えら)” の例文
旧字:
この種の催しにどうして「千本桜」のようなものをえらんだのか知らないが、おそらくは菊五郎の出し物として選定されたのであろう。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ジサ女、年中何の月にも属せず、太陽天にとどまって動かぬと信ぜらるる日をえらび、身にあみおおったのみ故、裸とも著衣とも言えぬ。
この組織は、倭宮廷にもそなわっていた。神主なる天子の下に、神に接近して生活する斎女王いつきのみこといふ高級巫女が、天子の近親からえらばれた。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「あたりまえよ。男の子だもの、あれでもフットボールの選手だもの。ボーイフレンドなら、もっとらしい気のいたのをえらびますよ」
愉快な教室 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
第十五条 うらみを構へあだを報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱をそそぎ名誉を全うするには、すべからく公明の手段をえらむべし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
分りかねるならば、えらんで行く途なし。さらばやはりみんな買って行こうとすると、これだけかさばったものを到底とうてい持ち出しかねる。
サア何方をえらびますか、敢て私から何方にせよと勧める訳ではない、唯貴方の随意の一言を聞けば好いのです、応ですか、否ですか
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
佳子としても結局あなた方の中から一番信頼に値すると思う人をえらぶことになります。私共両親は決して奇をてらうものではありません。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
割合楽に席の取れそうな片隅かたすみえらんで、差し向いに腰をおろした二人は、通した注文の来る間、多少物珍らしそうな眼を周囲あたりへ向けた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病人の食物をえらぶ事は医師の指図を受けなければなりませんが択んだ食物を料理する方法は各人が自ら研究しなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
信仰の行者を除くの外、昼も人跡まれなれば、夜に入りてはほとんちかづくものもあらざるなり。その物凄き夜をえらびて予はことさらに黒壁に赴けり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうした相手のどっちか一人をえらんで田舎に落ち着いたものか、もう一度上京して創作生活に入ったものかと彼に判断を求めた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お福はよくあがはなの壁の側や物置部屋の風通しの好いところをえらんで、ひとりで読書よみかきするという風であったが、何処どこにも姿が見えなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
悲壮な覚悟があるように見える。世に豪奢ごうしゃを誇った香以が、晩年落魄らくはくの感慨を托するに破芭蕉やればしょうえらんだのははなはだ妙である。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紙の良きをえらび、筆の良きを択び、墨の良きを択び、彼はこころしてその字の良きをことに択びて、今日の今ぞ始めて仮初かりそめならず写さんとなる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
辰巳たつみに遊ぶ通客は、潮来節の上手な船頭をえらんで贔屓ひいきにし、引付けの船宿を持たなければつうを誇ることができませんでした。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今時利休りきゅうでもいたら、早速中から名器をえらび出すだろう。土瓶は近来どこの窯でも堕落し切ってしまったが喜阿弥の飴薬あめぐすり土瓶は昔のままである。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼女は始めから彼のいけにえとしてえらばれたのに過ぎない。あの怖ろしい薄莫迦の半兵衛に比べればこれは又何といういたいたしい婦であろう。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
「鳥よく木をえらぶ。木に鳥を択ばんや。」などと至って気位は高いが、決して世をねたのではなく、あくまで用いられんことを求めている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昔の和歌に巧妙な古歌の引用をもって賞讃を博したものがあるが、この種の絵もそういう技巧上の洒落しゃれえらぶ所がない。
院展日本画所感 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「いき」の形相因たる非現実的理想性を表現するために一般に黒味を帯びて飽和弱いものまたは冷たい色調がえらばれる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
老いたる妻女の胸にある最後のうらみ言は、人は沢山いるだろうに、何故に自分の夫がこういう不幸の的にえらばれねばならぬかという愚痴であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
又は一外人をえらびて其の詩材となすとも、全く国民性の形跡を脱却し得ざるは之れをゲーテが『イフイゲニア』の例に徴するも明かなるにあらずや。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
しだいに落ちぶれて可哀かわいそうだとか、そんなわばロオマンチックな条件にって、れいの「唯一のひと」としてえらび挙げていたわけでは無かった。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのは仲の町のある家の抱えであったが、さっぱりお座敷がなくて姐さんや朋輩からも冷遇されていたが、ついにわが身を果敢無はかなんで死をえらんだ。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
