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むし
ふりがな文庫
“
挘
(
むし
)” の例文
「第三がありますよ、——前の晩もう一人の妾お吉と、大喧嘩をしてゐますよ。
挘
(
むし
)
る、引つ掻く、
撲
(
ぶ
)
つ、蹴るの大騷ぎだつたさうで」
銭形平次捕物控:158 風呂場の秘密
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
凍
(
い
)
てついている氷の道を踏んで、もう元日ではあるが、まだ真っ暗な天地の中へ、毛を
挘
(
むし
)
られた
寒鳥
(
かんどり
)
のように、
悄々
(
しおしお
)
と出て行った。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
花を
挘
(
むし
)
るも同じ事よ、
花片
(
はなびら
)
と
蕊
(
しべ
)
と、ばらばらに分れるばかりだ。あとは手箱に
蔵
(
しま
)
っておこう。——殺せ。(騎士、槍を取直す。)
海神別荘
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それを二度ばかり振ってみたうえ、枯草を
挘
(
むし
)
り取ってきれいに拭き、ゆっくりとこちらへ戻って来て、いいぞ、と三人に云った。
樅ノ木は残った:03 第三部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
螢草
(
ほたるぐさ
)
、
鴨跖草
(
おうせきそう
)
なぞ云って、
草姿
(
そうし
)
は見るに足らず、唯二弁より
成
(
な
)
る花は、全き花と云うよりも、いたずら子に
挘
(
むし
)
られたあまりの花の断片か
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
▼ もっと見る
双方の御手でひきちがえ掻
挘
(
むし
)
っていられたことであったが、悩みは
弥増
(
いやます
)
ばかり、あたかもふぐりに火がついて乗物いっぱいに延びひろがり
玉取物語
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「一本切りだ、風で
挘
(
むし
)
ってじゃて、一本ほか無えだ」と、彼はこう言った、そうして「又一本立てよう」と休息の合図をした。
槍ヶ岳第三回登山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
皆まで聞かずに、勘次の押さえている味噌松の両袖を、何思ったか藤吉はめりめりと
挘
(
むし
)
り取った。と、裸かの右腕に
黒痣
(
くろあざ
)
のような前歯の跡。
釘抜藤吉捕物覚書:03 三つの足跡
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
庭
(
には
)
は
卯平
(
うへい
)
が
始終
(
しじゆ
)
草
(
くさ
)
を
挘
(
むし
)
つて
掃除
(
さうぢ
)
してあるのに、
蕎麥
(
そば
)
を
打
(
う
)
つ
前
(
まへ
)
に一
旦
(
たん
)
丁寧
(
ていねい
)
に
箒
(
はうき
)
が
渡
(
わた
)
つたので
見
(
み
)
るから
清潔
(
せいけつ
)
に
成
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
たのである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
触
(
ふれ
)
れば益々痛むのだが、その痛さが
齲歯
(
むしば
)
が痛むように
間断
(
しッきり
)
なくキリキリと
腹
(
はらわた
)
を
挘
(
むし
)
られるようで、耳鳴がする、頭が重い。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
さう云ふ房一の前に立つて、徳次は子供が手いたづらをするのとそつくりな様子で傍にひよろ長く生えてゐた草を片手で
挘
(
むし
)
りとり、口にくはへた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
毛布にも附着しているだろうと思って改めてみると、幸いなことにほんの僅かついているだけだった。彼はそこのところの毛を一生懸命で
挘
(
むし
)
った。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
金造 (漸く隔ての壁の貼紙に心づき引剥す、下は
木舞竹
(
こまいだけ
)
あらわな壁穴。木舞竹を
挘
(
むし
)
り)俺だ俺だ。俺を入れてくれ。
中山七里 二幕五場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
咽喉
(
のど
)
を切り開かれている将校を見た時には、血の出るのも気付かずに、自分の咽喉仏の上を掻き
挘
(
むし
)
っていたようです。
死後の恋
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼は残酷に在来の家屋を
掻
(
か
)
き
挘
(
むし
)
って、無理にそれを取り払ったような
凸凹
(
でこぼこ
)
だらけの新道路の
角
(
かど
)
に立って、その
片隅
(
かたすみ
)
に
塊
(
かた
)
まっている
一群
(
いちぐん
)
の人々を見た。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
挘
(
むし
)
りおおせたから、おろさせると、
刀
(
とう
)
に従って血はつぶつぶと出で、堪えがたい断末間の声を出して死んで終った。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
嫉
(
ねた
)
ましさに、
掻
(
か
)
き
挘
(
むし
)
ってもやりたいようなお今に、しゃぶりついて泣きたいような気もしたのであったが、やはり自分を取り乱すことが出来なかった。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
