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ふる
ふりがな文庫
“
慄
(
ふる
)” の例文
青年は何ともしれぬ恐怖に襲われ、ブルブルッと身を
慄
(
ふる
)
わせた。気がつくと、銜えていた
紙巻煙草
(
シガレット
)
の火が、いつの間にか消えていた。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかも陰二月暮れの北風はまだ雪と霜に
研
(
と
)
がれて身をきりさいなんだ。爺はがたがた歯を
慄
(
ふる
)
わせつつ街外れの市場をうろつき廻った。
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
隣の棟に居て氏のノドボトケの
慄
(
ふる
)
えるのを感じる。太いが、バスだが、尖鋭な神経線を束ねて
筏
(
いかだ
)
にしそれをぶん流す河のような声だ。
鶴は病みき
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
イワンは、恐ろしく、肌が
慄
(
ふる
)
えるのを感じた。そして、馬の方へ向き直り、鞭をあてて早くその近くから逃げ去ってしまおうとした。
橇
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
ハガキを書くと少し手が
慄
(
ふる
)
えたが、もう痛まないだけでも大助かりです。やっぱり八王子へ行っただけのことはあったと思いました。
随筆 寄席風俗
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
▼ もっと見る
儀右衛門はそこでハッとなり、鋭い苦痛を思って、
慄
(
ふる
)
え
戦
(
おのの
)
いた。彼は夜具に触れる
衣擦
(
きぬず
)
れにも、
獣
(
けだもの
)
めいた熱っぽさを覚えるのだった。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
内儀は賊の姿を見るより、ペったりと
膝
(
ひざ
)
を折り敷き、その場に打ち
俯
(
ふ
)
して、がたがたと
慄
(
ふる
)
いぬ。白糸の度胸はすでに十分定まりたり。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
たいがいは
慄
(
ふる
)
え上がッてしまう。だが、客に化けて乗りこんでいた弟の
浪裏白跳
(
ろうりはくちょう
)
張順が「ふざけるな」と
啖呵
(
たんか
)
をきッて抵抗しかける。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そんなことを考えながら、とぼとぼ歩いてゆくと、或る家の軒下にもう一人の乞食がぶるぶる
慄
(
ふる
)
えながら立っているのが眼にとまった。
幻想
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
……でも、そんな話を初めて聞いた時には、
妾
(
わたし
)
もうビックリしちゃって
髪毛
(
かみのけ
)
をシッカリと掴みながらブルブル
慄
(
ふる
)
えて聞いていたようよ。
支那米の袋
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
豪い哲学者もこうして忘れられてゆくのだと思ったときオブスキュリチーに
慄
(
ふる
)
える君を思い出して痛ましく思わずにはいられなかった。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
勘次は怒りのために
慄
(
ふる
)
え出した。と、彼は黙って秋三の顔を横から
殴打
(
う
)
った。秋三は
蹌踉
(
よろ
)
めいた。が、背面の藁戸を掴んで踏み停ると
南北
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
町役人は
慄
(
ふる
)
え上った。殺したのはこのやからであるにきまっている。そうして、このやからは新撰組のほかの者でありようはずがない。
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
二人は
窃
(
そ
)
っと
藁苞
(
わらづと
)
の中から脇差を出して腰に差し、
慄
(
ふる
)
える足元を
踏〆
(
ふみし
)
めて此の
家
(
や
)
の表に立ちましたのは、丁度日の暮掛りまする時。
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
ですからその子供が大臣の前に出て来るとぶるぶる
慄
(
ふる
)
えてから、もう今にもぶん擲ぐられはせぬかといつも
逡巡
(
あとじさ
)
りをして居るです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
狂犬! 私はそのとき狂犬の毒の恐ろしさよりも、「犬の
祟
(
たたり
)
」即ち、これぞ身の破滅の
緒
(
いとぐち
)
だ! という観念の恐ろしさに全身を
慄
(
ふる
)
わせた。
犬神
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
近頃東京じゅうの金持ちが名前をきくだけでも
慄
(
ふる
)
えあがっている仮面強盗に変装してご婦人のかたを
吃驚
(
びっくり
)
させようと
目論
(
もくろ
)
んでいたのです。
探偵戯曲 仮面の男
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
