書付かきつけ)” の例文
長「嘘をいたッて仕方がねえ、わっちが京都で修業をして名人になッたって、己の弟子だと云わねえように縁切えんきり書付かきつけをおくんなせえ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
置捨に致たるに相違有まじ其上そのうへしまの親住吉町吉兵衞よりの歎願書たんぐわんしよも是ありそれも序に讀聞せよと云るゝに又々目安方めやすかたの者右の書付かきつけ讀上よみあげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
元来この縁起の書付かきつけと申しますのは、呉家の名跡みょうせきがるる御主人夫婦が初めての御墓参の時に人を払って御覧に入れる事に相成っております。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手紙やら、書付かきつけやら、ひとたばに丸めて突っ込んでおいた反古ほごです。そのなかに、伊兵衛という文字がちらちらある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堀のためには、中泉が英太郎の手から受け取つて出した書付かきつけの内容は、未知みちの事の発明ではなくて、既知きちの事の証験しようけんとして期待せられてゐるのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套ぐわいたうえりてゝ泥濘ぬかつてゐるみちを、横町よこちやう路次ろじて、町人ちやうにんいへ書付かきつけつてかねりにつたのであるが
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「おかえりなさいまし」お内儀かみのおつまは、夫の手から、印鑑いんかん書付かきつけの入った小さい折鞄おりかばんをうけとると、仏壇ぶつだんの前へ載せ、それから着換きがえの羽織を衣桁いこうから取って
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ソレは勿論ザラに人に見せられるものでない。ただ親友間の話の種にする位の事にして置たが、随分ずいぶん面白いものである。所が私はその書付かきつけ一日あるひ不意とやい仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ほかに非常に大切な用向ようむきびて居るので、実は一日もここに止まって居ることが出来んのであるから、どうか私が今日ここに来て願書を出したという書付かきつけだけ下さい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そして、その書付かきつけは、私の方に廻してくれって。——そんなことをしてもいいでしょうか?
そんぢや書付かきつけつてけえりますべつてふべかとおもひあんしたつけ、さうしたらしばら書付かきつけてたつけがこれれがいたつてくから、わしはう旦那だんなでがすつてつたら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
健三はそのままほか書付かきつけに手を着けた。読みにくい彼の父の手蹟が大いに彼を苦しめた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄竹げんちく町醫まちいであるけれども、つと京都きやうとはうまはして、嵯峨御所さがごしよ御抱おかゝへの資格しかくり、醫道修業いだうしゆげふめにつかはすといふ書付かきつけに、御所ごしよいんわつたのをつてゐるから
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と父の書いた書付かきつけへ、おとよは爪印つめいんを押して、再び酒の飲み直しとなった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうですよ、お陣屋へ入るとはずいぶん度胸のいい泥棒ですね。ところが泊り合せたお武家に見つけられて、その泥棒が逃げ出したが、その時に泥棒が書付かきつけを一本お座敷へ落したそうで、そいつを
何ぞええ工夫あったらせて頂戴いいなさるのんで、「こないなったらあてかて正直なこというけど。ほんまいうたらあて栄ちゃんと兄弟の約束してしもて、こないこないの書付かきつけまでかわしてんし」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いつも、かつも、あるもんか。あんたのようなグウタラ親方のところに居ったんじゃあ、先の見込みがないけ、こっちから、ケツ割ってやったんじゃ。……そげなこた、どうでも、ええ。その書付かきつけ
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
最後に、一通の書付かきつけもそこへ取り出して見せた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見てとりいづれ又後藤樣の御歸りの上願ひに出んと云て立去たちさりしに夫婦はホツと溜息ためいきつき今も今とて相談の折から此家の旅籠の書付かきつけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お互に此の事は云わねえという証拠の書付かきつけでも貰って、たんとは上げられないが百両上げるから、百両で堅気に成ったら宜かろうと云うので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套がいとうえりてて泥濘ぬかっているみちを、横町よこちょう路次ろじて、町人ちょうにんいえ書付かきつけってかねりにったのであるが
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その時は私は鉄砲洲に居たが、早々そうそうその書付かきつけやい仕舞しまったけれども、何分気になってたまらぬとうのは、私がその書付の写しか何かを親類の者にやったことがある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
