって飯島平左衞門は孝助を門外もんそとに出し、急ぎ血潮したたる槍を杖とし、蟹のように成ってよう/\に縁側に這い上がり、よろめく足を踏みしめ踏みしめ、段々と廊下を伝い
じっとたたえているのも淵だ。流れて来た水のしばらくよどむところも淵だ。底からいた水が豊かにたまり、そしてまた流れ出るところも淵だ。したたって落つる水を受け止めているのも淵だ——
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて園内ゑんない手入ていれをめなどして、逍遙そゞろあるきはし其人そのひとゆるやと、垣根かきねとなりさしのぞけど、園生そのふひろくしていへとほく、かやぶきののきなかおほ大樹たいじゆまつしたたるごとみどりいろたちゆるばか
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
庭の一隅いちぐう栽込うえこんだ十竿ともとばかりの繊竹なよたけの、葉を分けて出る月のすずしさ。月夜見の神の力の測りなくて、断雲一片のかげだもない、蒼空あおぞら一面にてりわたる清光素色、唯亭々皎々ていていきょうきょうとしてしずくしたたるばかり。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
童べに母の乳したる夜明がた蟋蟀の声は冷えてやみにし
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぽんぽんと血がしたたっているようだ。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
木膚こはだより美脂うまやにをしぬにしたつれ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ところが、その黒い水のしたたりを見ると福太郎は又、別の事を思い出させられて、われ知らず身ぶるいをさせられたのであった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くれない弥生やよいに包む昼たけなわなるに、春をぬきんずるむらさきの濃き一点を、天地あめつちの眠れるなかに、あざやかにしたたらしたるがごとき女である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時分はマダ今ほど夫婦連れ立って歩く習慣が流行はやらなかったが、沼南はこの艶色したたる夫人を出来るだけ極彩色させて、近所の寄席よせへ連れてったり縁日を冷かしたりした。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と云われて源次郎頬がやりとしたに不図ふと目をさまし、と見れば飯島が元結はじけてちらし髪で、眼は血走り、顔色は土気色つちけいろになり、血のしたたる手槍をピタリッと付け立っている有様を見るより
木膚こはだの目より美脂うまやにをしとどしたつれ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
濡れした柑子かうじの色のひとつらね
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
云い知れぬ恐怖からしたたり落つる冷汗を、左右の腋の下ににじませつつ、眼の前の蒼白長大な顔面に全神経を集中していた……ように思う。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人ふたり精神せいしんてる神經系しんけいけいは、最後さいご纖維せんゐいたまでたがひつて出來できあがつてゐた。彼等かれらおほきな水盤すゐばんおもてしたたつた二てんあぶらやうなものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『色懺悔』というような濃艶な元禄情味をしたたらした書名が第一に人気に投じて、内容はさしてすぐれたものではなかったが、味淋みりん鰹節かつおぶしのコッテリした元禄ばりの文章味が読書界を沸騰さした。
あせしたるしとどのねつ薄曇うすくも
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
同時に、その真白い頬から大粒の涙の球が、キラリキラリと月の光りを帯びて、土の上にしたたり落ちるのが見えた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人の精神を組み立てる神経系は、最後の繊維に至るまで、互に抱き合ってでき上っていた。彼らは大きな水盤の表にしたたった二点の油のようなものであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真黒まくろしたる音ささと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
焼き千切ちぎられている泥土と氷の荒野原……それが突然に大空からしたたり流れるマグネシューム光の下で
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どうしようと迷っていると女はすっくら立ち上がった。後ろは隣りの寺の孟宗藪もうそうやぶで寒いほど緑りの色が茂っている。そのしたたるばかり深い竹の前にすっくりと立った。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつぐはしたる蜜の音
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
向うの窓際に在る石造いしづくり浴槽ゆぶねから湧出す水蒸気が三方の硝子ガラス窓一面にキラキラとしたたり流れていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古き五年は夢である。ただしたたる絵筆の勢に、うやむやを貫いてかっと染めつけられた昔の夢は、深く記憶の底にとおって、当時そのかみを裏返す折々にさえあざやかに煮染にじんで見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
足音あしおとす、生血なまちした
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
曇るかがみの霧を含みて、芙蓉ふようしたたる音をくとき、むかえる人の身の上に危うき事あり。砉然けきぜんゆえなきに響を起して、白き筋の横縦に鏡に浮くとき、その人末期まつごの覚悟せよ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがてドタリと椅子の上に腰をかけるトタンに、両方の腋の下からタラタラと冷汗がしたたった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かいがしわる時、しずく舟縁ふなべりしたたる時、ぐ人の手の動く時ごとに吾が命を刻まるるように思ったであろう。白きひげを胸まで垂れてゆるやかに黒の法衣ほうえまとえる人がよろめきながら舟から上る。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上から涙がポトポトとしたたりかかる——
処女としては水のしたたるばかりの、この従妹いとこを軽い嫉妬しっとの眼でた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)