我々の眼は、九分九厘までこの男が、カラタール氏によって請求されるであろう、別仕立列車の車掌にえらばれるに相違ないことを見抜いていたのだ。
画家連中れんぢゆうと来て居るモデル女の幾人は席が無いので若い画家の膝をえらんで腰を掛ける程の大入おほいりである。夫婦づれの画家や姉妹をれた詩人達も居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そこで別邸を老婆の住居にして、吉日をえらんで三郎と阿繊を結婚さしたが、老婆は阿繊に嫁入り仕度を十分にした。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
いやしくもその緩と急とをえらばず、その順序を失するあらば、一身の細事お且つ挙らず、況んや天下大事の一たる子弟教育の事に於てをや(謹聴々々)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
そしてちかうち黄道吉日こうどうきちにちえらんで、婚礼こんれいしきげようとしていたさいに、不図ふとおこりましたのがあの戦乱せんらんもなく良人おっととなるべきひと戦場せんじょうつゆ
芭蕉集中全く客観的なるものを挙ぐれば四、五十句に過ぎざるべく、中につきて絵画となし得べきものをえらみなば
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
その場合に、その人は自分の意図を悟らせないためにも、又相手の人を其処そこらずらず導くためにも、偶然の危険をえらぶよりほか仕方がありません。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おう、それをえらぼう。とはいえ、西も東も分らぬここの川洲だが、どう行ったら、捕吏の眼をのがれえようか」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから男が女をえらぶように、女も男を択ぶのが、正当な見合であるということも、お母様は認めて下さらない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だからその当時まで私が奉職していた警視庁の仕事ぶりなぞも、ほとんど明治時代とえらぶところがなかった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
されども世俗の見解けんげにはちぬ心の明鏡に照らしてかれこれともに愛し、表面うわべの美醜に露なずまれざる上人のかえっていずれをとも昨日まではえらびかねられしが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
○十二日 小雨、やや寒し。台子だいすを出し風炉ふろに火を入る。花買いに四目の花屋に行く。紫菀しおん女郎花おみなえしとをえらびて携え帰る。茶を飲みながら兼題の歌、橋十首を作る。
草花日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
雪の少しく積ってある岩の間に小さな草のえて居る所があります。えたる時は食をえらばずではない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ついにはただのうそつきの作品とえらぶところもない地位に、昔話を置くことになってしまったのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夫以上の高さになっても無論木は生えているが、四、五尺から一丈あまりの丈に短縮しているので、遠望した所では草地とえらぶ所がない、実際草地もあるにはある。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
然しながら必其一をえらまねばならぬとなれば、彼は種として碧色を、として濃碧のうへきを択ぼうと思う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その小さいのはちょっと草の葉をえらんで食ったが、親兎は許さぬらしく、往々口を突き出して横合いから奪い取り、自分も決して食わない。子供等はどっと笑い出した。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
たといラファエルとミケランジェロと同一の画題をえらんだにしても、ラファエルはラファエルの性格を現わしミケランジェロはミケランジェロの性格を現わすのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
それはA市にある家庭に宛てたもので、商売上の失敗から厭世えんせい自殺をする旨の遺書で、その自殺の方法として、飛行機から飛び降りる事をえらんだとしたためられてあった。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
四十日を荒野に断食して過した時、彼は貧民救済と、地上王国の建設と、奇蹟的きせきてき能力の修得を以ていざなわれた。然し彼は純粋な愛の事業の外には何物をもえらばなかった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
落すにはそれ/″\自分が手につた方法をえらんで差支さしつかへないが、たゞ落すその一瞬間は鶏に気取けどられぬ程の微妙デリケートところが無くてはならぬ。気取られたが最後肉の味はまづくなる。
ことさら暑い日中をえらんで菅笠すげがさかぶった金魚屋が「目高、金魚」と焼けつくような人の耳に
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
たにによるの天険をえらび、その道路湊門そうもんを築造するも、ただ攻守の便宜より判断を下し、その関門を設けその津留つどめをなし、その行政の区域を定め、その人民を統制するがごとき
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
また、しょうちゃんの銀杏ぎんなんは、自分じぶんからちたのをひろって、いいのだけをえらんだもので、たとえおはじきを五でも、一粒ひとつぶ銀杏ぎんなんとはえがたいとうといものでありました。
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるを愚図々々ぐづ/\さかしらだちてのゝしるは隣家となりのおかずかんがへる独身者ひとりもの繰言くりごとなんえらまん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)