土を
凝視
(
みつ
)
めて歩いていると、しみじみと侘しくなってきて、病犬のように
慄
(
ふる
)
えて来る。なにくそ! こんな事じゃあいけないね。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
然うしてその小さな眼のうちは、
他
(
はた
)
の批評を一句も聞き漏らすまいといつもおど/\と
慄
(
ふる
)
へてゐた。義男の友達も多勢見に來た。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
宮はお
慄
(
ふる
)
い出しになって、水のような冷たい汗もお
身体
(
からだ
)
に流しておいでになる。失心したようなこの姿が非常に御
可憐
(
かれん
)
であった。
源氏物語:35 若菜(下)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
聞き汝が見たる八十兩は是なるやと
懷中
(
くわいちう
)
より取出して見せければ如何にも是にて候と云に彼の男喜八の
體
(
てい
)
を見て其方其如く
慄
(
ふる
)
へては此金を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
慄
(
ふる
)
へるやうな冷い風に吹かれて、
寒威
(
さむさ
)
に
抵抗
(
てむかひ
)
する力が全身に満ち
溢
(
あふ
)
れると同時に、丑松はまた
精神
(
こゝろ
)
の
内部
(
なか
)
の方でもすこし勇気を回復した。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
病
(
や
)
んでゐる
胸
(
むね
)
には、どんな
些細
(
ささい
)
な
慄
(
ふる
)
えも
傳
(
つた
)
はり
響
(
ひゞ
)
く。そして
死
(
し
)
を
凝視
(
みつめ
)
れば
凝視
(
みつめ
)
る
程
(
ほど
)
、
何
(
なん
)
といふすべてが
私
(
わたし
)
に
慕
(
した
)
はしく
懷
(
なつか
)
しまれる
事
(
こと
)
であらう。
日の光を浴びて
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
愛子の顔は
蝋
(
ろう
)
のように白くなって、全身はワナワナと
慄
(
ふる
)
えて居ります。が、あまりの精神の激動に、物を言う事さえ出来なかったようです。
死の舞踏
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「そんな藥は毒にもならん代り利きやせん。」と、辰男はぶる/\
慄
(
ふる
)
へながら、顏を
蹙
(
しか
)
めた妹の苦しげな樣を見下ろしてゐた。
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
一体そこには何があったのか、二郎青年に脳貧血を起させ、商売人の警官を
慄
(
ふる
)
え上らせたものは、そもそも何であったのか。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
われ等は歸途に
就
(
つ
)
きたり。此時身邊なる熔岩の流に、爆然聲ありて、
陷穽
(
かんせい
)
を生じ
炎焔
(
ほのほ
)
を吐くを見き。されどわれは
復
(
ま
)
た
戰
(
をのゝ
)
き
慄
(
ふる
)
ふことなかりき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
汽車はあまり混んで居なかつたが、車中の人は、皆な
怪訝
(
けげん
)
さうに私をじろ/\と眺めた。私は何となく心が
慄
(
ふる
)
へた。皆
掏摸
(
すり
)
ではないかと思つた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
子供達は、ガタガタ
慄
(
ふる
)
えながら、土間の隅っこにちぢこまって、
煎
(
い
)
りつくような眼で、母が盛っている残飯を
睨
(
にら
)
めていた。
あまり者
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
それまでの陽気な幸福は拭い去られ、蒼ざめて彼は
慄
(
ふる
)
えだした。そのときは、すでに角を曲ってくる歌声は、明瞭に私たちの耳にひびいていた。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
元禄袖の
双子
(
ふたご
)
は一つ
齢
(
とし
)
下の
従妹
(
いとこ
)
を左右から囲んで坐つた。暫く直つて居た榮子の頬の
慄
(
ふる
)
へが母の膝に抱かれるのと一緒にまた
烈
(
はげ
)
しくなつてきた。
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
だから、
赦
(
ゆる
)
されて部屋に上っても、ガックリと気抜けがして、ガチガチと歯の根が
慄
(
ふる
)
え、だるくて箸さえもとれなかった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
「行きましょう行きましょう。こんな所にぐずぐずしていられやしない」お島は
慄
(
ふる
)
えあがるようにして小野田を
急立
(
せきた
)
てた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