袂を払って内懐中うちぶところへ両手を突っこみ、一通の書付かきつけを取り出すと、それを武蔵の眼さきへ突きつけた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早速シナ文字と妙な文字で(仮名交りならん)書付かきつけしたためて将軍自身に判をし、これをその兵士に渡せというから、その書付を持ち帰ってその兵士に渡したところが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一体いつたい東のお奉行所づきのものの書付かきつけなら、なぜそれを西のお奉行所へ持つて来たのだい。」
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ヘヘ。……それがその……折紙と申しますのはこのお書付かきつけなんで……ヘエ」
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そりや書付かきつけなんぞは、旦那だんないてるから心配しんぱいにやらないがね」内儀かみさんはやうや近所きんじよもの一人ひとりいてくやうにしてるといふことにしたので被害者ひがいしやおもつてることにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小六ころくたもとさぐつてその書付かきつけしてせた。それに「このかき一重ひとへ黒鐵くろがねの」としたゝめたあと括弧くわつこをして、(この餓鬼がきひたへ黒缺くろがけの)とつけくはへてあつたので、宗助そうすけ御米およねまたはるらしいわらひらした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
したりけん懷中くわいちうより書付かきつけ一通取出し扨此書付は久八殿が拙者せつしや引負ひきおひ引受ひきうけて呉られし後日の證據しようこに渡しおくひながら兩人の前にさし置きける其文は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
免許か目録の書付かきつけを握って来る気だろう、それに違いない、あゝ感服、自分を卑下ひげした所が偉いねえ
細根ほそね大根を漢音かんおんに読み細根さいこん大根といわば、口調も悪しく字面じづらもおかしくして、漢学先生の御意ぎょいにはかなうまじといえども、八百屋の書付かきつけに蘿蔔一束あたい十有幾銭と書きて
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すぐにここからトモ・リンチェンガンに行き、その関所の長官より書付かきつけを貰い、その書付を証拠としても一つ向うのシナ人の守って居るニャートンの城門を通して貰うて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
固くこま結びにしてあるのを、糸切歯で解こうとして、口の辺りへ持ってゆくと、そのぬのの隙間からバラバラと散りこぼれたのは七、八通の書付かきつけと——手紙と——そして守り袋。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取調役とりしらべやくのさしずで、同心どうしん一人ひとり長太郎の手から書付かきつけを受け取って、縁側に出した。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
細君は手に持った書付かきつけの束を健三の前に出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに書付かきつけだつてどうしてえゝんだかわかんねえし
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私がどこまでもかたきを狙っていると疑るのだろう、そんな疑りがあって、私を女房にしようというのは余程よっぽど分らない、恐い人だね、もう止しましょう、書付かきつけまで見せて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
他人に見られてはちと都合の悪い書付かきつけ二、三通と、自分の印形いんぎょうも入っている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちはほとんどこうなるのを待ち構えていたように、そこにうずくまって、懐中から書付かきつけを出して、まっ先にいる与力よりきの前にさしつけた。まつと長太郎ともいっしょにうずくまって礼をした。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此の書付かきつけさえなければ喧嘩けんかわたくしかちだけれども、書付が出たから私の方がまけに成ったのですが、何方どっちが悪いかとくと貴方あなたの胸に聞いて御覧遊ばせ、私は御当家様の家来でございます
「お奉行様にぢきに差し上げる書付かきつけがあるのだな。」門番は念を押した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
書付かきつけとしてご家老かろう徳山とくやまどのへお渡しになっております
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西洋の人情話の作意さくいはどうも奥深いもので、証拠になるべき書付かきつけ焼捨やきすてようと思って火をけると、其の為に大切の書付が出るようになって居りますが、実に面白く念の入りました事で
いちがこう申し立てると、長太郎がふところから書付かきつけを出した。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
品をそろえ、書付かきつけに添えてそれへ出す。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是々いう先生の弟子になってと書付かきつけを持って帰れば、それが価値ねうちになって何処どこへでも養子に行かれる、処が、御門人にといっても、月々の物を差上げる事も出来ません身の上でございますが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、一通の書付かきつけを手わたした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)