子供は眞赤に怒つて妻の胸のあたりを無茶苦茶に掻き
挘
(
むし
)
つた。圭一郎はかつと
逆上
(
のぼ
)
せてあばれる子供を遮二無二おつ取つて地べたの上におつぽり出した。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
大きな声を張りあげてときをつくり、
剰
(
あまつ
)
さえ
古蓆
(
ふるむしろ
)
のように引き
挘
(
むし
)
られた
翼
(
はね
)
でバタバタと
羽搏
(
はばた
)
きをやらかしていた。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
しかし途方に暮れて一服しながら、何気なくパラパラとめくった次の
頁
(
ページ
)
あたりからは、だいぶ
挘
(
むし
)
られもせずかなりの長さで引き続いているように思われた。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
そういうことに出会うごとに彼女はどうしようにも仕方のない情けなさと、腹立たしさに心を掻き
挘
(
むし
)
られた。
地は饒なり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
誰か忍び込んでこの本を探し、その大事な二
頁
(
ページ
)
だけを
挘
(
むし
)
り取ったものである。男爵も博士も驚いてしまった。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
彼らは地にひれ伏して草を
引
(
ひ
)
き
挘
(
むし
)
りながら悲鳴を上げた。反耶は
悶転
(
もんてん
)
する彼らを見ると、卑弥呼にその体刑を見せんがために彼女の部屋の方へ歩いていった。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
肉は食べやすいように小さく
挘
(
むし
)
り魚は小骨一つ残さず取り去り、御飯やお湯は必ず自分の舌で味わってみて、熱すぎれば
根気
(
こんき
)
よくさましてからくれるのだった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
紅
(
あか
)
いちぢみのガウンから真っ白い手足が、湯立ったキャベツの茎のように浮き出ているのが、そう云う時には又運悪く、変に
蠱惑
(
こわく
)
的に私の心を
掻
(
か
)
き
挘
(
むし
)
りました。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
一旦男が承知した事だから
怯
(
ひる
)
みも成らず、立って行って壁に掛けた着物を取り、言葉の通りに其の裏から衣嚢を握って引き
挘
(
むし
)
り、爾して夫人の傍へ持って行くと
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
肉を
挘
(
むし
)
り心を刺す此の一念は、世間から云へば分別盛りの年齡の私をして十九
廿歳
(
はたち
)
の青年よりも甚しく、到る處の艶しい
小路々々
(
こうぢ/\
)
を
彷徨
(
さまよ
)
はせた。何と云ふ狂亂であらう。
歓楽
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
、
永井壮吉
(著)
根太
(
ねだ
)
も
畳
(
たヽみ
)
も
大方
(
おほかた
)
朽
(
く
)
ち落ちて、
其上
(
そのうへ
)
に
鼠
(
ねずみ
)
の毛を
挘
(
むし
)
り
散
(
ちら
)
した
様
(
やう
)
な
埃
(
ほこり
)
と、
麹
(
かうじ
)
の様な
黴
(
かび
)
とが積つて居る。落ち残つた
根太
(
ねだ
)
の
横木
(
よこぎ
)
を一つ
跨
(
また
)
いだ時、
無気味
(
ぶきみ
)
な
菌
(
きのこ
)
の
様
(
やう
)
なものを踏んだ。
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
「あんまり急にやるからいけないんだ。手を握ったまま動かしちゃだめだよ。髪の毛を
挘
(
むし
)
るんじゃあるまいし。その足を使うんだ、足を……。どうもしてないじゃないか」
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
酒のない
猪口
(
ちょく
)
が幾たび飲まれるものでもなく、食いたくもない
下物
(
さかな
)
を
挘
(
むし
)
ッたり、煮えつく
楽鍋
(
たのしみなべ
)
に
杯泉
(
はいせん
)
の水を
加
(
さ
)
したり、三つ葉を
挾
(
はさ
)
んで見たり、いろいろに自分を持ち扱いながら
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
仔馬は、しまいには親馬の背中から草をすこしばかり
挘
(
むし
)
りとって、何という事もなしにそれを横に
銜
(
くわ
)
えている。その中には、草の花のようなものまで
雑
(
ま
)
じっているのが見える。……
晩夏
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
かかる書類に眼を
労
(
つか
)
らせ肩をはらし命を
挘
(
むし
)
り取られて一世を送るも
豈
(
あに
)
心外ならずや
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
人間
(
にんげん
)
は
草
(
くさ
)
や
木
(
き
)
をただ
草
(
くさ
)
や
木
(
き
)
とのみ
考
(
かんが
)
えるから、
矢鱈
(
やたら
)
に
花
(
はな
)
を
挘
(
むし
)
ったり、
枝
(
えだ
)
を
折
(
お
)
ったり、
甚
(
はなは
)
だしく
心
(
こころ
)
なき
真似
(
まね
)
をするのであるが、
実
(
じつ
)
を
言
(
い
)
うと、
草
(