じつは弟たちが出て行った後、私は一人で娘相手に酒を飲み続けていたが、私は坐っているにも堪えない気持で、盃持つ手の
慄
(
ふる
)
えもやまなかった。
父の出郷
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
いろいろに姿をかえた木や石が
慄
(
ふる
)
える指をのばすように前うしろから迫って、真実、魔性の息が小蛇のように
襟元
(
えりもと
)
へ追いかけてくる気もするぞい。
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
ポケットの中には
拳銃
(
ピストル
)
が秘められ、私の胸は無暗にわくわくと
慄
(
ふる
)
えた。ホームズはと見れば、冷静に粛然と黙している。
空家の冒険
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
私は、その瞬間、ぞっとして、背筋を冷たいものが走った様に感じたのでございます——
瘧
(
おこり
)
の
発作
(
ほっさ
)
にでもとらわれたような
慄
(
ふる
)
えを感じて参りました。
両面競牡丹
(新字新仮名)
/
酒井嘉七
(著)
さうして
豆腐
(
とうふ
)
を
出
(
だ
)
す
度
(
たび
)
に
水
(
みづ
)
へ
手
(
て
)
を
刺込
(
さしこ
)
むのが
慄
(
ふる
)
へるやうに
身
(
み
)
に
染
(
し
)
みた。かさ/\に
乾燥
(
かわ
)
いた
手
(
て
)
が
水
(
みづ
)
へつける
度
(
たび
)
に
赤
(
あか
)
くなつた。
皹
(
ひゞ
)
がぴり/\と
痛
(
いた
)
んだ。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
もう戒厳令もしかれ、軍隊が消防に努めつつあると伝え聞いても、大火に
慄
(
ふる
)
え上がった我々には、とてもこの火が消しとめられそうに思えなかった。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
和三郎は小腕をまくって、ブルブル
慄
(
ふる
)
えながら、冷静をとりもどそうとして、
煙管
(
キセル
)
に火を
点
(
つ
)
けたが、のぼせているので
火皿
(
ほざら
)
の方を口へもっていった。
朱絃舎浜子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
ゐるなと思つてその雨のやうな、蓼のやうな、うすい樹の蜜のやうな匂ひを嗅ぐと、実際に釣心がぷるると
慄
(
ふる
)
へる。
夏と魚
(新字旧仮名)
/
佐藤惣之助
(著)
色々云ひなだめてゐた妻も、我慢がし切れないと云ふ風に、寒さに身を
慄
(
ふる
)
はしながら、一言二言叱つて見たりした。
An Incident
(新字旧仮名)
/
有島武郎
(著)
しかし二人が森に近づいた時、そこには限られた他人の家があつて、知られざる人々が木の陰に彼等を眺め、野にはやはり枯草がみにくゝ
慄
(
ふる
)
へてゐた。
幸福への道
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
この何でもない言葉に、患者は
慄
(
ふる
)
え上がってしまった。『摩擦だと……何をこする、誰をこする? この俺をだ!』
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
而して、物を言わずに其処に
立竦
(
たちすく
)
んでしまった。もう、気力が衰えて、がっかりとしてしまったのである。老婆は、怖れと、寒さに自分も
慄
(
ふる
)
えていた。
凍える女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
これを知らないで天地の大法に支配せられて……などと云ってすましているのは、自分で
張子
(
はりこ
)
の虎を造ってその前で
慄
(
ふる
)
えているようなものであります。
文芸の哲学的基礎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
第三篇の発表された『都之花』を請取った時は手がブルブル
慄
(
ふる
)
えて、歩きながら読んで行く
中
(
うち
)
に
忽
(
たちま
)
ち顔色が変って
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
これは自分達の器械じゃないからと靴磨きが正直に弁解するのを、
巧
(
たく
)
んだゆすりの手と思い込んでますます
慄
(
ふる
)
え上がりとうとう二百五十円まで奮発する。
初冬の日記から
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
ジョヴァンニはびっくりして、窓のかげから差し出していた首を急に引っ込めて、
慄
(
ふる
)
えながら独りごとを言った。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
東京から釣りに来た客達が寒そうに舟の中で
慄
(
ふる
)
え
乍
(
なが
)
ら沖へ沖へと出て行った。「田沼」を三度書き直した。今度はどうやらうまく
緒口
(
いとぐち
)
をみつけたらしい。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
慄
常用漢字
中学
部首:⼼
13画
“慄”を含む語句
戦慄
慄然
戰慄
震慄
身慄
慄毛
慄々
慄気
慄立
胴慄
大戦慄
顫慄
慄悍
慄動
恐怖戦慄
骨慄
凄慄
寒慄
小慄
心慄
...