くさ
)
にも
木
(
き
)
にも
皆
(
みな
)
精
(
せい
)
……つまり
魂
(
たましい
)
があるのじゃ。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
其の蕾を
挘
(
むし
)
り取つたので、村の若い衆は他所の者に第一指を染められては顏が立たぬと騷ぎ出し、暗に
紛
(
まぎ
)
れて千代松を袋叩きにしようとしたこともあつたのを、お安の父が事面倒と見て
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
自分の体の毛を
挘
(
むし
)
って、それを口で吹いて、その毛を自分の姿にしたという、あの時その孫悟空のように口を尖らしてフーフー銀貨を吹き耳の辺へ持って行った結果、ちゃアんと
芽出度
(
めでた
)
く
赤げっと 支那あちこち
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
梅雨時
(
つゆどき
)
を繁りはびこる雑草は今のうちに
挘
(
むし
)
って置く方が好い。それがまた適当な仕事のように思われたからである。挘るといっても大半は鎌を使わねばならない。庭はそれほど荒れているのだ。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
と言って、子供はその花を一つ
挘
(
むし
)
る。
大菩薩峠:08 白根山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
昨夜も旦那の言傳を持つて來て直ぐ歸らうと思ひましたが、若い女が二人で
挘
(
むし
)
り合つてゐるのを見ると、放つて置くわけにもまゐりません。
銭形平次捕物控:158 風呂場の秘密
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
先達も立構えで、話の
中
(
うち
)
に
挘
(
むし
)
って落した道芝の、帯の
端折目
(
はしょりめ
)
に散りかかった、三造の裾を二ツ三ツ、
煽
(
あお
)
ぐように
払
(
はた
)
いてくれた。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それから、昼弁当の
結飯
(
むすび
)
をこしらえ、火に
翳
(
かざ
)
して、うす焦げにして置いて、小舎の傍から
挘
(
むし
)
って来た、一柄五葉の矢車草の濶葉に一つずつ包む。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
千浪は、泣き死んだように、花びらの中に顔を埋めている……もう動きもせずに泣いているか——と重蔵は
腸
(
はらわた
)
を掻き
挘
(
むし
)
られるような思いがした。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
手拭の折ったのを茶人みたように禿頭に載せたり浅い姉さん冠り式にしたりして、草を
挘
(
むし
)
ったり落葉を掻いたりした。
梅津只円翁伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
雨滴
(
あまだれ
)
が
樋
(
とい
)
に集まって、流れる音がざあと聞えた。代助は椅子から立ち上がった。眼の前にある百合の束を取り上げて、根元を
括
(
くく
)
った
濡藁
(
ぬれわら
)
を
挘
(
むし
)
り切った。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
大体が二
糎
(
センチ
)
ばかりもある厚いノートであったからどのくらいが
挘
(
むし
)
りとられているのかはハッキリしないが、よほどの厚さを破り去られているらしいのであった。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
父親はお庄の真赤になって炙っている玉蜀黍を一つ取り上げると、はじ切れそうな実を三粒四粒指で
挘
(
むし
)
って、前歯でぼつりぼつり
噛
(
か
)
み始めた。
四方
(
あたり
)
はもう暗かった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
その農夫たちの家もやはり土塀の中にあったが、彼らも
何人
(
なんびと
)
の姿も見なかった。それからみんなは叢という叢を掻き𢌞したり、円柱にからみついている蔓草を引き
挘
(
むし
)
った。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
是は
名聞
(
みょうもん
)
のための法会である、名聞のためにすることは魔縁である、と思いついたので、遂に願主と
挘
(
むし
)
りあい的
諍議
(
そうぎ
)
を仕出して
終
(
しま
)
って、折角の法会を滅茶滅茶にして帰った。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
清潔好
(
きれいずき
)
な
彼
(
かれ
)
は
命令
(
めいれい
)
されるまでもなく、
庭
(
には
)
にぽつちりでも
草
(
くさ
)
が
見
(
み
)
えれば
挘
(
むし
)
らずには
居
(
ゐ
)
られない。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
そのはずみにひよろ長く生えた雑草に手を伸して引き
挘
(
むし
)
り、それを口にくはへた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
だからそれを味わうのは栽培者たる私の当然の報酬であって、他の何人にもそんな権利はない筈であるのに、それが
何時
(
いつ
)
の間にかあかの他人に皮を
挘
(
むし
)
られ、歯を立てられていたのです。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
挘
漢検1級
部首:⼿
9画
“挘”を含む語句
引挘
掻挘
草挘
挘取
振挘
踏挘